どーも、邪神です。

白鯨

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邪神、ホラー映画の怪人さんを異世界召喚する

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 どーも、邪神です。

 今回の『異世界召喚』では、地球のモンスターをファンタジー世界に送ってみたいと思います。

 ファンタジー世界にモンスターはつきもの。

 でも疑問があるよね。

 地球みたいなファンタジーを科学で否定し続けている世界にモンスターっているの?

 それには邪神が答えましょう!
 正解はyesなんだよね。

 UMAとか妖怪とかって、実在するんだよ?

 まぁ、ほとんどが邪神が異世界から連れてきた生物の子孫なんだけどね!
 邪神お茶目!

 まぁでも、今回めでたく『異世界召喚』が決まった彼は、純地球産のモンスターだから安心してね。

 彼はモンスターっていうよりは、“元”人間なんだけどね。

 彼はとあるキャンプ場で起きた凄惨な大量猟奇殺人の犯人で。
 通称は~、そうだな……J君にしようか。

 殺人鬼がモンスター?
 その程度でモンスター呼びかよ。

 とか思ってないですか?

 殺人を犯すなんて立派なモンスターですよ。
 もし、その程度とか思った人がいるなら、邪神は皆のモラルとか……ちょっと心配です。

 それにご安心を。
 J君はそんじょそこらの殺人鬼ではありません。

 たまにいるんだよね。
 怨念だとか狂気だとか、色んなものが溢れて、人間なのに人間を辞めちゃう存在が。

 撃たれても刺されても死なない怪物。
 次々と恐怖と暴力と死を振り撒くスプラッタホラーの怪人。
 それがJ君なのです!

 いやぁ、これだから人間は面白い!

 それで詳細は省くけど、J君は今キャンプ場の湖の底に沈んでます。
 それで死んでないのかって?

 それが死んでないんですよね。
 休眠しているだけみたいです。
 なんかそんな虫がいた気がしますけど。
 これには邪神もビックリですよ。

 という訳で。
 何かの拍子で引き上げられたりしない限りはこのままでしょうから、邪神が責任を持って再利用させて頂きますね。
 
 では、いきますよ……はい、召喚~。

 はい、成功しましたね。
 J君は無事、ファンタジー世界に召喚されました。

 え? なんか演出とか、神からのチート付与とか面談とかないのかって?
 あれ面倒なんですよね。
 なんかチートにいちゃもんつける人とかいますし。
 そんな事よりJ君ですよ。

 時は夜。
 場所は深い森の中、6人の冒険者がキャンプをしている野営地の側。

 森はJ君の得意フィールドですが、相手は人数多いですから、これぐらいの優遇は許してくださいね。
 そもそも、これからどう動くかはJ君次第ですし。
 なんて考えていたら。

 Jが横たわっていた身体を緩慢に持ち上げ、幽鬼のようにゆらりと立ち上る。
 二メートル近い巨体にマスクを着けた怪人が目を覚ましたのだ。

※ちなみに、J君のマスクは身バレ防止の為、ピエロマスクに差し替えてあります。

 冒険者達から数百メートルは離れているのに、Jは迷い無く彼らの方を向いて歩き出した。
 自分の目覚めた状況や場所の差異など、微塵も気にする事なく、ただ血と悲鳴だけを貪欲に求めるかの如く……。

 なんで離れた所にいる冒険者を把握できてるんですかねぇ。
 J君パナイです。
 
 一方冒険者達は夜の見張りが三人おり、残り三人がテントで眠りについていた。

 どうやら六人一組のパーティーではなく、二人組の新人パーティーが二つにベテラン冒険者が二人という組み合わせで、今は冒険者ランクの昇格試験中らしい。

「君たちは“ああ”はなるなよ」
「あ、あはは……」
「うぅ……」

 焚き火を囲む三人の内、ベテラン冒険者の男剣士が呆れたように吐き捨てた。
 それに新人冒険者の男戦士が乾いた笑いで返し、新人冒険者の女魔法使いは、恥ずかしげに顔を赤らめ俯いた。

