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第一章:金色の神様
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――あれから彼は,悪夢を見ることはなくなった。親友に出会えたからだ。二度と奴らにはイジメれなくなった。
町の中で偶然会っても,睨んでくる他あとは何もしてこない。話すこともなくなり少し嫌な気分はしたが,全く苦痛でなかった。
むしろそれが嬉しく思えた。
パウダントシティ北部にある小さな森林。
木々に身を潜め,息を殺して一点を見据える。その先には集団で湖の水を飲む,鹿たちの姿があった。
青年は狩りの真っ最中だった。
両手には黒の大鎌。これは彼の武器である。
獲物たちはまだこちらの存在に気づいていないようだ。だが下手に飛び出してしまうと,簡単に逃げられてしまう。青年はじっとチャンスを窺っていた。
数分後,鹿たちの群れが湖から離れた時,一頭だけまだ水を飲む奴がいた。大変によい巡り合わせであった。
青年は,山猫のように素早く駆け出した。
瞬時に獲物へ飛び掛かる。うまうまと逃げ遅れてくれた。
――ご愁傷様。
青年の刃が,鹿の首に突き刺さる。
返り血が,青年の顏を赤に染めた。この時,狩人の存在に気づいた他の獲物たちは一斉に森の中へ消えていった。
仲間を置き去りにして――。
「すまないな」
一言,言ってから青年は,鹿の首を力強く切り込んで息の根を止めた。
――今日の晩飯は決まった。
青年はその晩飯を肩に担ぎ,血のついた鎌を背中にしまう。
髪は銀,身長は百八十前後。腕や足は筋肉によってがっしりしている。
彼の名は,スウェン・ミラー。あの「運命の日」から,かれこれ8年が過ぎていた。
子供の頃と比べて,スウェンは大分たくましい男性に成長していた。日々の特訓の成果で狩りができるようになり,獲た肉を町で売り捌いていると,どうにか借金に苦しむ生活は終わった。前よりもずっとずっと楽な日々を過ごしている。
「スウェーン!」
長い金髪の,美青年がこちらに向かって走ってくる。大きな緑の弓を持ち,満面の笑みで手を振っている。今の自分があるのは,この人がいてくれたからだ。
彼の名は――,
「ジャック!」
「ふぅー。もうすげぇ走り回ったぞ!」
――ジャックは昔と変わらずいい奴だ。今でもわざわざこんな町まで,毎日来てくれているのだから。
「そんな慌ててどうした?」
「いや! ちょっとなぁ。超特大の獲物を見つけちゃったんだよ。オレ一人じゃあやれないと思ってな。
お前に手伝ってほしいんだよ」
「えっ。でももう一頭狩っちまったぜ。こいつで十分じゃないか」
スウェンは鹿の亡骸をジャックに見せたが,彼は見向きもしない。
「そんなんじゃ話にならねぇよ! いいから来てみろ。絶対すげぇからさ!」
「そんなに凄いのか」
日没までまだ時間はある。スウェンはその超特大の獲物の所まで連れていってもらうことにした。
一流の狩人ともいえる彼が,こんなにも獲物について語るのは珍しかった。
「ジャック,どんな物なんだ?」
「んー。とにかくデカイ! 建物3階分くらいの巨大ヘビなんだよ」
「……なんだって?」
スウェンは驚きのあまり,何もない場所でこけそうになった。
――建物3階分の巨大ヘビ……
そんな生き物がこの森に,いや,この世界にいるなんて聞いたこともない
「――お。あれだ!」
ジャックが叫んだ。
スウェンは目を細くして遥か遠くを見てみると,多くの樹木の中から首を出す物体が――生き物がいた。
――たしかにいる。見たこともない,巨大なヘビが!
