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邪神、B級ホラー展開を楽しむ
しおりを挟む地球の殺人鬼VS異世界の殺人鬼。
なんてB級臭い展開を見せる。
地球産のモンスターを異世界召喚してみた。
でも邪神、こういうの嫌いじゃないですよ。
「にしてもどうやって殺すんだ?」
「アンデッド染みたタフネスだけどアンデッドじゃない。なら、肉体を徹底的に破壊すればどうかな?」
「アンデッドじゃないならそれで死ぬか」
「動き自体は大したことなかったし、あたし達みたいな高レベルの冒険者なら楽勝でしょ」
戦士と魔法使いは、追いかけて来るであろうJを待ち受けながら、気楽に会話している。
そこにはJに対する恐怖など微塵も有りはしなかった。
どうやら方針が決まったみたいですね。
「……来たな」
「なに今の……転移魔法?」
二人が目を離した一瞬の隙。
いつの間にか街道の先にJが立っていたのだ。
魔法使いは魔力も感じさせずに現れた、Jのその異様な移動法を警戒した。
「どうせマジックアイテムか、長い詠唱が必要な魔法だ。どちらにせよ、即座に連続使用できる類いのものじゃないだろ。使えるなら剣士と戦う時に使っていたはずだ」
「それはそうだけど……もう少し警戒度を上げましょう」
戦士君正解。
理屈は邪神もよくわかりませんが、J君のあの“いつの間にか側に移動”。
あれは他人に見られていたりすると使えない等、色々制限があるみたいなんですよね。
「じゃあいくぞ。援護よろしく」
戦士が小盾を前に構え歩き出す。
それに呼応するようにJも剣とマチェットを交差させて歩き出した。
ゆっくりと近付く二人。
間合いに入った瞬間、Jが二つの武器を同時に振り下ろす。
それを戦士が小盾を使い、横から払うように受け流した。
「馬鹿力とまともに打ち合うかよ」
そしてもう片方の剣を振るい、Jの脇腹を切り裂いた。
(ちっ、剣士の言う通りマジで馬鹿力だな。しかも緩慢な動きは足運びだけで、手の振りだけはそこそこ速い)
心の中で悪態を吐きつつ、それでも問題ないと判断し、戦闘を継続する戦士。
(要はオーガを相手にしていると思えばいい。それに)
戦士はJの横凪ぎの一撃を避け、Jの脚を蹴って間合いから飛び退いた。
「『水は氷に氷は槍に、突き貫くは氷塊の青』!」
そこに魔法使いの詠唱が完成し。
「“氷槍”」
魔法使いの周りに現れた三本の氷の槍が、Jに向かい飛び出した。
放たれた氷槍は、戦士の身体を掠めてJに突き刺さった。
腹に二本。
一本は外れたがJの剣を弾き飛ばした。
自分の身体から生えた氷の槍を不思議そうに眺めるJ。
J君はオカルトみたいな存在ですけど、攻撃魔法の類いは初見ですからね。
まさか木の棒しか持っていない魔法使いちゃんから、こんなものが飛び出るとは思ってなかったでしょうね。
これが初見殺しって奴ですか?
