幼馴染に陰で都合の良い男呼ばわりされた俺は、好意をリセットして普通に青春を送りたい

うさこ

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藤堂と先生

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 俺たちが中庭にいた時間はほんの5分だけだった。
 それでも俺にとって十分な時間だ。
 一緒にいる事で、顔を見る事で、俺の心の中にあった何かが形を成していくのを感じる。
 俺のわがままに付き合ってくれた二人には感謝の念がたえない。

 花園は俺に何かを言おうとするが、言葉がうまく出ないでいた。
 俺は笑顔で花園を見ていた。
 笑顔は素晴らしいものだ。人の心を優しくすることができる。
 気持ちが伝えられる。本音がこぼれ落ちる。

「――ありがとう」

「え、藤堂……なんで? か、勘違いさせるような事をしたのに……」

「花園は何も悪くない。俺は二人のおかげで成長できたんだ。周りには惑わされない。俺は大切な人だけを信じる」

「藤堂……。わ、私、放課後も体育祭の会議で残らなきゃ……。ねえ、藤堂、私――」

「ああ、せっかくのイベントだ。御堂筋先輩を見ていると、きっと体育祭は楽しいものなんだろう。俺は花園が終わるまで待っている。今日は幸いバイトもない。それに体育祭について先生に質問する必要がある」

「うん……。うん!! 待っててね! えへへ……」

 花園は笑顔で俺に答えてくれた。彼女は何も間違っていない。御堂筋先輩と会話をするのはごく普通の事である。様々な感情が行き来しているが、俺はそれを受け入れよう。
 俺の弱さが花園を心配させてしまったんだ。

「田中、花園、俺はわがままを言って迷惑をかけて申し訳ない。……これは――俺の嫉妬という感情が起こしたものだ」

 田中は花園に寄り添って頷いていた。

「ふふ、藤堂が嫉妬してくれて少し嬉しいじゃん。藤堂って前よりも人間味が溢れて来たよね? 華ちゃんから見てどう?」

「……うん、昔と全然違うよ。昔は笑わないし、冷たいし……それでも優しいのは変わらない。御堂筋先輩と話している私を見たら……リセットされると思った――でも、藤堂は変わった。昔の藤堂じゃない」

「うんうん、そうだよ! 青春って感じでいいじゃん! 藤堂も難しく考えなくていいよ!」

 俺はふと疑問に思ってしまった。

「……俺は……二股というものをしているのか? まるで清水君のように?」

「……ぷ、ぷぷっ」
「あははっ! 違うじゃん!」

 田中と花園が顔を見合わせて笑っていた。
 なるほど、やはり笑顔は人の心を温かくさせてくれるものである。
 俺は二人の笑顔を心に刻みつけた。



 ***************



 最後のHRがやっと終わる。
 今日一日はとても長かった――

「じゃあ気をつけて帰ってね! 先生も今日は早く帰って、合――同窓会なんだ! へへ、楽しみだな~」

 いつもよりも気合を入れた服装の先生は教室を素早く出ようとしていた。

「先生!! 待て!!」

 大声は人の動きを止める。先生は小動物みたいに動きを止めてしまった。
 俺は自分の席から素早く移動して、先生の前に立ちはだかる。
 遅れて田中もやってくる。

「な、なに藤堂君……、ま、また質問? 早く帰りたいから手短にお願いね?」

「ああ、手短に言う。どうすれば俺は体育祭に出れる? 違うクラスの友達が出ているから俺も出たい」

「え? き、昨日で特別クラスの受付終了しちゃってるって!? で、出ても何もメリットないじゃん! 特別クラスは枠組みがないから個人個人で好きな競技に出るだけだよ! 人数少ないから適当な色に組み込まれるだけ!」

 俺は先生を食い入るように見つめて頭を下げた。

「先生、俺は体育祭というものを経験したことがない。……だから友達と出てみたいんだ。勝ち負けはどうでもいい。経験してみたいんだ。……お願いします」

「い、いや、頭下げられても……。あ~~、もう……、仕方ないわね……。ちょっと主任にお願いしてみるわよ」

「ありがとうございます。俺も一緒に――」

「絶対駄目!! 藤堂君が来たら話がこじれちゃうって! ……東鳩大学卒業のこの私に任せなさいっ! 必ず体育祭を経験させてあげるよ! ……他の生徒はいいのかな?」

 田中は元気良く手を上げた。

「はいはーい! 私も出たいじゃん! ていうか、藤堂と一緒だったらどこでもいいじゃん!」

 先生は俺たちを見て目を細めた。

「……くっ、若いって良いわね。私だって……学生の頃はモテモテで……う、うぅ……」

 どうやら暗い過去を思い出してしまったようだ。
 先生は泣きそうになりながら職員室へと向かった。
 俺は心配だから先生の後をついていった。




 数十分後、先生は職員室から出てきた。
 げっそりとした顔であった。

「……無理やりねじ込んだわよ。……はぁ、ピンクチームね。はい、これ資料。ピンクは他のチームよりもクラスが一つ少ないから弱いんだって。詳しくはこの資料見て――。もうこんな時間……今から資料作って……ギリギリ間に合うかしら」

