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6章 風の守護する都
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通路を抜けたエドガーは、市街地の一角へと出た。そして目の前に広がる光景に目を見張った。栄華を極めた王都のあちこちから、火の手が上がっている。
「覚悟はしていたが、これほどとは……」
火の粉が目の前をかすめていく。人の姿は見つけることができない。エドガーの脳裏に、最悪のシナリオが浮かび上がった。もしや、もうすでに王都は落とされ、敵の手に……?
そのとき、前方の路地を駆け抜けていく人影があった。
「っ!そこの者、待たれよ!」
エドガーが呼び止めても、人影は足を止めない。
「待て!待たぬかー!」
エドガーは鎧をガシャガシャならして、その人影を追いかける。その騒々しさを不審に思ったのか、人影は足を止めた。煤を顔に付けた、中年の男だ。
「ん……?その鎧、あんた王国兵のひとか?」
「はぁ、はぁ……そうであるが、そなたは民間人か?ということは、まだ王都は無事なのだな!?」
「はぁ?無事なものか!このありさまが見えないのかよ!」
「あいや、実は私は、今しがた王都に戻ってきたところなのだ。王都が襲撃されたという知らせを受けてな。それで、いま王都はどうなっているのだ?」
「どうなってるもなにも、こっちが聞きたいよ!なんなんだ、あいつらは?」
「あいつら……?敵の軍勢のことか?」
「そうじゃない!あいつらは、人間じゃない……」
人間じゃない?どういうことだと、エドガーは眉をひそめた。確か敵は、東部の貴族連中ではなかったか?
「人間じゃないとは、どういうことなのだ。敵は魔物かなにかか?」
「だから、わからないんだって!壁の外で戦いが始まって何日かたったら、いきなり奴らが現れたんだ。あいつらは、パッと見は人間みたいだったけど、絶対に人じゃない。あいつらは、壁の上を這いまわって中に入ってきたんだ!」
「壁を……?」
「そうだ!あの姿はまるで、人とトカゲを足して二で割ったような怪物だ。あいつらの大群が押し寄せてから、王国兵はあっという間にやられちまった。城門が破られて、町のあちこちに火が……」
火、と口にして、男は自分の目的を思い出したようだった。
「そうだ、こうしちゃいられない!火消しで人手が全然足りないんだ。兵隊さん、悪いが俺は行くぜ!」
「あ、おい!」
男はもう振り返ることなく、黒煙の立ち上る方へ走って行ってしまった。
「人とトカゲを足して二で割った怪物……?リザードマン?いや、奴らは人間の指揮など理解できん……指揮統率がとれ、尚且つ大群を確保できる魔物……ならば、まさか……竜牙兵か!?」
エドガーは昔、モンスターとの戦闘訓練を受けた時に読んだ図鑑の一節を思い出した。スパルトイは、魔術で呼び出される意思のない怪物だ。術者の意のままに動き、その姿は竜人に似ると言う。
「敵は、スパルトイを呼び出して城を襲わせたのか……?ならば、相手には魔術師がいることになるな」
魔術師……希少な人材だ。そうほいほいいるものではない。それを見つけて連れてきたということは、相手は相当な準備と覚悟を持ってきたということだ……
「っ!そうだ、魔術師!魔術師ギルドの連中であれば、スパルトイの解呪の仕方を知っているかもしれない!」
エドガーはこの近くにも一つ、魔術師ギルドがあったことを思い出し、全速力でそこへ向かった。
ギルドに近づくと、その入り口には数人の兵士が、門番のように見張りについているのを見つけた。
「……見慣れん武装だ。王国兵ではないな」
となると、すでにギルドは制圧されているか、脅されて身動きが取れずにいるのだろう。だが幸いにも、敵の数はそれほど多くは無い。いける、とエドガーは踏んだ。
「……ん?そこのお前、何者だ!」
