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第一章
9・レガーロ社へカチコミ(訪問)
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レガーロ社は、高層ビルの十階にある。
受付を済ませたのち、私たちは応接室へと案内された。
担当者が来るまでの待機時間、神楽オーナーはサングラスを正し、社用のタブレットを眺めていた。どうやら化粧品の成分表をチェックしているようだ。
これから取引先の営業部長さんとお話をするっていうのに、サングラスをしたままで大丈夫なのかな。さすがに外した方がいいのでは。
なんて、私がもじもじしているうちに応接室の扉がノックされた。
現れたのは、五十代くらいの小太りのおじさま。
オーナーと私は立ち上がり、会釈する。
「はじめまして。わたくし、ベル・フルールオーナーの神楽と申します。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
聞いたこともない爽やかな声。見たこともない笑顔で挨拶すると、オーナーはサッと名刺交換をした。私もそれに続いてお相手と名刺を交換する。かなりぎこちなくなってしまった。
「お忙しい中ご足労いただきありがとうございます。どうぞお座りください」
出迎えてくれたおじさまはレガーロの営業部長で、土屋と名乗った。ニコニコしながらソファに座るよう私たちに促す。
「ではお言葉に甘えて」と答え、オーナーはドサッと大股を開いて腰かけた。
すごい、姿勢がド派手。いくらこちらが買い手だとしても、ちょっとは遠慮した方がいいんじゃない……?
私は遠慮がちにオーナーの隣に座る。
土屋氏は若干引きつった顔になっていた。
「いや、驚きました。前のオーナーさんとは全く印象が変わりましたねえ。まさか神楽さんのような気風のよい方が後任とは」
「ええ、わたしも驚いてますよ。これまでは主に飲食店や娯楽施設の経営をしてきましたが、美容サロンは初めてなもので。日々模索してますよ」
「ははは。そうでしたか。わざわざご挨拶に来てくださりありがとうございます。しかしながら担当の小野は本日不在でして。申しわけございません」
「いえいえ、お気になさらず。むしろ都合がいいです」
え? タクトがいないと都合がいいの? どういうこと?
オーナーは不敵な笑みを浮かべ、身を乗り出した。
「営業部長の土屋さん。ぜひあなたの知恵をお借りしたい。わたしはエステなんて一度も通ったことがなく、美容に関しても無知なのです。もちろん化粧品に関しても疎い」
どことなくオーナーは圧のかかった話し方をはじめる。なんだか目つきもいつも以上に鋭いような。
土屋氏はさりげなくハンカチを取り出し、額に滲み出る汗を拭った。
「知恵ですか。それは、どういった?」
「レガーロ化粧品の、成分についてですよ」
オーナーは紙袋からレガーロ化粧品を手に取り、一式をテーブルに並べた。
「こちらは御社から仕入れさせてもらった商品です。化粧水に乳液、美容クリームとフェイスマスクなどなど」
「ええ、いつもありがとうござ──」
「ですがね、なんでか売れないんですよ」
「……はい?」
土屋氏は目を見開く。
オーナー? まさか、クレームでも言うつもり。
「お宅の商品は素晴らしいはずなんです。香料、着色料、パラベン、それからアルコールが入ってないそうじゃないですか」
「はい。それが、うちの、売りでして」
「防腐剤が入っていないわりに品質が長持ちする。カモミールエキスやアロエベラなど美容成分も豊富だ。ユーザーに優しい商品ですね」
ペラペラと話すオーナーはとても「素人」には見えない。
「土屋さん、汗の量がすごいですね。茶でも飲まれた方がいいのでは」
事務の方が出してくれたお茶に手のひらを向ける神楽オーナー。
「失礼します」と言いながら土屋氏は茶を飲み干すが、咽せてしまう。
構わずにオーナーは続けた。
「売れない理由は様々あると思います。一緒に原因を探りましょう。実際うちのお客さんからいただいた声を聞いてくれませんかね」
「は、はい。もちろんです」
湿ったハンカチで汗を拭き続ける土屋氏は、ぎこちなく頷いた。
「おい」
オーナーは私にタブレットを手渡してきた。
「レガーロ化粧品を利用した顧客情報を」
顎で私を使うオーナーに対して密かに不満を抱きつつ、私は顧客情報を提示した。
まずはフェイシャルケアで通われる六十代の女性。敏感肌とシミを気にされている方。お試しで一週間分の化粧水とフェイスクリームをご利用になったが、頬が赤くなってしまったので使用を中止。
同じくフェイシャル利用の四十代女性。乾燥肌で、小じわを気にされている。美容液を使ってみるも二日後に痒みが出てしまったので返金対応。
さらにボディケアで通われている四十代女性。ボディクリームをお試しになったところ、体の一部に湿疹ができてしまったため利用を中止。こちらも返金対応。
その他、これまでの利用顧客情報を読み上げていく。お肌に合わなかった、何かしら異常があった、という話が出続ける。中には効果を実感されたという声ももちろんあるが、二十代などの若い方が多い。
改めて見てみると、レガーロ化粧品ってこれだけ問題になってたんだ……とちょっと悲しくなる。
受付を済ませたのち、私たちは応接室へと案内された。
担当者が来るまでの待機時間、神楽オーナーはサングラスを正し、社用のタブレットを眺めていた。どうやら化粧品の成分表をチェックしているようだ。
これから取引先の営業部長さんとお話をするっていうのに、サングラスをしたままで大丈夫なのかな。さすがに外した方がいいのでは。
なんて、私がもじもじしているうちに応接室の扉がノックされた。
現れたのは、五十代くらいの小太りのおじさま。
オーナーと私は立ち上がり、会釈する。
「はじめまして。わたくし、ベル・フルールオーナーの神楽と申します。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
聞いたこともない爽やかな声。見たこともない笑顔で挨拶すると、オーナーはサッと名刺交換をした。私もそれに続いてお相手と名刺を交換する。かなりぎこちなくなってしまった。
「お忙しい中ご足労いただきありがとうございます。どうぞお座りください」
出迎えてくれたおじさまはレガーロの営業部長で、土屋と名乗った。ニコニコしながらソファに座るよう私たちに促す。
「ではお言葉に甘えて」と答え、オーナーはドサッと大股を開いて腰かけた。
すごい、姿勢がド派手。いくらこちらが買い手だとしても、ちょっとは遠慮した方がいいんじゃない……?