「あぶねぇな!」
「射線上にいるあんたが悪い」
そのまま罵声を浴びせ合う二人。
Jはその間に氷の槍を空いた左手で掴み引き抜こうとする。
だが氷の槍を掴んだ手が、その途端に凍りだした。
見れば、氷の槍が刺さった場所から、氷が広がるように凍りつきはじめている。
「ふふっ残念♪ 抜けないわよソレ」
やりますねぇ魔法使いちゃん。
魔力を余分に籠めて、着弾地点から氷結をはじめるように調整してますよアレ。
小手先の技術に思えますが、効果は絶大です。
魔法の実験と称した大量殺人をやっている成果ですかね。
「斬りたい放題だな!」
戦士が再びJに接近する。
迎え撃つJは、氷槍とそれに張り付いて離れない左手の所為で、うまくマチェットを振れずに、一方的に斬られ傷だらけになっていく。
その身体中から大量の赤黒い血が流れ出す。
「硬い上にうめき声一つ出さないとは、斬り甲斐のない野郎だな!」
Jを絶え間なく斬りながら文句を言う戦士。
戦士は人を斬る際の肉を断つ感触と悲鳴が好きで、人斬りをしている男だった。
故に、一方的に斬っていても、無言で倒れないJに苛立ちを感じはじめていた。
「やっぱり首を落とすのが一番だな!」
そう言って、大振りの剣でJの首を狙う戦士。
位置的にJのマチェットではもう止められない。
勝ちを確信する戦士。
だが、首に迫る剣を持つ戦士の腕。
それをJの手が止めた。
「なんでそっちの手が!?」
戦士の剣を止めたのは、凍りついていたはずの左手だった。
大量に流れた血が、凍りつき張り付いた左手を解凍していたのだ。
広がっていく氷結も、余分に籠めた魔力がなくなれば止まります。
それでも溶けるのに時間が掛かるはずですが、温かい血液がそれを早めたんですね。
まぁ、普通はこんな事できませんよ。
でも、常人なら死んでいる量の血を流しても、J君は死にませんから。
戦士君が見落としたのも仕方ない事です。
「ぐっ! さっさと援護しろ!」
(なんつー馬鹿力だよ! マジでオーガ並みか!)
掴まれた手から伝わるJの怪力に焦る戦士は、魔法使いに怒声に似た声で命令する。
「まったく世話の焼ける『風は嵐に嵐は刃に、切り裂く』ちょ!」
「ぐおっ!!」
魔法の知識は無くとも、魔法使いが先程の氷の槍と同じく、何かやろうとしている。
それを察して、Jが手にした戦士を持ち上げ魔法使いに向かって投げ飛ばした。
勢いよく飛んできた戦士を、魔法使いは詠唱を中断して必死に避けた。
戦士はあまりの勢いに、受け身も取れず地面にぶつかり転がった。
おお! これが人間野球『お前ボールな』ですか!
それにしても魔法使いちゃん。
戦士君を受け止めてあげればいいのに。
まぁそんなことしたら、魔法使いちゃんの紙装甲じゃ挽き肉確定ですけどね!
Jは今度こそ腹の氷槍を引き抜くと、魔法使い目掛けて投げ返した。
「くっ! “風弾”!」
咄嗟に無詠唱の風魔法で迎撃する魔法使い。
風の弾丸と空中でぶつかった氷槍が弾けて、キラキラと氷の粒が舞い散った。
綺麗ですね~。
夏場とかなら、出し物としては最高ですよ。
「はやく起きろ! 肉盾!」
「くっ……てめぇ、後でぶっ殺してやる!」
魔法使いの罵声が飛び。
よろよろと立ち上がる戦士。
利害関係で結ばれた二人ですから。
ピンチになればこんなもんですよね。
ポーションを取り出して一気に飲み干す戦士。
それでも投げられた際に握り潰された腕は、鋭い痛みを伴い、まともに動かせる状態にはなかった。
「くそっ! くそっ! くそっ! 絶対にぶっ殺してやる!」
そう言って、戦士がポーチに手を突っ込む。
小さなポーチ型のマジックバッグから、鞘もない抜き身の剣が引き抜かれた。
剣先まで四角い幅広の黒い刀身。
鍔もない鉈のような剣だ。
そしてその剣こそ、彼を人斬りの道に誘った魔剣である。
「遊びなんてせずに、はじめからこれを使っていれば良かったぜ!」
魔剣ブラッドレイク。
湖の精霊がかつて人に与えた聖剣が人を斬り続けた結果、血を欲する魔剣に変貌したと云われる剣。
その設定は嘘っぱちなんですけどね。
邪神が昔テキトーに作ってポイした剣です。
その能力は、持ち主の殺した人間の数によって、切れ味が増すっていうシンプルなもの。
当然、魔物はカウントされません。
今は戦士君が殺してきた人数的に、鉄程度なら一刀両断ですかね?
