当方天才魔術師、推しを王にしたら、何故か溺愛監禁孕ませ展開になった件

逢坂常

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16. 魔術師は、王に尋ねる

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「……で?」
「で、とは」

 事後である。
 ジャフィーは相変わらず孕んでいないし、ルグレアは変わらず後宮に足繁く通ってくるし、ジャフィーはもう事後に気絶するように眠り込んだりしない。
 ルグレアは、ジャフィーの髪を弄びながら目を細める。

「何を企んでる?」
「……企んでるのは、あんたでしょ」

 今更腹芸を隠し通せる間柄でもない。ジャフィーは気だるく体を起こし、ベッドに肘をつきながら眉を寄せた。

「別に知ってると思うから聞くけどさ。……和平なんて結ぶの? 本当に?」
「ああ」

 ルグレアの答えは端的だった。

「お前がどこでそれを聞いたかは聞かないでおくが……北の二国は、そもそも、二国間で条約を結ぼうとしていてな」
「は? あの、くっそくだらない水利権でずっと争ってた二国が?」
「共通の敵が現れれば別ってことだ。つまり、俺達だな」
「……なるほど」

 もっと気に食わない南の蛮族に対抗するためならば、気に食わない隣国と手を結ぶことも辞さないというわけだ。まったく、理性的で困っちゃうな。
 
「だからもう、諦めるって?」

 ルグレアは小さく苦笑した。

「お前は嫌がると思ってたよ。だから知らせてなかったんだ」
「……ルグレアが決めたなら逆らわないよ。それぐらいの分別はある」
「本当に?」
「……」

 疑われても仕方がないだけの前科がある。ジャフィーはぷいと横を向き、それから、ごく小さくルグレアに尋ねた。

「……じゃあ、ルグレア」

 大陸統一を、諦めたと言うのなら。
 
「今の望みはなに? 俺は、なにを叶えたらいいの」

 その問いは、確認だった。
 ルグレアがここにきて『反乱軍』や『デルゲの残党』のことを隠すかどうか、ジャフィーはそれが知りたかった。ジャフィーはただ一言、かつてのように『二人で』彼らを制圧すると、そう言ってもらえれば十分だった。
 こと『デルゲ』が相手であれば、ルグレアが手を抜く理由は、ルグレアが彼らを滅ぼさない理由はひとつもなかった。
 ルグレアの役に立ちたかった。
 ジャフィーが恐れるのは、ルグレアが『大陸統一』を諦めることではなかった。

 ジャフィーが恐れるのは、ルグレアが、ジャフィーを必要としなくなることだった。
 だからジャフィーは、ただ一言、次の命令を貰えれば十分だったのだ。

 けれども。
 ……ルグレアは、どうやら、困ったように笑ったようだった。体を屈めて、掠めるようにジャフィーに口付ける。従順に目を閉じるジャフィーの頬を満足気に撫でて、ルグレアは言う。

「なにも」

 それは、本当に――聞いているこちらが恥ずかしくなるぐらい甘ったるい、満たされた獣が喉を鳴らしているみたいな、幸福そうな、声だった。

「なにもしなくていい。……俺もお前も、もう、十分働いたよ。お前なんか特に、国のためだ何だって柄でもねえのに、よくやったよ。俺は国を手に入れて、国は随分マシになった。もう十分だ。そうだろ?」

 ルグレアが、ジャフィーの上に覆い被さるようにして、ジャフィーを抱き寄せる。すっかり馴染んだ体温に、勝手に体の力が抜ける。そういうふうになってしまった。
 後宮という檻の中、更なる檻にジャフィーを閉じ込めて、ルグレアは言う。

「お前はただ、ここにいればいい」
「……あんたに反対する不届者どもは?」
「…………それも聞いたのか」

 ルグレアの声が一瞬酷く冷え、抱き寄せる腕に力が籠る。けれどもルグレアはすぐ柔らかく言う。

「お前が気にすることじゃない。俺の軍の強さは知ってるだろ」

 ルグレアが出るわけじゃないのか、とジャフィーはほんの少しだけ違和感を抱いたけれど、すぐさま一人で納得した。もはや、ちょっとした反乱程度に出ていけるような立場じゃないのだ。

