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10章 死霊術師の覚悟
13-3
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「あ、あの」
土下座をした老ネクロマンサーに、俺はおろおろと声を掛けた。しかし相手は必死で、話をさっぱり聞かない。
「私が、私が悪かった!すべてあの伯爵に言われてやったことなのだ!私も脅されていたのだ!」
「ちょっと、話を」
「仕方なくだったのだ!私だって、好き好んでやっていたわけではない!頼む、命は、命だけは!」
「おい、ちょっと待てって!」
さっぱり話が見えない。するとエラゼムが、老人のフードをつかんで、ぐいと引き起こした。その拍子にフードが脱げて、禿げかけ、白髪が混じった赤毛の頭が現れた。ライラによく似た髪質で、うねうねと天然パーマが掛かっている。
「命乞いをしたいなら、まずは吾輩たちの問いに答えてもらおう」
エラゼムの壮年の声ですごまれると、老人は震えあがっておとなしくなった。エラゼムが目配せして、俺に「今のうちに」と合図をする。
「あーっと。じゃあまずは、あんたの言い分を聞こうか。仕方なくだって?」
「そ、その通りだ!それを話せば、私を助けてくれるのか?命は奪わないと約束してくれ!」
「ストップ!それを決めるのは、話を聞いた俺たちだ。あんたはただ、聞かれたことだけに、誠心誠意答えてくれ」
もちろん殺す気はないが、そう言うとつけ上がりそうだからな。ちょっと脅かすくらいでいいだろ。
「う……わ、私は、グラスゴウ伯爵様に脅されていた。ネクロマンスで、町民たちを恐怖に陥れよ、と」
「あんたはグルじゃないと?一緒に甘い汁を吸ってたみたいだが」
「違う!私は、伯爵様と同じではなかった!住まいも離され、墓場の近くに追いやられた!私の扱いなど、使用人以下だ!」
ふむ、確かに。この爺さんのはなれは、かなり屋敷から離されていたな。はなれ自体は並みの建物だったが、それはあくまで、自分ちの庭の景観のため、と捉えることもできる。
「あんた、名前は何て言うんだ?」
「私か?私は……ボウ・エブだ」
「ボウエブさん?変わった名前だな……んじゃ、ボウエブさん。あんた、なんでグラスゴウ家に仕えてるんだ?」
「それは……」
ボウエブは逡巡したが、背に腹は代えられないと悟ったか、すぐに口を開いた。
「それは、私がグラスゴウ家の奴隷だからだ」
「は?奴隷?」
「そうだ。比喩ではない。私は何十年も昔、グラスゴウ家に買われたのだ。以前私は、海の向こうの大陸で暮らしていた。だが人攫いに捕まり、この国まで連れてこられた。そこで当時の伯爵の目に留まったのだ」
なんだって。この爺さん、この国の出身じゃなかったのか。人攫いか……まさかこの爺さんも、あの蒸気船に乗せられてきたわけじゃないだろうな。
「そうだったのか。目に留まったってのは、なんでなんだ?」
「なんでだと?そんなの、ネクロマンサーだからに決まっている。伯爵は、私の能力に目を付けたのだ」
「ははぁ……ネクロマンスが、町の支配に使えると思ったわけだな」
「その通りだ。それから私は、伯爵様の言う通りに従った……町の人々をいたぶり、時には命も殺めた。だが、仕方なかったのだ!生きるためには、そうせざるを得なかった」
「うーん……でもさ、あんたは嫌々だったんだろ?なら、伯爵をやっつけたらよかったじゃないか。どうしてネクロマンスの力で、グラスゴウ家に戦いを挑まなかったんだ?」
「戦いだと?そんなこと、できるはずがない!私の能力など、たかが知れているからだ!お前も見ただろう?私にできることなど、せいぜい下級のレイスを使役することくらいだ!こんなひ弱な私に、いったいどうやって戦えと言うんだ……」
「え?だってあんた、町じゃ恐ろしいネクロマンサーだって……」
「あれは、全部嘘だ!伯爵様が町民を脅すために、ありもしない噂を流したのだ」
