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1章.無能チート冒険者になる
4.無能チートと鎧の人
しおりを挟む「グギィ?! ギャギャー!」
新たに姿を見せた三匹のゴブリン達は、倒れているゴブリンを見てから、私を見て、敵意の篭った叫び声を上げた。
完全に敵認定されている。まぁそうですよね。
「あ……」
ナイフを構えようとして、投げてしまったことを思い出した。ナイフは今、ゴブリン達の足下に転がっている。
私の視線から、ナイフに気が付いたゴブリンの一匹が、下卑た笑みを浮かべ、私から遠ざけるようにナイフを蹴り飛ばした。
くそっ! 心の中で悪態をつく。
武器はない、チートは役立たず、多勢に無勢で大ピンチ。もう、どうしろっていうのよ!
「グヒッ!」「ギッギッギッ!」「ギャギャ!」
三匹のゴブリンは笑いながら、私を逃がさぬように半包囲して、徐々に間合いを詰めてきた。
うっかり神め! 死んだら絶対に祟ってやる!
もうダメだと諦めかけたその時。
「ゴブリン共、失せろ!」
新たに飛び出した鈍色の全身鎧が、私を囲むゴブリンの一匹、その頭に大剣を叩き込んだ。
血飛沫を舞わせ、顔の中程まで大剣をめり込ませたゴブリン。その身体から力が抜けて腕がだらりと落ちる。
鎧の人は力任せにゴブリンの頭から、大剣を抜き、私を庇うように、残ったゴブリンの前に立ち塞がった。
それで私は、ようやく鎧の人が私を助に来てくれたことに気がついた。
ゴブリンが叫びを聞いて寄ってきたように、他の人が叫びを聞いて助けに来てくれる可能性だってあったんだ。
「……ふっ!」
短く息を吐き、鎧の人が飛び出した。全身鎧を着ているとは思えない速さだ。
ゴブリンはまともに反応できていない。その首目掛け、鎧の人が大剣を振るった。
空気を蹴散らすような風切り音。ゴブリンの首など、簡単に斬り飛ばすと思われたその一撃はしかし、ゴブリンの首をほぼ斬り断った後、大剣が根元からへし折れて止まった。
それでも、首をほぼ断たれたゴブリンは、口から血の泡を吐き出して動かなくなった。
「……ちっ」
鎧の人は、折れて柄だけが残った大剣を強く握り締め、舌打ちをしつつ、残り一匹のゴブリンに向き直った。
残されたゴブリンは、武器がなくなった鎧の人を見て、優位になったと思ったのか、逃げることなくこん棒を構えた。
いくら全身鎧を着ていても、当たり所が悪ければ気絶ぐらいはするかもしれない。
なんとか鎧の人の手助けできないかと、周りを見ていて気がついた。
「足下にナイフが落ちてます! それを使って!」
ゴブリンが蹴飛ばしたナイフが、丁度鎧の人の足下に落ちていたのだ。
鎧の人は私の声に素早く反応し、足下のナイフを拾うと、そのままの低い姿勢で近づき、ゴブリンの首もとから頭にかけて、深々とナイフを突き入れた。
ゴブリンが、私を絶望させるために蹴飛ばしたナイフが、皮肉にもゴブリンの敗因になったのだ。
脅威だったゴブリンが全滅し、安全になったと理解すると、どっと疲れが吹き出した。
「はぁ~」
私は深く息を吐き出し、その場にへたり込んだ。
「大丈夫?」
ナイフを引き抜いた鎧の人が、此方に向き直り、渋めの声で心配そうに聞いてきた。
改めてよく見ると、190センチぐらいある、一部の隙間もなく、肌を一切見せない鈍色の全身鎧。兜までフルフェイスで、隙間がほぼ無いため、顔も表情もわからない。威圧感が凄い。
それでも、どことなく優しそうな雰囲気を感じた。
「はい、助けてくれてありがとうございます」
だから、私も素直にお礼を言った。
恩には恩を。それが真壁家の家訓だ。
「よかった。これ、貴女の」
「えっ?」
鎧の人は手にしたナイフを私に見せた。
なんで私の物だってわかったんだろう。
「ゴブリン、武器の手入れしない。ナイフ、剣、持っててもボロボロ。これよく切れる、いい武器」
私の疑問を察したのか、鎧の人が答えてくれる。
なるほど、武器の状態からゴブリンの物じゃないと判断したのか。まぁ、もらったばかりの新品だからね。
「確かにそのナイフは私のです。でも、武器もなくなってしまったみたいですし、あなたがそのまま使ってください」
正直、果物ナイフ以外のナイフを触ったことのない私が、まともに武器として扱える気がしない。
そう思い、なくなった武器の替わりにしてもらおうと提案してみたけど、鎧の人は横に首を振り、何処からか出した布でナイフの血を拭うと、柄を向けて私にナイフを差し出した。
「ワタシは大丈夫。今日、後街に戻るだけ、それに、これ良いナイフ、大事にするといい」
「わかりました」
有無を言わせぬ雰囲気を感じ、私は素直にナイフを受け取って、腰の鞘にナイフをしっ、しまっ、しまっ、しまえない。
背の方についているから、しまおうとしてもスカスカと切っ先が上手く入らない。
危なっかしく思ったのか、鎧の人が手伝ってくれ、ようやくしまうことができた。
さらに腰の横に鞘を留め直してもらい、出し入れしやすくもしてもらった。恥ずかしい。
「そういえば自己紹介がまだでした。私は真壁蜻蛉と言います。蜻蛉と呼んでください。改めて、危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
心の中だけだったけど、いつまでも鎧の人と呼ぶわけにもいかないし、まだ名前も教えていなかったことに思い至り、改めて名乗った。
「かまわない。冒険者、困ってる人、助ける普通。ワタシはセヨン。ドワーフのセヨン・カルーア。ワタシのこと、セヨン呼ぶといい、よろしくトンボ」
「えっ? ド、ドワーフ?」
「ん? 変か?」
「変と言うか、私の知っているドワーフは、鍛冶が得意で酒が友達の、背が低くて髭モジャ筋肉モリモリな種族でして、セヨンさんは大き過ぎませんか?」
ファンタジー好きからすると、190センチ近い巨体は違和感がすごいんですが。それともこの世界のドワーフは、そういうものなの?
「くっ……あっはっはっ! トンボ正直。それに、ドワーフそれで間違いない!」
堪えきれないとばかりに、全身を揺らし笑いだしたセヨンさん。というか、いくらショックだったとはいえ、私かなり失礼なこと言ったのでは。
「ご、ごめんなさい!」
「いい、嘘付き嫌い、それもドワーフ。トンボは良い子」
頭を下げようとした私を手で制し、セヨンさんは楽しそうにそう言った。
「それに……」
セヨンさんは言葉を一度止め、鎧の胸部をいじり始めた。
「鎧は鎧。中身は別」
鎧の、胸部装甲の一部が外れ、中が見えた。
「改めてよろしく、トンボ」
子どものような高めなの、でもどこか大人びた知性を感じさせる不思議な声。
「えっ? 女の……子?」
鎧の中には、鎧の大きさに比べてはるかに小さい、少し尖った耳が特徴的な女の子が、小麦色の肌に映える白銀の髪を揺らし、紫色の瞳を楽しそうに細めながら入っていた。
ーーーーーーーーーー
ロリと大鎧が合わさり最強に見える。
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