当方天才魔術師、推しを王にしたら、何故か溺愛監禁孕ませ展開になった件

逢坂常

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22. 魔術師は愛を知る

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 話し声がする。

「……ああ。何も問題はない。反乱は事前に鎮圧した……強硬派は、『使者』の餌に引っかかって一網打尽にできた。これで向こうも安心だろうさ。別ルートで来た使者は、もう城についてるな? これ以上なく丁寧に歓待しろ。国交の正常化が最優先だからな」

 微睡みの中、漏れ聞こえてくるだけの会話の意味がまるで掴めない。やがてルグレアが部屋に入ってきて、寝台に横たわったままのジャフィーは、ただ視線だけでルグレアを迎えた。
 ルグレアの指が、寝台に広がったジャフィーの髪を掬い上げる。

「あ、」

 ふるり、と、肌が震えた。散々触れられたあとの過敏な身体が、感覚のないはずの髪からさえ刺激を拾ってしまう。くっ、と引っ張られ、どうにか顔をあげると、寝台に上がってきたルグレアに抱え上げられた。
 座り込んだルグレアの上に座らされ、そのまま、深く口付けられる。

「ん、……っ……」

 大きな手で背中を撫で下ろされると、ぞわぞわと、性懲りもなく身体が熱を帯びるのがわかった。
 どうして、こんなことになっているんだろう。殺してと言って、わかったと言われた。それで全部がおしまいになるはずだったのに──と、考えながら、実際のところ、ジャフィーにはもうわかっている。
 ルグレアの手が、ジャフィーの身体を柔らかく撫でる。どこを触られてもずっと気持ちよかった理由が、ジャフィーにはもうわかると思う。
 その指が。
 その手が。
 その腕が、ずっと──ずっと、ジャフィーに伝えようとしていたこと。深い口付けをゆっくりと離し──そのままルグレアの身体に身体を預け、逞しい肩にこてんと頭を乗せて、ルグレアの顔を見ないようにしながらジャフィーは尋ねた。

「……殺してくれるんじゃ、なかったの」

 もちろん、ジャフィーは生きてここにいる。それどころか、『生』そのものみたいな行為を散々叩き込まれてへとへとだ。ジャフィーの問いに、ルグレアは「ん?」と軽く笑った。

「見れただろ、天国」
「……言ってて恥ずかしくないの……?」

 もうすっかりいつものノリだ。ジャフィーは思わず脱力し、腫れているような気さえする唇に触った。
 くまなく触られた肌はまだ薄皮一枚纏っているようで、動くだけで奇妙にくすぐったくすらある。まあ地獄ではなかったな、と思いながら、ジャフィーは尋ねた。

「……こんなこと、してていいの」

 やることは当たり前に山積しているのだろうし、なんなら今すぐ行かなくていいのかと暗に促すと、ルグレアは軽く肩をすくめた。

「指示は事前に出してある。聞いてただろ? 今の。使者は無事こっちに着いてる。全部予定通りだ」

 予定通り。
 ルグレアがそうだというならそうなのだろう。すべてはルグレアの手のひらの上だった、ということならばそれでいい。

「……あの、……デルゲの生き残りは? 死んだの?」
「死んだよ」

 答えに、わかっていたことなのに、ずき、と胸が痛んだ。
 『怪物』の制御が失われたのは、召喚主たる魔術師とのつながりが途切れたからだ。シュバは己の魔力と生命力すべてを捧げてなお足りないほどの使者を蘇生し、死力を振り絞って『怪物』を生成した。
 あの男には、死してなお果たしたい願いがあったからだ──その願いは、ルグレアが完膚なきまでに消し炭にしてしまったわけだが。

「……そっか」

 ともかく、少しばかり思っていた形とは違ったが、概ね思っていたことは成せたということだ。己が生きていることを除けば、と、ジャフィーは冷静に考える。その瞬間に、ルグレアが言った。

「計画通りか?」
「……え?」

 見透かしたような声だった。『予定通り』と言ったのはそっちだろう、と返すより前に、ジャフィーを己の胸から引き剥がしたルグレアが、その顔を上から覗き込む。
 そうして、至近距離から、なにひとつ見逃さないみたいな顔で、ルグレアは淡々と現状を説いた。