はー、じゃあ全部デマかよ!いや、これも情報操作ってやつか……
「それに……結局私は、どこまで行ってもネクロマンサーだ。ふるさとにいた時から、この不吉な力を忌み嫌われ、疎まれてきた。お前にもわかるだろう?死霊術師は、どこの国でも鼻つまみ者だ……ここを離れたとして、どこが私を受け入れてくれる?こんな私が生きていくには、伯爵様に従うしかなかったんだ……」
そこまで言うと、ボウエブはさめざめと泣きだした。化けの皮がはがれたネクロマンサーは、実にみじめなものだった。年老い、ふるさとにも帰れず、己の能力のせいで誰からも疎まれ、だがその貧弱な能力にすがるしか生きる道がない……
「……なんか、かわいそうだな?」
「あのねぇ……」
俺のつぶやきに、フランがあきれ顔をする。
「騙されちゃダメだよ。こいつはそれでも、悪事に手を染めてきたんだ。その事実は変わらないし、被害者ぶってるけど、結局はグラスゴウ家に取り入って、面倒見てもらってたんでしょ。こいつも立派な共犯者だよ」
フランの言葉に、エラゼムもうなずく。
「そうですな。多少は同情の余地もありますが、先ほど吾輩たちと相まみえた際の態度を見るに、罪の意識が重かったとは思えませぬ」
まあ、確かに。俺たちにワイトをけしかけた時なんか、この爺さんはノリノリだった。あれじゃ、誰がどう見ても悪者だよな。
「た、頼む。頼みます。私は、私はただ、必死に生きようとしただけなんだ……」
ボウエブはべそをかきながら、額を雪にこすりつけた。うーん……どうしたらいいんだろう?この爺さんも被害者ではあるのだろうが、すっぱりと許されるには、罪を重ね過ぎだ。ならば……
「……よし、わかった。ボウエブ、お前のことは殺さない」
「ほ、本当ですか……!」
ボウエブが顔を上げる。
「ただし、条件付きだ。お前がグラスゴウ家を離れ、俺たちのもとに付くと誓うなら、お前の命は助けてやる」
「え……?」
「飲めないのなら、この話はなしだ。あんたを生かしておいても、俺たちに得は何にもないんだからな」
「い、いや!わかった、誓う!誓います!あなたたちに忠誠を!」
ボウエブは、また深々と頭を下げた。
「よし。なら……ちっ、ソウルカノンで吹き飛ばしたのは失敗だったな。ウィル!」
俺は上空を見上げて、大声で叫んだ。すぐに空から、ウィルがふわふわと舞い降りてくる。
「ウィル。明かりを出して、この爺さんを手伝ってくれないか」
「わかりました」
ウィルは短く答えると、すぐに呪文の詠唱に入った。すぐに蛍光色の火の玉が、彼女の周りに浮かび上がる。俺はボウエブへと振り返った。
「さて、ボウエブさん。それじゃあ、最初の指令だ。俺が吹っ飛ばしちまったキョンシー、あれを集めてくれ」
「え?い、いえ、わかりました……」
「言っとくけど、逃げ出そうなんて思うなよ。チラとでもそんなそぶりを見せたら、この火の玉があんたのケツを焦がすぞ」
「め、滅相もありません。従わせていただきます」
よし。俺がウィルに目配せすると、ウィルと火の玉はゆらりと、ボウエブの近くを漂った。ボウエブが怯えた目で火の玉を見つめているが、もたもたしている時間はない。ウィルが脅すように火の玉を揺らすと、ボウエブはまさに尻に火が付いたように走り出した。
「あっちはウィルがうまくやってくれるだろ。俺たちは本丸を叩くぞ!」
俺が駆け出すと、フランとエラゼムも後に続く。アルルカは再びコウモリとなって、俺の肩にとまった。目指すは最終目的地、グラスゴウ邸本館。私兵を倒し、ネクロマンサーも倒したときたら、残るは大将のみだ。
グラスゴウ邸の大扉には、当然ながら鍵が掛かっていた。板チョコみたいな模様の分厚い扉を揺すってみたところで、俺じゃびくともしないだろうな。
「どいてて」
となれば、後はフランの出番だ。フランはとんとんとつま先を扉に当てると、ふぅと息をついた。次の瞬間、フランはキュッと靴を鳴らして、くるりと回転した。その勢いのまま、回し蹴りを放つ。ドダアアアァァァァン!
