じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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2章 夜の友

8-1 体の居場所

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8-1 体の居場所

俺たちは山を下り、ずいぶん遠回りをしながら村まで戻ってきた。日が高くなり、畑仕事やら放牧やらと外に出ている人が増えている。俺たちは出かけた時よりもより慎重になりながら、人目をかいくぐって帰ってきた。

「ここって……神殿の、お墓じゃないですか」

ウィルの言葉だ。俺たちは結局、神殿の裏の墓地までもどってきていた。

「……結局、振り出しまで戻ることになるんですね」

ウィルがたたずむ墓石を見ながらふてくされている。俺はウィルの様子をうかがうと、ゆっくりと首を横に振った。

「そうでもないさ。ここは振り出しであると同時に、あがりでもあるから」

「はい?どういうことですか?」

「けっきょくさ。今回の一連の出来事は、ここで完結してたんだよ」

俺たちはスタート地点からぐるっと一周して、ゴールへと戻ってきたんだ。俺は体の向きを変えると、あの女性の墓を目指して歩き出した。昨晩、ルーガルーがそうしたのと同じように。

「昨日の夜、ルーガルーはあの女の人を取り戻しにこの墓場までやってきた。けどさ、どうして夜だったんだと思う?」

「え?だって、そのほうが人が少ないから……」

「そう。女を奪い返すだけだったら、もっと早く実行することも、たとえば俺たちが山を下りる途中を襲うことだってできたはずなんだ。だけどあいつは、人が寝静まって、村から明かりが消えるころまで待ってからやってきた。人目を盗むように、こっそりと」

俺は墓石の間を進んでいく。昨日の夜、あいつもここを通ったのだろうか。抜き足差し足、気配を殺しながら。

「あいつは、怖かったんだよ」

「……人間が、ですか?」

「ああ。だって、仲間を皆殺しにされたばかりだぜ?そりゃあ、警戒もするよな。あいつはそれに加えて、独りぼっちになった心細さもあっただろうし。だからあいつは村の人を避けて、恐る恐るここまでやってきたんだ」

俺は女性の墓、掘り起こされた穴のそばまでやってきた。そこで振り返り、ウィルを見つめる。

「だけどそこで、思わぬ出来事が起こった。村中がすっかり寝静まって、もぬけの殻のはずの墓場に、一人の人間がいたんだ」

ウィルははっと息をのむと、胸元のプレートを握りしめた。俺はうなずくと、墓を通り過ぎて、神殿のほうへと歩き出した。

「あいつは、びっくりしただろうな。まさか人間がいるなんて。あいつからしたら、敵のなわばりにこっそり忍び込んだところを、そこの主に見咎められた気分だったろう。相当焦ったんじゃないか……そして、それは人間のほうも同じだった」

俺は再び、ウィルの様子をうかがった。ウィルは俺の後ろをふらふらついてきながら、昨日のことを思い出しているようだ。

「だけど、それで衝動的にウィルを襲ったわけじゃない。だったら、ここに倒れたウィルがいるはずだ。けどこの墓場には血の一滴も落ちていない。ってことは、きっと逃げ出したんだな。この場合は、おそらくウィルが」

「そうです、私……ルーガルーの姿を見て、慌てて。早く神殿に戻らなくちゃって……」

「うん。それを見て、ルーガルーも反射的に追いかけたんじゃないか?よく言うだろ、焦って動物から逃げると、本能で追いかけてくるって」

「はい、私……追いかけられて。でもそれから……?」

「そう。けど、そのあとがわからない。神殿の近くにはウィルの体はなかった。もちろんこの墓場にも」

「でもおかしいです!私は確かに神殿へ向かっていました。私がここに倒れていないなら、無事逃げおおせたということです。体は神殿になければおかしいでしょう?ならすぐに見つかるはずなのに、どうしてどこにも……」

「なあ、昨日の夜はずいぶん暗かったよな?昼間の雨のせいで、雲が出てて」

「え?ええ……」

それが今なにに関係あるんだ?という顔でウィルが首をかしげる。

「俺も少し前に経験したからよく分かるんだけどさ。真っ暗な外を歩くのって、けっこう大変だよな。道も見えないし、自分がどこにいるのかも分からなくなる。何かに追われてるともなれば、なおさらだ」

フランを探しに、森の中をさまよった時の実体験だ。まだ凶暴だったフランに襲われた時は、命からがら逃げだしたもんだ。ふと視線に気づくと、フランが俺をじっと見つめていた。俺がにやっと肩をすくめると、フランはぷいとそっぽを向いた。