「バフ!」
「はいはい、『足は羽に肉は鉄に、駆け巡るは壮健の白』!」
「“肉体超強化”」
「よし、死ねぇ!」
魔法使いの強化魔法を受け、魔剣を構えた戦士が飛び出した。
一瞬でJに肉薄する戦士。
今までとは段違いの速さにJはついていけず、魔剣の一太刀をまともに受けてしまう。
Jの左腕が宙を舞った。
残りの右手のマチェットを戦士に振り下ろすJ。
しかし、それよりも速く振られた魔剣がJの右腕をも切断する。
「とどめだ!」
最後に戦士の魔剣がJの首を切断し、その頭が宙を舞う。
そして、ゆっくり回転しながら地面に転がった。
「だめ押しするわよ! 『灰は灰に塵は塵に、焼き尽くすは灼熱の赤』!」
戦士がJから飛び退き。
魔法使いの詠唱が完成する。
「“爆炎”」
炎を凝縮した小さな火が、魔法使いの杖の先から放たれた。
一直線にJの身体に向かう小さな火。
その火がJに触れた瞬間。
一際大きく輝き爆発した。
轟音と爆炎が、Jの身体を巻き込み広がる。
Jの肉体は四散して、ボトボトと肉片が辺りに降り注いだ。
ジェ、Jくーん!
そんな! J君がバラバラになっちゃった!
これじゃあスラッシャーホラーじゃなくてモンスターパニックのラストじゃないですか!
え? 違いはあるのかって?
全然違いますよ!
1日掛けて説明しましょうか!?
「流石にこれなら死んだでしょ」
「だといいがな」
度重なる魔法の行使に疲れたのか、その場に座り込む魔法使い。
戦士は念のため、警戒しながらJのいた場所に近付いた。
「ここまでバラバラなら大丈夫か……ん?」
ドクン……ドクン……ドクン……
戦士はやけに大きく響く自分の心音に気が付いた。
(俺も化け物相手にして緊張してたのか?)
ドクン……ドクン……ドクン……
火の弾ける音に混じり、耳障りな心音が大きくなっていく。
そこでようやく気が付いた。
(俺の心臓の音じゃ……ない!)
戦士の足下に転がる肉塊が、心音に合わせて蠢いていたのだ。
「っ!」
戦士が咄嗟に剣を振り下ろすより速く。
脈動する肉塊。
Jの心臓が血管を触手のように動かして、戦士の首に絡み付いた。
えぇ…………。
流石の邪神もこれにはドン引きです。
ですが、こうなる気はしていました。
今までのJ君なら、あれだけ爆散すれば完全に死んでいたかもしれませんが、この世界に来てからJ君は進化していたのです。
別に邪神が進化させた訳ではありませんよ?
邪神はJ君の肉体をこの世界の仕様に合わせただけ。
今までの冒険者の会話でわかっていたかと思いますが。
この世界“レベル”が存在するんです。
比喩表現ではなく、魔物を倒せば肉体のレベルが上昇する世界。
さて、J君はこの世界に来てから誰を殺しましたっけ?
新人冒険者二人にベテラン冒険者の二人。
新人君達はともかくベテラン二人はいい経験値になったでしょうねぇ。
ただ、レベルアップの方向が斜め上でしたが。
「ぐっ!」
戦士は血管を斬ろうと剣を振るうが、触手がその腕にも絡み付き、動きを封じる。
触手だけになっても、その怪力は健在でミシミシと首と手が軋みだした。
息ができず折れた手を無理矢理動かしてもがく戦士。
その時、首に絡んだ触手が緩んだ。
大きな口を開けて息を吸い込む戦士。
その口に、Jの心臓が潜り込んだ。
「がっ!? ごあっ、おぉお……ごえ……!?」
ごぎゅ!
