【完結】Good Friends

朱村びすりん

文字の大きさ
29 / 56
第四章:八年間の友情

しおりを挟む
――これはきっと,夢の中だ
現実では今頃,自分はベッドの中でうなされているだろう――スウェンは,必死にそう思った。
 髪を掻き揚げ,ジャックはまだ続ける。
「お前は戦の計画に使える,一つのコマに過ぎなかった。エドガーの強さは並のものではない。だから裏でリフェイル合衆国の大統領と交渉し,スウェンの力を借りようと考えたんだ。I・Bの力を持つお前なら奴を倒せる,その可能性は十分にあるからな……」
「勝手に,何をしているんだ? 俺にまた人を殺せって言うのか!」
「ああ……出来るだろ? 誰よりも強いお前なら大丈夫だ」
 無神経に,彼は酷いことを言う。スウェンはまたショックを受けた。
「――あの日あの時,オレたちが出会ったのは運命なんかじゃない。計画のために,オレが事前にスウェンに近づいたんだからな……。イジメから救ったのも,友だちになったのも全て,I・Bが目的でやったまでのこと……」
 頭が,ギシギシした。なんて惨いことを言われているのだろう。
 もう何も言ってほしくなかった。もう,これ以上,何も。
――耐えられない
 スウェンは,床を眺めた。
「お前の町は遠かったけど,航空機で毎日通ってたから苦労はなかったんだ。すまん……スウェン。嘘ばっかりだな。今日限りは,だから,全部正直に言いたい」
「…………」
「はっきり言って,初めてお前と出会った時はガッカリした。いくら子供とはいえ,あまりに貧弱で内気な性格で――到底,戦闘ができるような人材ではなかった。それゆえスウェンが十五歳の時に鎌を渡し,強くさせてやろうと狩りを教えたんだ。武器も,いいものじゃないといけない。……さっき,預けている間に,鎌の刃を鍛えさせてもらった」
 スウェンは輝く鎌の刃を見る。苦笑するしかなかった。
 容赦なく語られるこの話は,いつ完結するのだろうかと,ぼんやり考えていた。
 それからそっと,スウェンは言った。
「それじゃあ,お前。エドガーがI・Bの手掛かりとなると言っておいて,そのまま俺に戦わせようとしたのか」
「違う。それは偶然だ。ただ,エドガーは極秘主義で,世に顏を出すことが一切ない。奴の存在を知る者は,本当に極わずかだ。オレも,奴がI・Bとどう関係しているのかよく知らないしな……」
――わざとそんなことほざいてやがるのか?
 心の中でスウェンはぼやく。
「要するにな……オレはお前を利用しようとしたんだよ。王子として,国のために。
ただ,一つだけ……一つだけどうしようもない大きな問題があったんだ」
 彼の声が,震えている。スウェンはそっと,顏を窺った。
 そしてスウェンは,唖然とした。彼が,その美しい瞳から,ポロリと涙を流していたのだ。
 涙と共に,ジャックは心の叫びをスウェンに訴えるのだった。
「スウェン……お前はとんでもなく人柄がよすぎる。オレはずっとスウェンを見てきて,スウェンと時を過ごしてきて初めて“親友”だと呼べる相手に出会ってしまったんだ。オレに友だちなんて一人もいなかったのに。
……だから,これ以上お前を騙すことなんてできない!」
 いつも明るく,頑固者の彼の真の姿がこれなのか――。
「ごめん,ごめんよスウェン……。お前を傷付けてしまって。これからは君を利用するのではなく――共に戦っていきたいんだ」
 その言葉を聞くと,スウェンの心は揺さぶられた。
――しかし。
(もうたくさんだ……)
――こんな時,最低な人間はどんな行動を取るのだろう。
 殴るか,蹴るか。暴言だけで済ませるか。
 第一にここで許す人間なんていない。もちろんスウェンも同じ。
 逆に,怒りが込み上げてきた。
 スウェンは鬼と化した。
「馬鹿野郎っ! 言いたいことだけ言いやがって。よくも騙してくれたな!
俺は……俺は最初から弱い男なんだよ!!」
「……スウェン」
 口任せなことを言ってしまった。
 止まることのない涙を流す彼の顔面には,スウェンの拳が。痛々しい音が,部屋中に響いた。
 周囲がぱっと見えるようになった。みな暗い顏をして,こちらに顏を向けていた。
「俺は,何も,知らなかったんだな。もうどうでもいい。終わりだよ,全て終わりだよ。ジャッシー王子? さよなら。永遠に,さよならだ!」
 強めにそうスウェンは言うと,椅子を蹴り飛ばした。惨めな自分に苛立ち,親友だった男に腹を立てた。
 今すぐにでも,この重苦しい空気の中から逃げ出しかった。
 スウェンは王子のことをキッと睨みつけ,扉の外へ飛び出した。
「――あ。ちょっとスウェン! どこ行くの待ちなさいよ!」
 忌ま忌ましいあの声。エイダだ。
(どこ行くって? 決まっているだろ。この下らない現実からおさらばして,遠い町へぶっ飛んでいくんだよ)
 スウェンは泣きたいのを無我夢中で我慢して,疾風のごとく走り続けた。
 自分の涙を,決して他人に見せたくなかったからだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...