「つっても、『計画通り』かも判断がつかねえか。……ログーナからの使者は無事ついた、が、協定の調印日程は仕切り直しの予定だ。直前でルートを変更させたし、まあ、国内で反対派と揉めたって話も隠せねえだろうから、条件に多少のイロがつく可能性はあるな。あの場にいた奴らは残さずひっ捕らえて牢に入れてるが、恩赦やらなにやらで大した罪にはしないつもりだ。……で、お前だが」

 ルグレアはぴっとジャフィーを指した。

「密偵としてよく働いたってことで、報奨でも出すか。何が欲しい?」
「……は?」
「は? じゃねえよ」

 その指が、そのまま、ジャフィーの胸にかかったままの石の上に置かれる。
 金の鎖。鮮やかすぎる赤い色の石。

「こいつを置いていかなかった時点で、逃亡なわけがねえって誰だってわかる。……自分で『呪われてる』って言ったぐらいだ、こいつに魔術がかかりまくってることに気づいてなかったとは言わせねえぞ」

 言い訳を用意していなかったのは、生き残るつもりがなかったからだった。
 『魔術がかかっていることに気づかなかった』でも、『ルグレアへの未練があって下賜された品を捨てられなかった』でも、好きなように解釈して貰えれば良いと思った。ルグレアには、どれも信じられなかったとしても。

「まあ、っつっても、できたのは場所の特定ぐらいだけどな」
「えっ」
「あ?」
「盗聴は? 追跡できてるんなら出来るでしょ」

 思わず尋ねてしまってから、はっとして口を抑える。

「……お前、やっぱりそのつもりだったんじゃねーか」
「…………」
「目印ひとつありゃ盗聴できるレベルの魔術師はそう居ねえよ。ましてや遠隔じゃな。……でもまあ、位置取りでだいたいの目的はわかる」

 ルグレアは僅かに目を眇めた。しょうがないやつだなと言いたげに。
 
「強硬派もろとも自爆するのが第一目標。で、デルゲの生き残りがいたから、そいつも殺すことにした。計画を遂行させることにしたのは、『禁術』を使ったとなれば、粛清の大義名分としては十二分だからだろう。自分もろとも、俺にとって邪魔そうなものを排除してやろうってハラだ。……全く、大した忠臣ぶりだな」
「……たまたまだろ、全部」

 見透かしたような、ではなくて、事実として見透かされている。ジャフィーはぷいと顔を背けた。

「そんな俺にばっかり都合のいい言い訳で、一体誰が納得するの。事実を見なよ事実を。俺は後宮から足抜けしたし、強硬派と接触したし、禁術も使った」
「使ってはねえだろ」
「……ないけど……でも、命乞いの余地もやっぱりないって。これ幸いと、『殺せ』っていってくるやつだって多いでしょ?」
「さてなあ。少なくとも、俺の前でそれを言う馬鹿はいねえな」

 悪い顔で、ルグレアが笑う。

「……悪いな、ジャフィー」

 ルグレアが、ジャフィーの顎に手をかける。無理やり顔を向けさせられて、ルグレアの、まっすぐ過ぎる目に見上げられる。


「俺は、お前を死なせてやれない。お前が泣いても喚いても──地獄まで、一緒に来てもらう」


 それは、『愛してる』なんかよりずっと、ジャフィーにとってわかりやすい言葉だった。
 最初からそう言えばいいのに、と思ったけれど、それが『愛してる』の意味だとわかるのもまた今だからなのだと思えば、必要な遠回りだったのかもしれない。ともかく──今はもう、わからないなんて言えなかった。