骨ごと肉を轢き潰したような音を立て。
肉塊を無理矢理飲み下した戦士。
「ちょ、ちょっと……大丈夫?」
ようやく異変に気付いた魔法使いが、背後から戦士に声を掛けた。
「だ……づ……げぇ……」
濁った声を出しながら首を激しく揺らし、ビクビクと痙攣を繰り返す戦士。
その尋常ならざる様子に、魔法使いは後退った。
「………………」
ピタリ。
と、戦士の動きが止まった。
背後にいる魔法使いからは、その表現は伺えない。
「…………ね、ねぇ?」
沈黙に耐えきれなくなった魔法使いが震える声で、戦士に向かって話しかけた。
戦士が手にした魔剣を手にして、自分の首に刃を添えた。
「ちょ!?」
戦士の突然の奇行に慌てた魔法使いが手を伸ばすが、それよりも速く首に添えた魔剣を戦士が引いた。
瞬間、鮮血が噴き出す。
しかし、戦士はそれで手を止める事なく、ノコギリのように魔剣を動かしていく。
押して引く度に、首に魔剣が食い込んでいき、ゴリゴリと骨を削る音が聞こえてくる。
「ひいっ! な、なにしてんのよ!?」
目の前で行われる、たった一人の虐殺劇に魔法使いはただただ混乱した。
流れ出る血で魔剣は赤く染まり、地面には血溜まりが広がっている。
もう、魔剣は首の殆どを切断していたが、戦士の手は止まらない。
無機質に手を前後させ続けている。
ゴトリ。
遂に戦士の首が完全に地面に落ちた。
転がった戦士の顔が魔法使いの方を向いた。
戦士は左右で別の方向に瞳を向けた目をしており、無理矢理肉塊を捩じ込まれた口は裂け、まるで怪人のピエロマスクのような顔になっていた。
「は、ははっ……」
魔導の真理を解き明かそうとする魔法使いをして、理解の追いつかない恐怖故か。
魔法使いの口から乾いた笑いが漏れる。
こ、怖い。
邪神今夜トイレ行けないかも。
あと今日はもうお肉食べたくないです。
頭を失った戦士の身体は倒れる事なく、下手くそな操り人形のように歩き出す。
一歩一歩進むその先には、切断されていた事で爆発から逃れた、Jの頭部が落ちている。
戦士の手がJの頭部を掴み、兜でもかぶるように首の断面にのせた。
ぐちゃり。
と音を立て、首の断面同士が接し合う。
戦士の首からいくつもの血管が飛び出して、縫合手術のように首同士を縫い合わせていく。
そして、戦士の身体の頭部に、Jの顔がくっついた。
ミシミシとJの頭部に合わせるように、戦士の体格が変わっていく。。
肥大化した筋肉が装備の一部を弾き飛ばし、服のも所々破れる。
音がおさまる頃には、戦士の身体は二回りほど大きくなっていた。
魔法使いから見ると、その後ろ姿は先程滅ぼした筈の怪物に酷似している。
「嘘よ、嘘……」
魔法使いの口からは、自然とそんな呟きが漏れた。
その呟きを聞き、魔法使いの存在を思い出したかのように、戦士が首だけでゆっくりと振り返る。
辺りで燃えている火に照らされた横顔。
そこにいたのは戦士ではなく。
不死身の怪物Jだった。
怪しく輝くピエロマスクの奥で、憎悪に満ちた瞳が魔法使いを捉えた。
「ひっ!」
ひきつった悲鳴をあげた魔法使いは、即座にJに背を向けて走り出した。
今度は演技ではなく、真の恐怖から逃れるために。
(なにあれなにあれなにあれなにあれなにあれ! なんなのよあれは!?)
はじめはアンデッドの亜種かと思った。
次いで再生能力の高い亜人種の魔物かと思った。
しかし、背後にいるそれは。
数多くの人間の命を使い、魔導の研究を重ねてきた魔法使いの知識を持ってして、皆目見当もつかない常識はずれの怪物だった。
魔剣を手にしたJが、ゆっくりと魔法使いを追いはじめた。
魔法使いちゃんピンチですね。
しかし、まだチャンスはありますよ!
この先にある吊り橋を上手く使えば、逃げ切れるかもしれません!
頑張れ魔法使いちゃん!
「はぁ! はぁ! はぁ!」
息を切らしながら魔法使いが走る。
だがいくら走っても、後ろからJが追ってきている気がして、安心なんてできなかった。
(許して許して許して許して許して許して許して!)
