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10章 死霊術師の覚悟
12-3
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「手合わせって……俺が?エラゼムの相手になるとは思えないけど?」
「ああ、そう大したものではありません。体をほぐすついでに、いつもの稽古と同じようなことをできれば、と思いましてな」
ああ、いつも俺たちがやっているやつか。ものものしい言い方だったから、本気で戦うつもりなのかと思った。俺はエラゼムの手から棒切れを受け取る。
「いいぜ。やろうか」
「ありがとうございます。このような粗末な枝しかありませぬが……」
「あーあ、そういや俺たち二人とも、剣を壊しちゃったんだな。かっこつかないぜ」
「ふはは、まことですな」
愛剣を失くした者同士(エラゼムのは修理中だが)の、なんともみすぼらしい打ち合いだ。
俺とエラゼムは、雪の積もっていない砂浜まで移動し、そこで枝を構えて向き合った。
「桜下殿、準備はよろしいですかな」
「ああ。いつでもいいぜ」
「では、始めましょう」
軽い調子で、俺たちの稽古は始まる。エラゼムはリラックスした、まるで散歩途中に拾った枝を振るかのような気楽さで、一歩踏み出した。
ビューン!次の瞬間、エラゼムの枝は空を切りながら、俺の顔面目掛けて飛び込んでくる。
「っ」
俺は軽く息をはくと、エラゼムの手を目掛けて枝を打ちおろした。パン!軽い音と共に、エラゼムの枝先がぶれる。即座にバックステップ。エラゼムの棒切れは空を切り、俺は射程圏外へと逃れた。
「お見事」
「いや、久々だから緊張したよ……」
何とかよけられてよかった。けど、何度もやった動作だからな。俺は胸をなでおろす。
「では、この調子でまいりましょう」
「おう」
パシッ、パシンと、枝がぶつかる音が砂浜に響く。俺がエラゼムに教わったのは、主に相手の狙いを逸らし、自分の身を護るすべについてだ。最小限の攻撃で、相手を無力化する、地味な動きの繰り返し。敵の首を跳ね飛ばすだとか、腕をぶった切るみたいな技は一切教わっていない。だからこんなに枝の音が軽いんだ。
言い訳かもしれないけど、俺は最初から、己の剣技を磨くことにはさほど興味はなかった。勇者の体のおかげで、ある程度の筋力はあるといえ、俺の力はエラゼムやフランには遠く及ばない。その俺が張り切って剣を担いで、前線に上がったところで、足手まといにしかならないだろ?とっさの時に身を護れれば十分だ。元来、俺は後衛職だしな。
だからこそ、俺は自分の能力を活かして戦う方法を、ずっと探し続けてきた。もう少し……ファルマナの言っていた“死霊術の可能性”について、もう少しで何かが掴めそうなんだが……
「やっ!」
考え事をしていたが、体を動かしていなかったわけではない。俺は集中すると、かえって色々考えてしまうタイプのようだ。それでも今までの稽古の成果か、枝がぶれることはない。
鋭い突きを繰り出してきたエラゼムに対して、俺は枝の側面を叩いて、さらに彼の手元を叩きつけた。
バキッ!