 ウブですねぇ。

 剣士が言った“ああ”とは、テントで眠って次の見張り交替に備える筈のもうひとつの新人パーティー。
 その女斥候と男武道家が、テントをこっそり抜け出して、少し離れた場所で“夜の営み”をはじめた事を指している。
 二人はこっそり抜け出したつもりでも、ベテラン冒険者にはテントを出た時点でバレバレであった。

 まぁ、声が漏れ聞こえている為それ以前の問題なんですが。

 それでも止めなかったのは、それも試験の結果を判断する材料になるからだ。
 
 それにしてもこの斥候ちゃんと武道家君は、命知らず過ぎでしょ。
 街に帰ってからやりなさいよ。
 あっほら、そんな事をしてるから……J君に目をつけられるんですよ?

「ちょっと……んっ……もうダメだってばぁ」
「大丈夫だって、見張りの交替まで時間あんだろ?」
「もぅ、しょうがないなぁ……もう少しだけだよ?」
「へへっ、そうこなくっちゃな……次は後ろからな」

 木に斥候の両手をつかせ、後ろからそのくびれた腰を引き寄せる武道家。
 お尻を突き出した扇情的な姿勢の斥候に、武道家の身体がのしかかる。

「いやん、ふふっ変態♪」
「……………………」

 いつもならこのまま胸でも触ってくるのに、自分に身体を預けたまま動かない武道家を、斥候は訝しんだ。

「ちょ、ちょっと! 重いんだけど!」

 焦らす訳でもなく。
 まるで全体重をかけてきている様な武道家に、斥候も遂に我慢の限界が来た。

「もう! 何して……………………え?」

 文句を言うべく身体をひねり後ろを向いた斥候。

 どさり。と武道家の身体が、空を仰ぐように仰向けに倒れた。

 突然の事に、武道家がいきなり寝てしまったのかと呑気に考える斥候。

 でも斥候はおかしいと思った。

 武道家の服。
 見慣れた背中に描かれている特徴的なマークが、仰向けに倒れる武道家の胸にあったのだ。

「あ」

 そこでようやく気がついたのだ。
 武道家は仰向けに倒れたのではなく、うつ伏せに倒れ、顔だけが空を向いているのだと。

 武道家は首を捻折られて死んでいた。

 まさか魔物の仕業!
 そう思い震える声で助けを呼ぼうとした斥候。

「あ、あぁ……だ、誰かだぇ!」

 その時、暗がりから飛来したマチェットが、斥候の喉を貫通し、背後の木に深々と突き刺さった。

 斥候は、うがいをするような音と共に、泡立つ血を吐き出した。
 それでも即死できず、しばらく手足をバタバタと悶えさせると、やがてピクピクと二・三度身体が震え、白目を剥き腕がだらりと落ちた。

 斥候は木に磔にされて絶命したのだ。
 そして死の間際、斥候が見たのは暗がりからこちらを見詰める。

 笑みを浮かべたピエロマスクの顔だった。

 こ、怖っ!
 J君最初からクライマックス過ぎ!
 あとグロいです。
 これR指定必要ですかね?
 ちなみにマチェットは初期装備として、邪神が貸し出しました。

 それにしても乳繰り合ってる男女から抹殺とは、J君渾身のホラーテンプレ。
 だけど、ここからは一筋縄ではいきませんよJ君。
 なんたって相手は日夜魔物と戦う戦闘のプロ。
 しかも、油断や慢心の無いベテランですから。
 一体どうなるのか、邪神楽しみです。

 おや、そんな事言ってたら流石はベテラン冒険者。
 早くも異変に気付いたみたいですよ?

「…………いま、何か聞こえなかったか?」
「えっ、あ、あの……あまり聞いては悪い気が……」
「違う! 何かくぐもった悲鳴のような……それに、アイツらの声も止んだな……」
「あ、そういえば……」
「…………寝ている僧侶を起こしてくれ、オレが確認してくる」
「ひ、一人で大丈夫ですか?」
「レベルの低い君たちを連れて行くより、オレ1人の方が逃げやすいし、戦いやすいからな」

 ベテラン剣士君、1人で見に行くみたいですね。
 ホラーやサスペンスなら死亡フラグですけど、大丈夫ですかねぇ?