神にもすがる思いで赦しを乞いながら、必死に走り続ける。
いつもは逃げるモルモットを追いかける側だった魔法使い。
追われる恐怖とはこんなにも恐ろしいものであったのかと、身をもって知る事になった。
すがられても助けてはあげられませんねぇ。
天は自ら助くる者を助く。
って言いますし!
「あっ!」
だが魔法使いの目の前に救いの糸が垂れた。
吊り橋だ。
絶壁の谷を結ぶ木製の吊り橋。
谷の底には流れの速い河が流れている。
(ここをあたしが渡ってから落とせば……追ってこれなくなるんじゃ!)
そう判断して、魔法使いは吊り橋を渡りはじめた。
魔法使いちゃんは、J君の特殊移動の事を完全に忘れていますね。
まぁ、やり方次第では防げますから、頑張ってくださいね。
「くっ! はやく! はやく! はやくしろ!」
今夜は風が強くて吊り橋がかなり揺れ、足の震えもあり、魔法使いが吊り橋を渡る速度は遅かった。
それに焦り、自らの身体を叱咤する魔法使い。
ギシッ……
背後で誰かが、吊り橋に足をのせる音が聞こえた。
(来た!!)
振り返る時間も惜しく感じた魔法使いは、足と手を動かして前に進み続けた。
もう吊り橋の半分は過ぎている。
ギシッ……ギシッ……
しかし、背後の音が徐々に近付いてくる。
だが、魔法使いももう間もなく渡りきる。
魔法使いは震えそうになる声で詠唱する。
「か、『風は嵐に嵐は刃に、切り裂くは嵐刃の緑』っ!」
日頃から魔導の研究をしてきたおかげか。
言葉を紡ぎはじめると声の震えは止み、スラスラと詠唱することができた。
魔法使いが飛び込むように吊り橋を渡りきり、背後を向いた。
思っていた以上に近くにJがいたが、後は魔法を発動させるだけだった。
「“風乱刃”」
魔法使いの杖から放たれた無数の風刃が、Jの身体をごと吊り橋を支える太い縄を、ズタズタに切りつける。
だが、頑丈に綯われた縄は中々切断されず、Jは吹き荒れる風刃の中を、一歩ずつ確実に魔法使いに迫っていく。
「わぁああぁぁ!」
魔法使いは魔力の限り風刃を放ち続ける。
そして、遂に吊り橋の中程の縄が切れ。
吊り橋が中央から左右に別れ落ちる。
その上にJをのせて。
おわー! Jくーん!
またJ君が死んでいるぞ!
「はぁ……はぁ……!」
魔力も尽き、地面にへたり込みながら息を乱す魔法使い。
「や、やったの?」
徐々にその事実が頭に入ってきて、自然と口角がつり上がる魔法使い。
それフラグぅ!
ガッ!
崖の縁に、手が掛けられた。
魔法使いの表情が絶望に歪む。
「あ……あぁ……」
崖の下に落ちたと思われたJが、這い上がってきたのだ。
だから言ったのにー!
「お、お願い……助けて……」
無意味な命乞いをする魔法使い。
「な、なんならあたしのはじ」
その右足にJの持つ魔剣が刺さった。
「ぎゃああぁぁ! あ、あたしの、脚がぁぁ!」
魔法使いの装備には大抵の武器を弾く程の、何十もの防壁が張り巡らされていたが、Jの魔剣はその守りを紙くずのように容易く貫いたのだ。
まぁJ君は、戦士君より多くの人間を殺してきましたから。
今のあの魔剣なら、ミスリルでも切り裂けますよ?
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!)
魔法使いの思考が激痛に埋め尽くされる。
魔力が尽き、身体も傷付き、それでも生き延びたいという一心で、魔法使いがポーチの中身をJに投げつける。
微塵の痛痒も与えぬとわかっていても。
自分の人生を費やして書いた魔導書を、必死に集めてきた高価なマジックアイテムを。
全てを、ただ生きる為に投げ捨てていく。
その中の一つが、Jの頭にぶつかり割れた。
それは、僧侶から渡されていた聖水の入った小瓶だった。
聖水を頭から被ったJが、突如怯えるように後退った。
(聖水が効いた!? 神術が効かなかったのに何故?)
