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第一章 箱庭の神様見習い
5.箱庭の管理者
しおりを挟む私はペットのスライムとアースゴーレムを連れて自室に戻った。
もちろん代金は払った。
二匹で銀貨五枚。
実際安い。
二匹は私の肩の上にちょこんと乗っている。
私の方が歩くスピードが速かったので、肩に乗せたのだ。
魔法生物だからかあまり重くないし、二匹とも楽しそうなので問題ない。
私の後をちょこちょこと速足でついてくる姿も、可愛かったけどな。
「じゃあ二匹とも、今から私の箱庭に行くから、驚かないように受け入れてな。『箱庭世界』」
二匹を肩から机の上に乗せて、私は箱庭の入口を開いた。
「“転送”」
白い箱に吸い込まれるようにして、二匹の姿が消えた。
その後を追うように、私も箱庭世界に移動した。
「ぴぷー?! ぷるぷる!」「ー? ーー!」
箱庭の草原に降り立つと、周囲をキョロキョロと見渡している二匹がいた。
いきなり自分の居場所が変わって、驚き戸惑っている。
よしよし、ちゃんと転送できたな。
「ぴぴー!」「ーーーー!」
後から来た私に気が付くと、安心したように二匹が駆け寄ってきた。
「いいか? お前達にはここの住人になって貰う」
私がそう言うと、二匹はお互いに顔? を向かい合わせてから、同時に私を見て大きく頷いた。
正確にはぷるんとへこんだのと、お辞儀するように身体を前に倒したのだが。
「その前に、お前達に名前をやらないとな」
道中ずっと考えていた名前だ。
私はまずスライムを両手で、目線を合わせるように顔の側まで持ち上げた。
ひんやりスベスベで、柔らかい。
「お前の名前は、小さな水玉だから『ピンドット』、ピンドットのピンだ。よろしくなピン!」
水玉模様の一番小さなものをピンドットと呼ぶのだ。
小型スライムのピンにピッタリな名前だろう。
「ぴぴぴー! ぷるぷるぷるー!」
ピンは名前が気に入ったのか、私の手のひらの上でぴょんぴょん跳ねている。
よかったよかった。
「次はお前だ。おいで」
ピンを地面に降ろしてアースゴーレムに手招きする。
「ーー!」
アースゴーレムは私の足元に来ると、両腕を万歳と上げた。
名前が貰えるのが嬉しいのか?
「ーー。ーー!」
どうやら違うみたいだ。
アースゴーレムは隣のピンを指差し。
いや、指はないから腕の先を向けてか、何か訴えている。
なんだ? ピンを、掬って、掲げる?
ジェスチャーで伝えてくるアースゴーレム。
最後にまた万歳してきた。
「……だっこしてほしいのか?」
正解! と言うように、アースゴーレムがビシッと腕を向けてくる。
「そうか、ピンが羨ましかったんだな」
私はアースゴーレムの脇を掴んで持ち上げた。
アースゴーレムの黄色い目がチカチカと点滅している。
これは喜んでいるのか?
「お前の名前は、私の世界でゴーレムに刻む、真理って意味の言葉『エメト』。よろしくなエメト」
地球では、ゴーレムを作る際に体のどこかに“emeth(真理)”という言葉を刻むのだ。
壊す時は頭のeを削り、“meth(死)”に変えるとその身が崩れるともいわれている。
なんで知ってるかって?
私だってラノベぐらい読む。
エメトの目がひときわ激しく光った。
うんうん、気に入ってくれたかな。
エメトを地面に降ろすと、ピンと一緒に二匹で喜びの舞いを披露してくれた。
ピンはぴょんぴょん跳ねて、エメトは片足ずつ上げてコサックダンスのような踊りを踊っている。
ヤベー可愛い!