「ウィル。きみは昨日、暗闇の中で神殿へ向かったつもりが、別の場所へ行ってしまったんじゃないか」

「まさか。確かに慌ててはいましたが、そんなはずありえません。私が何年ここにいると思ってるんですか」

ウィルはきっぱりと首を横に振った。

「それはもちろん。神殿に向かうつもりが、お隣のパン屋に入っちゃいましたなんて、俺も思っていないよ」

俺が冗談めかして言うと、馬鹿にされたと思ったのか、ウィルは頬を膨らませた。

「……神殿のお隣は、鍛冶屋さんです」

「あはは、そうなのか?俺が言いたいのは、建物を間違えたってことじゃない。方向、方角を間違えたとしたら、どうだろう」

「方角……?」

俺はうなずくと、目の前の神殿の方向に視線を向けた。神殿の手前には、背の高いもみの林が茂っている。その枝葉に隠れて、神殿の姿は頭が少し見える程度だ。

「暗い夜道で、星明りもない。神殿の火も消えてしまっているか、あるいは林にさえぎられて見えない。目印が何もないんじゃ、だだっ広い砂漠に放り出されたのと同じだ。行き先を間違えても不思議じゃない」

「……いいえ。ありえません。私はこの墓地まで歩いてこれたんです。これたのなら、戻れなくてはおかしいでしょう?」

「おっと、そうだよな。ってことは、ウィルは何か道がわかる方法を持っていたことになる」

「そうです。だって私は、明かりを持っていたんですから……」

そこまで言うと、ウィルは足を止めて、違和感を覚えたように自分の右手を見下ろした。

「私、ランタンをどこにやったのかしら……」

「うん。それも見当がついてる。ついてきてくれるか」

俺たちは再び歩き出した。すぐに林との境目に差し掛かる。俺はさらに隅っこの、ともすれば誰からも忘れられていそうな一角へと足を運んだ。

「ほら。ここに落ちてるだろ」

「これ……神殿のランタンです……」

ウィルは、地面に落ちている壊れたランタンをまじまじと見つめた。今朝、ルーガルーの巣穴へ出かける前に見つけたものだ。

「けど、どうしてこんなところに……?」

ウィルは混乱した様子で、あたりをきょろきょろ見回した。そりゃそうだ、ここは神殿の方角とはおよそずれている。さっきの女の墓と神殿を直線で結んだとしたら、俺たちが今いる場所は思いっきり斜めにずれている。

「ウィル。やっぱりきみは、道を見失っていたんだ。明かりを持っていたにもかかわらず、これだけ外れた方向に走ってしまうくらいに」

「そんな……」

「そして運悪く、ここでランタンすら落としてしまった。きみは一かけらの明かりもない中で、林を進まなければならなくなった……」

最後の方は声が震えてしまった。いままでは冗談めかしていたけれど、いよいよ核心に迫らなくてはならない。どうか、外れていてくれ。そう思わずにはいられなかった。

「ウィル。俺は今、すごく嫌な予想をしている。当たってる確証はないけど……けど、覚悟しておいてくれるか」

俺は怖くて、ウィルの方を見られなかった。ウィルは何も言わない。ちらりと様子をうかがうと、困惑した様子で口を動かしていたが、声にはならないようだった。フランはそんなウィルを、普段と変わらない無感情な目で見つめている。フランはこの結末を、最初から予期していたのかもしれない。

「いこう」

短く言うと、俺は歩き出す。女の墓と、ランタンが落ちていた場所。そこを結んだ線の延長線の方向へと。その先は林の中だ。そして、そこを抜けた向こうには……

「……もしかしたら、この林に見落としがあるんじゃないかと思ってたんだ。どこか木の影にでも倒れてるんじゃないかって。けど、やっぱりいないな」

そしてついに、林の途切れる場所までやってきた。その先は、崖。この墓地は周りを崖に囲まれた、U字型の地形になっている。まっすぐ行けば神殿に戻るだけだが、もしも斜めに進んだのだとしたら……
切り立った崖。俺はその一部に、まるでつい最近に何かが滑り落ちたような、えぐれた跡を見つけた。

「……」

口の中が渇いて、つばも飲み込めない。心臓がどくどくと脈打ち、目の前の景色が変な色に見える。それでも、確かめなければならない。ここまで付き合ったんだ。なら、最期を見届けなくては。
俺は崖から落ちないように、慎重に身を乗り出し、その下を覗き込んだ。



崖の下には、倒れたウィルの体があった。
おかしな方向に曲がった手足は、糸の切れた人形を彷彿とさせる。けど、あれは人形なんかじゃない。それは、赤黒く乾いた血の跡が証明していた。彼女を中心に放射状に広がる、おびただしい流血の跡。それは背筋が凍るほど恐ろしく、そしてともすれば、一種の芸術のように美しくも見えた……

(―――)

俺の頭に一瞬、ノイズのように過去の記憶がよぎる。倒れた女性、広がる血……ひどい頭痛と吐き気がして、俺は過去の映像を振り払った。今は、ウィルの方が大事だ。そうだ、ウィルはどうしている……?

ウィルは一声も上げることもなく、こと切れたようにその場に崩れ落ちた。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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