「……馬鹿だなあ、ルグレア」

 ジャフィーはゆるりと腕を掲げた。おかしいのか悲しいのかわからないまま笑った。
 指先で、頬に触れる。

「俺が泣くのが嫌で、『地獄』にいるのはもう、やめることにしたくせに?」

 ルグレアが、息を止める。──その反応が、ジャフィーに、ジャフィーの考えが正しいことを示していた。
 もう随分昔のような気がする、事実としてはほんの数刻前の、久方ぶりに顕現した地獄の中で──『ころして』と言って泣きじゃくり、舌打ちとともに抱き寄せられたとき──その、既視感のある強い腕の力で、すべてのはじまりが、デルゲの地にあったことがわかった。
 あの地で──禁術によってたくさんの帝国軍の兵士が復活させられ、デルゲ側の戦力として使役された戦場で、ルグレアはその場にいたデルゲのものすべてを焼いた。そのうえ、復活させられた死体も、デルゲの地に残っていた非戦闘員も──女子供も、だ──余さずすべてを焼き尽くした。
 端的に言って、苛烈に過ぎる粛清である。新皇帝ルグレアの常軌を逸したやり方、帝国からの独立を決して許さないという姿勢は、瞬く間に帝国全土に知れ渡り、新政権発足の混乱に乗じた反乱の機運は一気に萎んでいった。
 結果として、帝国内の内乱は一気に減って、ジャフィーが戦場に立つことも一気に少なくなった。政権発足直後はそれでも忙しく、ジャフィー自身はその『少なくなった』を自覚することさえなかった。
 なかったのだが、──それが、ジャフィーが戦場から徐々に離されるようになっていったのが──もし、意図されたものであったなら?

 ルグレアが、以降の反乱、以降の戦が激減することを見込んで、デルゲのすべてを──必要以上に、集落一つがまるごとなくなるぐらいに念入りに、容赦なく、燃やしつくしたのだとしたら?

「……って言っても、俺自身は、今の今まで、あのとき泣いたことすら忘れてたけど。それだって、あんたが忘れさせてくれてたんだろうな。俺はなんにも変わってないって、……なんでもできる俺のままだって、思わせておいてくれてたんだ」

 ジャフィーはずっと、誰かを利用したり、殺したり──そういうことを、今だって、容赦なくできると思っていた。
 でも。

「だから、自分でもびっくりしたよ、今回」
「うん?」
「あんたのためにさ、みんな……あんたに反対するやつみんなあぶり出して死のう、って思って、あいつらのとこ行ったんだけど。みんな粛清されるんだよな、って思ったら、」

 ヴィエトの顔はまっすぐ見られなかったし、アリが死んだらミトが悲しむだろうなとも思った。

「怖くなって」

 それで、ようやく、ジャフィーは気付いた。

「俺以外のひとは、あんたが、殺さないでくれるといいなあって思って、」

 自分が、すっかり、人の『死』から遠ざかっていたこと。

「……だから、俺はもう、ほんとは、戦場でなんて、役に立たなくなってたんだ。ただ、あんたが、それに気づかせないでいてくれただけで。俺を、自然に戦場から……『人の死』から遠ざけてくれてただけで……」

 見なかったことにしろとルグレアは言って、ジャフィーはほとんど無意識にそれを受け入れた。だから、傷ついたことも忘れていた。
 あれからずっと、守られていることにも気づかなかった。意図的に戦場から遠ざけられていたと知ることもなく、『王の正当性』を盾にジャフィーがこれ以上の過ちを犯さぬように制御されていたことにも気が付かず、愚かなジャフィーは、自分の居場所が戦場にしか無いと思い込んだ。
 あの日、デルゲの戦場で、人なんていくらでも殺してきたジャフィーの目を覆って、ルグレアはただ『見るな』と言った。親しかった人の骸が冒涜される様をジャフィーの目から隠して、それを葬り去る仕事をジャフィーにさせなかった。
 それは、ルグレアだけが気づいていたということだった。──ジャフィーが、『戦好き』でもなんでもない、ただルグレアの役に立ちたいだけの子どもだったということに。