私は喜ぶ二匹を連れて池の側まで移動した。
私が本当に試したかったのは、ここからだ。
「ピン、お前をこの箱庭世界での、水の管理者に。エメト、お前を土の管理者に。それぞれ任命する」
「ぴぷぴぷ!」「ーーーー!」
箱庭世界の中を管理するのは意外と大変なのだ。
ただ草原を作ったり、池を作ったりは簡単だけど、それは見せかけのものだ。
草花は成長せず、池には生き物が存在しない。
今のこの世界は、止まった世界だ。
誰かが土をいじり草花を育て、水に流れを作り生きた水に変える必要がある。
それには植物ごとに合った、土の成分調整、地質の改善、水の温度管理に過度な淀みが生まれないような流れの計算などが重要なのだ。
つまり私が一人でやるには、この100メートル四方の小さな世界ですら広大過ぎる。
だから、私の代わりにそれらを管理してくれる者が必要という結論に至った。
それがピンとエメトなのだ。
私は二匹に、この箱庭世界の権能の一部を譲渡する。
「ぴぴっ?!」「ーー?!」
途端に震え出した二匹。
その輪郭が崩れていく。
「ピン! エメト!」
私は慌てて権能の譲渡を止めようとしたがすでに遅く、ピンとエメトは核すら残さず溶けるように消えてしまった。
「そんな……」
こんなつもりじゃなかったのに。
どうする、二匹が消えちまったよ!
私が狼狽していると、地面が揺れはじめた。
この世界に地震なんて存在しないのに!
「ぴぷー!」「ーー!」
どこかから声が聞こえた。
ピンとエメトの鳴き声だ!
地面の揺れがおさまると、池からは水柱が立ち上がり、地面からは土が盛り上がってきた
水柱によって浮かび上がった水が集まり、大きな水球が表れる。
『ぴぴぴー!』
その水球からピンの声が聞こえた。
盛り上がった土は自分の意志があるかのように、形を変えていく。
『ーーーー!』
巨大な土塊はエメトの姿を象った。
もしかしてこれがピンとエメトなのか?!
いやたぶん、それぞれに水と土の管理権を譲渡したからだろうけど。
「それにしても変わりすぎだろ……」
私は見上げる程に大きくなった二匹を見て、さっきとは別の意味でどうしてこうなったと嘆息した。
『ごしゅじんー?』『ーーん?』
二匹は小さな時と同じコミカルな動きで、首を傾げるような仕草をした。
「って喋った?! ピン! エメト! お前等喋れるようになったのか?!」
なんと、大きくなっただけでなく、二匹は喋りはじめた。
『えへーしゃべれるよー』『ーーん』
ピンは幼い感じで、エメトは少し無口気味だ。
二匹は会話ができるようになったのが嬉しいのか、体をぷるぷるブンブンしながら喜んでいる。
それを見て、大きくなろうと、喋れるようになろうと、二匹の本質は変わっていないことがわかり安堵した。
「良かったな。これからこの世界の管理よろしくな! ピン! エメト!」
『ぼくがんばるー!』『ーーん!』
二匹の管理者を得て、この世界も変わっていくだろう。
とりあえず、この世界の大地をどう弄っていくかは、二匹の自主性に任せた。
「そういえば核が消えたけど、二匹は外で活動できるのか?」
おそらく二匹の核は、より効率的に管理を行えるように、土と水に溶けて混ざったのだろう。
いうなればこの世界の大地と水が二匹の核になった様なものだ。
この世界の外に、この世界の土や水を出すのは可能だが、中と外で分かれた場合は両方動けるのか、それとも片方しか活動できないのか。
『たぶんだいじょうぶ』『ーーん』
分けても両方活動可能らしい。
「じゃあ、外に出る時は前の小さいサイズになってくれ」
セヨンに変に勘繰られるのも嫌だし、小さい方が可愛いしな!