見張りの兵の一人が、エドガーに気付いて声を荒げる。
「おお、怪しいものではないぞ。少しおぬしらに用があってな」
「用だと……?ふざけるな!その鎧、王国兵の生き残りだな?わざわざ一人で出向くとは、死に場所を求めて来たか!」
「さてな。ここが私の死に場所となるかどうか、おぬしたちで試してみるのもいいだろう」
「こいつ、ふざけやがって!」
敵兵たちはシュルリと剣を抜いた。エドガーも併せて剣を抜く。そしてすかさず、エドガーは抜いた鞘を敵兵へ投げつけた。
「ぐわっ。くっ、卑怯なマネを……ッ」
鞘を顔面に投げつけられて、一人の兵士がひるむ。その一瞬のすきに、エドガーは剣を兵士の腹部へ突き刺した。
「ぐ……ぐはっ」
「っ!おのれぇ、よくも!」
仲間の兵士が剣を振り下ろす。エドガーはそれを利き腕のアーマーで受け止めると、いま仕留めた兵士の手から剣を引き抜き、左手で兵士の足を切りつけた。
「ぎゃああ!」
兵士がたまらず膝をつく。エドガーは敵兵の腹に刺さったままの剣を引き抜くと、地面に倒れる兵士の首めがけて打ち下ろした。ブシュッ!血飛沫が上がり、二人目の兵士も倒された。
「うおおおお!」
最後の三人目が雄たけびを上げて突進する。エドガーが両手の剣をひるがえすと、兵士の両腕はバツンと切り落とされてしまった。
「む、無念……」
最期の恨みをこぼして、兵士はばったりと倒れた。エドガーは奪った剣を放り捨てると、急いで魔術師ギルドの扉を開けた。
「グオォォォ!」
「ぬお!」
エドガーが戸を開けた途端、厳めしい顔のガーゴイル像が鋭く吠えた。魔術師ギルドの番犬だということを忘れて、エドガーは思わずガーゴイルに切りかかりそうになった。
「まったく、いつ見ても不気味なヤツめ……」
エドガーのつぶやきを理解しているのか、ガーゴイルは低く唸ったが、エドガーはそれを無視して受付係を大声で呼んだ。
「おーい!ここのギルドの者はいないかー!おーい!」
少し間をあけて、ギルドの奥から薄汚れたローブを着た老人が出てきた。
「はい……?また何か御用で?」
「ああ、私は王国兵の者だ。表の連中はみな倒したから、安心してよい」
「表の……?ああ、そうですか。それで、なにか?」
老人のあっけない態度に、エドガーは肩透かしを食らった。てっきりあの連中におびえているものだと思っていたので、開放してやれば喜ぶはずだと思ったのだ。
「お前たちは、敵兵に脅されていたのだろう?」
「ええ、まあ。抵抗すれば殺す、と言われましたかな」
「やはりそうであったか。しかし、見張りは私が倒した。これから私は王城に向かい、敵をすべて追い払うつもりだ。おぬしたち魔術師も、手を貸してくれんか」
「……せっかくですが、兵士さま。お断りいたします」
「そうであろう、ではさっそく……は?」
エドガーは思わず聞き返した。なんだって?断る?
「ど、どういうつもりだ。もう見張りはいないと言ったではないか」
「ここに見張りがいなくとも、戦場に出ればギルドの魔術師が傷つくかもしれないでしょう。魔術師は希少だ、万が一があっては困りまする」
「ばっ……今更何を言っているのだ!王国の危機なのだぞ!?」
「ええ、承知しております。ですが、王国が危機なのであって、当ギルドの危機ではありません。わしらが動く動機にはなりませんな」
「お……」
エドガーは思わず老人の胸ぐらをつかみかけたが、必死の理性でそれを抑え込んだ。
「……王国あっての、お前たちギルドであろう。いままでどれだけ、お前たちが厚遇されてきたのか、忘れたとは言わせん。お前たち魔術師は、恩を仇で返す気なのか!」
「失礼ですが、兵士さん。わしらは確かにいい扱いを受けてきましたが、なにもそれは今の王家だからというわけではありません。魔術師の価値は絶対的なものであって、王家の名前に左右されるものではないのです。優秀な魔術師がいなければ、勇者のパーティとなる仲間の選出が難しくなる。そして勇者が活躍しなければ、国としての権威を示せなくなるわけですからな。勇者がいる限り、わしらは安泰だ」
