じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
234 / 860
7章 大根役者

3-2

しおりを挟む
3-2

「ほっ、ひっ、ふぅ。意外とすんなりだったな……」

後ろを振り返ると、ちょうどすぐ背後に、あの半透明のヴェールがゆらゆらと揺れていた。どうやら詰め所の中を通って、ぐるっと迂回した形になったらしい。

「ああ、ドキドキしました。寿命・・が縮まるかと思いましたよ……」

ウィルが左胸をおさえながら言う。幽霊の寿命?

「まったくだ。けど、このパスさまさまだな。いいもんを貰ったよ、ほんとに」

以前、王国兵に追われていた頃に、一度だけ別の国へ逃げようとしたことがあったけど、思いとどまって正解だった。下手すると、兵隊に捕まるよりも面倒なことになっていたかもしれない。
無事に国境を越え、洞窟をしばらく進むと、急に道幅がぐっと広がった。天井も高くなり、木の根のような石柱が何本も垂れ下がっている。

「すごいな……鍾乳石のドームだ」

ホールのように広がった空間には、光の玉が街灯のように、支柱に支えられて何本も立っている。ちょっと小洒落た公園みたいな雰囲気だ。洞窟の闇と光の白が神秘的なコントラストを描いている。

「でも、こんなに広いスペース、なんに使うんだろうな?」

「馬車が通るにしては広すぎますな」

その答えを求めて照明の間を進んでいると、前方に円形の広場が見えてきた。そこだけ洞窟の床が掘り下げられており、敷石がひかれている。明確に他と区別されているな。ひょっとして、ここのためにスペースを確保したのか?だったらこの広場は、ただの広場じゃあないぞ。
その広場の手前には、灰色のひげを生やした初老のおじいさんが佇んでいた。一見すると浮浪者のようだが、この空間の雰囲気のせいで、ただの老人も高名な魔法使いか何かに見える。じいさんは俺たちの姿をちらりと見止めると、酒焼けしたガラガラ声で話しかけてきた。

「旅人さんたち、トラベルゲートはいかがですかい?」

「へ?なんだって?」

素っ頓狂な声で返すと、じいさんは歯の抜けた顔でにんまり笑う。

「おや、初めてですかい。そんなら、是非とも味わっておかねぇと。三の国名物、国境のトラベルゲート!これさえ使えば、主要な町までひとっとび。面倒な移動は必要なし、安心安全の最速旅行が、たったお一人十セーファで利用できちまうんですだ」

「えー!そりゃすごいな」

要は、ワープ装置みたいなもんってことだろ?すごい、さすが魔法大国だな!

「使ってみたいな!みんなもいいだろ?楽そうだし」

俺の勢いに負けたのか、仲間たちはこっくりうなずいた(ライラだけはノリノリだったが)。

「決まりですかね。では、まずは行き先を選んでくだせえ」

じいさんは揉手をすると、つま先でコツコツと床石を叩いた。あ、よく見ると石に文字が書いてある。照明に照らされたその文字は、広場の形に添って円形に刻まれていた。読んでみると、町の名前と、その特徴を紹介している……“魔力と神秘に満ち溢れた首都・ヘリオポリス”“シェオル島まで一番の近道。海の玄関口・ディオの港”“古の魔法の息づく古都・レイブンディー”……などなど。

「は~……いろいろ行けるんだな。なぁ、どこにする?」

「初めてでしたら、まずは首都のヘリオポリスをお勧めしやすがね」

じいさんが円形に並んだ町の中から、一つを足で示した。

「首都か……まあでも、国を知るのには首都が一番いいかもしれないな」

首都なら情報も多いだろうし。そこで興味のある町が見つかったら、そこへ移動すればいいんだ。それに、マスカレードについても何かわかるかもしれない。俺たちは目的地を首都・ヘリオポリスに決めた。

「あい、かしこまりました。それでは、お一人につき十セーファいただきやすよ」

ウィルとアニを除いて、俺たちは四人パーティだ。銀貨四枚をじいさんに払う。うぅ、結構高くついたな……しかし、ワープゲートなんてものを試すチャンスは逃せないだろう。ワープなんて、小さな頃から夢みたいだと思ってたけど、まさかこんなところで体験できるとは。ワクワクするな!

「あい、確かに。それでは、まんなかの方に寄っといてくだせえな。なるべく真ん中ですよ」

俺たちは言われた通り、広場の中心に固まった。その間に、じいさんは大きな薬瓶をよいしょと担ぐと、その中身を広場のふちに沿って、よろよろ、ちょろちょろとこぼし始めた。おいおい、落っことしたりしないだろうな?瓶からは白とも琥珀色ともとれる、不思議な色の液体が流れ出ている。魔法の薬か何かか?