「じゃあ見てくるから、新人達を任せたぞ」
「気をつけて下さいね」

 ベテラン剣士君は起きてきたベテラン女僧侶ちゃんと言葉を交わし、森の中に入って行きました。
 頑張れベテラン剣士君。
 負けるなJ君。

「くそっ、こんな事になるなら報酬がいいからって、試験官の仕事なんて受けなきゃよかったぜ……」

 悪態をつきながらも、周囲への警戒を怠ることなく、腰に着けた魔石を燃料にするランプの明かりを頼りに、慎重に森を進む剣士。
 普段ならば夜の森を進むなんて真似はしない。

 それでも態々夜の森に入ったのには理由がある。
 当然二人を助ける為ではない。
 剣士にとって別に斥候と武道家の安否はどうでもよく、死んだのなら自己責任に過ぎない。

 では何故森に入ったかというと、仮に二人が死んでいるのなら、死を確認できる物を持ち帰らなければ査定に響くからだ。
 朝まで待っていては、魔物や動物に持ち去られる可能性もある。

「なんだ……こりゃ……!」

 そして遂に目的の二人を見つけ出した剣士。
 半裸で首を捻くれさせて倒れている武道家。
 口から下を血で真っ赤に染めて事切れている斥候。
 言葉が詰まる程の惨状は、剣士が即座に魔物ではありえないと判断する程、あまりにも悪意に満ちていた。

 だがおかしい。
 受験者には秘密だが試験の場所は事前に、盗賊の類いや凶悪な魔物がいない事が確認された場所を選んでいるはず。

(森の生態調査をやった奴がいい加減な報告でもしたのか……?)

 あっ、心の声は邪神パワーで再生してます。

 とにかく一度戻るべき。
 そう判断した剣士は、ギルドの認識票を回収すべく二人の遺体に近付いた。

「うっ! なんだこの臭いは……!」

 剣士の周りに異様な臭いが漂ってきた。
 血の臭いとは別に、腐敗した肉のような死臭が。

 ぞわり。
 剣士は背後に悪寒を感じ、半ば直感に従い手にした剣を振り向きざまに振り抜いた。
 風切り音が2つ。
 直後、火花を散らしながら金属がぶつかる音が響く。

(こいつ! いつの間に!)

 剣士の背後にはピエロマスクの大男が、マチェットを振り抜いた体勢で立っていた。
 剣士の振り向きざまの一太刀は、Jのマチェットの軌道を逸らす事に成功していたのだ。

 出た! J君得意のいつの間にか背後移動!
 しかし、剣士君もよく防いだなぁ。
 J君は完全無音だったのに、生存本能が地球の人間とは大違いですね!

 背後に跳び退り、両手で剣を構える剣士。

「お前が二人を殺ったのか!」

 ぼろぼろだが見たことの無い珍しい服を着て、ピエロマスクを着けた無言のJ。
 それは剣士の目に不気味に写った。

(こいつはアンデッドか……?)

 濃い死臭にもそれなら納得がいく。
 生気を感じさせない佇まいに、ぼろぼろの服も、よくいるアンデッドの特徴だ。
 
(ここで戦うのは得策じゃないな)

 通常のアンデッドなら、剣士でも首を落としたり、四肢を切り離して動きを封じたりと戦いようはある。
 だが、マチェットを受けた剣を握る手が軽く痺れている事から、剣士はJを怪力重視のアンデッドと判断した。
 
 もしそうなら、確かに剣士との相性はよくない。
 剣の間合いは相手の間合いでもあり、アンデット故に痛みを感じず反撃してくる。
 しかも相手の一撃は重く、余程上手く斬らなければ肉体の切断は難しい。
 間合いを詰めて戦うには厄介な相手だ。

 Jが動く。
 なんの警戒もせず、無防備に剣士に向かって歩き出した。
 
 同時に剣士も動き出す。
 低い姿勢のまま素早くJとの間合いを詰めた。
 
 近付いてきた剣士に向かい、マチェットを振り下ろすJ。
 迫るマチェットを避けると、剣士はJに背を向けて逃走した。

 おお! 剣士君巧いですね!
 わざと低い姿勢で近付き、避けやすい振り下ろしを誘いましたね!