「……つまり、首がすげ変わったとしても、お前たちは何も困らないと?」
「わしら魔術師ギルドが求めるのは、きっちりと勇者を管理できる王家です。今の“青い”女王では……その点、いささか不安ですしな」
「貴様っ!」
エドガーは我慢が限界に達し、剣を振り上げようとした。その瞬間、ガーゴイルがさっと老人に駆け寄り、その翼でエドガーとの間に壁を作った。
「くっ」
「グルルル……」
老人はガーゴイル越しにエドガーを鼻で笑うと、虫でも払うかのように手を振った。
「ふん。さあ、お引き取りを。わしらがすることはなにもありません。王女を救いたいのでしたら、お一人でなさってみては?無駄でしょうが」
「貴様ぁ……その言葉、後悔するなよ。私が敵を打ち払ったのち、泣いて詫びても遅いからな!」
エドガーのセリフは、あまりに捨て台詞じみていた。老人は背中をそらせて声高に笑うと、ギルドの奥へと引っ込んでいった。
「ファファファ!それは楽しみですな。あなたが敵兵を百人でも殺せれば、わしはあなたに百万セーファ払って差し上げましょう……」
「くそが!」
エドガーが壁を蹴っ飛ばすと、ガーゴイルが脅すように一声吠えた。エドガーは頭の先まで悔しさでいっぱいだったが、すごすごとギルドを後にするしかなかった。
「なんということだ……民の王家への信頼が、ここまで薄らいでいたとは……」
ロアの懸命な努力をそばで見続けてきたエドガーとしては、この仕打ちは腹の中に煮えた湯を流し込まれた気分だった。確かにロアは若いが、その分大人にも負けない研鑽を積んできたのだ。それを、あっさり裏切るなんて……
「恩知らず、なんたる不忠者どもか……!」
エドガーの口からは罵倒がいくらでもあふれ出る勢いだったが、今はそんなことをしていても始まらない。
「こうなっては仕方がない。たとえ私一人でも、ロア様を救わなければ……!」
エドガーは王城へと走り出した。城下町にほとんど敵の姿がいないことを見ると、おそらく今まさに城攻めの真っ最中なのであろう。残った王国兵たちも、きっとそこに集まっているはずだ。そこに合流して、時間を稼ぎさえすれば、後からヘイズたちが援軍を連れて戻ってきてくれる。王都を離れていた五万の兵が戻ってくれば、まだ十分勝機はあるはずだ。
「待っていてくだされ、ロア様!このエドガーが、かならず……!」
つづく
====================
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年の瀬に差し掛かり、物語も佳境です!
もっとお楽しみいただけるよう、しばらくの間、小説の更新を毎日二回、
【夜0時】と【お昼12時】にさせていただきます。
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エドガーが呼び止めても、人影は足を止めない。
「待て!待たぬかー!」
エドガーは鎧をガシャガシャならして、その人影を追いかける。その騒々しさを不審に思ったのか、人影は足を止めた。煤を顔に付けた、中年の男だ。
「ん……?その鎧、あんた王国兵のひとか?」
「はぁ、はぁ……そうであるが、そなたは民間人か?ということは、まだ王都は無事なのだな!?」
「はぁ?無事なものか!このありさまが見えないのかよ!」
「あいや、実は私は、今しがた王都に戻ってきたところなのだ。王都が襲撃されたという知らせを受けてな。それで、いま王都はどうなっているのだ?」
「どうなってるもなにも、こっちが聞きたいよ!なんなんだ、あいつらは?」
「あいつら……?敵の軍勢のことか?」
「そうじゃない!あいつらは、人間じゃない……」
人間じゃない?どういうことだと、エドガーは眉をひそめた。確か敵は、東部の貴族連中ではなかったか?
