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第一章 箱庭の神様見習い
10.箱庭の発展
しおりを挟む家に戻るとセヨンはまた工房に籠っているみたいだったので、私は夕食の用意をしてから箱庭世界に入って行った。
ペット三匹は部屋に残して、私が箱庭に行っている間外側ではどうなっているか確かめて貰っている。
「おお! 凄い!」
箱庭の中に入った私は思わず叫んでいた。
そう感嘆の声を漏らすほど、箱庭の中は様変わりしていたのだ。
私は箱庭の中を確認する事にした。
入ってまず目に付いたのは岩山だ。
標高は八十メートルくらいかな?
サイズはそこまで大きくないけど、それはこの箱庭がまだ小さいからそれに合わせているんだろう。
近付くとゴツゴツした岩肌には植物が生えていて、岩が連なった階段まで付いていた。
人間サイズの階段だから、エメトが私の為に作ってくれたものだろう。
「なら、登ってみますか」
階段を登りはじめると、面白い物が目に入った。
私の石像だ。
服のシワから髪の毛に至るまでかなり精巧に作られている。精巧すぎて怖いぐらいだ。
そして何故かクラークの大志を抱けポーズだった。
更に登ると今度はエメトとピンの石像が、至るところに配置されていた。
ピンに関しては丸く磨かれた石にしかみえないけど、ピンがよくやる触手を伸ばして振るポーズをしているのを見て、ピンなのだと理解できた。
エメトに至ってはストーンゴーレムになった様にしか見えない。
頂上付近にまで来ると、なんとコタローの石像まであった。
まだ出会ったばかりなのに、仕事が早すぎるぞエメト。
コタローの石像は天に向かって吠えているポーズをしている。
いまにも声が聞こえてきそうな迫力だ。
エメトの石像美術館とも言える岩山の頂上にたどり着くと、特大サイズのエメトの像があった。
「最後は土で作った像か、素朴な感じでエメトらしいな」
『ーーん?』
土のエメト像が振り向いた。
黄色く光る目と目があった。
「……まさか、本物のエメトさんですか?」
『ーーん』
エメト像改め本物のエメトが首肯した。
うわぁ! 恥ずかしい!
なにがエメトらしいだよ。
わかったつもりになって偉そうな事言っちゃったよ。
『ーーん?』
「……なんでもない。よくここまでの岩山を作ったな。石像も良くできてたぞエメト」
『ーーん! ん!』
石像を褒められたのが余程嬉しかったのか、何度も頷いて喜ぶエメト。
どうやらエメトには芸術家の一面もあるみたいだ。
そしてエメトはこの岩山がお気に入りらしく、基本的にここに居ることが多いらしい。
だからここに石像が増えているのか。
「おぉ、いい景色だな!」
『ーーん!』
エメトの隣にまで行くと、岩山の頂上から箱庭全体が見渡せる様になっていた。
正に壮観だ。
これはエメトのお気に入りになるのもわかる。
「エメト、これからもよろしくな」
「ーーん!」
暫くその景色をエメトと一緒に堪能してから、私は岩山から見えた次なるスポットに行くことにした。
なんと岩山の裏側が滝になっていたのだ。
岩山の一部から水が噴き出して、岩肌を蛇行するように流れ落ちている。
ここはピンとエメトの合作なのかな。
滝壺に着くと水飛沫が私に降りかかった。
凄いマイナスイオンが出ていそうな場所だった。
滝壺の場所は岩山の中腹より少し下に位置していて、滝壺に落ちた水はそこから小川になって流れ出している。
私はその小川をなぞるように歩き出した。
小川には当然生き物の姿はなかった。
生き物を箱庭に増やすには、まず魚や虫、小動物を捕まえてこないといけない。
大変そうだから、何か案を考えておこう。
流れの先は、最初に私が作った池に繋がっていた。
ただ、その池もパワーアップを果たしている。
瓢箪型だった池はかかっていた橋をそのままに、池の中に小島が浮く、三日月のように偏ったドーナツ型になっている。
朱色の橋を渡って小島に移動する。
小島のには石畳が敷かれており、その中心には巨大な杯のような噴水が作られていた。
石畳には噴水から放射状に溝が掘られており、噴水から溢れた水が溝を流れて池に落ちていく。
地球のどこか大きな公園に似たような噴水広場があった気がする。
そして、杯の上に大きな水滴が乗っていた。
「ピン! 滝と川と池を見てきたぞ!」
私が水滴に向かって声を掛けると、水滴が私に向かって飛んできた。
『すごいでしょー! えめとにもてつだってもらったんだー!』
私の側に着地した水滴が私に話し掛ける。
やっぱりピンだったよ、今度は間違わなかったぞ。
エメトが岩山の頂上を気に入ったように、この噴水広場がピンのお気に入りで、大きな分体を常に配置しているらしい。
「滝も小川も池もこの噴水も、良くできてる。……そう言えば池に流れた水はどうしてるんだ?」
『みずはねー、ながれてないと、わるくなっちゃうから、あめにしてやまにもどすんだー』
つまり、自然のサイクルをしっかり再現している訳か。
私が言うまでもなくそこまで考えてるなんて、ピンは凄いな。
