じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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6章 風の守護する都

9-5

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その後、城の侍従たちは山盛りの紙を追加で支給してくれた。それでもギリギリだったが、なんとかゾンビ全員に、最後の想いをしたためる為の手紙を配ることができた。さらに侍従たちは、荷車に大きな木箱を積んできていた。

「王女様からのご命令でして、この箱に皆様のお手紙をお納めいただきたく……」

「うん?もしかして、あんたたちが配ってくれるのか?」

「はい。王国が責任をもって、お手紙を配達させていただきます」

「そっか、ありがとう。助かるよ」

木箱はみるみるいっぱいになった。そこへ入れられた手紙には、遺してきた大切な人たちの名前と住所が、しっかりと記されていた。ついに最後の一人が手紙を箱におさめるころには、空がずいぶん白んできていた。もうすぐ、夜明けだ。

「さて、と……これで、もう思い残すことは何もない」

ゾンビの兵士たちは、みな一様に晴れやかな笑みを浮かべていた。

「しっかし、一生の最後にずいぶん妙な体験をしたなぁ。死霊となって甦るとは……あっちで待つ父ちゃんに、いい土産話ができた」

「人生っていうのは、何が起こるかわからないもんだな……だが、悪くない生涯だったさ」

「なぁおい、俺たちは向こうに行っても親友だよな?」

「ばか、よせよ。向こうのことなんてわからないだろ」

「なんだよ、つれない奴だな……」

「でも、そうだな……もしまた会うことがあれば。その時は、よろしく頼む」

「おう!それじゃ……そろそろいくとするかな」

城門の外では朝日が昇ったようだ。城壁のてっぺんの凸凹した形にそって、黄色い光がジグザグに王城を照らしている。

「じゃあな、みんな……」

誰かが、そうつぶやくのが聞こえた。兵士たちの体が、白い光に包まれる。そして半透明の兵士たちの魂が、すぅっと肉体を離れて、朝焼けの空にふわりと昇って行く。

「さらばだ……」

兵士たちの姿はどんどん昇っていき、朝の薄い空に溶け込むように、ふっと見えなくなった。どさどさどさ。魂を失った兵士たちの体が、一斉に折り重なる。
俺は彼らが昇って行った空を見上げて、心の中で祈った。

(ありがとう。そして、お疲れさま……)

生きている王国兵たちも、事後処理をする手を止めて、戦いを終えた兵士たちに感謝と、祈りをささげた。兵士たちの遺体は、敵味方の区別なく、担架に乗せられて城内へ運ばれていった。

「さて、と……これで、ほんとうに全部終わったな」

俺は肩をぐるりと回すと、仲間たちを振り返った。フランが俺を見つめる。

「で、どうするの?そろそろおいとまするつもり?」

「そーだな。もう用もないし、残っててもいいことなさそうだ……」

俺がそうこぼした、その時のことだ。王国兵たちが、にわかにざわっとどよめいた。なんだと思って目をやると、王城からガウンを羽織ったロアがやってくるではないか。

「げっ。王女さまが出てきちゃったぞ」

「しかも、こっちに来てない……?」

フランの言う通り、ロアはまっすぐこちらに歩いてきている。しかし、兵隊をぞろぞろ引き連れて、というわけではなかった。おつきの侍女が二人後をついてきているが、それ以外に家来はいない。

(俺を捕まえようって気じゃないのか……?)

ロアは俺たちの数歩手前で立ち止まると、どことなく気まずそうな顔をしていた。しかしぎゅっと目をつむると、ぱっと開いて俺に話しかけた。

「その……用紙は、あれで足りたか?」

「え?ああ、うん。助かったよ」

「そうか。手紙は一度城で預からせてもらう。そこから伝書鳥で、きちんと遺族のもとへ届けよう」

「そうしてやってくれ。最期の手紙だから」

「ああ……ところで、こんなところで立ち話もなんだ。部屋を用意させるから、城で休んでいかないか?」

「え……」

城にこいってか?それはつまり、王女さまの掌の中に飛び込んでいくことと同じじゃないか……

「その……そなたが城にいい思い出がないことはわかる。しかし、我々には一度、対話が必要だとは思わないか?積もる話をするのであれば、こんなあけっぴろげな場所じゃないほうがいいだろう。お互いに」

ロアが意味ありげに目くばせする。俺はふと、王国兵たちが何気なく、俺たちの会話に聞き耳を立てていることに気付いた。そらそうか、王女とため口で話す、仮面をつけた謎の人物だもんな、俺。

「う~~~ん……」

悩むなぁ。うなる俺の左右の耳元に、フランとウィルがそれぞれ口を寄せた。

「ちょっと、あんな話に乗るつもり?」「絶対罠ですって!いっちゃまずいですよ!」

「うひゃ、ぞわぞわするからやめてくれ」

俺は王女に聞こえないように手で口元を隠すと、フランたちとコソコソ話した。

「でもさ、最初のころに比べたら今の王女は、ずいぶん下手に出てるぜ?今だって、俺をとっ捕まえて引きずろうってんじゃなくて、あくまでお願いしに来てる」

「それは、あなたの能力を目の当たりにしてるからでしょ。ライラが竜巻を起こせば、城だって吹っ飛ぶし」

「そうですよ!きっとついていったら、落とし穴付きの廊下とか、天井が落ちてくる部屋に連れてかれちゃいます!」

「いやに具体的だな……」

俺たちがいぶかしんでいるのを見て、ロアが慌てたように付け加えた。

「その、部屋はそなたたちで決めてもらってもいい。我々が指定しなければ、こちらとしても何かしようがないだろう?それに……そうか、これを伝えていなかったな」

ロアは深く息を吸い込むと、俺の顔をまっすぐ見つめた。

「私たちとしては、そなたたちに危害を加える気はない。私たちは、そなたを誤解していたようだ。それに、そなたも我々を誤解していることがあると思う……一度、よく話し合わないか?我々の間の確執を、清算する時がきたと思うのだ」

ロアの目は、まっすぐな色をしていた。この言葉に、嘘はない。直感だったが、俺はそう感じだ。

「……わかった。行こう」

「ちょっと、本気!?」

フランが俺のそでを強く引っ張る。

「ああ。俺も一度、王女さまと話してみたいんだ」

「話すって……あいつのこと、信用する気なの?」

「いいや、根っから全部信じたわけじゃない。けど、話をしたがっているのは本当だと思う。だから悪いんだけど、みんな付いて来てもらっていいかな?もしも、何かあった時のために」

俺は仲間たちを見る。ウィルとフランは、まだ渋い顔をしていた。ライラは疲れが限界のようで、朦朧としている。早く休ませてあげたいな。エラゼムだけは、静かにうなずいてくれた。

「桜下殿がそれを望むのでしたら、吾輩は全力でお守りするだけです。それに、桜下殿は一度、王城から逃げ出して見せたとか。今回は我々みんながいるのですから、二度目も十分あり得ましょう」

遠回しに説得されて、フランとウィルも折れた。

「……わかった」

「もぉ~、ほんとに自分から危険に突っ込んでいくんですから……」

「悪いな。もうちょっと付き合ってくれ」

俺は二人にスマンと手を立てると、ロアに向き直った。

「ってわけで、王女さま。お城にお邪魔させてもらうぜ」

「あ、ああ!いや、ごほん……わかった。では、ついてきたまえ」

ロアは先導して、俺たちの前を歩きだした。俺たちは兵士たちの視線を背中に浴びながら、ロアの後をついて王城へと入っていった。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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