じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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10章 死霊術師の覚悟

6-2

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6-2

「オヤジ、またこんなに散らかして。少しは片付けろよな」

大量のガラクタに顔以外すべて埋もれるドワーフと言う、俺たちからしたらかなりショッキングな光景にも、若いドワーフはさほど驚いていない様子だった。どうやら、これでも平常運転らしい。

「オヤジ、久々にでかい仕事だぜ。純アダマンタイト製の大剣だとよ」

若いドワーフは俺たちに振り返って、剣をよこせと手招きした。エラゼムが大剣を差し出すと、若いドワーフはそれを受け取って、ガラクタの山の髭もじゃの顔に近づけた。よく見てみると、ガラクタはどれもこれも、いちおう武器のようだ。二目と見られないキテレツな形状のせいで、使用方法はさっぱりわからないが。あの髭もじゃの作品だろうか?

「見ろよ、こんなアダマンタイト見たことねぇ……信じられないくらい鍛えこまれてる。百年か、それ以上だぜ……」

どきり。俺とエラゼムは、そろって体を固くした。エラゼムは百年近く前の時代の人だから、当たっている。さすがドワーフ、見ただけでわかるのか……

「な、驚きだよな。この剣にひびを入れるなんて。どうだ?いけそうか?」

「……」

「へー、さすがオヤジ。でも、なんだって?」

「……」

「あー、そっか」

なんだろう。さっきから、若いドワーフばっかり喋っている気がするんだけど?オヤジさんは相当声が小さいのだろうか?かろうじて髭が動いているように見えるが、声までは聞こえてこない。

「うーん……だよなぁ。わかった」

しばらくの奇妙なやりとりののち、若いドワーフは俺たちに向き直った。

「あのな、たぶん直せはするってさ。オヤジは昔、これに似た剣を打ったことがあるんだ」

「へぇ、そうなのか。けど、なんか引っかかる言い方だな?」

「ああ。なんだけども、どれくらいで直せるのか……金はいくらか、時間はどんくらいかかるのかっていうもろもろが、ちょっと即答できないんだ。悪いけど、ちっと時間をくれないか?」

「ああ、そう言うことか。わかった、構わないよ」

「よしきた。たぶん、明日には答えられると思うぜ。だよな、オヤジ?」

オヤジさんは、ほんのわずかにだが、首を動かしたようだ。ガラクタの山が、カランと音を立てたから。

「そんじゃ、今日一日、こいつを預からせてもらうな」

若いドワーフは、エラゼムの大剣をガラクタの山に立て掛けた……な、なんか急に不安になってきた。明日になったら、エラゼムの剣に足でも生やされてないだろうな?エラゼムもどことなく不安そうだったが、今更断れないだろう。
若いドワーフが戻ろうと言ったので、俺たちはガラクタだらけの部屋をしぶしぶ後にした。

「あの……オヤジさんって、すごい職人なんだよな?」

帰り道、俺は恐る恐る若いドワーフに訊ねた。

「すごいなんてもんじゃねぇよ。あの屑鉄の山を見たろ?イカれてんのさ」

俺の顔から血の気が引いた。エラゼムにも首があったら、同じ顔色になっていただろう。

「や、やっぱり頼むの、やめとこうかな……」

「んぇ?ああ、違う違う。イカれてるほど、腕が立つって意味さ。あんなに金属を自在に操る人、この五十年間で他に見たことねぇよ」

ああ、そういう……ていうか、このドワーフ五十歳以上かよ。だめだ、ドワーフは見た目と年齢がまったく一致しない。けど、五十歳が大丈夫だというんだから、信頼してもいいだろう……いいよな?

「じゃ、じゃあ安心だな」

「もちろん。まあ、最近ちっとは、マジでイカれてるかもしんないけど……」

前言撤回!信頼できないっ!!!

「お、オヤジさんって、ちょっと変わった人……じゃなくてドワーフだよな?オヤジってことは、あんたの父親なのか?」

「ぅん?ちちおや?」

若いドワーフは、意味が分からないとばかりに首を傾げている。あれ、伝わらなかったのか?

「あの、だから、父さんなのかってことだよ。あんたとあの人は親子なのか?」

「ああ、生みの親って意味か。違うよ、そう呼んでるだけさ。あの人は、昔っからああなんだよ……なあ、ところでなんだけど。親と言えばさぁ」

今度は逆に、若いドワーフがこちらに訊ねてくる。ドワーフはくるりと顔の向きを変えると、なぜかフランをしげしげと見つめた……にしては、視線が低いな。顔と言うより、胸を見ているような……?フランが露骨に顔をしかめる。