「お……」
「ふふ。ついに一本取られましたな」
エラゼムの棒切れは、根元のあたりでぱっくりと割れていた。いままでどんなに打っても、それこそ俺が真剣を使ってさえも、稽古終わりまで折れることのなかったエラゼムの枝。それが、ついに今日になって、折れた。
「ふ、はぁーー。やぁっと、枝一本だけ取ることができたぜ……」
「お見事です。鍛錬が着実に実を結びつつありますな」
「いやぁ、それでも棒切れを折るのが精いっぱいだけどな……流木だから、多少脆いだろうし」
「いえ、もっと脆い枝を使っていた日もございました。確実に進歩されておりますよ」
「そっか。それなら、すなおに喜んどくよ」
数カ月の成果が、枝きれ一本だけというのも、やや寂しい気もするが。けど、なんの結果も出ないよりはましさ。やったかいがあったってもんだ。
俺は枝を放り投げると、砂浜にどっかり腰を下ろした。だいぶん体は暖まったな。ちょっと暑いくらいだ。エラゼムもまた、俺の隣に腰を下ろす。
「桜下殿」
「うん?」
「この後の戦い……うまく事が運べば、グラスゴウ家の内部を調べる機会もできると存じます」
「うん、そうだな」
「さすれば、メアリー様の消息が分かるやもしれません。あの歴史書だけでは、わかりませんでしたが……ともすれば、あの邸宅内の霊園に眠っている可能性もございます」
ウェディグ町長からもらった歴史書には、メアリーさんについての記述はなかった。けど、グラスゴウ家になら。グラスゴウ家は、敷地内に霊園を所持、管理しているらしい。十分あり得そうな話だ。
「そうかもな。それで?」
「もしも、メアリー様の墓標を見つけることができたなら……吾輩は、桜下殿と皆様に、別れを告げなければなりません」
「……」
別れ。エラゼムの話は、唐突にも感じたが、不思議と俺は落ち着いていた。
「そっか……そうだよな。エラゼムは、そのために今まで頑張ってきたんだもんな」
「……まことに申し訳ございません。桜下殿や皆様のことは、決して軽んじていたわけではないのですが……」
「あ、別に責めたわけじゃないぞ。ただ、良かったなって。目的ってのは、やっぱり果たせた方がいいだろうし」
「そう言っていただけますと……」
「それに、成仏するときは引き止めないってのは、みんなにも言ってることだしさ。誰もエラゼムのことを責めやしないって」
俺がエラゼムの肩をぽんぽんと叩くと、エラゼムはより一層身を縮こまらせた。
「ですが……吾輩のために、王都であれほどしていただいたばかりだというのに……吾輩が去った後は、あの剣は売り払ってください。多少古くとも、純アダマンタイト製ですから、もとは取れましょう」
「もとって……あのなぁ、最期の最期に金の話なんかするなって。今まで十分尽くしてくれたんだ。エラゼムが居なけりゃ、俺はここまで来れなかった。感謝してるよ」
「桜下殿……」
「おっと、と言っても、最後のひと仕事がまだ残ってるけどな。今夜のことがうまくいかなけりゃ、何もかもおじゃんだ」
「ええ、心得ております。たとえどのような結果が待っていようとも、このエラゼム、必ずや、桜下殿の大志を成就させてみせます」
「あはは。大志って、大げさだな。けど、期待してるぜ」
俺は笑いながら立ち上がった。エラゼムも腰を上げる。空を見上げると、とっくに日は沈み、あたりには闇の帳が降りつつあった。
夜が、訪れたのだ。
「さあ……いよいよだ」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ああ、そう大したものではありません。体をほぐすついでに、いつもの稽古と同じようなことをできれば、と思いましてな」
ああ、いつも俺たちがやっているやつか。ものものしい言い方だったから、本気で戦うつもりなのかと思った。俺はエラゼムの手から棒切れを受け取る。
「いいぜ。やろうか」
「ありがとうございます。このような粗末な枝しかありませぬが……」
「あーあ、そういや俺たち二人とも、剣を壊しちゃったんだな。かっこつかないぜ」
「ふはは、まことですな」
愛剣を失くした者同士(エラゼムのは修理中だが)の、なんともみすぼらしい打ち合いだ。
俺とエラゼムは、雪の積もっていない砂浜まで移動し、そこで枝を構えて向き合った。
「桜下殿、準備はよろしいですかな」
「ああ。いつでもいいぜ」
「では、始めましょう」
軽い調子で、俺たちの稽古は始まる。エラゼムはリラックスした、まるで散歩途中に拾った枝を振るかのような気楽さで、一歩踏み出した。
ビューン!次の瞬間、エラゼムの枝は空を切りながら、俺の顔面目掛けて飛び込んでくる。
「っ」
俺は軽く息をはくと、エラゼムの手を目掛けて枝を打ちおろした。パン!軽い音と共に、エラゼムの枝先がぶれる。即座にバックステップ。エラゼムの棒切れは空を切り、俺は射程圏外へと逃れた。
「お見事」
「いや、久々だから緊張したよ……」
何とかよけられてよかった。けど、何度もやった動作だからな。俺は胸をなでおろす。
「では、この調子でまいりましょう」
「おう」
パシッ、パシンと、枝がぶつかる音が砂浜に響く。俺がエラゼムに教わったのは、主に相手の狙いを逸らし、自分の身を護るすべについてだ。最小限の攻撃で、相手を無力化する、地味な動きの繰り返し。敵の首を跳ね飛ばすだとか、腕をぶった切るみたいな技は一切教わっていない。だからこんなに枝の音が軽いんだ。
言い訳かもしれないけど、俺は最初から、己の剣技を磨くことにはさほど興味はなかった。勇者の体のおかげで、ある程度の筋力はあるといえ、俺の力はエラゼムやフランには遠く及ばない。その俺が張り切って剣を担いで、前線に上がったところで、足手まといにしかならないだろ?とっさの時に身を護れれば十分だ。元来、俺は後衛職だしな。
だからこそ、俺は自分の能力を活かして戦う方法を、ずっと探し続けてきた。もう少し……ファルマナの言っていた“死霊術の可能性”について、もう少しで何かが掴めそうなんだが……
「やっ!」
考え事をしていたが、体を動かしていなかったわけではない。俺は集中すると、かえって色々考えてしまうタイプのようだ。それでも今までの稽古の成果か、枝がぶれることはない。
鋭い突きを繰り出してきたエラゼムに対して、俺は枝の側面を叩いて、さらに彼の手元を叩きつけた。
バキッ!
