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7章 大根役者
4-2
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4-2
「ん……すまない、来客のようだ。入りなさい」
シリス大公が声をかけると、扉が開いて、中からライラと同い年くらいの女の子が姿をのぞかせた。ライラと違ってサラサラの髪を編み込んでいて、白いふわふわしたドレスを着ている。妖精さんみたいだな。髪の色はドレスと同じく白っぽいが、光の加減で虹色にきらめいて見えた。
「あ!ごめんなさい、お客様がおいでだったのですね」
女の子は俺たちに気付くと、くりっとした瞳を申し訳なさそうに伏した。
「いや、かまわない。お前もこちらへきて、ご挨拶なさい」
シリス大公が言うと、女の子はしずしずとこちらへ歩いてきて、俺たちの前で軽く膝を折った。
「お初にお目にかかります。エリス・ハルシェ・アアルマートと申します」
エリス、と名乗った女の子は、柔らかく微笑んだ。見かけの割に、随分大人びた子だな。この子も王族か、もしかするとシリス大公の娘だろうか?俺はとりあえず軽く頭を下げた。
「エリス、こちらは二の国の勇者様御一行だ」
「えっ!!勇者様なのですか!?」
うわ。俺が否定する間もなく、エリスがずずいっと身を乗り出してきた。俺はおもわずソファの背もたれにのけ反り、隣でフランがむっと眉をひそめた。
「わあ!勇者様は、どうして王宮に?アアルマートには何の目的でいらしたのでしょうか?」
「え、えっと……」
「これ、エリス。お客人に無礼だぞ」
シリス大公にたしなめられ、エリスはあっ、と頬を染めた。
「もっ、申し訳ございません!大変失礼なことを……」
「い、いえ。はは……」
「すまない。この娘は勇者の話題となると、目の色を変えてしまうんだ」
エリスは真っ赤になってうつむいている。勇者の大ファンってことか。でも俺、元勇者なんだけどな……
「それで、エリス?なにか私に用だったのか?」
「あ、そうでした。すみません、大したことではなかったのですが。そろそろ“天の塔”に行く時間でしたので、一言お声がけしておこうかと」
「そうだったのか。では、早く行ったほうがいいだろう。励んできなさい」
「はい。行ってまいります、陛下」
エリスは聞き分けよく返事をすると、それでも名残押しそうに俺たちのほうを見つめ、それからぱたぱたと扉の向こうへ走っていった。
「すまなかった、話の腰を折ってしまって」
「いえ、別に……」
むしろ助かったまである。せっかくだし、もう少し話を引っ張ってみるか。
「娘さんですか?」
「いや、姪だ。私の妹の娘だよ」
へー、姪っ子か。でもどうして、姪っ子がわざわざシリス大公に挨拶に来たんだろう?そういうのは普通、親にするもんじゃないか?けどさすがにそれを聞くのは突っ込み過ぎなので、俺は無難な話題を投げた。
「天の塔っていうのは?」
「魔術を学ぶ、学校のようなところだ。この国には天の塔、地の塔、人の塔の三つがあり、天の塔はもっとも高度な魔術を教えている」
「へぇ……じゃあ、姪っ子さんは魔法が得意なんですね」
「ああ。妹に似てな……」
シリス大公はすっと目を細めると、再び俺を見つめた。
「話を戻そう。君が勇者か否か、という点については、今は保留しておこう。だが、君には勇者の能力がある。そうだね?」
「……ええ」
ち、また話が戻ってきちまった。
「君の魔力は、ずいぶん独特だ……あまり見かけることのない色をしている。君の能力は、一体なんだね?」
「……死霊術。俺は、ネクロマンサーです」
これはできれば言いたくなかった……二の国ではこれのせいで、さんざんな目にあったからな。だけどシリス大公は、おおよそ俺の答えを予測していたようだった。
「ふむ、そうか。ネクロマンサー……強力な能力だ。二の国は、いい勇者を獲得したな……おっと、もう勇者ではないのだっけ?」
シリス大公は、俺のことを強力な兵器を見るような目で見つめてくる。居心地悪いったらありゃしない……大体、なんでこの人は俺たちを連れて来たんだ?俺が元勇者だから、物珍しいからってだけなんだろうか。
「ふむ……ところで、話は変わるが。君たちは、ヴァンパイアというモンスターを知っているか?」
「へ?」
なんだ、だしぬけに……
