【完結】Good Friends

朱村びすりん

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第四章:八年間の友情

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「――うわあああ!!」
 目覚めると,スウェンは,体中に汗をかいていた。全身がとても熱い。
 スウェンは,見知らぬ部屋のベッドで眠っていたようだ。
「ど……どうしたのスウェン!」
 部屋には,エイダもいた。彼女は窓側に立ちながら,スウェンのことを見つめていた。
「いや……何でもない」
「……嫌な夢でも見た?」
「まあ,な……」
 スウェンは立ち上がり,テーブルに置いてあったタオルで汗を拭った。
 心から恐ろしい,と思える夢は久々だ。一体,あの男は何だったのだろう――?

 部屋は真っ暗でよく見えなかったが,ふとスウェンは,エイダの異変に気付いた。
「エイダ……泣いてるのか?」
 確かに,スウェンは見た。窓から差し込む月の光が,エイダの涙を輝かせるのを。
 しかし,エイダは後ろを向いて小さく否定した。
「……泣いてないわよ」
 とても,沈んだ声であった。彼女は嘘が下手だ。スウェンはそう思う。
「家出したことを悔んでるのか」
「違うわよ……」
「家に,帰ったほうがいいんじゃないのか」
「だから,違うのよ……」
 首を横に振り,エイダは決して頷くことはなかった。
 どうしていいか分からず,とりあえずスウェンは自分のハンカチを差し出した。止まらない涙を,エイダは静かにそれで拭き取る。
 彼女の滴は,美しく見えた。





 翌日。
 店主に礼を言い,スウェンたちは飲み屋を後にした。行くあてもなく,ひたすら二人は城下町を歩き回っていた。
 基本的には酒に強いスウェンだが,いくらなんでも飲みすぎた。少しだけ頭痛がするせいで,スウェンはイライラしていた。
「ねぇ,スウェン。戻らないの?」
「……何の話だ」
「分かってるでしょ。ジャック……いえ,ジャッシー王子だったわね。彼の所にはいつ戻るのよ」
「は?」
 スウェンは立ち止まる。眉間に皺を寄せ,彼女を睨みつけた。
「な,なによ」
「うるさい……その名前を聞くと,ムカつくんだ」
「ちょっと……バカ言わないで。彼はあなたの仲間でしょ!」
「仲間,だと?」
 バカはどっちだ。
 鼻で笑いたくなった。エイダの言葉が,あまりにおかしくて――。
 スウェンは自分で,気が歪んでいると自覚している。それもこれも全て「奴」のせいだ。
――本当に腹が立つ。この怒り,どう静めればいいのだろう。
「――そもそも仲間だとか,友だちとかってなんなんだよ。俺はあいつを信じてたのに,あいつは俺を騙してたんだ!」
 昨日の出来事を思い出すと,たちまち怒りが溢れてくる。スウェンは舌打をした。
 するとエイダは,呆れたようにこんなことを言った。
「……うだうだ言って,本当にバカみたい。これであなたたちの仲が直らなかったら,二人の友情は本物ではなかったのね」
「……はぁ?」
 スウェンは声を低くし,眉間に皺をよせた。そして,まるで悪魔のように怒鳴り散らしてしまった――。
「おい,お前が言えることかっ? でしゃばるな!!」
 街のど真ん中で叫んだものだから,スウェンの声は建物の間に響き渡ってしまった。
 声を震わせて,エイダは小さく言う。
「……何よ,何なの? そんなに怒鳴ることないじゃない。スウェンがそう言うんだったら,もういいわ」
 強がっているようにも見えたが,彼女は今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
――やってしまった。これではただの,八つ当たりだ。
 彼女と出会ってからは喧嘩ばかりを繰り返し,少なくともスウェンと一緒にいるのは楽しくないはずである。
 それなのになぜ。
 エイダはスウェンの側にいるのだろう。 なぜスウェンは,エイダに傷つくことばかりしてしまうのだろう。
 エイダの目を真っ直ぐに見ながら,スウェンは言った。
「……ごめん,エイダ」
「…………」
「俺が,悪かったよ」
 スウェンは,彼女の腕を掴む。が,エイダは横を向いたままだ。
「ムシャクシャしすぎた。俺は,エイダに当たってばかりで……」
「いいわ,耳障りよ」
「えっ」
「最低! 一緒にいて損した気分」
 そう言葉を放つと,エイダは逃げるようにスウェンの手から逃れ,さっと後ろを向いて走り出した。その背中がどんどん小さくなっていく――。
 この瞬間,スウェンは寂しさに襲われた。また一人,自分の側から“仲間”がいなくなってしまう――。
 いざこうなると一人は嫌だ,と思う自分。どれだけ自分のことしか考えていないか,スウェンは深く身に感じていた。

「待ってくれ」

 声の限り,スウェンは叫んだ。通行人たちに白い目で見られても,全く気にしない。
「待て……待てよ。エイダ!」
 全速力で走っても,彼女は遠くにいる。走っても走っても,エイダに追い付けない気がした。

――孤独を感じた。

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