「あのさ、あんたって、女ってやつなんだよな?」

フランは警戒しながらも、いちおう返事をする。

「……そう、だけど」

「やっぱりか!すげぇなぁ、あんたも“アルバ”なのかぁ……じゃあじゃあ、そこについてるのって、おっぱいってやつだろ?なぁ、ちょこっと見せてくれないか?」

……は?フランは胸を両腕で隠すと、すごい勢いでドワーフから遠ざかった。

「あっ。ダメなのか?じゃあ、下の方でもいいんだけど。たしか、×××って言うんだよな。そっちは?」

フランは無言で、ぐっと右足を後ろに引いた。俺が慌てて飛びつかなかったら、足元の鉄床を思い切り蹴飛ばしていたに違いない。

「あ、あのなぁ!」

俺はフランの足首にかじりつきながら、声を張り上げる。

「ドワーフがどうかは分からないけど、人間はそうほいほい体を見せたりはしないんだよ!」

すると若いドワーフは、きょとんと目をしばたかせ、ヒゲで覆われたアゴをガシガシとかいた。

「そうなのか。そりゃ悪かったな。そこのお仲間がそういう恰好をしてるから、てっきり」

彼はアルルカを指さした。アルルカは全身にフックが刺さっているせいで、マントを留めずに肌をさらけ出していた。そういやこいつ、まだこの格好だったのか。

「ああ……そいつは、例外なんだ。いるだろ、一人や二人、頭のネジが飛んでるやつって」

若いドワーフは深々とうなずくと、「オヤジみたいなもんだな」とつぶやき、それを聞いたアルルカは大いに憤慨した。



「ふぁっふぁっふぁ!そんなことがあったのか」

鍛冶場を出た帰り道、俺がさっきの出来事を話すと、たっぷり昼寝したメイフィールドは快活に笑った。

「いやぁ、すまんすまん。わしらドワーフは、人間の流儀には疎いのじゃ。わしみたいな仕事ならともかく、他の連中は穴に潜ってばかりで、外との交流を持たんからのう」

「まあ、怒ってるわけじゃないんだけど……」

嘘だった。フランは明らかに怒気の残った顔で、どすどすと足を踏み鳴らしている。

「……なんだけど、ちょっと驚いたというか。ドワーフって、みんなああってわけじゃないよな?」

「おっと、誤解しないでくだされよ。わしらは、おぬしら人間でいうところの色情狂とは全く違う。その若造も、色欲に駆られて質問したわけではあるまい。まぁいうなれば、憧れと好奇心によるものじゃったのじゃろう」

「憧れと、好奇心?」

「そうじゃ。おぉ、そう言えば話してなかったのぉ。なぁお前さん、ここまで何人かのドワーフに出会ったと思うが、何か気付いたことはないかの?」

気付いたことだって?俺はメイフィールドの顔を見つめると、今まであったドワーフたちを思い出した。

「って言われてもな……みんな、髭が生えてるくらいか?あはは、関係ないよな」

「いやいや、そんなことはないぞ。実に的を射ている」

「え?」

「わしらは、みなああなのじゃ。生まれたときから髭を持ち、ただの一人も例外はない。それがドワーフなんじゃよ」

「えっと……みんな髭がある?それは、女のドワーフでもってことか?」

「そこが肝じゃな。わしらは大なり小なり個人差があれど、皆一様に髭を持ち、背は低く筋肉質で、低い声をしておる。気づいたかの?ドワーフと言う種族は、おぬしら人間でいう所の男しかいないんじゃ」

俺は、あんぐりと口を開けた。男しかいない?確かにここまで、女性らしいドワーフに出会ったためしがないけれど……

「で、でも!それなら、どうやって子どもが生まれてくるんだよ?」

「早とちりしてはならん。あくまで外見上は、と言う話じゃよ。男しかいないと言うと語弊があるかの、ようはおぬしらほど、性別と言うものがはっきりしてはおらぬのじゃ。おぬしらの女のように、胸が膨らむとか、声が高いだとかは、ドワーフには全く当てはまらん」

「あ、そ、そうなんだ……じゃあ、女のドワーフはどうやって見分けるんだ?」

「それを説明するのは難しいのぉ。わしらは、人間でいう所の“女”のことを、“アルバ”と呼んでおる。子を産む能力を持つもの、と言う意味じゃ。わしらは一目見ればアルバかどうかがはっきりわかるが、人間にはそれが感知できんようでな。知らぬ感覚を、伝えるのは難しい」

ふむ。それもそうかと、俺はうなずいた。一度も見たこともない花の香りを誰かに説明されても、完全に理解することは絶対無理だろう。

「アルバ、か。そういえば、さっきの若いドワーフも、そんなことを言ってた気がするよ」

「そうじゃったか。アルバも、そしてネクロマンサーも、とても希少で、価値ある才能じゃ。きっとその若造も、おぬしらのことを人間版アルバだと思って、ついはしゃいでしまったのじゃろう。今後も似たようなことがあるかもしれんが、どうか大目に見てやってくれ。わしらドワーフは、みな好奇心が強ぉてな」

「あはは、なるほどな。わかったよ」

悪気があるわけじゃないのなら、腹を立てる必要もない。フランも話を聞き終えるころには、ぼつぼつ溜飲が下がったみたいだった。

「さてと、じゃ。確かおぬしら、明日もう一度ホムラに出向くんじゃったな?では、宿に案内するとしようかの。人間にはちと窮屈かもしれんが、ま、そこも大目に見とくれ」

「え、そうなの?」

「安心せい、せいぜいちぃっと、寝るときに足が外にはみ出すくらいじゃ」

「えぇっ」

俺は想像してみた。頭を壁の端にくっつけて、足を扉から外に出して寝る姿を……うん。

「別の宿ってないのかな……?」

「ほっほっほ。冗談じゃよ」

「え?なぁんだ……」

「足じゃなくて、頭がはみ出るだけじゃ」

「……」

「冗談じゃよ」

メイフィールドはウィンクすると、鼻歌まじりに歩き始めた。フランじゃないけど、コイツの尻、蹴っ飛ばしてもいいだろうか?



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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