頭に浮かぶ疑問の答えを探るよりも、本能に従い魔法使いが痛みをこらえて立ち上がる。
そして、顔に付いた聖水を払うように、仮面を押さえて苦しむJに向けて駆け出した。
「このぉ落ちろぉぉ!」
魔法使いの体当たりを受けて、後退り崖っぷちに立っていたJは背中から背後に倒れていき。
現れた時と変わらず無言のまま、崖の下に落ちていった。
魔法使いは、遠くで何かが水に落ちる音を聞いて、ようやく全てが終わった事を理解し、魂が抜けたように脱力した。
Jくーん!
ってこのくだりもういいですか?
いやぁ、長らく湖の底で身動きできなかったJ君にとって、水はトラウマの象徴です。
いきなり顔が濡れた事で、息苦しさでも思い出したんですかね?
あれならJ君も特殊移動はできないでしょうし。
それにしても、最後に魔法使いちゃんを救ったのが、他人を犠牲にして手に入れてきた物ではなく、善意で渡された聖水だとは。
中々に皮肉が利いてるラストでしたね。
外道な魔法使いちゃんが生き残って、読者諸君は納得いかないかもしれませんが。
ホラーのサバイバーガールは処女って、古よりそう決まってるんですよ?
これも処女の方が魔力が高まるなんて、眉唾な迷信のおかげですね。
おや? 魔法使いちゃんは放心している所を、別の冒険者に保護されたみたいですよ。
ただ……これから常に何かに怯えて、背後を気にし続ける人生に、生き残った喜びはあるんですかね?
フヒヒ。
いやぁ、やっぱり異世界召喚は楽しいなぁ!
次回はどんな人や物を召喚しましょうか?
いや、転生ものも捨てがたいですね。
邪神に召喚や転生して欲しいものがあったら、感想で伝えてくださいね。
面白そうなら邪神がちょちょいとやってみますので。
最後に邪神から一言。
「パート9も捨てがたし!」
でわでわ、また次回お会いしましょう。
ーーー
谷底を流れる河の下流、その河岸に一つのピエロマスクが流れ着いた。
そこに、一匹のゴブリンが姿を現し、マスクを拾い上げる。
ゴブリンは珍しい物を拾った喜びで、マスクを持ち上げて飛び跳ねた。
そのゴブリンを、突如黒い刀身の四角い剣が両断する。
緑色の血溜まりに、マスクが落ちる。
マスクに一つの影が差す。
影の持ち主は、マスクを拾うと顔に着けてゆっくりと歩きだした。
次の犠牲者を求めて。
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まあ、邪神さまの気の向くままに(^ω^)
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ただ長編になりそうなんでノータッチですかねー?
地球脱出したのなら、もう異世界ではなく同じ世界でファンタジーっぽい別の惑星に送った方がいいのではー? 送る規模が大きいと邪神だって疲れるますしねー。
妖刀量産は面白そうですねー。いっそ妖刀を異世界に転送してもいいかもしれませんねー。
生娘で良かったね(^ω^)
ビッチだったら、ずんばらりんでしたw
設定に感謝ww
しかし、J君残留決定〜
まあ、住処もとい棲み家からはあんたり離れないから、ここら一帯がDangerZoneになったって事で。
今後の活躍を祈る。
あ、アンデットではなく、アンデッドですよ〜
UNDEAD
邪神さま、OK?
OK! (ズドン)
どーも邪神です。
指摘ありがとー。
直しときますねー。
皆もパート9観ようね。凄い駄作だよー。
多分Rは必要かと。
以前、J君vsFさんがありましたが、J君vs異世界シリアルキラーズ
どっちが勝つかな(^ω^)
J君、死なないけど。
あと、バルバルバルバル!
作者さん、続き短編でも描いてくれませんかねぇ…
どーも、邪神です。
感想ありがとー。
邪神も忙しいので、暇がありましたら色々な人の人生弄んでいきますねー。