 俺と田中は体育祭の資料を受け取った。
 先生は職員室へと戻ってしまった。
 正直体育祭の要項はどうでもいい。勝ち負けなんてどうでもいい。俺は田中と花園と一緒に体育祭を体験したいだけだ。
 そうすれば学校に居残りする事が出来る。終わったらきっと達成感も感じられるんだろう。

「藤堂、良かったね! これで出場できるじゃん! えっと、どれどれ……わっ、競技って一杯あるんだね。私が出れそうなやつは……」

 田中も楽しそうに資料を見ている。
 俺はそんな田中を見ているだけで楽しい。

「あ、と、藤堂、見すぎじゃん! し、資料みなよ!」

「む、失礼……。個人競技とチーム競技があるのか……。まあ何でもいい。適当に出場しよう」

 チーム対抗の綱引き、騎馬戦があった。
 個人競技は100m走やマラソン、障害物競走等などびっしり詰まっていた。

 個人競技で一位を取ると、その生徒のチームの色に得点が入るらしい。
 なるほど、あまり興味がない。出れる競技はとりあえず出てみよう。
 興味がないから文字が滑る。

「花園は赤チームの会議と言ったな? ……では俺たちも会議だ。教室に戻って出場する競技を話し合おう。あ、体育祭当日は俺がお弁当を作る。……ひ、日頃お世話になっている二人にお礼をしたくて」

「マジ! 超嬉しいじゃん! 藤堂のご飯美味しいんだから!」

 俺は照れ隠しで書類に再び目を下ろした。

「……む、ピンクチームは道場のクラスもいる。なに? 笹身のクラスもいるぞ……」

「あははっ、藤堂良かったじゃん!」

「ああ、どうせなら花園も一緒だったら良かったが――」

 花園がいないのは寂しい。
 それでも一緒にイベントを行う事が出来るんだ。
 なるほど、一緒に行うイベントは気持ちを楽しくさせてくれるんだ。

 俺は学校生活のイベントの必要性を初めて知ることできた。






 俺たちは教室で出たい競技のタイムスケジュールを書いた。
 それを体育祭実行委員に提出する必要がある。
 なにぶん時間がない。むりやり組み込んでもらった身だ。

 勝ち負けよりも楽しもう。




 俺たちは職員室で書類を提出して、花園がいるであろう三年生の教室へと向かった。
 三年生の階はあまり足を運んだ事がない。

 御堂筋先輩のクラスで赤チームの話し合いをしているらしい。
 ……何を話し合うんだろう? 学校の体育祭の勝ち負けをそこまでこだわるものなのか?

 生きるか死ぬかの戦いじゃない。メリットもデメリットもない。
 御堂筋先輩の教室に近づくと、大きな歓声が聞こえてきた?


「俺たち赤チームは最高だ!! 絶対負けない!!」

「そうだ!! 去年は不祥事があったから、体育祭が無かった……。だから今年は勝って卒業するんだ!!」

「おうっ! これは戦いだ!! うちの学校の体育祭は地元じゃ有名だぞ! みんな見に来るぞ!! 気合入れていくぞ!!これで解散だーー!!」

「「「おおぉぉぉぉーーーー!!!!」」


 俺と田中は教室の入り口の窓からそっと覗いていた。
 赤い鉢巻を巻いた生徒達が立ち上がって手を掲げている。
 二年生と一年生が三年生の勢いに押されて戸惑っていた。
 花園は隅っこにいた。その口元は引きつっていた。

 な、なるほど、これが意識の違いなのか? 
 気合が入っている生徒は、俗に言うリア充と呼ばれている陽気な人達が多い。
 これはこれで楽しそうである。

 なんにせよ会議は終了だ。
 花園が俺たちに気が付いてパタパタと走ってきた。

「は、波留ちゃん~~! な、なんか大変そうだよ……。う、うぅ、断ればよかった――」

 田中は花園の頭を撫でながら言った。

「はいはい、おつかれちゃん! へへ、私達も体育祭出れる事になったよ! 一緒に楽しもうじゃん! 藤堂がお弁当作ってくれるって!」

「え、そうなの!? うん、楽しみ……」

「うむ、楽しみにしてくれ。そろそろ帰ろう、ここは居心地が悪い……」

 赤いはちまきをしている三年生から熱い視線を感じる。
 敵意ではないが……変な視線である。

 少し汗をかいている御堂筋先輩が俺たちの元へとやってきた。

「やあ、藤堂くん。朝以来だね? 花園さんが心配できたのか? 君も体育祭に出るんだね? ふふ、君たちには絶対負けな――」

「御堂筋先輩、俺達は帰る。……ふむ、勝負は興味無いからお互い頑張ろう――では」

「――お、おい、し、勝負しようぜ!?」

 俺たちは御堂筋先輩を置いて昇降口へと向かった。


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