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◆  ◆

「――いた?」
「いないわ! アンの方は?」
「こっちも、全然……。もう学校にはいないのかな……」
「まだ探してないところは……ないわよね。ああもう、ヨウコ、一体どこ行っちゃったのよ。あの男子たちの言ってることが本当だったら……もう手遅れだったら……」
「サオリ、やめて。マイナス思考はダメだよ。次、町で探してみよ」
「でもどこ行くの? 当てもなかったらどうしようもないわよ」
「だからそれを考えなきゃ。ねぇサオリ。大杉たちがよく行く場所とか知らない?」
「えっ、そんなの知らない。……あっ、でもそういえば随分前に町中で大杉が誰かをイジメてる現場見たことあるわ」
「どこそこ!」
「ええっと。たしかあれは買い物行く途中だったから――そう。三丁目のセンター街にある八百屋の所だったかも!」
「そこまで覚えてるなら文句なしだね、すぐ行ってみよう!」
「うん!」





 ……参った。まさか、こんな女共に自分が狙われていたなんて。
 ヨウコは後悔していた。大杉ナオミと、その仲間五~六人を見上げながら。
「あんた、ナオミの好きな人誰か分かってんの?」
「……知らない」
 女の質問に適当な返事をすると、たちまち大杉がヨウコの制服の中に生きたミミズを入れてきた。
 ――気色悪い。このクソ女。
 どこからそんなもの手に入れてくるんだ。
 なるべく大人しくしていたが、ヨウコの心の内はものすごい怒りに包まれている。
 ずっと座らされているため、隙を見て逃げ出すこともできない。
 気が付くと、八百屋の親父が冷淡な表情でこちらを見ている。助ける気がないなら商売でもしていろ、このバカヤロウ、とヨウコは目で怒鳴りつけた。
「いい? もう一度言うけど、ナオミの好きな人は村野君なの!」
「昨日、一組の黒板にふざけた文章書いたのお前なんでしょう?」
「ウチら、ちゃんと見てたんだからね」
 と、次々に女子たちの言葉が飛び交う。
 煩わしい。
 村野の悪口を書いたことを、ヨウコは後悔していない。だが大杉たちにそれを目撃されていたのは大きな失敗だった。
 下着の中までミミズが侵入してきた。ぬるぬるした感覚がとてつもなくグロイ。これがムカデやケムシでなかっただけまだ幸せである。
「あんたアタシたちの話ちゃんと聞いてるわけ?」
 大杉がヨウコの髪の毛を引っ張ってきた。
「はいはい聞いてます聞いてます。あなたが恋しちゃった相手が、あのマザコンくんなんでしょ」
「……! っのゲス!!」
 大杉の怒号が耳に響いた。
 髪を掴みながら、大杉はそのままヨウコの顏を地面に叩き付けた。ものすごく強烈な力。みるみるうちに鼻から血が流れてくる。

「優等生ワルね! 先公の前ではいいカッコウして、裏では人の悪口書いてるお前みたいな奴が嫌なのよ!」
 大杉の言うことに間違いはなかった。
 ヨウコは自分で自分のことを好きではない。むしろ嫌いだ。汚い人間だと、自覚しているからだ。
「――あんたに思い知らせてやらないとね。ボコすよ?」
 鋭い声で大杉は言う。
 まずい。逃げなくてはならない。このまま大人しくしてこいつらに好きなようにやられるのはごめんだ。
「……ちょっと、わたし急用が……」
「そんなもの通用しないよ!」
 女子の足がヨウコに襲いかかってくる!

 ――その時だった。

「待ってよ大杉さん!」
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