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第一章:金色の神様
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マイケルたちは,傷だらけで倒れるスウェンのことを見下ろしている。その目は,人を見ているような眼差しではなかった。汚らわしいドブネズミでも見ているような,残酷な目をしていた。
マイケルはスウェンの頭を踏み潰し,ばかでかい声でこう言った。
「ったく。クソがいると,店中がウンコまみれになっちまうぜ」
――何を言っているのか,よく分からなかった。
……分かりたくなかった
(ふざけるな)
スウェンは心の中で怒鳴る。
(何でぼくがお前にそんなことを言われなきゃいけないんだ。どうして,ぼくなんだよ!)
虚しい気持になった。どんなに叫んでいても,本人たちにこの声は届かないのだから。
周囲にいる人々は,この光景を白い目で眺めていた。中には,とっとと店から出ていく人もいる。
――ここにも自分を助けてくれる人なんていないんだ。
蹴られたりするのは,たしかに苦痛だ。自分が酷い扱いされることも,嫌で嫌で堪らない。
だがそれらは,今になって始まったわけではない。何年も昔からやられているのだ……。
マイケルたちにイジメられるのは,何の抵抗もせずにただじっと我慢する自分が悪い。もう助かりはしない。希望をなくしたスウェンの考えは,これでまとまったのだ。
しかし,そんな考えも,時には裏切られるのだった。
「おい貴様ら」
――誰かの,低い声がした。
奴らの新たな仲間だろうか。
ようやく蹴ることをやめたマイケルたちは,その声の主の方を振り向く。
「……誰だテメェ」
「外人だな? 何の用だ」
どうやらマイケルたちの仲間ではないようだ。激しい痛みがスウェンを襲い,その様子をまともに見ることはできなかった。
「何の用だ,じゃないだろうが。貴様ら一体,何をしているんだ」
「ああ? 見りゃ分かるだろ。こいつと楽しく遊んでやってんだよ!」
マイケルたちが面白そうに言った,その時だ。
店中にはものすごく,嫌な音が鳴り響いた。スウェンの大嫌いな――そう,人を思いきり殴り飛ばすあの鈍い音だ。何が起きたのか理解できないうちに,マイケルが床に倒れた。
マイケルはわめく。
「テメェ。何しやがるっ!」
「黙れ。クズめ!」
言い争いが始まってしまった。人々の目は,完全にこちらに向いてしまっている。
「い,意味が分からねぇ。いきなりオレを殴っておいて,何様のつもりだ!」
「うるさいな。バカみたいに弱い者イジメしやがって,醜いんだよ!」
「何だとっ……テメェには関係ねぇことだ。邪魔するんじゃねぇ。このゲロ野郎」
マイケルたちは顏を真っ赤にして,怒鳴りちらした。
――ああ,自分をさんざん苦しめてきた奴らが,見ず知らずの人と揉めているなんて。
あのマイケルが人に殴れるなんて――驚きであった。
「どこのどいつか知らねぇが,マジでうぜぇよ。引っ込んでらんねぇなら,死んでろ!」
ついに,殴り合いが開始されてしまった。
彼らの周りに,たくさんの野次馬が集まってきた。どうしてこんなことになってしまったのか,スウェンには全く理解不能だった。
自分の前に突如現れた,まるきり知らない人。その人はなぜ,こんなことをしているのだろう。今までスウェンを救おうとしてくれる人なんていなかったのに。誰一人として,マイケルたちに手を出す人なんていなかったのに――。
「ぐあ……!」
地面に赤い液体が散る。数分もしないうちに,一人が倒れた。それを見たマイケルは大声を発しながら,真っ正面からその人に殴りかかろうとした。
しかし――。
無駄なことであった。
鼻血を垂らし,マイケルは逆にその人に倒された。最後に残った奴もあっさりやられる。まるで虫ケラだ。
殴り合いはあっさり終わってしまった。
「はっはっは! お前ら弱いな。ボコす楽しさもねぇよ」
「く,くそ……」
「覚えてやがれっ……!テメェは化け物だ!」
やかましく吠える,負け犬ども。
奴らはどたどたと走り出し,直ぐ様この場から逃げ出そうとしていた。だが,大勢の野次馬たちが出口を塞いでしまっている。
「この……障害物どもが。どきやがれ!」
そのマイケルの一言で,店の前にいた人たちはバラバラ散って出口をあけた。
――悪魔だとさえ思っていたあいつらが,こうも簡単に負けてしまうなんて……。信じられなかった。
騒ぎが収まると,野次馬たちは店から姿を消していった。いつしかスウェンの身体の痛みは消えていた。ぬくっと立ち上がり,スウェンは汚れた服をはたいた。
マイケルはスウェンの頭を踏み潰し,ばかでかい声でこう言った。
「ったく。クソがいると,店中がウンコまみれになっちまうぜ」
――何を言っているのか,よく分からなかった。
……分かりたくなかった
(ふざけるな)
スウェンは心の中で怒鳴る。
(何でぼくがお前にそんなことを言われなきゃいけないんだ。どうして,ぼくなんだよ!)