 背を向けて逃走する剣士に向かい、Jがマチェットを投げつけた。
 回転しながら剣士に迫るマチェット。
 
「やると思ったよ!」

 しかし、剣士は冷静に剣で弾いてみせ、そのまま走り去った。

 武器を失った今がチャンスの筈ですが、即座に逃走を選択するとはクレバーですね。
 武道家君に切り傷が無かった事を、しっかり把握していたんでしょうね。
 だから素手でも油断できないと判断した。
 って所ですか。

 野営地に戻った剣士は、手短に見てきた事を伝えた。

「二人は死んでいた。殺ったのはアンデッド。見たこと無い特殊な奴だ。直ぐに来るから戦闘準備をしろ!」
「わかりました」
「えっ? ふ、二人が……死んだ?」
「そんな……」

 三人の反応を見て、新人二人にはあまり期待できないと感じた剣士。
 だが、僧侶と二人がかりなら十分勝算があるとふんでいた。

「新人二人は無理に戦う必要はない。オレ達二人で対処する」
「わ、わかりました!」
「は、はい!」
「一応私の聖水を渡しておきますね」
「いいんですか?」
「私には神術がありますから、アンデッドの浄化はお手の物ですよ」

 緊張する二人を安心させるように優しく笑う僧侶。

 私の聖水。
 僧侶ちゃんの聖水。
 ゲスな発想をしてしまいますねフヒヒ。

「来たぞ!」

 剣士の声と同時に、森からボールの様な物が二つ飛び出してきた。
 ボールは一度跳ねた後焚き火の近くまで転がり止まった。
 
 戦士と魔法使いの二人は、焚き火の揺らめく光に照らされたそれをハッキリと見てしまった。

「うわぁ!」
「ひぃ!」

 それは武道家と斥候の首だった。
 死んだ人間を見慣れていない二人は、間近で見た生首に恐怖の悲鳴をあげてしまう。

 しかし、剣士と僧侶に動揺は少なく、森の方を警戒し続けている。

 森の闇からぬうっとJが姿を表した。
 
「これは……!」

 焚き火の明かりにより見えたピエロマスクから覗く瞳が、憎悪に爛々と輝いている。
 今まで数多くのアンデッドを見てきた僧侶ですら、思わず息を飲む程の異質な存在。
 
「上位アンデッド……でしょうか?」

 ゾンビやスケルトン等の動く死体とは違い、ある程度意識を持ち、中には喋る個体もいる。
 グールやリッチなどと同等の存在かもしれない。
 僧侶はそう判断した。
 
「馬鹿力だが基本的な動きは緩慢だ。動けなくさせれば浄化は可能か?」
「はい! 上位アンデット相手でも、神の祝福なら浄化できます」
「なら、オレが奴の動きを止めたら浄化を!」

 剣士が再びJに向かい走り出した。
 迎え撃つJのマチェットによる凪ぎ払いは、しゃがんだ剣士に避けられ、代わりに脚を斬られた。

(やっぱり硬ぇ! だが!)

 木が多い森と違い、ある程度の広さがあるここなら身体を存分に動かせる。
 それならJのマチェットを避けるのは比較的楽だった。

 J君は強いですが、別に達人じゃないですから、技量では完全に負けてますね。
 しかも地球と違って、恐れずに立ち向かってくる人間が相手ですから。
 J君ピンチですねぇ。

 剣士は動きを止める為に、Jの脚を執拗に狙った。
 痛みを感じなくても、筋肉を切断して動かなくさせる事は可能だ。
 魔力で動く奴の場合は別だが、Jからは魔力を一切感じないから、この対応で問題ないだろう。

「そら! そろそろ倒れろ!」

 何度目かの脚への攻撃。
 膝を深々と切り裂いた一撃で、遂にJが地面に膝を付いた。

「よし!」

 剣士にとっても怪力のJの一撃を何度も避け、剣を振るうのは、体力的にも精神的にも大変な作業だった。
 そしてタフなJに膝を着かせる事ができ、剣士の中に一瞬の油断が生まれた。

 殺人鬼とはいえ戦闘の素人のJ。
 その瞬間を狙ってやった訳ではないだろうが。
 Jが隠し持っていたナイフを投擲したのだ。
 
「ぐあっ!」

 そのナイフが剣士の脚に突き刺さった。

 いつ使うのかと思っていたら、ここで使いましたか!

