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1章.無能チート冒険者になる
10.無能チートと冒険者登録
しおりを挟む「で、では、こちらへどうぞ」
何故か、引き吊った笑顔で私を迎えてくれたエルさん。もしかして、私恐がられてる?
「真壁蜻蛉です! よろしくお願いしますね、エルさん!」
これからお世話になるギルドの受付嬢に恐がられるのも嫌なので、愛想よく元気に挨拶しておく。
「ひぃっ! な、なんで名前を知ってるんですか?!」
「えぇ……」
散々名前呼ばれていたじゃん。
冒険者って強面の人が多い印象なんだけど。この人、こんなビビりで受付嬢やってて大丈夫なの?
「エル。トンボ、いい子、怖がる必要ない」
「うう~、セヨン様がそう言うなら……ゴホンッ、改めまして、ようこそ冒険者ギルドラプタス支部へ。私、当ギルドで受付嬢をしております、エルティスと申します。親しい方はエルと呼びますが、是非エルティスとお呼びください」
「あれぇ?」
おかしいな、暗に親しくなる気はないって言われてるぞぉ?
「トンボ様は、冒険者ギルドへの、新規登録でよろしかったですね」
「はい! お願いします、エルティスさん!」
怯えずに真面目な顔をしてお仕事しているエルティスさんは、切れ長な目や、ぴっちりと整えられた髪も相まって、できる女感があってカッコ良かった。
だから、私はめげない。いつか絶対に親しくなってやるんだ!
「では、冒険者ギルドの説明をさせていただきます。冒険者ギルドは、冒険者に対して、依頼の斡旋や素材の買い取りなどを行っております。依頼には危険度や、その難度によってランクが付けられており、受けられる依頼は、下限はありませんが、上限は冒険者本人のランク1つ分になっております。冒険者ランクはSを最高ランクにA、B、C、D、Eの順に低ランクになっていきます。トンボ様は新規登録ですので、Eランクからスタートになります。ここまでで、何か質問はございますか?」
冒険者の頂点はSランクなんだ。セヨンさんはCランクって言ってたから、中堅って感じなのかな?
「Sランクの冒険者って、何人ぐらいいるんですか?」
「はい、現在Sランク冒険者は、世界に7人認められております」
「少なっ?!」
いや、天下の七本槍と考えれば妥当なのかな?
「少なく感じられるかも知れませんが、それだけSランクにまで登り詰めるのは、難しいと言うことです。ついでに、ランクアップの条件などを、お話しておきましょう。冒険者ランクは依頼の達成状況によって上がっていきます。基本的に自分の冒険者ランクより、1つ上の依頼を連続10回達成できれば、ランクが上がると思っていただければ間違いありません。中には例外もありますが、それはその時があれば説明いたします」
「なるほど、実力の無い人間が、ランクを上げて危険な依頼を受けないようにする措置ですね?」
「はい、パーティーを組む際の注意事項と同じですね」
Sランクになろうすれば、最短でも50回上位ランクの依頼を達成する必要があるのか。
1つの依頼を達成するのに、何日かかるかわからないし、ちょうどよく上位依頼がギルドに無い場合もあるだろうし、休日なんかも入れたら何年かかるのか知れたもんじゃない。
「では、続いて冒険者ギルドの規約について説明いたします。簡単に言えば今から言うルールを守るようにということですね」
一つ、冒険者は自己防衛を除き、一般人への武力行使を禁じる。
一つ、訓練等を除き、冒険者同士の私闘を禁じる。
一つ、Eランク冒険者を除き、有事の際は冒険者ギルド所属の戦力として扱われる。
エルティスさんが教えてくれたルールの内、大きな3つはこんなものかな。後は、依頼の達成報告で虚偽報告をするなとか、冒険者カードの偽造をするなとか、細かいのがいくつかあった。
「これらに違反した場合、様々なペナルティ、今回ロジャー様やセヨン様が課せられた、ランク降格等がありますので、お気をつけ下さい。何か質問はございますか?」
「有事の際っていうのは、具体的にどんな時なんですか?」
「魔物の氾濫や、凶悪な魔物の出現時の対処が主になります。冒険者ギルドは国に属したりはしていませんので、戦争に駆り出されたりなどはありませんから、そこは安心して下さい」
「魔物の氾濫って?」
「俗にスタンピードなどとも呼ばれる、増えすぎた魔物がエサ場を求めて。生態系が崩れ、逃げ出した魔物が。ロード系の魔物に率いられ攻め込むため。様々な理由から、大量の魔物が人里に押し寄せることを言います。戦闘能力が無い冒険者は、一般人の避難誘導等を行っていただきます。まぁ、トンボ様は嬉々として、魔物に突っ込むと思いますが」
「そんなことしないですよ?!」
エルティスさんの私への評価を垣間見てしまった。おかしいな、ゴブリン一匹に四苦八苦していた、か弱い女子高生なんだけどなぁ。
「以上で冒険者ギルドの説明を終わりにいたします。それでは問題がなければ登録に移ります」
「よろしくお願いします」
私が頷くと、エルティスさんは一枚の金属板を取り出して、こちらに見せてきた。
「こちらが、冒険者カードになります。対応する魔道具を使うと、討伐記録等を参照できます。討伐依頼の際は確認させていただきますし、身分証にもなりますので、常に身に付けていてくださいね」
そういって、エルティスさんは、銀色に近い色合いで、表面にはまだ何も刻まれていない冒険者カードを、私に差し出した。
「魔力で個人登録しますので、軽く魔力を流して下さい」
「わかりました……ちぇりゃ!」
「んくふっ!」
私はカードを受け取り、気合いを入れ、壁魔法を使う時のように魔力を込めた。すると、後ろで見ていたセヨンさんが吹き出した。
何事かと後ろを振り向くと、全身を震わせているセヨンさんが目に入った。
「くふふっ、トンボ、掛け声面白い、笑わせにきてる」
「いってませんよ?!」
ちくしょう! 魔力を込めた冒険者カードが淡く光って、光が収まると私の名前が刻まれているという、かなりファンタジーかつ胸踊る光景だったのに、セヨンさんの所為で台無しだよ!
「はい、無事登録も終わりましたので、こちらの冒険者カードは、トンボ様のカードになります。紛失した場合、再発行にはお金が掛かりますので、気を付けてくださいね」
「エルティスさんは、もっと私に構って?! 目の前でこんな漫才してるのに、淡々と作業し過ぎですよ!」
「ひぃ! す、すみません! 真っ二つにしないで下さい!」
「情緒! 情緒不安定過ぎぃ! そんなことしないからね!」
ツッコミもしてくれないエルティスさんに詰め寄ると、また臆病が再発してしまった。仕事モードの時との落差が激しいよ!
「あ、後は、保護者になるセヨン様に聞いていただければよろしいかと、トンボ様の今後の活躍を期待しております! では、私は他の業務がありますので、失礼します!」
私の冒険者カードを置いて、ものすごい勢いで裏方に消えていくエルティスさん。
残された私とセヨンさん。
「ちぇりゃ! だって、ちぇりゃ! くふふっ」
「セヨンさんはいつまでツボってるんですか!」
そんなグダグダな空気のまま、ようやく私は冒険者になることができたのだ。
エルティスさんめ、いつか仲良くなってやる!
ーーーーーーーーーー
ビビりで豆腐メンタルな出来る女、エルティス。
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