「知って、ますけど……吸血鬼ですよね?」
「その通りだ。奴らはアンデッドモンスターの貴族とも呼ばれ、狡猾な頭脳と強力な能力を併せ持っている。そのため、討伐は極めて困難だ」
「はぁ……」
それが、一体なんだって言うんだ。シリス大公は続ける。
「ここより東に行ったところに、セイラムロットという町がある。辺鄙な田舎町だが、どうにも奇妙なことが起こっていてね……旅人や商人の失踪が、相次いでいるのだ。調査をしても詳しい原因は判明しなかったのだが、どうやら町に住み着いたモンスターが悪事を働いているらしい、ということだけが分かった」
「……ひょっとして、それがヴァンパイア?」
「その可能性が高いのではないか、と睨んでいる」
シリス大公は腕を組むと、とんとんと指でひじを叩く。
「そんな怪物が国内にはびこっているなど、大公として見過ごすわけにはいかない……しかし、だ。恥ずかしながら、我が国は人的にも物質的にも資材に乏しく、討伐隊を編成することすらままならない。それでも何度かなけなしの軍隊を派遣したのだが、結果は全滅だった。まさに、目の上のたんこぶだというわけだよ」
「はぁ……」
いや、だからなんでそれを俺に……待てよ。ヴァンパイアは、恐ろしいモンスターであると同時に、アンデッドだ。そして俺は、ネクロマンサー……もしかして、こいつ。
「俺に、そのヴァンパイアを倒せと……?」
「いや、そうではない。他国の勇者に勝手に依頼をしたとあっては、国のメンツが保てない」
あ、あれ?そうなの?しかしシリス大公は、なおも俺から目を離さない。
「ところで、君は勇者をやめたと言っていたね。そしてそれを隠してもいるようだ。違うか?」
「いえ、まあ……その通り、ですけど」
「そうか。では、今日君たちにあったことは、できれば秘密にしておいたほうだ望ましいだろうね?」
「……!」
こいつ……!これは遠回しに、脅しをかけているってことだよな。
「……言いふらすつもりですか?俺が勇者だって事を」
「そんな事は一言も言っていない。私が話しているのは、ヴァンパイアについてだ」
シリス大公はいけしゃあしゃあとしらを切る。この野郎……
「……よその国の人間が、勝手に国の問題に首を突っ込んでいいんですか?」
俺のせめてもの反論に、シリス大公は表情を少しも崩さず答える。
「問題ない。勇者の活動は、三国間において保証がされている。たとえ一国の主と言えど、正当な理由なく勇者の行動を阻害したとあれば、国際問題だ」
「だったら、さっき言ってた、勝手に勇者に依頼しちゃまずいっていうのは?」
「その通り。だが勇者が“勝手に”我が国の問題を解決したのであれば、なにも問題はない。まずいのは、あくまで正式に依頼をした場合だ」
「……」
屁理屈だ。しかし、政治ってのは屁理屈にどれだけもっともらしい理由をつけられるかだって、昔聞いたことがあったっけ……
「……俺、もう勇者じゃないんすけど」
「そうか。しかし元勇者ならば、勇者に戻ることもできるだろう?たとえば、一時的に」
「………………」
どうあっても、断らせてはくれないらしい。だったら素直に頼むって言えばいいのに……王様ってのは、どいつもこいつも偏屈なやつばっかりだな、まったく。
「……はぁ。わかりましたよ。どうせ行き先も決めてないから、その町に行ってみます」
「え!」
隣のフランが、驚いた目で俺を見つめた。
「ちょっと、いいの?」
「ん、まぁ……断らせてくれそうもないし。それに、何人も失踪者が出てるんだろ。俺の力でそれを解決できるんだとしたら、力を貸してもいいかなって」
「またそんな、安請け合い……はぁ、わかった」
フランはもう好きにしてくれと首を振った。シリス大公は俺の返事を聞いて、うすくほほ笑む。
「うむ。さすが、勇者らしい答えだ」
「もう勇者じゃないですよ……それと、大公。これだけは言っておきますが、力を貸すのは、あくまで俺たちの気が向いたらです。相手がアンデッドじゃなかったりして、俺たちの力が及ばないのであれば、その時は辞退させてもらいますよ……もちろん、これは正式な依頼じゃないですから、大公はそんなこと気にしないはずですけどね」
「もちろんだとも。それに、大丈夫だ。私は君たちがいかんなく力を発揮できると確信している」
シリス大公は薄く微笑んだ。へっ。ヴァンパイア説に自信あり、ってことだな?