「お……」
「ふふ。ついに一本取られましたな」
エラゼムの棒切れは、根元のあたりでぱっくりと割れていた。いままでどんなに打っても、それこそ俺が真剣を使ってさえも、稽古終わりまで折れることのなかったエラゼムの枝。それが、ついに今日になって、折れた。
「ふ、はぁーー。やぁっと、枝一本だけ取ることができたぜ……」
「お見事です。鍛錬が着実に実を結びつつありますな」
「いやぁ、それでも棒切れを折るのが精いっぱいだけどな……流木だから、多少脆いだろうし」
「いえ、もっと脆い枝を使っていた日もございました。確実に進歩されておりますよ」
「そっか。それなら、すなおに喜んどくよ」
数カ月の成果が、枝きれ一本だけというのも、やや寂しい気もするが。けど、なんの結果も出ないよりはましさ。やったかいがあったってもんだ。
俺は枝を放り投げると、砂浜にどっかり腰を下ろした。だいぶん体は暖まったな。ちょっと暑いくらいだ。エラゼムもまた、俺の隣に腰を下ろす。
「桜下殿」
「うん?」
「この後の戦い……うまく事が運べば、グラスゴウ家の内部を調べる機会もできると存じます」
「うん、そうだな」
「さすれば、メアリー様の消息が分かるやもしれません。あの歴史書だけでは、わかりませんでしたが……ともすれば、あの邸宅内の霊園に眠っている可能性もございます」
ウェディグ町長からもらった歴史書には、メアリーさんについての記述はなかった。けど、グラスゴウ家になら。グラスゴウ家は、敷地内に霊園を所持、管理しているらしい。十分あり得そうな話だ。
「そうかもな。それで?」
「もしも、メアリー様の墓標を見つけることができたなら……吾輩は、桜下殿と皆様に、別れを告げなければなりません」
「……」
別れ。エラゼムの話は、唐突にも感じたが、不思議と俺は落ち着いていた。
「そっか……そうだよな。エラゼムは、そのために今まで頑張ってきたんだもんな」
「……まことに申し訳ございません。桜下殿や皆様のことは、決して軽んじていたわけではないのですが……」
「あ、別に責めたわけじゃないぞ。ただ、良かったなって。目的ってのは、やっぱり果たせた方がいいだろうし」
「そう言っていただけますと……」
「それに、成仏するときは引き止めないってのは、みんなにも言ってることだしさ。誰もエラゼムのことを責めやしないって」
俺がエラゼムの肩をぽんぽんと叩くと、エラゼムはより一層身を縮こまらせた。
「ですが……吾輩のために、王都であれほどしていただいたばかりだというのに……吾輩が去った後は、あの剣は売り払ってください。多少古くとも、純アダマンタイト製ですから、もとは取れましょう」
「もとって……あのなぁ、最期の最期に金の話なんかするなって。今まで十分尽くしてくれたんだ。エラゼムが居なけりゃ、俺はここまで来れなかった。感謝してるよ」
「桜下殿……」
「おっと、と言っても、最後のひと仕事がまだ残ってるけどな。今夜のことがうまくいかなけりゃ、何もかもおじゃんだ」
「ええ、心得ております。たとえどのような結果が待っていようとも、このエラゼム、必ずや、桜下殿の大志を成就させてみせます」
「あはは。大志って、大げさだな。けど、期待してるぜ」
俺は笑いながら立ち上がった。エラゼムも腰を上げる。空を見上げると、とっくに日は沈み、あたりには闇の帳が降りつつあった。
夜が、訪れたのだ。
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