【完結】Good Friends

朱村びすりん

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第三章:毒の煙

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 およそ二時間後にスウェンたちが帰ってきた。気を転換させ,エイダは彼らの持ってきた肉を使い,ありったけのものを作った。
 お味噌汁,サラダ,立田揚げとガーリック焼き,ついでデザートとしてドーナツも作った。慣れないが,ユイコのために和食もいくつか試してみた。
 夕食の時間になり,四人で食卓を囲んだ。
 騒がしい食事の時間。ユイコは笑顔でいた。
「うん,美味しい!」
 ジャックが一品ずつ,味わいながら言った。その隣で,スウェンはというと。
「……意外に料理上手いんだな」
 何だか悔しそうな顏をして,エイダを見た。
「素直に『美味しい』て言えないわけ?」
「うるさいな……」
 スウェンは,ふてくされていた。それでも,エイダの作った夕飯を,おいしそうに食べている。そんな彼の姿がまるで少年のようで――エイダは少し笑った。
「まあまあ,せっかく楽しい食事の時間なんだからケンカはよそうぜ」
 と言いながらジャックは,スウェンの皿から揚げ物をひとつ奪った。
「わっ! おいジャック。人のもの取るなよ!」
「いいじゃねえか。一個くらい,あってもなくても同じだろ?」
「だったら,サラダぶんどるぞ」
「ああ! それはダメだって!」
 二人の間で,食べ物の争奪戦が始まった。
 この二人は,見てて飽きない。エイダは密かに思った。
「おかわりあるわよ」とエイダがひとこと言うと,彼らの戦いはあっけなく終った。
「あはは。本当に仲がいい旅人さんたちだね!」
 ユイコの笑い声を聞くと,エイダは自然と安心できた。
 揚げ物を頬張りながら,彼女は言った。
「エイダさん,料理上手なんだね! ところでこの肉,何の肉?」
 この問いに,ジャックがニヤニヤしながら答えた。

「馬肉」

 一瞬,その場に冷たい風が吹いた気がした。
「え?」
 ユイコは口を開けたまま,固まってしまった。
「えっ?」
 それ以外に喋れない様子。
 ジャックは腹をかかえて笑いだした。
「あっはははは! ナイスリアクション! ごめんなユイコ。今の冗談だよ! これ,鹿肉だから気にすんな!」
――この人は洒落にならないお調子者だと,エイダは思った。
 ユイコはまだ固まったままだった。
「ジャック! それは冗談が過ぎるわよ」
「あれ? すまんすまん。そんなに驚かなくても……」
 反省する様子もないジャックを見ながら,スウェンはため息を吐いた。
「あ……いいよ。ちょっとビックリしただけ。ちょっとだけ。本当に,ちょっとだから……」
 到底,「ちょっと」とは思えない反応である。
 そんなこんなで,四人はあっという間にご飯を平らげた。エイダは最後に,ドーナツを出した。
「デザートは別腹よね」
 テーブルに置かれたデザートを見ると,みんな大喜びだった。こんな反応をしてくれると,作る甲斐がある――
 最初は気付かなかったが,一人だけ誰よりも喜ぶ者がいた。
 それは――,
「おっ,スウェン。ドーナツだぞ。やったな!」
「…………」
 スウェンは,無表情でデザートを凝視している。
「え? スウェン,好物なの?」
 エイダが聞くと,スウェンは顏を赤らめて小さな声で言った。
「……まあな」
 誰よりも早く食べはじめ,そして誰よりも遅く食べ終わるスウェンが本当に面白かった。
――ユイコの笑顔と,ジャックの冗談と,スウェンの意外性のおかげでエイダは少し元気をもらった。
(ありがとう)
 心の中で礼を言い,その日エイダは久しぶりに気持ちよく眠りにつくことができた。

――翌朝。
「忘れ物はない?」
 ユイコと,たくさんの馬たちのお見送り。
 今朝は少し曇り空であるが,エイダたちの心は晴れていた。
「忘れ物なし! ユイコ,これからも頑張って森を守ってな。無理はするなよ」
「うん! ありがとう」
 ユイコは昨日と変わらぬ笑顔で,スウェンに言った。
「いつかこの星に,必ず平和は来るから。毒の煙なんて存在しない世界にもなるから」
 ジャックは,昨晩とは打って変わって真剣な表情であった。彼なりの精一杯の言葉だと,エイダは思った。
「うん! ありがとう」
 ユイコは頷いた。こんな彼女を見習い,エイダも微笑した。
「あなたには笑顔が一番よ。その表情,ずっと忘れないでね」
「うん! ありがとう」
 三人にそれぞれ,まったく同じ台詞をユイコは言った。それでもエイダは嬉しかった。
 三人はユイコに手を振り,ゆっくり歩き出した。
「みんな,気をつけてねー! 賊には,絶対気をつけるんだよー!」
 ユイコが一生懸命,叫んでくれていた。
 エイダは後ろを振り向き,彼女に言った。
「ユイコもだよー! クリスおじさんの分まで頑張るのよー!」
「あーりーがーとー!」
 遠距離で会話をしているうち,馬たちがまるで三人にエールを送るかのように一斉に鳴き出した。
「オレたち頑張るしかねぇな!」
 ジャックが気合いを入れながら言った。
 ユイコと馬たちは姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
 エイダは意味もなく微笑んだ。

 心の中は,快晴である。



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