「よく考えてるなピン! ピンに任せれとけば水の心配はなさそうだ」
『えへへー、ぼくがんばったー!』
「よしよし」
ぷるぷると震えているピンを撫でる。
冷やっとしたゼリーのような質感が、なかなかクセになりそうな触り心地だ。
ついでに先程の考えについてピンに意見を求めてみた。
「箱庭の外から魚とかを捕まえて来たら、ここに棲めるか?」
『んー、ちいさいおさかなさんは、たべものがいるよー』
「あっ、そうか……生態系のピラミッドとサイクル」
授業で習った。
水中の生態系に限れば。
植物性のプランクトンがいて。
動物性のプランクトンがそれを食べる。
その動物性プランクトンを小魚が食べて。
さらに大きな魚が小魚を食べる。
糞や死骸をバクテリアが分解して、それが植物性プランクトンの餌になる。
その生態系のピラミッドとサイクルを再現しないと、生き物を池や川に放っても自然に生かすことができないんだ。
私が餌を与え続ければ大丈夫かもしれないけど、せっかくなら自然の生態系を再現したいよな。
「ピン、今の水にはプランクトンとかいないのか?」
『いないねー』
そういえば透明度が高い川はバクテリアとかプランクトンが少ないって、昔何かで聞いた事があったな。
それで言うならここの池は凄い透明だから、バクテリアとかプランクトンが全くいないって事か。
「どうすればプランクトンを住まわせられる?」
『んーと、おそとからもってくるとか?』
「それだ! ピン天才か! 水ごと運んでくればいいんだな!」
ピンのおかげで光明が見えたぞ!
今度川に行ったら水を持って帰ってこよう。
「川に生き物が棲めるようになったら、その管理もピンに任せてもいいか?」
『まかせてー、ぼくがんばるー!』
ピンの元気な返事を聞いてから小島を後にした。
それにしても生態系の構築か。
草花を育てるのは土や水のマナがあれば問題ないけど、花や植物が受粉して実をつけるには虫の存在が必要不可欠だし、そんな虫や実を食べて小動物は生きていく。
本格的に生き物を確保するには色々考える事が多そうだ。
「コタロー! おいでー!」
箱庭のまだ開発が行われていない草原に着いたので、一度考え事を止めてコタローを呼ぶ。
ここからは別の実験の時間だ。
『はっ! 主殿、何か御用でしょうか!』
呼ぶと一瞬で体長五メートル程の白狼が文字通り飛んできた。
コタロー今空を蹴って走ってたけど、風の管理者になるとそんなこともできるのか?
『風魔法で一・二歩なら似たような事はできましたが、《風操作》のスキルになってからは精度も上がり、長距離の移動も可能になりました』
魔法で足場を作る……か。
私の壁魔法でも似たようなことができそうだな。
今度やってみよう。
「コタローは風の管理者になったけど、具体的にはどんな事をしてるんだ?」
任命しておいてあれだが、いまいち風の役割がわからない。
『その……実は、風は様々なものを運ぶ役目があるのですが……』
「ああ、風に乗せて種子を飛ばす植物とか、風に乗る鳥とか、まだこの箱庭にはいないからな」
『はい、今は水を雲にして運ぶ際に風で手伝うぐらいで他は特に……』
コタローはそこまで言うと、尻尾を寂しそうに垂らしてしまった。
これは丁度いいかもしれないな。
「なら、コタローにやって貰いたい事がある」
『はっ! 何なりとお申し付けください!』
自分にもするべき仕事ができると知り、コタローの瞳がキラキラと輝いた。
管理者になったのに力の振るい甲斐がなく、力をもて余していただろうから、機会が巡って来たのがよっぽど嬉しいらしい。
尻尾が千切れんばかりに振られている。
「コタローにはここの雑草に風の魔力を注いで、薬草にできないか試して貰いたい」
それこそが実験したかった事なのだ。
薬草は雑草が風の魔力の影響で変異した魔草だ。
外の世界では森の中でしか育たないそれを、この箱庭で栽培できないか試してみようと思ったんだ。
『お任せください! 必ずや成し遂げて見せます!』
「コタローは真面目だなぁ。もっとのんびりしてもいいんだぞ?」
コタローはなんと言うか忠誠心というか忠義が凄すぎるので、気負い過ぎない様にもっと肩の力を抜いて貰いたい。
『し、しかし!』
「取り敢えず役目は明日からでいいから。そうだなぁ、今は一緒に横になろう!」
実はコタローに会った時から、やりたい事があったのだ。
「そいっ!」
『あ、主殿?!』
私は自らの欲望に従いコタローに抱きつくと、そのもふもふの毛皮を堪能する。
出会った時からずっと飛び込みたかったんだ!
ヤベー! ふわふわもこもこで超柔らかいぞ!
いきなり抱きつかれて困惑しながらも、私に怪我をさせないように、コタローはおとなしく横になった。
私もコタローをクッションにして一緒に寝そべった。
あ~、お日様の匂いがする。
ピンのぷるぷるボディとも、エメトのきめ細かい土肌とも違う感触に、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
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