「人間じゃないとは、どういうことなのだ。敵は魔物かなにかか?」
「だから、わからないんだって!壁の外で戦いが始まって何日かたったら、いきなり奴らが現れたんだ。あいつらは、パッと見は人間みたいだったけど、絶対に人じゃない。あいつらは、壁の上を這いまわって中に入ってきたんだ!」
「壁を……?」
「そうだ!あの姿はまるで、人とトカゲを足して二で割ったような怪物だ。あいつらの大群が押し寄せてから、王国兵はあっという間にやられちまった。城門が破られて、町のあちこちに火が……」
火、と口にして、男は自分の目的を思い出したようだった。
「そうだ、こうしちゃいられない!火消しで人手が全然足りないんだ。兵隊さん、悪いが俺は行くぜ!」
「あ、おい!」
男はもう振り返ることなく、黒煙の立ち上る方へ走って行ってしまった。
「人とトカゲを足して二で割った怪物……?リザードマン?いや、奴らは人間の指揮など理解できん……指揮統率がとれ、尚且つ大群を確保できる魔物……ならば、まさか……竜牙兵か!?」
エドガーは昔、モンスターとの戦闘訓練を受けた時に読んだ図鑑の一節を思い出した。スパルトイは、魔術で呼び出される意思のない怪物だ。術者の意のままに動き、その姿は竜人に似ると言う。
「敵は、スパルトイを呼び出して城を襲わせたのか……?ならば、相手には魔術師がいることになるな」
魔術師……希少な人材だ。そうほいほいいるものではない。それを見つけて連れてきたということは、相手は相当な準備と覚悟を持ってきたということだ……
「っ!そうだ、魔術師!魔術師ギルドの連中であれば、スパルトイの解呪の仕方を知っているかもしれない!」
エドガーはこの近くにも一つ、魔術師ギルドがあったことを思い出し、全速力でそこへ向かった。
ギルドに近づくと、その入り口には数人の兵士が、門番のように見張りについているのを見つけた。
「……見慣れん武装だ。王国兵ではないな」
となると、すでにギルドは制圧されているか、脅されて身動きが取れずにいるのだろう。だが幸いにも、敵の数はそれほど多くは無い。いける、とエドガーは踏んだ。
「……ん?そこのお前、何者だ!」
見張りの兵の一人が、エドガーに気付いて声を荒げる。
「おお、怪しいものではないぞ。少しおぬしらに用があってな」
「用だと……?ふざけるな!その鎧、王国兵の生き残りだな?わざわざ一人で出向くとは、死に場所を求めて来たか!」
「さてな。ここが私の死に場所となるかどうか、おぬしたちで試してみるのもいいだろう」
「こいつ、ふざけやがって!」
敵兵たちはシュルリと剣を抜いた。エドガーも併せて剣を抜く。そしてすかさず、エドガーは抜いた鞘を敵兵へ投げつけた。
「ぐわっ。くっ、卑怯なマネを……ッ」
鞘を顔面に投げつけられて、一人の兵士がひるむ。その一瞬のすきに、エドガーは剣を兵士の腹部へ突き刺した。
「ぐ……ぐはっ」
「っ!おのれぇ、よくも!」
仲間の兵士が剣を振り下ろす。エドガーはそれを利き腕のアーマーで受け止めると、いま仕留めた兵士の手から剣を引き抜き、左手で兵士の足を切りつけた。
「ぎゃああ!」
兵士がたまらず膝をつく。エドガーは敵兵の腹に刺さったままの剣を引き抜くと、地面に倒れる兵士の首めがけて打ち下ろした。ブシュッ!血飛沫が上がり、二人目の兵士も倒された。
「うおおおお!」
最後の三人目が雄たけびを上げて突進する。エドガーが両手の剣をひるがえすと、兵士の両腕はバツンと切り落とされてしまった。
「む、無念……」
最期の恨みをこぼして、兵士はばったりと倒れた。エドガーは奪った剣を放り捨てると、急いで魔術師ギルドの扉を開けた。
「グオォォォ!」
「ぬお!」
エドガーが戸を開けた途端、厳めしい顔のガーゴイル像が鋭く吠えた。魔術師ギルドの番犬だということを忘れて、エドガーは思わずガーゴイルに切りかかりそうになった。
「まったく、いつ見ても不気味なヤツめ……」
エドガーのつぶやきを理解しているのか、ガーゴイルは低く唸ったが、エドガーはそれを無視して受付係を大声で呼んだ。
「おーい!ここのギルドの者はいないかー!おーい!」
少し間をあけて、ギルドの奥から薄汚れたローブを着た老人が出てきた。
「はい……?また何か御用で?」
「ああ、私は王国兵の者だ。表の連中はみな倒したから、安心してよい」
「表の……?ああ、そうですか。それで、なにか?」
老人のあっけない態度に、エドガーは肩透かしを食らった。てっきりあの連中におびえているものだと思っていたので、開放してやれば喜ぶはずだと思ったのだ。
「お前たちは、敵兵に脅されていたのだろう?」
「ええ、まあ。抵抗すれば殺す、と言われましたかな」
「やはりそうであったか。しかし、見張りは私が倒した。これから私は王城に向かい、敵をすべて追い払うつもりだ。おぬしたち魔術師も、手を貸してくれんか」
「……せっかくですが、兵士さま。お断りいたします」
「そうであろう、ではさっそく……は?」
エドガーは思わず聞き返した。なんだって?断る?