仰天しながら目を離さずに走り続けていると,ヘビの尻尾の先端までたどり着いた。
ぼこぼこの鱗に覆われている果てしなく長い身体。肉よりも分厚そうな褐色の皮膚。二人いても狩れるのか,とても際どく感じた。
数分経って,スウェンたちはやっとヘビの顔面付近まで行き着いた。
気付かれたら,きっと丸飲みにされてしまうだろう。静かに木々の影に身を隠し,少しの間様子を窺った。
――しばらくするとヘビが突然暴れだした。
発狂したように,何度も左右に首を振り回している。時には周囲の木にぶつかり,自分で体を傷つけていた。何事かと思い,スウェンたちは静かに少し離れた木の上に登った。そしてすぐに,その原因を知ることとなる――。
「ス,スウェン……」
ジャックが低い声で言いながら,ヘビの首辺りを指差した。息を呑み,スウェンは頷く。
――何やら,斧のような物がヘビの体に三つほど突き刺さっている。
そのすぐ横には,三人の人間がヘビの頭に必死でしがみつく姿――。
その光景を見て,スウェンは愕然とした。
「おいおい,スウェン……あれって」
「ああ。……マイケルたちだ」
一瞬,頭の中が真っ白になった。
――あれから彼は,悪夢を見ることはなくなった。親友に出会えたからだ。二度と奴らにはイジメれなくなった。
町の中で偶然会っても,睨んでくる他あとは何もしてこない。話すこともなくなり少し嫌な気分はしたが,全く苦痛でなかった。
むしろそれが嬉しく思えた。
パウダントシティ北部にある小さな森林。
木々に身を潜め,息を殺して一点を見据える。その先には集団で湖の水を飲む,鹿たちの姿があった。
青年は狩りの真っ最中だった。
両手には黒の大鎌。これは彼の武器である。
獲物たちはまだこちらの存在に気づいていないようだ。だが下手に飛び出してしまうと,簡単に逃げられてしまう。青年はじっとチャンスを窺っていた。
数分後,鹿たちの群れが湖から離れた時,一頭だけまだ水を飲む奴がいた。大変によい巡り合わせであった。
青年は,山猫のように素早く駆け出した。
瞬時に獲物へ飛び掛かる。うまうまと逃げ遅れてくれた。
――ご愁傷様。
青年の刃が,鹿の首に突き刺さる。
返り血が,青年の顏を赤に染めた。この時,狩人の存在に気づいた他の獲物たちは一斉に森の中へ消えていった。
仲間を置き去りにして――。
「すまないな」
一言,言ってから青年は,鹿の首を力強く切り込んで息の根を止めた。
――今日の晩飯は決まった。
青年はその晩飯を肩に担ぎ,血のついた鎌を背中にしまう。
髪は銀,身長は百八十前後。腕や足は筋肉によってがっしりしている。
彼の名は,スウェン・ミラー。あの「運命の日」から,かれこれ8年が過ぎていた。
子供の頃と比べて,スウェンは大分たくましい男性に成長していた。日々の特訓の成果で狩りができるようになり,獲た肉を町で売り捌いていると,どうにか借金に苦しむ生活は終わった。前よりもずっとずっと楽な日々を過ごしている。
「スウェーン!」
長い金髪の,美青年がこちらに向かって走ってくる。大きな緑の弓を持ち,満面の笑みで手を振っている。今の自分があるのは,この人がいてくれたからだ。
彼の名は――,
「ジャック!」
「ふぅー。もうすげぇ走り回ったぞ!」
――ジャックは昔と変わらずいい奴だ。今でもわざわざこんな町まで,毎日来てくれているのだから。
「そんな慌ててどうした?」
「いや! ちょっとなぁ。超特大の獲物を見つけちゃったんだよ。オレ一人じゃあやれないと思ってな。
お前に手伝ってほしいんだよ」
「えっ。でももう一頭狩っちまったぜ。こいつで十分じゃないか」
スウェンは鹿の亡骸をジャックに見せたが,彼は見向きもしない。
「そんなんじゃ話にならねぇよ! いいから来てみろ。絶対すげぇからさ!」
「そんなに凄いのか」
日没までまだ時間はある。スウェンはその超特大の獲物の所まで連れていってもらうことにした。
一流の狩人ともいえる彼が,こんなにも獲物について語るのは珍しかった。
「ジャック,どんな物なんだ?」
「んー。とにかくデカイ! 建物3階分くらいの巨大ヘビなんだよ」
「……なんだって?」
スウェンは驚きのあまり,何もない場所でこけそうになった。
――建物3階分の巨大ヘビ……
そんな生き物がこの森に,いや,この世界にいるなんて聞いたこともない
「――お。あれだ!」
ジャックが叫んだ。
スウェンは目を細くして遥か遠くを見てみると,多くの樹木の中から首を出す物体が――生き物がいた。
――たしかにいる。見たこともない,巨大なヘビが!
仰天しながら目を離さずに走り続けていると,ヘビの尻尾の先端までたどり着いた。
ぼこぼこの鱗に覆われている果てしなく長い身体。肉よりも分厚そうな褐色の皮膚。二人いても狩れるのか,とても際どく感じた。
数分経って,スウェンたちはやっとヘビの顔面付近まで行き着いた。
気付かれたら,きっと丸飲みにされてしまうだろう。静かに木々の影に身を隠し,少しの間様子を窺った。
――しばらくするとヘビが突然暴れだした。
発狂したように,何度も左右に首を振り回している。時には周囲の木にぶつかり,自分で体を傷つけていた。何事かと思い,スウェンたちは静かに少し離れた木の上に登った。そしてすぐに,その原因を知ることとなる――。
「ス,スウェン……」
ジャックが低い声で言いながら,ヘビの首辺りを指差した。息を呑み,スウェンは頷く。
――何やら,斧のような物がヘビの体に三つほど突き刺さっている。
そのすぐ横には,三人の人間がヘビの頭に必死でしがみつく姿――。
その光景を見て,スウェンは愕然とした。
「おいおい,スウェン……あれって」
「ああ。……マイケルたちだ」
一瞬,頭の中が真っ白になった。
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