「……それこそ、偶然だろ。別にそこまで考えちゃいねえし、反乱なんてこっちが制御できるもんでもねえ。北と争わない理由はもう言った」

 ルグレアは、あくまで建前を守りたい顔で、ごく軽い調子で肩を竦める。

「俺だって、もう、戦はしたくないんだよ。お前とは何も関係ない」
「え、いやいや、それは嘘でしょ。あんな楽しそうな顔して化物退治しておいて?」

 説得力ないよ。思わず素で言ってしまうと、ルグレアは僅かに気まずそうに視線をそらした。自覚はあるらしい。ルグレアは「化物退治と戦は別だろ」と嘯いて、それから、深くため息を吐いた。
 ルグレアが、大きな手を──未だに剣胼胝がある、固く節くれだっている、指の長い手を、ジャフィーの手に重ねる。

「……お前は、俺を買いかぶり過ぎなんだよ。俺なんか、お前がいなきゃ、ちょっと火が出せるだけのただの剣士だ。お前がいたから、お前のおかげで──お前の『せいで』じゃねえぞ、お前の『おかげで』だ──王様なんてものになれただけで……まあ王様稼業も向いてはいたが、本来、こんなところにいるはずのない、普通の男なんだよ。だから、」

 『ただの剣士』? 『普通の男』?

「ここが俺の限界だ。お前には物足りなくてもな」

 どうやらルグレアは、本気で、そう思っているらしかった。多方面から物言いが入りそうだなと思って思わず笑ってしまうと、ルグレアが不服そうに眉を寄せる。

「……なんだよ」
「いや、うん」

 ジャフィーの『せいで』じゃないとどんなに言われても、ルグレアの行動に、ジャフィーの影響を見て取らないことは難しい。
 ルグレアに、──ジャフィーが、ルグレアの願いを叶え続けることで、ルグレアに必要とされ続けたがったのと同じように──ジャフィーの気を引き続けるために、ジャフィーの期待に応え続けようとしていたという面があったのは、やっぱり、どう考えても確かだった。そうして口にした大言壮語が、本来の彼の望みよりも過大だったことも否定できないだろう。もしかしたら、ジャフィーの無茶な期待を、ほんの少しは持て余していたことだって、やっぱり、あったのだろうと思う。
 けれども。

「あんたは、まあ、そう主張するだろうけどさ。やっぱり、それは、違うんだ。あんたが王様になったのは、ただ、あんたがそれに相応しかったからだ。あんたが、あんた本人が、途方もなく特別だったからだよ。俺の目は正しかったんだ」

 ともあれ、と、仕切り直しで、ジャフィーは重ねられた手を軽く握ってから外した。「俺はさ、」と切り出す。

「俺は、あんたが、変わったみたいで悲しかった。変わってないんだったらもっと悲しかった。あんたに今まで無理させてたってことだから。愛してる、って言われても、俺はあんたのことを愛してないから意味がないと思った。愛されるより、必要だって言われたかった。……でも、」

 結局のところ、と、ジャフィーは思う。後宮なんて、お互いにちっとも縁のなかったはずの、随分遠いところまで来たなと思うけれど。

「あんたも俺も、なにも、変わってなんかいなかったんだ。あんたははじめから特別な──王になるべき人間だったし、俺は、最初から、」

 ルグレアが見せてくれるものが、ルグレアが教えてくれることが、ルグレアが与えてくれるものが楽しくて、だから、ルグレアと一緒にいるのだと思っていた。
 子どもみたいな勘違いだ。
 ルグレアが見せてくれるから、ルグレアが教えてくれるから、ルグレアが与えてくれるから──ルグレアだから、楽しかったのだ。それはきっと、戦場を燃やし尽くす炎でも、二人きりの夜にふと灯されるだけの小さな明かりでも良かった。
 なんのことはない。ただ。


「……ずっと、あんたのことが、好きだった」


 血の匂い。眩しい炎。その向こうにいた、美しい男。
 なんのことはない。──ただの、一目惚れだったのだ。

「……まあ、気づいたのは最近ですけど……」
「……そんなこったろうと思ったよ……」
「あんたは?」
「あ?」

 流石に今更、『愛してる』が本当かなんて聞く気はなかった。疑う余地はどこにもなかった。代わりに尋ねた。

「いつから?」
「……言わねえよ、馬鹿」
「え。なんで」
「お前な、聞いたらきっと同情するぞ、俺に」
「そんな前から……!?」

 ぜんぜん好かれてる気がしなかった、と言うと、つくづく馬鹿を見るような目で見られた。

「自分で言うのもなんだが、お前以外全員気づいてたぞ。賭けの話は聞いただろ? 普通に同情されてたからな俺。王なのに」
「そ、それは……そうだったけど……、……で、でもさあ!」