「ところで、その町の場所とかは?」
「問題ない。この部屋を出たら、突き当りを左に行くといい。そこで執事を待たせているから、あとは彼に任せなさい」
「はぁ、わかりました……それじゃ、そろそろ失礼します」
これ以上話すこともないだろう。俺たちがソファから立ち上がっても、シリス大公はなにも言わなかった。豪華な扉を押し開け、部屋の外へと出る。
ガチャリ……バタン。
「……なんだか、面倒なことになっちゃいましたね」
ウィルが後ろを振り返りながら、小声で言う。
「ほんとだぜ。ここに連れてこられたときに、帰っとくべきだったかな?」
「でも、魔法で強引に連れ込むような人ですよ?本当に帰れたか、微妙な気もします……」
じゃあ、目をつけられた段階でアウトだったってことか……
「……でも、それにしたって」
フランが釈然としない顔で言う。
「ふつうあんなこと頼む?今日初めて会ったんだよ」
「あー、たぶんだけど……あのひと、俺の能力のこと、なんとなくわかってたんじゃないかな。ほら、俺が元勇者だってこともわかってたっぽいし」
「じゃあ、最初からそのつもりだったってこと?厄介ごとを押し付けるつもりで?」
「わかんないけど、完全に行き当たりばったりじゃなかったんじゃないか?」
「はぁ……だったらいっそ、あなたがお人好しだってことも、わかってたんじゃない?」
「あはは……けどまあ、俺の正体を言いふらされても困るしなぁ。ロアとの約束の手前もあるし……」
ロアの名前を出すと、フランはいっそう嫌そうな顔をした。俺の正体が勇者だということ、そしてそれをやめたということは、ロアとの間で秘密ということになっている。俺だけの問題じゃない以上、あまりないがしろにもできないだろう。
「なんで王様って、ああいうひねくれ者しかいないんだろ……」
フランの恐ろしいつぶやき。ここが王宮じゃなかったら、俺も大いにうなずいていたんだろうけどな……
「しょーがないさ。行ってみようぜ……ヴァンパイアの住む町に」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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シリス大公が声をかけると、扉が開いて、中からライラと同い年くらいの女の子が姿をのぞかせた。ライラと違ってサラサラの髪を編み込んでいて、白いふわふわしたドレスを着ている。妖精さんみたいだな。髪の色はドレスと同じく白っぽいが、光の加減で虹色にきらめいて見えた。
「あ!ごめんなさい、お客様がおいでだったのですね」
女の子は俺たちに気付くと、くりっとした瞳を申し訳なさそうに伏した。
「いや、かまわない。お前もこちらへきて、ご挨拶なさい」
シリス大公が言うと、女の子はしずしずとこちらへ歩いてきて、俺たちの前で軽く膝を折った。
「お初にお目にかかります。エリス・ハルシェ・アアルマートと申します」
エリス、と名乗った女の子は、柔らかく微笑んだ。見かけの割に、随分大人びた子だな。この子も王族か、もしかするとシリス大公の娘だろうか?俺はとりあえず軽く頭を下げた。
「エリス、こちらは二の国の勇者様御一行だ」
「えっ!!勇者様なのですか!?」
うわ。俺が否定する間もなく、エリスがずずいっと身を乗り出してきた。俺はおもわずソファの背もたれにのけ反り、隣でフランがむっと眉をひそめた。
「わあ!勇者様は、どうして王宮に?アアルマートには何の目的でいらしたのでしょうか?」
「え、えっと……」
「これ、エリス。お客人に無礼だぞ」
シリス大公にたしなめられ、エリスはあっ、と頬を染めた。
「もっ、申し訳ございません!大変失礼なことを……」
「い、いえ。はは……」
「すまない。この娘は勇者の話題となると、目の色を変えてしまうんだ」
エリスは真っ赤になってうつむいている。勇者の大ファンってことか。でも俺、元勇者なんだけどな……
「それで、エリス?なにか私に用だったのか?」
「あ、そうでした。すみません、大したことではなかったのですが。そろそろ“天の塔”に行く時間でしたので、一言お声がけしておこうかと」
「そうだったのか。では、早く行ったほうがいいだろう。励んできなさい」
