じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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10章 死霊術師の覚悟

13-1 邪悪なるネクロマンサー

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13-1 邪悪なるネクロマンサー

ネクロマンサーがいるはなれは、お屋敷の敷地の端っこにぽつんと建てられていた。見た目はそこまでみすぼらしくもないが、隣の豪華な邸宅と比べると、ほったて小屋くらいにしか見えない。そして敷地の端の方には、グラスゴウ家が管理する霊園も隣接していた。ネクロマンサーを配置するには、絶好のポジションってわけだ。

「さてと、こっからは俺の出番だな」

俺は意気込みながらも、少しだけ足がすくんでいた。俺は今まで、自分以外のネクロマンサーと出会ったためしがなかった。それがここ最近になって、やたらと出会う機会が増えたよな。ドワーフの町のファルマナは、神秘的でありながらも、俺たちに友好的だった。彼の実力は計り知れないが、少なくとも敵ではない。
一方、今から俺たちが相手をするのは、紛れもなく敵意を持ったネクロマンサーだ。コルトの話では、どんなシスターも太刀打ちできず、同時に何体もの死霊を操るという。同時に操るだけなら、俺も“オーバードライブ”で実現可能だ。だが、あれは俺の切り札であり、そうほいほい使える技じゃない。効果もそこまで強くなく、死霊の同意を得られなければ使役することができないなど、弱点も多い。

(ちっ。話を聞く限りじゃ、俺よりも上なんだよな)

フランたちも死霊アンデッドである以上、ネクロマンサーには強気に出られない。下手をすると、逆にフランたちを操られてしまう可能性があるからだ。つまり、ここからは俺が敵を倒さなければならない。ネクロマンサー同士の、力のぶつかり合いってことだ。

「大丈夫。あなたより力が強いネクロマンサーなんて、いっこないよ」

フランはこう励ましてくれるが……ええい、びびっていてもしょうがない。なあに、いざとなったら、ソウルカノンで奴の死霊を吹き飛ばしてしまおう。

はなれの入り口が見えてきた。扉は開いている。そしてその前には、漆黒のローブを纏い、闇と同化するような出で立ちの男が、一人立っていた。
いや、一人というのは間違いか。いるな……目には見えないだけで。

「……止まれ!」

男が叫んだ。足を止める。思ったよりも老けた声だな。中年を通り越して、老人に差し掛かっているくらいじゃないか?

「お前たちだな。武器を持ち、愚かにも伯爵家に反旗を翻した愚民どもは。くだらぬ変装などしおってからに」

老ネクロマンサーは、俺たちのことを町民だと思っているみたいだ。大声で応対する。

「違うな!俺たちは、町の連中でも、あんたらの味方でも、ない!」

「なにぃ?ふざけたことを!ふん、どっちでもよいわ。愚民が足を踏み入れてはならぬ領域に、土足で立ち入った罪。その命をもって、償ってもらおう!」

老ネクロマンサーが、ローブの袖をばっと翻した。すると、俺たちの周囲をぐるりと取り囲むように、地面が隆起してくる。ぼこ、ボコボコ!

「グルルルル……」
「キエェェェ……」

奇怪な声を発しながら、人の形をした何かが、地面の下から現れた。ゾンビだ。フランのようにきれいな姿なんかじゃない。泥にまみれ、肌は腐り、髪は抜け落ちた死体が、俺たちを取り囲んでいる。

「しかと見るがよい!これが、愚かにも伯爵様にたてついた者の末路だ!そして、貴様たちがこれからなる姿でもある!」

これか、感じていた気配は。だけど、少し変だな。ゾンビとはまた違ったものを感じる……何というか、心ここにあらず?な感じがするんだよな。

「……どうする?」

フランが、俺に身を寄せる。この程度の数、フランとエラゼムの敵ではないだろう。しかし、忘れてはいけない。これは、ネクロマンサーとの戦いだ。

「極力手出しはしないでくれ。何が仕込まれてるかもわからない……ここは、俺を信じてくれないか?」

「……わかった」

フランは小さくうなずくと、俺の一歩後ろに下がった。エラゼムも同様に、後ろに下がる。

「わはははは!こやつらは剣で突き刺したくらいでは止まらぬぞ!さあ、覚悟はできたか!できたならば、もうくたばるがよい!」

老ネクロマンサーが腕を振るうと、ゾンビたちはぎこちない動きで、俺たちに接近し始めた。ようし、なら真っ向勝負だ。俺も右手をマントの外に突き出す。俺の力が効くかどうか、試させてもらうぜ!

「いくぞ!ディストーションハンド・オーバードライブ!」

ヴウゥゥゥン!右手が唸りを上げながら震え、その輪郭を失った。そのまま右手を地面に叩きつける。ブワーー!俺の中の魔力が波のように、右手を通じて、大地へと広がった。

「っ!」

老ネクロマンサーは、びくりと身をすくませた。それと同時に、俺は確かな手ごたえを得た。すべてのゾンビと、繋がった。

(おおっ。なんか、今日は調子いいな?)

魔力の出が、いつもよりいい気がする。オーバードライブは広範囲な分、効力が薄まる技だったけど、さっきのは十分な魔力量だった。あ、あれか?ファルマナにツボを押されたからかな?

「なっ、なぜだ!なぜ、ワイトが……!?」

一方の老ネクロマンサーは、取り乱した様子で、突然動かなくなったゾンビたちを端から端まで見渡している。ワイトだって?こいつら、ただのゾンビじゃないのか。ああでも、確かに妙だぞ。さっきから、ゾンビたちに意志を感じない。彼らもアンデッドであるなら、後悔とか恨みがあるはずなのに……

「ば、馬鹿な……お前。いったい何をした?」

「あぁ、悪いな爺さん。こいつら全員、俺がいただいたぜ」

「そ、そんなこと、できるはずが……お、お前!お前は一体、何者だ!」

老ネクロマンサーは、震える指先で俺を指し示した。ふーむ。ずいぶん取り乱しているな。俺の能力に気付いてないのか?それとも、あちらさんは調子が悪いのか。

「それに答える義理はないな。それより、もうこれで終わりか?あんたのこと、すごい死霊術師だって聞いてたんだけど。これじゃ拍子抜けだぜ」

「ぐっ……調子に、乗るなよ!」

老ネクロマンサーはそう言うと、くるりと背中を向け、はなれの中へと駆けこんだ。なんだ、啖呵を切っておいて、逃げる気か?いや……どうやら、違うようだ。

「くくく……少々驚いたが、それもここまでだ。こいつの前では、そうはいくまい!」

老ネクロマンサーがはなれから運び出してきたのは、キャスター付きの台に乗せられた、棺桶だった。おいおい、棺桶だなんて……まさか、中にいるのはヴァンパイアじゃないだろうな?

「っ……は、はは。一体それが、なんだっていうんだ?あんたが入る用ってわけじゃないんだろ?」

「はっはっは!そのような口が利けるのも、今の内だな!見よ、我が最高にして、最強のアンデッドを!」

老ネクロマンサーが大仰そうに腕を振ると、棺桶の蓋が横にずれた。そして、中のものが、ゆっくりと体を起こす……ごくり。
棺桶の中から現れたのは、青白い肌をした大男だった。だがその体は、とても人間のものとは思えない。なぜなら、体中の至る所に、鋭く光る棘や、カミソリのような刃が取り付けられていたからだ。
改造人間。全身に武器を仕込まれたアンデッドは、まさにそう呼ぶにふさわしい様だった。

「これこそ!我が切り札!鋼鉄機兵・キョンシーだ!!」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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