重厚な扉は、けたたましい音と共に蹴破られた。あまりの衝撃に、蝶番がひしゃげてしまっている。きっと二度と閉めることはできないだろう。
「開きやがれゴマって感じだな」
「え?ゴマ?」
「いや、何でもない。それより急ごう。屋敷中の人が目を覚ましただろうから」
俺たちの目指す部屋は、たぶん最上階にあるだろう。調べたわけじゃないが、偉い人の部屋ってのは、大抵上にあるもんだろ?
正面にあった大階段を風のように駆け上る。物音に目を覚ました使用人たちが、何人か廊下に顔を覗かせていたが、そいつらはスルーだ。目指すは、ただ一人のみ!
四階に上がると、目当ての部屋はすぐに見つけることができた。明らかに、他の部屋よりも扉が大きく、豪勢だったからな。確かめる必要もないだろう。
「ふっ!」
玄関と同じく、扉はフランの一蹴りによってぶち開けられた。ドガーン!
「なっ、な、なんだ!?」
「きゃあぁああ!」
複数人の女性の悲鳴と、うろたえる男の声。この部屋は寝室のようだった。真ん中に大きなベッドが置かれ、その上に小太りの中年と、数人の女性が寝ていて、何事かとこちらを凝視していた。
俺はそいつらの恰好を見て、びっくりした。なんと全員、服を着ていない。俺とエラゼムは奇妙なうめき声を発し、フランは全身からおっかないオーラを放った。アルルカは良く見ようと、俺の肩の上でもぞもぞ身を乗り出している。
「呆れたもんだな……外で兵士が戦ってたってのに、あんたいったい、何してたんだ?」
「だっ、誰だお前は!?私兵たちはどうした!」
ベッドの上で小太り中年が、顔を汗でテカらせながら叫ぶ。
「あんたの兵士たちは、全員伸びてるよ。それより、あんたがグラスゴウ伯爵だな?」
「なに?貴様ら、町の連中か!我が屋敷に押し入ったのだな!なっ、何が目的だ!」
「あー、その話はあとでしようか。それより、服を着たらどうだ?そんなんじゃ風邪ひくぜ」
「なんだと?何を……」
「今から、俺たちと一緒に外まで来てもらうのさ。あーっと……エラゼム、頼んでいいか?」
エラゼムはうなずくと、グラスゴウ伯爵へとずんずん歩き出した。フランに頼んでも良かったんだけど、彼女は近寄ることすら嫌そうだ。
「くっ、くるなぁ!」
グラスゴウ伯爵はベッドの上でひっくり返り、あろうことか女を突き飛ばして逃げようとした。ったく、どいつもこいつも。ボウエブより始末に負えないな。エラゼムも業を煮やしたのか、ジタバタもがく伯爵の首根っこを押さえつけると、シーツで伯爵をぐるぐる巻きにしてしまった。ちょうどいい、これなら公然猥褻にもならないだろう。
「さて、残るは……」
素っ裸の女たちは、ベッドから転げ落ちて、部屋の隅で震えていた。奥さんか恋人……じゃ、ないだろうな。その女には全員、家畜がするような首輪がされていた。そして、胸のあたりの素肌には……
「……ちっ。あの人たちも、買われたのか」
ボウエブと一緒だ。この伯爵は、何でも金で買わないと気が済まないのか?