「はい。行ってまいります、陛下」
エリスは聞き分けよく返事をすると、それでも名残押しそうに俺たちのほうを見つめ、それからぱたぱたと扉の向こうへ走っていった。
「すまなかった、話の腰を折ってしまって」
「いえ、別に……」
むしろ助かったまである。せっかくだし、もう少し話を引っ張ってみるか。
「娘さんですか?」
「いや、姪だ。私の妹の娘だよ」
へー、姪っ子か。でもどうして、姪っ子がわざわざシリス大公に挨拶に来たんだろう?そういうのは普通、親にするもんじゃないか?けどさすがにそれを聞くのは突っ込み過ぎなので、俺は無難な話題を投げた。
「天の塔っていうのは?」
「魔術を学ぶ、学校のようなところだ。この国には天の塔、地の塔、人の塔の三つがあり、天の塔はもっとも高度な魔術を教えている」
「へぇ……じゃあ、姪っ子さんは魔法が得意なんですね」
「ああ。妹に似てな……」
シリス大公はすっと目を細めると、再び俺を見つめた。
「話を戻そう。君が勇者か否か、という点については、今は保留しておこう。だが、君には勇者の能力がある。そうだね?」
「……ええ」
ち、また話が戻ってきちまった。
「君の魔力は、ずいぶん独特だ……あまり見かけることのない色をしている。君の能力は、一体なんだね?」
「……死霊術。俺は、ネクロマンサーです」
これはできれば言いたくなかった……二の国ではこれのせいで、さんざんな目にあったからな。だけどシリス大公は、おおよそ俺の答えを予測していたようだった。
「ふむ、そうか。ネクロマンサー……強力な能力だ。二の国は、いい勇者を獲得したな……おっと、もう勇者ではないのだっけ?」
シリス大公は、俺のことを強力な兵器を見るような目で見つめてくる。居心地悪いったらありゃしない……大体、なんでこの人は俺たちを連れて来たんだ?俺が元勇者だから、物珍しいからってだけなんだろうか。
「ふむ……ところで、話は変わるが。君たちは、ヴァンパイアというモンスターを知っているか?」
「へ?」
なんだ、だしぬけに……
「知って、ますけど……吸血鬼ですよね?」
「その通りだ。奴らはアンデッドモンスターの貴族とも呼ばれ、狡猾な頭脳と強力な能力を併せ持っている。そのため、討伐は極めて困難だ」
「はぁ……」
それが、一体なんだって言うんだ。シリス大公は続ける。
「ここより東に行ったところに、セイラムロットという町がある。辺鄙な田舎町だが、どうにも奇妙なことが起こっていてね……旅人や商人の失踪が、相次いでいるのだ。調査をしても詳しい原因は判明しなかったのだが、どうやら町に住み着いたモンスターが悪事を働いているらしい、ということだけが分かった」
「……ひょっとして、それがヴァンパイア?」
「その可能性が高いのではないか、と睨んでいる」
シリス大公は腕を組むと、とんとんと指でひじを叩く。
「そんな怪物が国内にはびこっているなど、大公として見過ごすわけにはいかない……しかし、だ。恥ずかしながら、我が国は人的にも物質的にも資材に乏しく、討伐隊を編成することすらままならない。それでも何度かなけなしの軍隊を派遣したのだが、結果は全滅だった。まさに、目の上のたんこぶだというわけだよ」
「はぁ……」
いや、だからなんでそれを俺に……待てよ。ヴァンパイアは、恐ろしいモンスターであると同時に、アンデッドだ。そして俺は、ネクロマンサー……もしかして、こいつ。
「俺に、そのヴァンパイアを倒せと……?」
「いや、そうではない。他国の勇者に勝手に依頼をしたとあっては、国のメンツが保てない」
あ、あれ?そうなの?しかしシリス大公は、なおも俺から目を離さない。
「ところで、君は勇者をやめたと言っていたね。そしてそれを隠してもいるようだ。違うか?」
「いえ、まあ……その通り、ですけど」
「そうか。では、今日君たちにあったことは、できれば秘密にしておいたほうだ望ましいだろうね?」
「……!」
こいつ……!これは遠回しに、脅しをかけているってことだよな。
「……言いふらすつもりですか?俺が勇者だって事を」
「そんな事は一言も言っていない。私が話しているのは、ヴァンパイアについてだ」
シリス大公はいけしゃあしゃあとしらを切る。この野郎……
「……よその国の人間が、勝手に国の問題に首を突っ込んでいいんですか?」