『えーおおきいほうがかっこいいよー』『ーーん!』
二匹はせっかく大きくなったのに、また小さくならないといけない事が不服らしく、抗議してくる。
「いやいや、確かに大きいのはカッコいい。でも大きいと肩にも乗せられないぞ?」
『それはやー!』『ーーん!』
そう言った途端に、二匹は小さな自分の分体を作り出した。
現金な奴ら。
「じゃあ、こっちのピンとエメトは、管理頼んだぞ!」
『いってらっしゃーい』『ーーん』
『いってくるねー』『ーーん』
足元に寄ってきた二匹を肩に乗せて、こちらに残るピンとエメトに挨拶して私は自室に移動した。
ーーー
セヨンはあの後ずっと工房に籠っていたので、今日の夕食は私が作った。
工房にいたセヨンを呼んできて、二人で食卓につく。
献立はスープパスタだ。
この世界、普通に乾麺が売っていたので買ってきたのだ。
私は食事をしながら、セヨンに二匹の名前がピンとエメトに決まったのを話した。
『よろしくー』『ーーん』
ちなみに二匹は魔法生物なので食事は必要としていない。
家計に優しいペットなのだ。
後、会話は私としか出来ないようで、ピンとエメトの声はセヨンには聞こえていない。
「ん~、やっぱり変」
「なにが?」
セヨンは眉間にしわを寄せ、睨むようにピンとエメトを見つめている。
「極小ん核は容量が少なかばい。普通は単純な命令しか聞けんっちゃん。“歩け”とか“手ば振れ”とかね」
「えっ? だけどピンもエメトもはじめから自分の意思で動いてたぞ?」
二匹とも魔力を流した時から私に挨拶してくれていた。
その後も私の後をついて来たり、箱庭の中では驚いたりもしていた。
「そこばい! 大きな魔石ば使うた核なら自分ん意思ば持つ事もある! だけどこん二体は小さい魔石で作った極小ん核ば使用しとーっちゃん!」
つまり、ピンとエメトは管理者にする前から特別だったという訳か。
「考えられる可能性は二つ。まず魔石が実は高品質やった場合。ばってんあん後工房で確認したけどやはり普通ん小しゃな魔石やった。そうなるともう一つん可能性、トンボん魔力が特別で主人登録ん際に何か影響ば与えた可能性が有力やなあ」
興奮した様子で私に顔を寄せるセヨン。
目がちょっと怖い。
でも考えられるのは、私が異世界人だからか、壁魔法を使えるからか、可能性だけなら結構思い付くけど。
「ん~……秘密で」
「むぅ……仕方なか。工房ば預かる工房長としても研究者としても知りたかばってん、命ん恩人に言われたら追求はできんな。ドワーフに二言はなか!」
「ん?」
今、セヨンが何か聞き捨てならない事を言わなかった?
ドワーフがどうとか。
「ドワーフ? セヨンは人間じゃないのか?」
私が確認すると、セヨンは呆れたように大きなため息を吐いた。
「うちはドワーフに決まっとーやろ。まさか気付いとらんかったんか?」
はぁ~、セヨンがドワーフだったなんて、全く気が付かなかった。
小さいのに工房主とは凄いと思っていたけど、ドワーフだったのかぁ。
この世界の女ドワーフは、髭タイプじゃなくてロリタイプなのか。
「あれ? じゃあセヨンって何歳?」
「うちは38歳や。ドワーフとしてはまだまだ若輩ばい」
まさかの歳上でしたか。それも結構上だ。
ドワーフって長命種らしい。
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「今更やろ? そんままでよかばい」
セヨンは笑って気にしなくていいと言ってくれた。
ていうか、私はファンタジー王道種族との初遭遇イベントをスルーしていたのか。
凄いショックだ。
『ごしゅじんだいじょうぶ?』『ーーん?』
落ち込む私を、心配そうに寄り添ってきたピンとエメトの二匹が癒してくれた。
ありがとうピン、エメト。
「なぁ、ちょっと解剖するぐらいならいい?」
「ダメだ!!」
諦めきれないらしいセヨンがピンとエメトを見ながら恐ろしい事を呟いた。
私は震えるピンとエメトを守るように抱え込んだ。
セヨンはかなりマッドだったらしい。
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