 旗色の悪さを感じ取り、ジャフィーは慌てて話を変えた。

「いっこだけ、わかんないんだけどさ。じゃあ、なんで避妊してたの?」

 あれがなければ、ジャフィーが、愛されてないなんて勘違いをすることもなかったのに。ジャフィーが咎め立てするように言うと、「そうだ」とルグレアもまた眉を寄せる。

「お前、それどこで知ったんだよ」
「いや、調べたんだよ。種がなかったら困ると思って、こっそり」
「こっそり……?」
「中に出されたやつ、魔術で検分したの! そしたら、魔術がかかってるんだもん、めっちゃびっくりしたんだからね」
「……そんなホイホイ調べられるとは、恐れ入ったよ」

 ルグレアは深くため息を吐いて、「ほんと規格外だなお前は」と小さくぼやいた。
 そして言った。

「なんで避妊してたかって言われたら、まあ、だからだよ」
「……うん?」
「お前の魔術が規格外すぎるから」
「え?」

 まるで理解できない。ぱちぱち目を瞬くジャフィーに、こればかりはどうやら本気で気まずそうにルグレアが言う。

「いくら開戦を避けようとしたって、国同士の話だからな。突発的に戦になる可能性も全然残ってんのに、お前を──ウチで最大の戦力を、身重にさせとくわけにいかねえだろ?」
「…………うーん…………?」
「そりゃ、まあ、お前にゃもう人なんざ殺させたくないが、万が一のときはな」

 ジャフィーに対する過保護を普通に認めた──と言えばいいのか、監禁して身動きを封じておいて、有事には普通に当てにしていた厚顔を論えばいいのか。それとも、『求められているのに妊娠しない』という状況に置かれたジャフィーの精神的負荷のことなんて一切考えていなかったことを盛大に咎めればいいのか。指摘すべき事項が多すぎて混乱する。あんまりといえばあんまりな言い分に、ジャフィーは思わず素で言った。

「いやあんた、最低だな?」
「あ?」

 ジャフィーがそれをどれだけ気にし、傷つき、いやまあそれで自覚したと言えばそうなのだがとにかく、ジャフィーに与えた傷の重さをひとつも理解していない。そのうえ自分自身の『ジャフィーにこれ以上戦をさせたくない』という願いさえ、国難があれば翻そうとしている。ルグレアはジャフィーが思った以上に、そしてルグレア自身が自覚している以上に、どうしようもなく『王』なのだった。ジャフィーが願ったのとは違う形で。ジャフィーは深々とため息を吐いた。
 そんな男を、『王』にしてしまったのがジャフィーだった。
 
「……うん、いや、あんた、ほんとに変わってないよ。王様なんてものになっても、やっぱりなんも変わってない!」
「……さっきのはともかく、お前それ、褒めてねえな?」
「うん」

 善良で真っ当な王様になんてなれるはずのないルグレアは、やっぱり自由で、身勝手で、変わらず自分の思う通りにやっているのだということがよくわかった。ジャフィーが「ほんと最低だよ」と繰り返すと、ルグレアが「うるせえよ」と悪態をつきながらずいとジャフィーへと顔を寄せてくるので、ジャフィーは軽くその口元を抑えた。

「……おい」
「うん」
「くそ。お前な、本当に孕ませるぞ」
「うん」

 ジャフィーは笑った。


「いいよ。孕ませてよ」


 ルグレアが軽く息を呑み、それから、ジャフィーの手を掴んで口元から離させ、酷く乱暴に唇に噛み付いてくる。
 薬がいるな、と、ジャフィーは思う。

 今なら、あの不味い薬だって、美味しく飲み下せるような気がした。

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