私は遠慮がちにオーナーの隣に座る。
土屋氏は若干引きつった顔になっていた。
「いや、驚きました。前のオーナーさんとは全く印象が変わりましたねえ。まさか神楽さんのような気風のよい方が後任とは」
「ええ、わたしも驚いてますよ。これまでは主に飲食店や娯楽施設の経営をしてきましたが、美容サロンは初めてなもので。日々模索してますよ」
「ははは。そうでしたか。わざわざご挨拶に来てくださりありがとうございます。しかしながら担当の小野は本日不在でして。申しわけございません」
「いえいえ、お気になさらず。むしろ都合がいいです」
え? タクトがいないと都合がいいの? どういうこと?
オーナーは不敵な笑みを浮かべ、身を乗り出した。
「営業部長の土屋さん。ぜひあなたの知恵をお借りしたい。わたしはエステなんて一度も通ったことがなく、美容に関しても無知なのです。もちろん化粧品に関しても疎い」
どことなくオーナーは圧のかかった話し方をはじめる。なんだか目つきもいつも以上に鋭いような。
土屋氏はさりげなくハンカチを取り出し、額に滲み出る汗を拭った。
「知恵ですか。それは、どういった?」
「レガーロ化粧品の、成分についてですよ」
オーナーは紙袋からレガーロ化粧品を手に取り、一式をテーブルに並べた。
「こちらは御社から仕入れさせてもらった商品です。化粧水に乳液、美容クリームとフェイスマスクなどなど」
「ええ、いつもありがとうござ──」
「ですがね、なんでか売れないんですよ」
「……はい?」
土屋氏は目を見開く。
オーナー? まさか、クレームでも言うつもり。
「お宅の商品は素晴らしいはずなんです。香料、着色料、パラベン、それからアルコールが入ってないそうじゃないですか」
「はい。それが、うちの、売りでして」
「防腐剤が入っていないわりに品質が長持ちする。カモミールエキスやアロエベラなど美容成分も豊富だ。ユーザーに優しい商品ですね」
ペラペラと話すオーナーはとても「素人」には見えない。
「土屋さん、汗の量がすごいですね。茶でも飲まれた方がいいのでは」
事務の方が出してくれたお茶に手のひらを向ける神楽オーナー。
「失礼します」と言いながら土屋氏は茶を飲み干すが、咽せてしまう。
構わずにオーナーは続けた。
「売れない理由は様々あると思います。一緒に原因を探りましょう。実際うちのお客さんからいただいた声を聞いてくれませんかね」
「は、はい。もちろんです」
湿ったハンカチで汗を拭き続ける土屋氏は、ぎこちなく頷いた。
「おい」
オーナーは私にタブレットを手渡してきた。
「レガーロ化粧品を利用した顧客情報を」
顎で私を使うオーナーに対して密かに不満を抱きつつ、私は顧客情報を提示した。
まずはフェイシャルケアで通われる六十代の女性。敏感肌とシミを気にされている方。お試しで一週間分の化粧水とフェイスクリームをご利用になったが、頬が赤くなってしまったので使用を中止。
同じくフェイシャル利用の四十代女性。乾燥肌で、小じわを気にされている。美容液を使ってみるも二日後に痒みが出てしまったので返金対応。
さらにボディケアで通われている四十代女性。ボディクリームをお試しになったところ、体の一部に湿疹ができてしまったため利用を中止。こちらも返金対応。
その他、これまでの利用顧客情報を読み上げていく。お肌に合わなかった、何かしら異常があった、という話が出続ける。中には効果を実感されたという声ももちろんあるが、二十代などの若い方が多い。
改めて見てみると、レガーロ化粧品ってこれだけ問題になってたんだ……とちょっと悲しくなる。
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