じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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10章 死霊術師の覚悟

12-2

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12-2

「どっちも、潰すって……」

フランは俺の言葉を復唱して、呆れた顔をした。が、すぐに考え直すように、腕を組んだ。

「……いや。案外、悪くないかも」

「だろ?どちらかの肩を持とうとするから、うまくいかなかったんだ」

俺とフランの顔を交互に見比べてから、ウィルがじれったそうに拳を握りしめる。

「お二人とも!私たちにもわかるように説明してくださいよ!」

「いやさ、単純な事なんだ。ようは、戦いを起こさせなければいいわけだろ。両陣営を完膚なきまでに叩き潰せば、戦いは起こらないと思わないか?」

「あ……なるほど、確かに。だいぶ物騒ではありますが」

「うん、乱暴な方法だ。だけど、それなら死人は出ない」

俺たちは殺しはしない。この方法なら、血みどろの衝突を回避することができる。

「でも」

フランが腕を組んだまま、慎重に口を開く。

「やっぱりそれだと、戦いを先延ばしにするだけにならない?今夜だけ凌げばいいってこと?」

「いや、そうは思ってない。考えたんだけど、お互いの力関係が平等になれば、そこに交渉の余地が生まれると思わないか?」

「交渉?」

「そう。グラスゴウ家が町民を支配できていたのは、武力があの家に集中していたからだろ。言ってみれば、武力統治、恐怖政治だな。だけど、その力を削いでやれば、グラスゴウを守るものは何もなくなる。そうなりゃ、やっこさんも前と同じように振舞うことはできないはずだ」

町に困窮の兆しが見えた際には、真っ先に保身に走るようなお家柄だ。自分たちの安全を守る事になら、頭の回転は速いはず。

「……つまり、こういうこと?両陣営を叩いて、パワーバランスを拮抗させる。そうなれば、グラスゴウ家は町民の意見を聞かざるを得ない。領主による不当な圧政はなくなり、町は豊かさを取り戻す……」

「ま、そこまでうまくいくかは分かんないけど、そういうことだ」

これが、俺が思いついた、誰も殺さずにこの町を解放するシナリオだ。もちろん、俺たちが両陣営を確実に倒せることを前提としているし、目論見が甘い所もあるだろうが……

「無理ね」

え?短い言葉で俺の案を否定したのは、なんとアルルカだった。アルルカは会話に参加する気がないかのように、壁に寄りかかって目を閉じていたが……聞いていたのか。俺はむっとして、アルルカに問い返す。

「無理って、どこがだよ?だいたい、お前ちゃんと話聞いてたのか?」

「聞かなくったってわかるわ。町一つを何十年と支配してきたあたしを、なんだと思ってるわけ?」

「あ」

そうか。こいつも似たような“恐怖”という方法で、町を支配していたんだった。このミストルティンの町よりも、より緻密で、洗練されたシステムをもってして。

「あんたの計画には、致命的な穴が存在するわ。それをふさがない限り、どうこねくり回しても絵に描いた餅ね」

「……なんだよ。その穴って」

「んふ。ききたぁ~い?」

あーーーーー、うざったい!爪をむいたフランを手で制しながら、俺は自分のこめかみをぎゅうと指で押さえた。

「アルルカ、早くしてくれ。礼なら次の満月にするから」

「ちぇ、来月なの。ケチ臭いわね……まあいいわ。あんたの計画の穴はね、調停者がいないことよ」

「調停者?」

「そ。ことがうまく運んで、あんたの言う通りになったとするわ。そのナントカ家が謝って、町の人間どもに誓うのよね。『あたしが悪かったわ、これからは心を入れ替えます』ってね」

「具体的だな。実体験か?」

「違うわよっ!ちゃかすなら話さないわよ!……ったく。で、そうなったとしてよ。一年後、その約束が守られてると思うかしら?」

「……お前は、思わないんだな?」

「当ったり前じゃない!ニンゲンなんて、その程度の生き物よ。その場さえ凌いじゃえば、後はどうとでもなるもの。兵士が回復すれば、また力で支配すればいいだけ。どうしてそんなクソみたいな約束を守らなきゃならないの?」

ぐっ……言っていることはクズの極みだが、正直、的を射ていた。俺だって、そこまで人間を高尚な生き物だとは思えない……

「そうか……その約束が守られるかどうか、監視する奴がいないって言いたいんだな?それが調停者か」

「そーいうことよ。今回の場合、調停者にはかなりの力が求められるわ。いざってときに、反目したやつを叩きのめさなきゃいけないんだからね。あたしたちの誰かなら、適任でしょうけど……」

「くそ……できるわけないだろ」

俺たちには、目的がある。この町のために、生涯を費やすことはできない。
あー、くそ!まさか、アルルカに論破されるなんて!あと一歩のところで、ピースが足りていない。それさえ埋まれば、きっとうまくいくはずなのに……!
調子に乗ったアルルカが、ニマニマと笑いながら追い打ちをかける。

「ふふん。なんだったら、あたしがその役を買ってあげてもいいわよ?あたしだったら、もっと完璧にここを統治して見せるわ」

「けっ!冗談言うな。お前に任せるくらいだったら、もっと他の……」

他……あてなんて、あるわけないっての。

「……あの。だったら」

その時、すっと手が上げられた。その主を見て、俺たちは全員、目を丸くした。



俺は外で、西の空を眺めていた。分厚い雲の向こうに、沈んでいく夕日がチラチラ、かろうじて見えている。西日が雲に照りかえるせいで、海の向こうの空は赤く、おどろおどろしい色に染まっていた。見たことはないが、地獄の入り口はあんな感じな気がする。

「もうじき夜か……」

ウィルの聞いた話では、決戦は日没後一時間ほどで決行されるらしい。きっとそのころには、空は墨のような黒一色に染まっているだろう。ウィルがウェディグ町長の家に張り込んでくれているので、動きがあればすぐに知らせに来てくれるはずだ。

「……」

俺は頭の中で、なんべんも話し合った作戦の内容を復唱していた。限りなく粗は潰したし、もっとも重大な穴も、塞いだ。手はずもすべて、完璧に覚えている。きっと、うまくいく……なのに、胸の内はさっぱり晴れない。ちょうど、今の空模様みたいだ。

「桜下殿」

背後から声を掛けられる。ついで、ガシャガシャと、にぎやかな足音。振り返らなくてもわかるな。

「エラゼム」

エラゼムは雪を踏みしめて、俺の隣へとやってきた。手には、浜辺で拾ってきたのか、二本の流木の枝切れを持っている。

「そろそろ日没です。ここは冷えませぬか」

「ああ……ちょっと、外の空気を吸いたくてな。ほら、心を落ち着ける的な」

「ええ、分かります。戦の前は、吾輩も同じことをしました……」

俺とエラゼムは、並んで、沈んでいく夕日を眺めていた。海風が吹くと、昨日積もったばかりの新雪が、パラパラと舞い上げられる。潮の香り。寒さに凍えた鼻では、匂いもあまり気にならないな。

「桜下殿。一つ、お頼みしたいことがあるのです」

エラゼムは、だしぬけにそう言った。

「なんだ?」

「はい……一度、吾輩と手合わせをしてはいただけませぬか」

エラゼムはそう言って、棒切れを俺に差し出した。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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