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10章 死霊術師の覚悟
12-1 不穏な兆し
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12-1 不穏な兆し
「戦うぅ?グラスゴウ家とか?」
俺は大口を開け、おうむ返しに問い返した。
「は、い……間違い、ありません」
ウィルは、興奮しているのか、息遣いも荒くうなずく。
「まじかよ……」
ウェディグ町長の家を出てからしばらく。俺とエラゼムは、フランたちと合流し、雪降る街角でウィルの帰りを待っていた。コルトには、先に家に帰ってもらっている。どうせウィルの声は聞こえないんだし、この場にいないほうが都合がいいだろう、という判断だ。
そうして、ウィルが町長の家から持って帰ってきた情報が、さっきのだ。
「戦う……でも、だって。グラスゴウ家には私兵が大勢いるんだろ?それに、ネクロマンサーだって。町長たち、勝つ見込みがあるのか?」
「わかりませんが……でも、本気ではありました。私、町長さんのお家を見て回ってたんです。一見すると普通の家なんですけど、地下に秘密の部屋があって。そこに、大勢の町民の方たちと、武器が……」
「うわ。それってあれか、来るべき日のためにこっそり力をためて、ついに決戦ののろしを……っていう」
「そうだと思います。一朝一夕でどうにかなるようには見えませんでした」
なーるほど……だから、町長はあんなに慌てていたのか。たぶん、今日は作戦会議の日かなんかだったんだろう。みんなでこそこそ集まっているところに、俺たちが訪ねていってしまったわけか。
「正気の沙汰じゃない」
フランは、ウェディグ町長たちの決心を、端的に評した。
「武器を集めたところで、戦うのは町民なんでしょ。そんなんで、武装した兵士にも、死霊にも勝てるわけない」
「うーん……そう、だよな。何万人もいるならともかく、この町の人口なんて、たかが知れてるだろうし……」
「勝てるわけないよ。そいつら全員、現実が見えてない」
「でも、戦う気まんまんなんだろ?」
「ええ……そうです」
ウィルは、見ちゃいられないとばかりに目をつぶると、ゆるゆると首を振った。
「恐らく、もう止まることはないでしょう。その作戦の決行日は、今夜なんです」
「はあぁー!?」
そ、そんな性急な。あ、それは俺たちからしたらであって、ウェディグ町長はずっと前から準備していたのか……
「……なにやら、きな臭くなってまいりましたな」
エラゼムの言葉に、俺はうなだれるしかなかった。
「えっ?ちょっと待って、どういうこと?」
「だからさ、ウェディグ町長たちは、グラスゴウ家にカチコミを掛ける気なんだ」
コルトの家に戻ってくると、俺はウィルから聞いた話を伝えた。コルトは、驚愕と困惑を足して二で割った……いや、むしろそれらを掛け合わせたような表情をしている。
「だって、そんな……それ、どこで聞いたの?」
「町長の家。盗み聞きしたんだ。今夜、あの人たちはやる気だ」
「……」
コルトは、言葉が出てこないらしい。放心して、床に座り込んでいる。俺は、コルトの顔を覗き込んだ。
「なあ、コルト。どうにかして、町長を止められないか?俺たちの見解ではあるけど、とても勝ち目なんかないぜ、あれ。むざむざ目の前で死なれちゃ、たまんないよ」
俺たちの基本方針は、「極力殺しはしない」だ。たとえ俺たち自身の手によるものではなくっても、大勢が死ぬようなことは避けたい。それに、グラスゴウ家といざこざを起こされると、エドガーの城主さまの捜索にも影響が出かねないし。
「……無理だよ」
「え?ど、どうしてだ?」
「町長たちは、覚悟を決めたんだ。前々から、グラスゴウ家と戦おうっていう意見はあったんだ……たとえ、命を賭したとしても」
「命を……?」
「うん。町長たちは、死ぬつもりなんだ。たとえ一人残らず殺されたとしても、グラスゴウ家に一矢報いるつもりなんだよ」
おいおいおい……負けるのは百も承知で、戦いを挑むってことかよ。
「だって、それじゃあどうするんだよ!家族は!町は!」
「おしまいだろうね。でも、このまま耐え続けたとしても、希望なんてないだろう?僕らはみな、グラスゴウ家の奴隷さ。だから、彼らの気持ちもわかるんだ」
じゃあ、何もかもやけになって、自爆覚悟で突っ込むってことか?そんなのって……
「……止めないと」
「だから、無理だよ。今更部外者が何を言ったところで、聞くもんか。むしろ、作戦の邪魔だって襲われるかも……」
「なら、力づくでも止めてやる」
「え?」
俺たちの素性を知らないコルトが、困惑した目でこちらを見る。しかし、フランが首を横に振った。
「やめた方がいい」
「フラン。なんでだよ?」
「仮に町長たちをボコしたとして、どうするの?戦いを遅らせることはできても、怪我が治ればまた戦うよ」
う……そうだ。俺たちは、殺しはしない。火種そのものを、もみ消すことはできない。
「ならいっそ、町長たちに加担して……」
「あいつらを守るってことは、グラスゴウ家を敵に回すってこと。戦う相手がすり替わっただけだ」
ぐぅ……確かにそうだ。私兵たちを倒したとして、それで町長たちが止まるだろうか?いままで虐げられてきた恨みを、俺たちがよせと言えば、忘れてくれるだろうか?