エラゼムは簀巻きにした伯爵を担ぐと、こちらへと戻ってくる。
「フラン嬢。不愉快なのは重々承知ですが……」
「……わかってる」
フランは心底嫌そうに、簀巻き伯爵を受け取った。彼女には、彼と一緒に行ってもらわなきゃならない場所がある。
「じゃ、手筈どおりに。そっちは頼んだぜ」
「ん」
フランはこくりとうなずくと、伯爵を担いで部屋を出ていった。
「うし、それじゃ俺たちは、俺たちの仕事をしよう」
フランが行ったのを見届けると、俺は部屋の隅で震える女たちに、なるべく丁寧に声を掛ける。
「あのー。すみません、こんな騒がしくして。ただ、ちょっと聞きたいことがあるんです」
「……ぇ?」
「あの、決して乱暴はしないんで。もし知ってたら教えてほしいんですけど……この家の家系図って、どこにあるんです?」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「あ、あの」
土下座をした老ネクロマンサーに、俺はおろおろと声を掛けた。しかし相手は必死で、話をさっぱり聞かない。
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「ちょっと、話を」
「仕方なくだったのだ!私だって、好き好んでやっていたわけではない!頼む、命は、命だけは!」
「おい、ちょっと待てって!」
さっぱり話が見えない。するとエラゼムが、老人のフードをつかんで、ぐいと引き起こした。その拍子にフードが脱げて、禿げかけ、白髪が混じった赤毛の頭が現れた。ライラによく似た髪質で、うねうねと天然パーマが掛かっている。
「命乞いをしたいなら、まずは吾輩たちの問いに答えてもらおう」
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「あーっと。じゃあまずは、あんたの言い分を聞こうか。仕方なくだって?」
「そ、その通りだ!それを話せば、私を助けてくれるのか?命は奪わないと約束してくれ!」
「ストップ!それを決めるのは、話を聞いた俺たちだ。あんたはただ、聞かれたことだけに、誠心誠意答えてくれ」
もちろん殺す気はないが、そう言うとつけ上がりそうだからな。ちょっと脅かすくらいでいいだろ。
「う……わ、私は、グラスゴウ伯爵様に脅されていた。ネクロマンスで、町民たちを恐怖に陥れよ、と」
「あんたはグルじゃないと?一緒に甘い汁を吸ってたみたいだが」
「違う!私は、伯爵様と同じではなかった!住まいも離され、墓場の近くに追いやられた!私の扱いなど、使用人以下だ!」
ふむ、確かに。この爺さんのはなれは、かなり屋敷から離されていたな。はなれ自体は並みの建物だったが、それはあくまで、自分ちの庭の景観のため、と捉えることもできる。
「あんた、名前は何て言うんだ?」
「私か?私は……ボウ・エブだ」
「ボウエブさん?変わった名前だな……んじゃ、ボウエブさん。あんた、なんでグラスゴウ家に仕えてるんだ?」
「それは……」
ボウエブは逡巡したが、背に腹は代えられないと悟ったか、すぐに口を開いた。
「それは、私がグラスゴウ家の奴隷だからだ」
「は?奴隷?」
「そうだ。比喩ではない。私は何十年も昔、グラスゴウ家に買われたのだ。以前私は、海の向こうの大陸で暮らしていた。だが人攫いに捕まり、この国まで連れてこられた。そこで当時の伯爵の目に留まったのだ」
なんだって。この爺さん、この国の出身じゃなかったのか。人攫いか……まさかこの爺さんも、あの蒸気船に乗せられてきたわけじゃないだろうな。
「そうだったのか。目に留まったってのは、なんでなんだ?」
「なんでだと?そんなの、ネクロマンサーだからに決まっている。伯爵は、私の能力に目を付けたのだ」
「ははぁ……ネクロマンスが、町の支配に使えると思ったわけだな」
「その通りだ。それから私は、伯爵様の言う通りに従った……町の人々をいたぶり、時には命も殺めた。だが、仕方なかったのだ!生きるためには、そうせざるを得なかった」
「うーん……でもさ、あんたは嫌々だったんだろ?なら、伯爵をやっつけたらよかったじゃないか。どうしてネクロマンスの力で、グラスゴウ家に戦いを挑まなかったんだ?」