(これは斥候の持っていたナイフか! くそっ油断した!)

 脚の傷を無視するように、Jが立ち上がろうとする。

(この脚であいつの鉈を避けるのは難しい! ここで体勢を立て直される訳にはいかない!)

 剣士はJよりも早く、痛みを堪えて駆け出した。
 冒険者である剣士は魔物と戦ってきた事で、痛みに対する免疫があった。
 それ故に、今までJが殺してきた人間と違い、痛みにのたうち回る訳でも、怯んで動きを止める訳でもなく、立ち向かう事を選択できる人種であった。

「うおぉぉ!!」

 剣士の突き出した剣がJの胸に突き刺さり、切っ先が背中に抜けた。
 その勢いに押され、Jが仰向けで地面に倒れた。
 剣士も脚の傷で上手く勢いを殺せず、地面に転がった。

 うおぉぉ! やったよ剣士君! 凄いぞ!

「今だ! やれ!」

 剣士が僧侶に向かって叫んだ。

「はい! 『命を司る神よ、優しき大神よ。死に抗う悪しき魂に、命の祝福をもって救済を与えたまえ!』」

 僧侶がJに近付き、その身体に聖印をかざしながら祝詞を紡ぐ。

「“浄化聖光ピュリフィケイション”!」

 浄化の神術が発動して、聖光がJを包み込む。
 浄化の光を浴びたアンデッドは、塵となり大地へ帰る。
 当然上位アンデッドでも変わらない。
 だから、Jもそうなる筈だった。

「え」

 彼ら冒険者の中では、だが。

 Jの腕が持ち上がり、側に近付いた僧侶の腹を、手にしたマチェットが貫いていた。

「がふっ! う、うぞ……! ごれ、アンデッドじゃ……ない!」

 血を吐きながら僧侶はあり得ない光景を目撃していた。

 アンデッドだと思っていたJの身体。
 そこに刻まれた無数の傷が浄化の聖光を浴びて治っていったのだ。
 命の大神の神術は、人には癒しを与える。

 そうなんです。
 残念ながら、J君は正真正銘人間なんですよねぇ。
 だから浄化は効かず、回復魔法で傷も治っちゃう。
 なのになんで死なないのかは、邪神にもわかりませーん。

 Jがむくりと上半身を起こし、抉るようにマチェットを捻った。

「い、痛ぎぃ! やべでぇ!」

 痛みのあまり生暖かいもので下半身を濡らしながら、血反吐混じりの悲鳴をあげる僧侶。
 
 刃が上を向いたマチェットの柄をJが強く握る。

 何をするか理解した僧侶は信じる神に助けを求めようとしたが。

「が、がみざマッ!」

 Jがマチェットを振り上げ、腹から上を左右に両断され、その祈りは神に届くことは無かった。

 大丈夫。邪神には届きましたよ。
 僧侶ちゃんのナイスな悲鳴が。
 
「く、くそ! なんなんだこの化け物め!」

 剣士が悪態を吐きつつ、ウェストポーチから出したポーションを飲みながら、脚の痛みを堪えて立ち上がった。
 しかし、ポーションにそこまでの即効性はない。
 あくまでも痛み止代わりだ。