……ありえない。
「どっちの味方をしても、どうにもならない……」
そうか。今回の問題は、悪の親玉を倒せばすべてが丸く収まるような、単純な話じゃない。グラスゴウ家の味方をすれば、町長たちが死ぬ。町長たちの味方をすれば、グラスゴウ家が死ぬ。グラスゴウ家はどう見ても悪だが、悪だから死んでいいのであれば、俺たちの旅はもっと様相を変えていたはずだ。それに、エラゼムの件もある……
「……くそ!」
答えが、出てこない。床に拳を打ち付けた俺を、ウィルが悲しそうに見つめていた。するとただ一人、話に付いてこられていなかったコルトが、おずおずとたずねる。
「あ、あの……あなたたちは、何者なの?さっきから、大勢を倒すとか豪語してるけど……」
「ああ……そっか、コルトにはまだ話してなかったな」
ここまで話がこじれてくると、いっそ打ち明けたほうがいいだろう。活路があるかは分からないが、信頼できる協力者は貴重だ。俺はシャツの下から、アニを引っ張り出した。
「こういうことなんだ」
「えっ。それって……」
コルトは、勇者の証であるガラスの鈴を見て、目を真ん丸にした。
「実はさ。俺、元勇者なんだ」
「ゆぅ……」
またしても、コルトは声を失ってしまった。む、言ってから気付いたけれど、コルトは勇者に対して、並々ならぬ因縁を持っている……
(……まさか、いきなり殴られたりはしないよな?)
どきどき……だけどさいわい、それは杞憂だった。コルトは今までの話を飲み込むように、ごっくんと大きな音を立てて唾をのんだ。
「……なるほどね。どうりで、変わってると思うはずだよ」
「その、悪かったな、黙ってて……勇者って名乗ると、あんまりいいことがないもんで」
「うん。正直、僕も初対面でそう言われてたら、こんなにあなたたちと仲良くなれなかったと思う。だから、よかったよ」
ほっ。よかった、怒ってはいないらしい。
「そっか。あと、俺はわけあって勇者を辞めてるから、このことは秘密にしてくれな」
コルトは「勇者を辞めることができるの?」という顔をしていたが、とりあえずうなずいてくれた。説明すると長いのだ。
「はぁー、でも、勇者さまのパーティーかぁ……なんだかごめんね、こんな汚い所に泊めちゃって」
「あはは、よしてくれ。俺たちを見てくれよ。そんなガラじゃないだろ?」
見よ、あばら家がよく似合う、我が素晴らしき仲間たちを……するとウィルから、「そんな紹介の仕方ってどうなんですか?」と怒られてしまった。はい、すみません……
「でも、納得だよ。勇者さまの力なら、この町の人たちどころか、グラスゴウの兵士だってイチコロだよね」
「はは、両方まとめてか……ん?」
町の人も、グラスゴウも、両方……?