「戦いだと?そんなこと、できるはずがない!私の能力など、たかが知れているからだ!お前も見ただろう?私にできることなど、せいぜい下級のレイスを使役することくらいだ!こんなひ弱な私に、いったいどうやって戦えと言うんだ……」
「え?だってあんた、町じゃ恐ろしいネクロマンサーだって……」
「あれは、全部嘘だ!伯爵様が町民を脅すために、ありもしない噂を流したのだ」
はー、じゃあ全部デマかよ!いや、これも情報操作ってやつか……
「それに……結局私は、どこまで行ってもネクロマンサーだ。ふるさとにいた時から、この不吉な力を忌み嫌われ、疎まれてきた。お前にもわかるだろう?死霊術師は、どこの国でも鼻つまみ者だ……ここを離れたとして、どこが私を受け入れてくれる?こんな私が生きていくには、伯爵様に従うしかなかったんだ……」
そこまで言うと、ボウエブはさめざめと泣きだした。化けの皮がはがれたネクロマンサーは、実にみじめなものだった。年老い、ふるさとにも帰れず、己の能力のせいで誰からも疎まれ、だがその貧弱な能力にすがるしか生きる道がない……
「……なんか、かわいそうだな?」
「あのねぇ……」
俺のつぶやきに、フランがあきれ顔をする。
「騙されちゃダメだよ。こいつはそれでも、悪事に手を染めてきたんだ。その事実は変わらないし、被害者ぶってるけど、結局はグラスゴウ家に取り入って、面倒見てもらってたんでしょ。こいつも立派な共犯者だよ」
フランの言葉に、エラゼムもうなずく。
「そうですな。多少は同情の余地もありますが、先ほど吾輩たちと相まみえた際の態度を見るに、罪の意識が重かったとは思えませぬ」
まあ、確かに。俺たちにワイトをけしかけた時なんか、この爺さんはノリノリだった。あれじゃ、誰がどう見ても悪者だよな。
「た、頼む。頼みます。私は、私はただ、必死に生きようとしただけなんだ……」
ボウエブはべそをかきながら、額を雪にこすりつけた。うーん……どうしたらいいんだろう?この爺さんも被害者ではあるのだろうが、すっぱりと許されるには、罪を重ね過ぎだ。ならば……
「……よし、わかった。ボウエブ、お前のことは殺さない」
「ほ、本当ですか……!」
ボウエブが顔を上げる。
「ただし、条件付きだ。お前がグラスゴウ家を離れ、俺たちのもとに付くと誓うなら、お前の命は助けてやる」
「え……?」
「飲めないのなら、この話はなしだ。あんたを生かしておいても、俺たちに得は何にもないんだからな」
「い、いや!わかった、誓う!誓います!あなたたちに忠誠を!」
ボウエブは、また深々と頭を下げた。
「よし。なら……ちっ、ソウルカノンで吹き飛ばしたのは失敗だったな。ウィル!」
俺は上空を見上げて、大声で叫んだ。すぐに空から、ウィルがふわふわと舞い降りてくる。
「ウィル。明かりを出して、この爺さんを手伝ってくれないか」
「わかりました」
ウィルは短く答えると、すぐに呪文の詠唱に入った。すぐに蛍光色の火の玉が、彼女の周りに浮かび上がる。俺はボウエブへと振り返った。
「さて、ボウエブさん。それじゃあ、最初の指令だ。俺が吹っ飛ばしちまったキョンシー、あれを集めてくれ」
「え?い、いえ、わかりました……」
「言っとくけど、逃げ出そうなんて思うなよ。チラとでもそんなそぶりを見せたら、この火の玉があんたのケツを焦がすぞ」
「め、滅相もありません。従わせていただきます」
よし。俺がウィルに目配せすると、ウィルと火の玉はゆらりと、ボウエブの近くを漂った。ボウエブが怯えた目で火の玉を見つめているが、もたもたしている時間はない。ウィルが脅すように火の玉を揺らすと、ボウエブはまさに尻に火が付いたように走り出した。
「あっちはウィルがうまくやってくれるだろ。俺たちは本丸を叩くぞ!」
俺が駆け出すと、フランとエラゼムも後に続く。アルルカは再びコウモリとなって、俺の肩にとまった。目指すは最終目的地、グラスゴウ邸本館。私兵を倒し、ネクロマンサーも倒したときたら、残るは大将のみだ。
グラスゴウ邸の大扉には、当然ながら鍵が掛かっていた。板チョコみたいな模様の分厚い扉を揺すってみたところで、俺じゃびくともしないだろうな。
「どいてて」
となれば、後はフランの出番だ。フランはとんとんとつま先を扉に当てると、ふぅと息をついた。次の瞬間、フランはキュッと靴を鳴らして、くるりと回転した。その勢いのまま、回し蹴りを放つ。ドダアアアァァァァン!
