【完結】Good Friends

朱村びすりん

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第五章:血の旅人

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 病院を後にし,スウェンは来た道をゆっくりと辿った。
 暑い日差しが全身に染みる。空は眩しいのだが,スウェンは切ない気持ちになっていた……。

 賑やかな町。人々が果てしない行列を作り,また,無表情で通行人にぶつかっていく。それが当たり前のことだ,と言わんばかりに。

――この知らない町に,あの子を置いていく。
 なんて無慈悲な時代なのだろう。スウェンは,今を生きる自分自身を少なからず恨んでいた。

――いつの間にかスウェンはエアポートに戻っていた。
 数機の飛行機たちが次々に離着陸をし,忙しそうである。そんな中でロバウト号は,明日の出発のために羽を静かに休ませていた。
(……?)
 その付近で,スウェンはあるものを目にする。
「このクソ王子がっ!! くたばりやがれっ」
「ふん。ほざくな……!」
 刄と刄がぶつかり合う,戦いの音が聞こえた。
 視力が人並み以上に良いスウェンは,たしかに見た。……ジャックとマイケルが,争っているのを。

「どうして……マイケルが……」

 スウェンは,足がすくんでしまった。子どもの頃の,悪夢が一気に蘇った。

 イジメ。
人を傷つけるためだけに行われる行為。暴言,暴力は当たり前の世界であった。
 スウェンは,マイケルが大嫌いであった。心をずたずたにされたのだから。たくさん,苦しい思いをしたのだから……。
 ぼんやりと考えながら,遠目で二人の戦いを眺めていた。
 なぜマイケルがここにいるのか,なぜ二人が戦っているのか,理由など全く分からない。ただ,今どうすればいいのかと,スウェンは悩んだ。
「マイケル……お前,思いの外やるな」
「うっせぇ! テメェさえ殺せば,あとはオレの思い通りだ」

――マイケルはジャックを殺しに来たのか?

 マイケルの斧が,ジャックの胸元を目掛けて襲いかかろうとする。だが――,
 ジャックは素早く金の王剣でその攻撃を止める。
「お前は力はあるが,スピードはオレの方が遥かに上だ」
 と言いながら,今度はジャックが彼の足を狙った。すかさずマイケルはそれをよける。
――命を狙われているジャックは,全力でその身を守ろうとしているのか
 スウェンはこう考え,唾をごくりと飲み込んだ。
「おれは反射神経はあるんだ!! テメェ剣さばきは上手いが,たまに狙いを外す腕の動きはなんだぁ?」
 嫌味たらしく言うと,マイケルは大きく斧を上げた。それを見て剣をかまえるジャック。しかし,マイケルは腕を振り下ろす前に,突然足を前に出した。そのままジャックの腹目がけて,彼は思い切り蹴り飛ばされる。
「う……!」
 まずい。スウェンは咄嗟に思った。
 ニヤリと笑い,マイケルは一瞬の隙を狙って彼目がけて斧を振り下ろす――その前に。
「やめろ――!!」
 声の限り,スウェンは叫んだ。するとマイケルの動きはぴたりと止まり,そして二人の目がこちらに向けられた。
「スウェン……!」
 どちらに呼ばれたのかよく分からないが,傷を負った二人のバトルが休戦したのは明らか。ひとまず安心して,スウェンは急いでその場に駆けていった。
 近くまで行くと,二人とも息を切らせて汗だくなのが窺えた。長時間,戦っていたのだろう。
 スウェンは,恐れつつもマイケルの顏を見ながら言った。
「……マイケル。ジャックを殺そうとするのはやめてくれ。俺たちはもう旅人なんだ。わざわざ関わらないでほしい」

 久々に殴られる――覚悟を決めて,スウェンは目を閉じて彼からのパンチを待っていた。

 しかし……

「おいおいスウェン」
 マイケルが,今まで一度も口にしたことのない言葉を放った。内心,スウェンは驚いた。
「別におれはこいつを殺そうとしてねぇよ」
「え……?」
 マイケルの言うことにスウェンは疑問符を浮かべた。
「……たった今,全力で闘争してたじゃないか」
「あれは――」
 と,今度はジャックが説明を始める。
「ただの力試しだ」
「力試し……?」
「ああ。果たしてこいつは,戦争で使える人材かどうかを調べるためにな」
 ジャックは苦笑しながら,剣を腰に収めた。
――戦争に……?
 スウェンは,話が全く読めなかった。
 困惑していると,マイケルがスウェンの前に立った。そして,彼には絶対にもらえないはずの言葉を受けとることになる。
「スウェン」
「……なんだよ」
「お前に,会いたかったんだ」
「えっ」
 マイケルは微笑んでいた。こんなのありえない話――。
 しかし,ありえる話になってしまった。
「本当は死ぬくらい嬉しかったんだ」
 マイケルは今までスウェンに見せたこともないような柔らかい表情で言う。
「ありがとう」
 何のことか分からず,スウェンは首を傾げるばかりだ。
 しかし,マイケルの話はこうだった。
 旅立つ前日にスウェンはマイケルの命を救った。彼はその礼をしたいのだと。そしてその為には,恩人のために戦争でマイケル自身が貢献したいのだと。
 そんな話を,ゆっくりと丁寧にしてくれた。
「マイケル……わざわざ礼をするために来てくれたのか」
「そうだ。それ以外には何もねぇ」
 マイケルの声があまりにも優しくて,スウェンの心は喜びに溢れた。彼がこんな声を持っているなんて知らなかった。
「あの――仲間の二人はどうしたんだ」
「アイツらは……仕方ねえ。置いていった。最後まで,おれの話を分かってくれなかったんだ」
 長年つるんできた人までも手放すなんて。マイケルの話に嘘はない。スウェンはそう確信した。
「でも,気にすることじゃねぇよ。おれはスウェンの為に,命を捨てるぜ。おいジャッシー。おれの実力,見ただろ? 文句ねえはずだ」
 自信満々なマイケル。
「んん……」と,少しの間考えてから,ジャックはその答えを出した。
 ジャックはマイケルのことを見ながら,暗い声を出した。
「思った以上に,お前の戦闘能力は優れている……。ただ,それが全力ならばお前にはオレを殺せない」
 するとマイケルは,含み笑いをする。
「――クソ王子が。強がるんじゃねえ。おれは武道世界大会の元優勝者だ。本気で戦えば,おれは確実にテメェを殺せる」
 ポケットに手を突っ込み,マイケルは得意の睨みつけをジャックに向けた。
「やるか?」
 低い声で言うと,ジャックは剣に手を置く。
 冗談なのか本気なのか,この二人はよく分からない。
とりあえずスウェンは間に入って,彼らの目と目の間に飛び散る火花を消した。
「俺はマイケルを信じて,彼と一緒に戦いたいと思う」
 スウェンはそう言い放った。
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