その時、俺の頭に、閃光のようなひらめきが走った。
「そうか、両方だ!」
突然叫んで立ち上がると、周りの仲間はびっくりした目で俺を見つめた。俺はきょとんとするコルトにお構いなく、肩をつかんで揺する。
「両方だ!どっちかじゃなく、どっちも叩けばいい!」
「え、えっと……?」
自体が飲み込めていないコルトに、俺はニタァーと、邪悪な笑みを浮かべた。
「ウェディグ町長、グラスゴウ家。今夜、どちらも……ぶっ潰す!」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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俺は大口を開け、おうむ返しに問い返した。
「は、い……間違い、ありません」
ウィルは、興奮しているのか、息遣いも荒くうなずく。
「まじかよ……」
ウェディグ町長の家を出てからしばらく。俺とエラゼムは、フランたちと合流し、雪降る街角でウィルの帰りを待っていた。コルトには、先に家に帰ってもらっている。どうせウィルの声は聞こえないんだし、この場にいないほうが都合がいいだろう、という判断だ。
そうして、ウィルが町長の家から持って帰ってきた情報が、さっきのだ。
「戦う……でも、だって。グラスゴウ家には私兵が大勢いるんだろ?それに、ネクロマンサーだって。町長たち、勝つ見込みがあるのか?」
「わかりませんが……でも、本気ではありました。私、町長さんのお家を見て回ってたんです。一見すると普通の家なんですけど、地下に秘密の部屋があって。そこに、大勢の町民の方たちと、武器が……」
「うわ。それってあれか、来るべき日のためにこっそり力をためて、ついに決戦ののろしを……っていう」
「そうだと思います。一朝一夕でどうにかなるようには見えませんでした」
なーるほど……だから、町長はあんなに慌てていたのか。たぶん、今日は作戦会議の日かなんかだったんだろう。みんなでこそこそ集まっているところに、俺たちが訪ねていってしまったわけか。
「正気の沙汰じゃない」
フランは、ウェディグ町長たちの決心を、端的に評した。
「武器を集めたところで、戦うのは町民なんでしょ。そんなんで、武装した兵士にも、死霊にも勝てるわけない」
「うーん……そう、だよな。何万人もいるならともかく、この町の人口なんて、たかが知れてるだろうし……」
「勝てるわけないよ。そいつら全員、現実が見えてない」
「でも、戦う気まんまんなんだろ?」
「ええ……そうです」
ウィルは、見ちゃいられないとばかりに目をつぶると、ゆるゆると首を振った。
「恐らく、もう止まることはないでしょう。その作戦の決行日は、今夜なんです」
「はあぁー!?」
そ、そんな性急な。あ、それは俺たちからしたらであって、ウェディグ町長はずっと前から準備していたのか……
「……なにやら、きな臭くなってまいりましたな」
エラゼムの言葉に、俺はうなだれるしかなかった。
「えっ?ちょっと待って、どういうこと?」
「だからさ、ウェディグ町長たちは、グラスゴウ家にカチコミを掛ける気なんだ」
コルトの家に戻ってくると、俺はウィルから聞いた話を伝えた。コルトは、驚愕と困惑を足して二で割った……いや、むしろそれらを掛け合わせたような表情をしている。
「だって、そんな……それ、どこで聞いたの?」
「町長の家。盗み聞きしたんだ。今夜、あの人たちはやる気だ」
「……」
コルトは、言葉が出てこないらしい。放心して、床に座り込んでいる。俺は、コルトの顔を覗き込んだ。
「なあ、コルト。どうにかして、町長を止められないか?俺たちの見解ではあるけど、とても勝ち目なんかないぜ、あれ。むざむざ目の前で死なれちゃ、たまんないよ」
俺たちの基本方針は、「極力殺しはしない」だ。たとえ俺たち自身の手によるものではなくっても、大勢が死ぬようなことは避けたい。それに、グラスゴウ家といざこざを起こされると、エドガーの城主さまの捜索にも影響が出かねないし。
「……無理だよ」
「え?ど、どうしてだ?」
「町長たちは、覚悟を決めたんだ。前々から、グラスゴウ家と戦おうっていう意見はあったんだ……たとえ、命を賭したとしても」
「命を……?」
「うん。町長たちは、死ぬつもりなんだ。たとえ一人残らず殺されたとしても、グラスゴウ家に一矢報いるつもりなんだよ」
おいおいおい……負けるのは百も承知で、戦いを挑むってことかよ。
「だって、それじゃあどうするんだよ!家族は!町は!」
「おしまいだろうね。でも、このまま耐え続けたとしても、希望なんてないだろう?僕らはみな、グラスゴウ家の奴隷さ。だから、彼らの気持ちもわかるんだ」
じゃあ、何もかもやけになって、自爆覚悟で突っ込むってことか?そんなのって……
「……止めないと」
「だから、無理だよ。今更部外者が何を言ったところで、聞くもんか。むしろ、作戦の邪魔だって襲われるかも……」
「なら、力づくでも止めてやる」
「え?」
俺たちの素性を知らないコルトが、困惑した目でこちらを見る。しかし、フランが首を横に振った。
「やめた方がいい」
「フラン。なんでだよ?」
「仮に町長たちをボコしたとして、どうするの?戦いを遅らせることはできても、怪我が治ればまた戦うよ」
う……そうだ。俺たちは、殺しはしない。火種そのものを、もみ消すことはできない。
「ならいっそ、町長たちに加担して……」
「あいつらを守るってことは、グラスゴウ家を敵に回すってこと。戦う相手がすり替わっただけだ」
ぐぅ……確かにそうだ。私兵たちを倒したとして、それで町長たちが止まるだろうか?いままで虐げられてきた恨みを、俺たちがよせと言えば、忘れてくれるだろうか?