虚しい気持になった。どんなに叫んでいても,本人たちにこの声は届かないのだから。
周囲にいる人々は,この光景を白い目で眺めていた。中には,とっとと店から出ていく人もいる。
――ここにも自分を助けてくれる人なんていないんだ。
蹴られたりするのは,たしかに苦痛だ。自分が酷い扱いされることも,嫌で嫌で堪らない。
だがそれらは,今になって始まったわけではない。何年も昔からやられているのだ……。
マイケルたちにイジメられるのは,何の抵抗もせずにただじっと我慢する自分が悪い。もう助かりはしない。希望をなくしたスウェンの考えは,これでまとまったのだ。
しかし,そんな考えも,時には裏切られるのだった。
「おい貴様ら」
――誰かの,低い声がした。
奴らの新たな仲間だろうか。
ようやく蹴ることをやめたマイケルたちは,その声の主の方を振り向く。
「……誰だテメェ」
「外人だな? 何の用だ」
どうやらマイケルたちの仲間ではないようだ。激しい痛みがスウェンを襲い,その様子をまともに見ることはできなかった。
「何の用だ,じゃないだろうが。貴様ら一体,何をしているんだ」
「ああ? 見りゃ分かるだろ。こいつと楽しく遊んでやってんだよ!」
マイケルたちが面白そうに言った,その時だ。
店中にはものすごく,嫌な音が鳴り響いた。スウェンの大嫌いな――そう,人を思いきり殴り飛ばすあの鈍い音だ。何が起きたのか理解できないうちに,マイケルが床に倒れた。
マイケルはわめく。
「テメェ。何しやがるっ!」
「黙れ。クズめ!」
言い争いが始まってしまった。人々の目は,完全にこちらに向いてしまっている。
「い,意味が分からねぇ。いきなりオレを殴っておいて,何様のつもりだ!」
「うるさいな。バカみたいに弱い者イジメしやがって,醜いんだよ!」
「何だとっ……テメェには関係ねぇことだ。邪魔するんじゃねぇ。このゲロ野郎」
マイケルたちは顏を真っ赤にして,怒鳴りちらした。
――ああ,自分をさんざん苦しめてきた奴らが,見ず知らずの人と揉めているなんて。
あのマイケルが人に殴れるなんて――驚きであった。
「どこのどいつか知らねぇが,マジでうぜぇよ。引っ込んでらんねぇなら,死んでろ!」
ついに,殴り合いが開始されてしまった。
彼らの周りに,たくさんの野次馬が集まってきた。どうしてこんなことになってしまったのか,スウェンには全く理解不能だった。
自分の前に突如現れた,まるきり知らない人。その人はなぜ,こんなことをしているのだろう。今までスウェンを救おうとしてくれる人なんていなかったのに。誰一人として,マイケルたちに手を出す人なんていなかったのに――。
「ぐあ……!」
地面に赤い液体が散る。数分もしないうちに,一人が倒れた。それを見たマイケルは大声を発しながら,真っ正面からその人に殴りかかろうとした。
しかし――。
無駄なことであった。
鼻血を垂らし,マイケルは逆にその人に倒された。最後に残った奴もあっさりやられる。まるで虫ケラだ。
殴り合いはあっさり終わってしまった。
「はっはっは! お前ら弱いな。ボコす楽しさもねぇよ」
「く,くそ……」
「覚えてやがれっ……!テメェは化け物だ!」
やかましく吠える,負け犬ども。
奴らはどたどたと走り出し,直ぐ様この場から逃げ出そうとしていた。だが,大勢の野次馬たちが出口を塞いでしまっている。
「この……障害物どもが。どきやがれ!」
そのマイケルの一言で,店の前にいた人たちはバラバラ散って出口をあけた。
――悪魔だとさえ思っていたあいつらが,こうも簡単に負けてしまうなんて……。信じられなかった。
騒ぎが収まると,野次馬たちは店から姿を消していった。いつしかスウェンの身体の痛みは消えていた。ぬくっと立ち上がり,スウェンは汚れた服をはたいた。
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