 すでにJも立ち上がり、胸に刺さった剣を引き抜いた。
 そこから黒っぽい血が噴き出すが、命の大神の祝福は強く即座に傷が塞がっていく。

 剣士に向かい、Jが左右に持ったマチェットと片手剣を同時に振り下ろした。

「お前ら! 逃げろ!」

 剣士が新人二人に叫びながら動く!
 なんとか二本の殺意の塊を避けようとするが、受け流しをする為の武器もなく、避けることもできずに剣士の片腕が切り飛ばされた。

「ぐぅ! ちくしょう!」

 もう一度武器を振り上げるJ。
 自分の運命を悟った剣士は、新人二人に向けて再度、声の限り叫んだ。

「さっさと行けぇ!!」
「っは、はい! いくよ!」
「で、でも!」
「いいから!」

 魔法使いの手を取り、駆け出す戦士。
 その後ろで、残りもう一本の腕も斬り落とされる剣士。

(くそ痛てぇ! やっぱりこんな依頼受けるんじゃ無かったぜ……!)

 両腕を失い、地面に膝をつく剣士。

 Jは片手の剣を捨てて剣士の首を掴んだ。
 いくら速さ重視の軽装な剣士とはいえ、それを片手だけで持ち上げるJ。

「ぐっ!」

 最後の抵抗とばかりに、剣士がJに蹴りを見舞う。
 だがJには微塵も痛痒を与える事はできなかった。
 しかし、持ち上げた膝が偶々Jの顔を掠め、そのピエロマスクを弾き飛ばした。
 そして、剣士はJの素顔を目の当たりにした。

「はっ! ある意味アンデットより醜いぜ!」

 首が絞まる中、絞り出すように言葉を吐き剣士が嗤う。

 あ、J君の地雷を踏みつけましたね。
 わかっててやったんでしょうが、剣士君の胆力凄いなぁ。

「ーーーーーー!!」

 Jの瞳の憎悪が増し、無言だったJが怒りの咆哮をあげた。
 
 剣士を焚き火に向かって投げ捨てる。
 顔から焚き火に突っ込み、顔面を焼かれる剣士。
 手が無くてもがく事もできず、脚を使ってなんとか脱出をしようとするが、それをJが背中を強く踏みつけ阻止した。

「………………!!」

 声も無く必死に脚だけをバタつかせる剣士。
 血と肉の焼ける臭いが野営地に漂う。
 
「………………」

 剣士の動きもやがて止み。
 Jは外れたマスクを付け直すと、地面に投げ捨てた剣を拾い上げ、新人二人の逃げた方へゆっくりと歩き出した。

 ああ~、剣士君も殺られちゃいましたね。
 J君は僧侶ちゃんのおかげで傷も完治済みですし、戦士君と魔法使いちゃんが勝つのはほぼ不可能でしょう。
 後は二人が逃げ切れるか、J君が追い付けるかの消化試合ですかねぇ?

「はぁ! はぁ! はぁ!」
「大丈夫か!」

 息も絶え絶えな様子の魔法使いを気遣い、戦士が足を止め尋ねた。

「はぁ、大変な事に、はぁ、なっちゃったよ。はぁ……」
「そうだな。これからどうする?」
「はぁ……はぁ……剣士さんも殺られちゃったかな? はぁ……」
「たぶん……っていうか、さっきからはぁはぁうるさい。変態親父かっての!」

 突如、生真面目そうだった戦士の口調が軽いものに変わる。

「はぁ……なに、はぁ、言って……」
「いや、もう演技の必要ないじゃん? みんな死んだんだし」
「…………それもそうか。か弱い気弱な魔法使いのフリって、結構疲れるね」

 先程まで肩で息をしていた魔法使いも、途端に乱れた息が元に戻った。

 おやおや?
 何やら雲行きが……。

「俺達の獲物盗られちゃったぞ?」
「新人冒険者のフリして試験滅茶苦茶大作戦は失敗?」
「だな……」
「最悪。これもぜーんぶ、あの化け物の所為だよ」
「…………殺るか?」
「…………殺っちゃおうか?」

 戦士と魔法使いはお互いに嗤い合うと。
 Jに向けて歩き出した。

 ま、まさか、戦士君と魔法使いちゃんが、この世界の連続猟奇殺人の犯人だったなんてー。
 オドロキダナー!
 
 いやぁ……邪神の眼をもってしても、わかりませんでしたよぉ。
 フヒヒ。
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