「ど、どういうつもりだ。もう見張りはいないと言ったではないか」
「ここに見張りがいなくとも、戦場に出ればギルドの魔術師が傷つくかもしれないでしょう。魔術師は希少だ、万が一があっては困りまする」
「ばっ……今更何を言っているのだ!王国の危機なのだぞ!?」
「ええ、承知しております。ですが、王国が危機なのであって、当ギルドの危機ではありません。わしらが動く動機にはなりませんな」
「お……」
エドガーは思わず老人の胸ぐらをつかみかけたが、必死の理性でそれを抑え込んだ。
「……王国あっての、お前たちギルドであろう。いままでどれだけ、お前たちが厚遇されてきたのか、忘れたとは言わせん。お前たち魔術師は、恩を仇で返す気なのか!」
「失礼ですが、兵士さん。わしらは確かにいい扱いを受けてきましたが、なにもそれは今の王家だからというわけではありません。魔術師の価値は絶対的なものであって、王家の名前に左右されるものではないのです。優秀な魔術師がいなければ、勇者のパーティとなる仲間の選出が難しくなる。そして勇者が活躍しなければ、国としての権威を示せなくなるわけですからな。勇者がいる限り、わしらは安泰だ」
「……つまり、首がすげ変わったとしても、お前たちは何も困らないと?」
「わしら魔術師ギルドが求めるのは、きっちりと勇者を管理できる王家です。今の“青い”女王では……その点、いささか不安ですしな」
「貴様っ!」
エドガーは我慢が限界に達し、剣を振り上げようとした。その瞬間、ガーゴイルがさっと老人に駆け寄り、その翼でエドガーとの間に壁を作った。
「くっ」
「グルルル……」
老人はガーゴイル越しにエドガーを鼻で笑うと、虫でも払うかのように手を振った。
「ふん。さあ、お引き取りを。わしらがすることはなにもありません。王女を救いたいのでしたら、お一人でなさってみては?無駄でしょうが」
「貴様ぁ……その言葉、後悔するなよ。私が敵を打ち払ったのち、泣いて詫びても遅いからな!」
エドガーのセリフは、あまりに捨て台詞じみていた。老人は背中をそらせて声高に笑うと、ギルドの奥へと引っ込んでいった。
「ファファファ!それは楽しみですな。あなたが敵兵を百人でも殺せれば、わしはあなたに百万セーファ払って差し上げましょう……」
「くそが!」
エドガーが壁を蹴っ飛ばすと、ガーゴイルが脅すように一声吠えた。エドガーは頭の先まで悔しさでいっぱいだったが、すごすごとギルドを後にするしかなかった。
「なんということだ……民の王家への信頼が、ここまで薄らいでいたとは……」
ロアの懸命な努力をそばで見続けてきたエドガーとしては、この仕打ちは腹の中に煮えた湯を流し込まれた気分だった。確かにロアは若いが、その分大人にも負けない研鑽を積んできたのだ。それを、あっさり裏切るなんて……
「恩知らず、なんたる不忠者どもか……!」
エドガーの口からは罵倒がいくらでもあふれ出る勢いだったが、今はそんなことをしていても始まらない。
「こうなっては仕方がない。たとえ私一人でも、ロア様を救わなければ……!」
エドガーは王城へと走り出した。城下町にほとんど敵の姿がいないことを見ると、おそらく今まさに城攻めの真っ最中なのであろう。残った王国兵たちも、きっとそこに集まっているはずだ。そこに合流して、時間を稼ぎさえすれば、後からヘイズたちが援軍を連れて戻ってきてくれる。王都を離れていた五万の兵が戻ってくれば、まだ十分勝機はあるはずだ。
「待っていてくだされ、ロア様!このエドガーが、かならず……!」
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