……ありえない。
「どっちの味方をしても、どうにもならない……」
そうか。今回の問題は、悪の親玉を倒せばすべてが丸く収まるような、単純な話じゃない。グラスゴウ家の味方をすれば、町長たちが死ぬ。町長たちの味方をすれば、グラスゴウ家が死ぬ。グラスゴウ家はどう見ても悪だが、悪だから死んでいいのであれば、俺たちの旅はもっと様相を変えていたはずだ。それに、エラゼムの件もある……
「……くそ!」
答えが、出てこない。床に拳を打ち付けた俺を、ウィルが悲しそうに見つめていた。するとただ一人、話に付いてこられていなかったコルトが、おずおずとたずねる。
「あ、あの……あなたたちは、何者なの?さっきから、大勢を倒すとか豪語してるけど……」
「ああ……そっか、コルトにはまだ話してなかったな」
ここまで話がこじれてくると、いっそ打ち明けたほうがいいだろう。活路があるかは分からないが、信頼できる協力者は貴重だ。俺はシャツの下から、アニを引っ張り出した。
「こういうことなんだ」
「えっ。それって……」
コルトは、勇者の証であるガラスの鈴を見て、目を真ん丸にした。
「実はさ。俺、元勇者なんだ」
「ゆぅ……」
またしても、コルトは声を失ってしまった。む、言ってから気付いたけれど、コルトは勇者に対して、並々ならぬ因縁を持っている……
(……まさか、いきなり殴られたりはしないよな?)
どきどき……だけどさいわい、それは杞憂だった。コルトは今までの話を飲み込むように、ごっくんと大きな音を立てて唾をのんだ。
「……なるほどね。どうりで、変わってると思うはずだよ」
「その、悪かったな、黙ってて……勇者って名乗ると、あんまりいいことがないもんで」
「うん。正直、僕も初対面でそう言われてたら、こんなにあなたたちと仲良くなれなかったと思う。だから、よかったよ」
ほっ。よかった、怒ってはいないらしい。
「そっか。あと、俺はわけあって勇者を辞めてるから、このことは秘密にしてくれな」
コルトは「勇者を辞めることができるの?」という顔をしていたが、とりあえずうなずいてくれた。説明すると長いのだ。
「はぁー、でも、勇者さまのパーティーかぁ……なんだかごめんね、こんな汚い所に泊めちゃって」
「あはは、よしてくれ。俺たちを見てくれよ。そんなガラじゃないだろ?」
見よ、あばら家がよく似合う、我が素晴らしき仲間たちを……するとウィルから、「そんな紹介の仕方ってどうなんですか?」と怒られてしまった。はい、すみません……
「でも、納得だよ。勇者さまの力なら、この町の人たちどころか、グラスゴウの兵士だってイチコロだよね」
「はは、両方まとめてか……ん?」
町の人も、グラスゴウも、両方……?
その時、俺の頭に、閃光のようなひらめきが走った。
「そうか、両方だ!」
突然叫んで立ち上がると、周りの仲間はびっくりした目で俺を見つめた。俺はきょとんとするコルトにお構いなく、肩をつかんで揺する。
「両方だ!どっちかじゃなく、どっちも叩けばいい!」
「え、えっと……?」
自体が飲み込めていないコルトに、俺はニタァーと、邪悪な笑みを浮かべた。
「ウェディグ町長、グラスゴウ家。今夜、どちらも……ぶっ潰す!」
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