箱庭世界の壁魔法使い ~神様見習いはじめました~

白鯨

文字の大きさ
12 / 51
第一章 箱庭の神様見習い

12.薬草長者

しおりを挟む

 薬草栽培実験から一週間ほど時間が経った。

 セヨンからトンボ玉ネックレスを貰った次の日に雑草の様子を見に行ったら、見事に雑草は薬草に変異していた。
 つまり、薬草栽培の実験は成功したのだ。

 それから毎日箱庭で薬草を採取しては冒険者ギルドに持ち込んだ。
 日本だったら“私が作りました”っていうコタローの写真を貼り付けてる位、安全無農薬な新鮮取れたて薬草だ。
 だから査定も良く、普通の薬草より高値で納品できている。
 正にトンボブランドの薬草。
 薬草長者に私はなる! 

 今日も私は、箱庭産の薬草を持って冒険者ギルドの納品カウンターに来ていた。

「おはようエル。薬草の納品よろしく」
「おはようございますトンボさん……あの、非常に申し上げ難いんですが、冒険者ギルドへ納品する薬草の数を減らしていただきたいのです」
「なにっ?!」

 エルの口から出た突然の通達。
 私は今朝採取したばかりの、取れたてトンボブランド薬草を取り出しかけた手を止めて、エルを凝視した。

「トンボブランドの薬草に何か問題が?!」

 虫食いとかあったのか?! まさか食中毒なんて事が?!
 いや落ち着け、箱庭に虫は存在しないし、薬草はポーションにするから食中毒になる筈がない。
 じゃあ一体どこに問題が?

「トンボブランド? よくわかりませんが、その事に関してギルドマスターから説明があります。トンボさんが来たら通すように言われていますので、どうぞこちらへ」
「……わざわざギルドの責任者から話?」

 一体何をやらかしてしまったんだ私は!
 不祥事だけは勘弁だぞ。

 エル案内されて、私はギルド二階にある一室の前に案内された。

「ギルマス。トンボさんをお連れしました」
「どうぞー」

 エルがノックをすると中から軽薄そうな声で返事があった。
 ギルマスは男の人なのか?
 
 部屋の中に通される。
 ギルマスの部屋は執務机とソファーとテーブルが置かれ、執務室兼応接室のような内装だった。
 
「座って待ってて」

 執務机の向こうからの声に従い、ソファーに座る。
 肩のピンとエメトを両サイドに降ろす。
 コタローは私の足下で丸くなった。
 エルは失礼しますと言い残して部屋を出ていってしまった。
 えっ! エルは一緒にいてくれないのか?!

「お待たせ」

 エルの消えた扉の方を見ていたら、向かいから声を掛けられた。
 そちらを向くと、ソファーに無精髭を生やした男が座っていた。
 いつの間に座ったのか、全く気が付かなかった。

 そうだ、前に用意した伊達眼鏡にステータスボードをはめたオリジナル魔道具『鑑定眼鏡』を、使ってみよう。
 私はポーチから取り出した眼鏡を掛けてギルマスを見た。


○ロジャー 人間・男 43歳

 職業・冒険者ギルドラプタス支部・ギルドマスター

 スキル
 《短剣術lv7》《暗殺術lv5》《闇魔法lv2》《気配遮断lv6》《気配察知lv7》《罠解除lv6》《交渉lv2》《毒耐性lv2》《麻痺耐性lv2》

 称号
 《隣のロジャー》《冒険者ギルドのギルドマスター》


 強っ! スキルが軒並高レベルだ。 
 しかしそれ以上に目を引くのは称号の一つ。

「……隣のロジャー」

 まるでト○ロみたいな二つ名だ。
 
「おっ! よく知ってるね。まぁ、おじさんも昔はそこそこ名の通った冒険者だったからね。気配も無く気が付けば隣にいる凄腕の斥候『隣のロジャー』ってさ」

 そう言ってどや顔ぶちかますギルマス。
 ごめん、なんかクラスに一人は居る、影が薄い人みたいな由来だなって思った。

「で、君が噂の新人ちゃんか」
「どうもトンボっす。噂って?」
「登録前からマーダーグリズリーを狩ってきて、登録初日には冒険者崩れのチンピラを捕獲して、マーダーグリズリーのおかわりを持ち帰って来た新人冒険者。そりゃ噂にもなるさ」

 言われてみれば私って結構無茶苦茶してるな。
 でも初日以外はおとなしかったはず!