重厚な扉は、けたたましい音と共に蹴破られた。あまりの衝撃に、蝶番がひしゃげてしまっている。きっと二度と閉めることはできないだろう。
「開きやがれゴマって感じだな」
「え?ゴマ?」
「いや、何でもない。それより急ごう。屋敷中の人が目を覚ましただろうから」
俺たちの目指す部屋は、たぶん最上階にあるだろう。調べたわけじゃないが、偉い人の部屋ってのは、大抵上にあるもんだろ?
正面にあった大階段を風のように駆け上る。物音に目を覚ました使用人たちが、何人か廊下に顔を覗かせていたが、そいつらはスルーだ。目指すは、ただ一人のみ!
四階に上がると、目当ての部屋はすぐに見つけることができた。明らかに、他の部屋よりも扉が大きく、豪勢だったからな。確かめる必要もないだろう。
「ふっ!」
玄関と同じく、扉はフランの一蹴りによってぶち開けられた。ドガーン!
「なっ、な、なんだ!?」
「きゃあぁああ!」
複数人の女性の悲鳴と、うろたえる男の声。この部屋は寝室のようだった。真ん中に大きなベッドが置かれ、その上に小太りの中年と、数人の女性が寝ていて、何事かとこちらを凝視していた。
俺はそいつらの恰好を見て、びっくりした。なんと全員、服を着ていない。俺とエラゼムは奇妙なうめき声を発し、フランは全身からおっかないオーラを放った。アルルカは良く見ようと、俺の肩の上でもぞもぞ身を乗り出している。
「呆れたもんだな……外で兵士が戦ってたってのに、あんたいったい、何してたんだ?」
「だっ、誰だお前は!?私兵たちはどうした!」
ベッドの上で小太り中年が、顔を汗でテカらせながら叫ぶ。
「あんたの兵士たちは、全員伸びてるよ。それより、あんたがグラスゴウ伯爵だな?」
「なに?貴様ら、町の連中か!我が屋敷に押し入ったのだな!なっ、何が目的だ!」
「あー、その話はあとでしようか。それより、服を着たらどうだ?そんなんじゃ風邪ひくぜ」
「なんだと?何を……」
「今から、俺たちと一緒に外まで来てもらうのさ。あーっと……エラゼム、頼んでいいか?」
エラゼムはうなずくと、グラスゴウ伯爵へとずんずん歩き出した。フランに頼んでも良かったんだけど、彼女は近寄ることすら嫌そうだ。
「くっ、くるなぁ!」
グラスゴウ伯爵はベッドの上でひっくり返り、あろうことか女を突き飛ばして逃げようとした。ったく、どいつもこいつも。ボウエブより始末に負えないな。エラゼムも業を煮やしたのか、ジタバタもがく伯爵の首根っこを押さえつけると、シーツで伯爵をぐるぐる巻きにしてしまった。ちょうどいい、これなら公然猥褻にもならないだろう。
「さて、残るは……」
素っ裸の女たちは、ベッドから転げ落ちて、部屋の隅で震えていた。奥さんか恋人……じゃ、ないだろうな。その女には全員、家畜がするような首輪がされていた。そして、胸のあたりの素肌には……
「……ちっ。あの人たちも、買われたのか」
ボウエブと一緒だ。この伯爵は、何でも金で買わないと気が済まないのか?
エラゼムは簀巻きにした伯爵を担ぐと、こちらへと戻ってくる。
「フラン嬢。不愉快なのは重々承知ですが……」
「……わかってる」
フランは心底嫌そうに、簀巻き伯爵を受け取った。彼女には、彼と一緒に行ってもらわなきゃならない場所がある。
「じゃ、手筈どおりに。そっちは頼んだぜ」
「ん」
フランはこくりとうなずくと、伯爵を担いで部屋を出ていった。
「うし、それじゃ俺たちは、俺たちの仕事をしよう」
フランが行ったのを見届けると、俺は部屋の隅で震える女たちに、なるべく丁寧に声を掛ける。
「あのー。すみません、こんな騒がしくして。ただ、ちょっと聞きたいことがあるんです」
「……ぇ?」
「あの、決して乱暴はしないんで。もし知ってたら教えてほしいんですけど……この家の家系図って、どこにあるんです?」
つづく
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