「ほい、準備完了だ。ほかにお客さんもいないし、とっとと始めましょうかね」

始めるって、なにを?俺がそうたずねる前に、じいさんは声高に叫んだ。

「ヘリオポリス行き、しゅっぱーつ進行ー!」

ブゥン!わ、いきなり足元に、魔法陣が広がった。魔法陣は円形の広場いっぱいに浮かび上がり、雪のように白く輝いている。すると奇妙なことに、体がいやに軽くなった。なんだ?全身が風船にでもなったみたいだ。

「あ、あれ?」

「え?こ、これって……」

みたいじゃなくて、ほんとに浮いてないか!?うわっ、足が地面につかない!俺たちは無重力空間にいるみたいに、ふわふわと宙に浮かんでいた。

「お、おお?みんな、大丈夫か?」

「きゃはは!すごーい!」

少なくとも、ライラはへっちゃらみたいだな。フランとエラゼムの二人も、さすが、全く動じていない。ウィルが勝手に浮かび上がるスカートを必死におさえているのを見るに、霊体にも効果が及んでいるようだ。うぅ、ちょっと見えちゃったよ……気まずい。

「うわっ!」

なんだ?今度は全身が、真っ白に光り始めた!それと同時に、魔法陣もさらに強い光を放つ。あまりのまぶしさに、目を開けていられない。視界がすべて白で塗りつぶされていく。洞窟が、仲間の姿が、そして自分すらも光のみこまれ……

次に目を開けた時には、俺は全く見知らぬ町の中にいた。

「ここは……?」

俺は周囲を見渡す。石畳が敷かれた道の真ん中で、俺はへたり込んでいた。すぐそばには、同じような格好の仲間たちもいた。と言っても、フランは軽く屈むだけで、エラゼムに至っては真っ直ぐに立っていたけど。ふむ、無様なのは俺だけか……ライラもだな。はしゃぎすぎだ、どうやったらでんぐり返しの姿勢になるんだ?
だがどうやら、ワープは無事成功したらしい。

「ってことは、ここが三の国の首都、ヘリオポリスか」

ヘリオポリスは、石造りの灰色の町だった。とにかく建物の背が高い。立ち並ぶ家々は最低でも二階建て、中には三階建てのものも見える。その分家自体はコンパクトなようだから、狭い土地を最大限活用した結果なのかもしれない。今俺たちがいるのは石畳の大通りのような場所で、道を挟んで細長い家々がずらーっと並んでいる。そのはるか先には、巨大な塔がそびえたっていた。すごい高さだ……前の世界の高層ビルと比較しても、いい勝負になりそうだ。

「見てみろよ、あの塔。すっげーでっかいな」

「うわー、ほんとだ!」

ライラが塔を見てはしゃいだ声を出す。あの塔、登れたりすんのかな?階段が大変そうだけど、ちょっと興味あるな……

「ん、おや。君たち、旅人さんたちかい?」

うん?ふいに声が掛けられる。若く、陽気な声だ。
俺たちに声をかけてきたのは、白いシャツにサスペンダーズボンの、ハンサムな青年だった。首元には赤い蝶ネクタイを締めている。ほほー、ずいぶん小洒落た格好だな。

「そうだけど、あんたは?」

「突然すまない。僕はミルコ。この町のガイドをしているんだ。よかったら、僕が一日十セーファで案内するけれど?」

「うっ、また十セーファか……」

ガイドはありがたいけれど、さっきワープで出費したばかりだからな……

「その、実は俺たち、あまり財布に余裕がなくて……」

「そうなのかい?だったら、八セーファにまけるよ」

「八……」

微妙な数字だ。初めての町で迷子になる手間と、どっちのほうがいいか……するとフランが、ずいっとミルコの前に進み出た。

「そこまできたんなら、いっそスパッと五まで落としてよ」

「えぇ?そんな無茶な……」

そこまで言って、ミルコは口をはたとつぐんだ。そして、フランの顔をじっと見つめる……

「……あっはっは!わかった、負けたよ。僕は美人に弱いんだ。五セーファで請け負おう、どうだい?この町は道が入り組んでいるから、ガイドがいたほうが有意義な一日にできると思うよ」

おお、半額になった。フランの器量がまた役に立ったな。うん、それなら頼んでみてもいいかも。

「そこまで言うなら、お願いできるか。ミルコさん?」

「そうこなくっちゃ。よろしく、なんと呼べばいいかな?」

「俺は桜下だから、桜下でいいよ」

「わかった。ではよろしく、桜下。それじゃあさっそく、この町を案内しよう。桜下たちは、どこか行きたいところだとか、見てみたいものだとかはあるかい?」

「見てみたいものか……」

「はいはいはいはい!ライラは、まほーに関するものが見てみたい!」

俺を押しのけて、ライラがぴーんと手を伸ばした。ずいぶんアバウトなオーダーだったけど、ミルコはよし来たとばかりにうなずく。

「オッケー、魔法関連のスポットだね。安心してよ、お嬢さん。この町には、一日じゃとても見切れないほどの魔法の研究所があるけど、その中でも僕のおすすめを案内してあげるから」

ミルコはウインクすると、俺たちの前を歩き始めた。



つづく
====================

読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...