「最近じゃ上質の薬草を毎日山盛り納品しているしね」
「そうだ! 私の持ってきた薬草のどこに問題が?!」
「いや、問題はないよ。それ所か薬剤ギルドからは数が安定供給された上に、品質も最高だと喜ばれていたぐらいさ」
「ならなんで数を減らすなんて……いや待った、“いた”って言った?」

 自信を持っていたトンボブランドが喜ばれている事を嬉しく思いながらも、過去形で語られた事に引っ掛かりを感じた。

「そう、見た事ないほどの最高品質だと、薬剤ギルドの連中はとても喜んでいた。はじめはね」
「じゃあ何が問題なんすか?」
「品質が高すぎるんだよ。その所為で今ポーションは過剰供給気味になっている」
「過剰供給……」

 ギルマスが言うには、トンボブランドの薬草を使うと、普通に作ってもハイポーション並みの回復薬ができるらしい。
 それをただのポーションとして売る場合、品質を一定にするには薄める必要があるんだとか。
 つまり、普通の薬草とトンボブランドの薬草だと、同じ量でも作れるポーションの数に二倍以上の開きがあるのだ。

「いっそハイポーションとして売れないんすかね?」
「ハイポーションは効果も高いが値段も高い。買う奴は高位冒険者ぐらいだから数が捌けないんだよ。かといって値段を下げれば今度は普通のポーションが売れなくなる」
「で、ポーションが作れ過ぎるから数を絞れと?」
「そう。それ以外にも、薬草採取の依頼を新人に譲って欲しいという思いもあるけどね」

 薬草採取は新人冒険者の初依頼としては、森の歩き方や地理を知るのに最適なんだとか。
 あれ? 私も新人なんだけどな?

「ウチのギルドでは、単独でマーダーグリズリーを狩って、複数人の暴漢を制圧する奴を新人とは言わないんだよ」
「くそっ! 私の薬草長者計画が……!」
「ごめんね。次回からでいいから、今までの四分の一ぐらいに薬草の納品を減らしてほしい」
「……わかりました」

 ああ、いつか薬草御殿を建てるという私の人生設計が、早くも変更を余儀なくされた。
 足下ではコタローが『拙者の仕事が減るでござる!』とショックを受けていた。
 また箱庭に適当に風を吹かせる時間が増えてしまうのか。

「代わりじゃないけど、君の冒険者ランクを一つ上げてDランクにする」
「薬草採取しかしてないのに?」
「今回の件で君が薬剤ギルドに対する交渉カードになる事がわかったからね。ランクを上げてギルドに引き留めるというのが一つ。更にこちらの都合で薬草採取の依頼に制限を掛ける訳だから、ランクアップさせて受けられる依頼を増やすのを詫びとするのが一つだ」
「なるほど」
「まぁぶっちゃけ、マーダーグリズリー狩れる実力者を、いつまでも低ランクにしておくのは惜しいって理由が一番デカイかな」

 身も蓋もない話だ。
 しかし、ランクが上がれば別の安全で安定した仕事が見つかるかもしれない。

「わかりました、ランクアップよろしくです」
「受付でエルに話せばランクアップ手続きをしてもらえる様に話はつけてある。今日はわざわざありがとね」
「いえ、どうせ薬草納品するだけっすから」

 帰ったら何かしら別の魔草を栽培できないか調べようかな。

「うーん……最後に一つ聞くけど、君はなんで討伐依頼を受けないの? 強いならそっちの方が簡単に儲かるだろ?」
「だって討伐とかって、普通に危ないじゃないすか」
「危ないって、君冒険者だろ」

 呆れた顔をされたが、私にだって譲れないものはある。

「平穏に生きるのが一番だよ」
「若いのに枯れてるねぇ。しかし平穏に生きてるやつはマーダーグリズリー狩ったり、チンピラ冒険者に喧嘩売ったりはしないんだよ?」
「それはあっちが私の平穏を乱したのが悪い。私の人生を邪魔する奴は……誰だって潰す」
「……君そっちが素だろ? 敬語の使い方がスラム上がりの冒険者そっくりだもん」
「……お袋が昔やんちゃしててね。もしかしたらその影響かも」

 別に私が不良だった訳じゃない。
 お袋がレディースの頭張っていたから、喋り方が移ったのかも。

「まぁ、理由がわかってよかった。本人の方針がそれなら文句は言わないよ。その代わり採取依頼なんかでギルドに貢献してくれるのを願ってる。それと今後は敬語は無しでいいよ。拙い敬語は昔の自分を思い出して、おじさん恥ずかしいから」

 クソッ、お袋が自信満々に私に教えてきた敬語は、やはり間違っていたんだ。

「……わかった。今後ともよろしく」
「はい、よろしくねトンボ」

 ギルマスとの話し合いも終わり、私は執務室を後にした。
 私が薬草長者だった期間はあっという間に終わってしまった。
 切ない。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...