「戦はもういい。……お前がここにいてくれればいい」
「……子どもが欲しいってこと?」
「誤解するなよ。『お前』が先だ。……別に、できなくたっていい。種がないのはこっちって可能性も普通にあるしな。お前との子どもなら見てみたいってだけで、跡継を欲しがってるわけじゃない」
「……それって」

 優しいだけの声が気持ちいい。声を重ねられれば頭がぼんやりしてきて、思いついたままをジャフィーは尋ねる。

「俺が、欲しいってこと?」

 ルグレアが笑う。

「……やっとわかったか?」

 満足した、と、そう言いたげに、ジャフィーの王が笑っている。

「そうだよ、ジャフィー。俺の炎。お前がここにいれば、それでいい」

 ここにいればいい。

 ──ジャフィーはそこで、その愛の言葉に絡め取られ、喜びのままに頷いてもいいはずだった。

 それは確かに、至上の愛の告白だった。そしてジャフィーはもう、それを受け入れられるはずだった。ジャフィーはルグレアを愛していた。彼の子どもを産みたかった。

 けれどもそのとき、強い痛みが──警告するような強い痛みが頭に走って、ずきんずきんと胸が痛んで、ジャフィーはそれに頷けなかった。
 代わりに思った。

 それは──『愛されている』ということは、『ジャフィーの力が必要である』より、ルグレアに必要とされているということなのだろうか? 本当に?

 ジャフィーが行けばすぐ収まるような戦にさえジャフィーを出さないのは、『ここにいればいい』と囁くのが、つまりルグレアの『愛』なのだろうか? 
 ジャフィーはルグレアのためになんだってしたいのに──なにもさせてくれないのは、ルグレアが、ジャフィーを愛しているからなのか?

 ルグレアは。
 本当に──本当に、ジャフィーを愛しているのだろうか?

 疑う理由はない。それなのに、浮かび上がってきた疑いが消えない。どうして?
 わからない。わからないから知りたいのに、疲れ切った身体が、どろりとした睡魔を連れてくる。
 わからない。
 わからない。でも、なにかがおかしい──頭の奥で、警鐘が鳴っている──本当に?

(……本当に)

 欲しいものはない。
 叶えて欲しい願いはない。

(ここが、俺たちの終わりなのか?)
 
 ルグレアの言葉に、嘘はない。少なくともジャフィーにはそう聞こえる。
 けれども、ジャフィーの中の何処かが違うと叫ぶ。



 (ルグレア。俺の王様。……あんたは本当に――この程度で、満足するような男だったのか?)



 * * *
 
 
 そうしてその夜、ジャフィーは、燃え盛る炎の夢を見た。
 
 
 王宮が、燃えていた。
 五年前、クーデターの、すべてを焼いた日の夢だとすぐにわかった。
 その炎は、ルグレアの魔術そのものだった。剣を介して発生する、戦闘に特化した炎系統の魔術。ジャフィーにも真似できない火力と正確な制御。
 全てを焼き尽くす炎、は、焼き尽くさない程度に制限もできる。建物は燃え落ちないが、中の者はみな炎で巻き取る。ジャフィーの仕事は索敵して退路を断つことで、王宮の通路はいわゆる隠し通路も含めてすべて前もって調べ尽くしていたから、それはあまりに簡単だった。
 きれいだ、と、ジャフィーは思った。
 ルグレアの生み出す炎はきれいだ。燃やされているものがどれだけ汚くても。

「……ああ、」

 そうやって、誰も彼もが消し炭になって燃え落ちていく空間で、玉座の上で木炭と化していく王だったものの前で、ジャフィーは最高に気分が良かった。楽しくて楽しくてしょうがなかった。
 熱に浮かされて吐息が溢れる。いつまでも見つめていられると思う。そうして、ジャフィーはルグレアを振り返った。

「アンタは、やっぱり最高だ……!」

 あのとき。
 燃え盛る炎の中で、生きているものはルグレアとジャフィーの二人だけで、ジャフィーは最高に楽しくて──けれども。

 
 そういえば――そんなジャフィーを見たルグレアは、いったい、どんな顔をしていたんだっけ?

 
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