俺のせめてもの反論に、シリス大公は表情を少しも崩さず答える。
「問題ない。勇者の活動は、三国間において保証がされている。たとえ一国の主と言えど、正当な理由なく勇者の行動を阻害したとあれば、国際問題だ」
「だったら、さっき言ってた、勝手に勇者に依頼しちゃまずいっていうのは?」
「その通り。だが勇者が“勝手に”我が国の問題を解決したのであれば、なにも問題はない。まずいのは、あくまで正式に依頼をした場合だ」
「……」
屁理屈だ。しかし、政治ってのは屁理屈にどれだけもっともらしい理由をつけられるかだって、昔聞いたことがあったっけ……
「……俺、もう勇者じゃないんすけど」
「そうか。しかし元勇者ならば、勇者に戻ることもできるだろう?たとえば、一時的に」
「………………」
どうあっても、断らせてはくれないらしい。だったら素直に頼むって言えばいいのに……王様ってのは、どいつもこいつも偏屈なやつばっかりだな、まったく。
「……はぁ。わかりましたよ。どうせ行き先も決めてないから、その町に行ってみます」
「え!」
隣のフランが、驚いた目で俺を見つめた。
「ちょっと、いいの?」
「ん、まぁ……断らせてくれそうもないし。それに、何人も失踪者が出てるんだろ。俺の力でそれを解決できるんだとしたら、力を貸してもいいかなって」
「またそんな、安請け合い……はぁ、わかった」
フランはもう好きにしてくれと首を振った。シリス大公は俺の返事を聞いて、うすくほほ笑む。
「うむ。さすが、勇者らしい答えだ」
「もう勇者じゃないですよ……それと、大公。これだけは言っておきますが、力を貸すのは、あくまで俺たちの気が向いたらです。相手がアンデッドじゃなかったりして、俺たちの力が及ばないのであれば、その時は辞退させてもらいますよ……もちろん、これは正式な依頼じゃないですから、大公はそんなこと気にしないはずですけどね」
「もちろんだとも。それに、大丈夫だ。私は君たちがいかんなく力を発揮できると確信している」
シリス大公は薄く微笑んだ。へっ。ヴァンパイア説に自信あり、ってことだな?
「ところで、その町の場所とかは?」
「問題ない。この部屋を出たら、突き当りを左に行くといい。そこで執事を待たせているから、あとは彼に任せなさい」
「はぁ、わかりました……それじゃ、そろそろ失礼します」
これ以上話すこともないだろう。俺たちがソファから立ち上がっても、シリス大公はなにも言わなかった。豪華な扉を押し開け、部屋の外へと出る。
ガチャリ……バタン。
「……なんだか、面倒なことになっちゃいましたね」
ウィルが後ろを振り返りながら、小声で言う。
「ほんとだぜ。ここに連れてこられたときに、帰っとくべきだったかな?」
「でも、魔法で強引に連れ込むような人ですよ?本当に帰れたか、微妙な気もします……」
じゃあ、目をつけられた段階でアウトだったってことか……
「……でも、それにしたって」
フランが釈然としない顔で言う。
「ふつうあんなこと頼む?今日初めて会ったんだよ」
「あー、たぶんだけど……あのひと、俺の能力のこと、なんとなくわかってたんじゃないかな。ほら、俺が元勇者だってこともわかってたっぽいし」
「じゃあ、最初からそのつもりだったってこと?厄介ごとを押し付けるつもりで?」
「わかんないけど、完全に行き当たりばったりじゃなかったんじゃないか?」
「はぁ……だったらいっそ、あなたがお人好しだってことも、わかってたんじゃない?」
「あはは……けどまあ、俺の正体を言いふらされても困るしなぁ。ロアとの約束の手前もあるし……」
ロアの名前を出すと、フランはいっそう嫌そうな顔をした。俺の正体が勇者だということ、そしてそれをやめたということは、ロアとの間で秘密ということになっている。俺だけの問題じゃない以上、あまりないがしろにもできないだろう。
「なんで王様って、ああいうひねくれ者しかいないんだろ……」
フランの恐ろしいつぶやき。ここが王宮じゃなかったら、俺も大いにうなずいていたんだろうけどな……
「しょーがないさ。行ってみようぜ……ヴァンパイアの住む町に」
つづく
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