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13章 歪な三角星
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「ええええぇえぇぇぇ!!!」
ななな、なんだって!?あの親父さん、ジルが、勇者の元パーティー?俺とウィルとライラは、そろって大声を上げた。フランとエラゼムも驚いた顔をしている(エラゼムは俺の想像だ)。伸びているアルルカだけは無反応だったが……
「どど、どうしたんですか!?」
俺たちの大声を聞きつけたのか、クリスが血相を変えて厨房から走ってきた。
「い、いや。どうしたって言うか、こっちが聞きたいって言うか……その、親父さんのことを話していたんだけれど」
「アタシが、どうかしまして?」
わっ。クリスの後ろからは、前掛けで手を拭くジルもやってきた。親父さん、確かにガタイはいいと思っていたけれど……俺たちが唖然とする中で、クレアだけが陽気に笑っている。
「あー、父さんも来たの~?どうせなら、みんなで飲みましょ~よ~」
「ああ?お前また、そんなになるまで酔っ払って……クリス!お前、姉さんをベッドまで連れてってやれ」
「うん。ほらお姉ちゃん、いくよ」
「えぇー!やだやだぁ、まだ飲みたいよぉ」
子どものように駄々をこねるクレアを、クリスがダメ!と叱りつけて引っ張っていく。あれじゃどっちが姉だかわからないな。クリスがきびきびと、クレアがしぶしぶと部屋へと消えると、ジルは申し訳なさそうに頭をかいた。
「すみませんねえ、皆さん。うちのでっかいのが、うるさかったでしょう。酒の席のことだと思って、どうか水に流してやってくれませんか」
「え?……ああいや、怒って大声出したわけじゃなかったんだ。その、びっくりしたというか」
「あ、そうだったんですかい?けど驚いたって、あいつ一体、何を言ったんです?」
「あー……その。親父さんって、その……勇者の、元パーティーだったって」
「んなっ……」
そのとたん、ジルのごつい顔がしわくちゃになった。うわわ、地雷踏んだか?
「……んのやろう。明日とっちめてやらねえと。ったく」
「え、えっと……ごめんな、余計なこと聞いちゃって」
「いえ、お客さん方は悪くねえ。あいつが酔って口滑らせただけの事ですから、気にしないでください」
「そ、そうか?」
けどそうは言うけど、さっきのリアクションは、明らかに古傷に触れられた感じだったぞ。ああ、だけど気になる!ジルがいた勇者パーティーは、一体どんなだったんだろう?単純な好奇心もあるけど、俺も元勇者だから、先輩の話は聞いてみたい。キサカに聞いた件もあるし……すると、そんなそわそわする俺の様子を察してくれたのか、エラゼムが落ち着いた声で問いかける。
「ご主人。確か以前、この宿は代々継いで来たものだとおっしゃっていてはなかったか?」
あ、確かに。勇者パーティーをやっている間、宿はどうしていたんだろう。
「……アタシが勇者の仲間をやっていたのは、もう二十年以上も前のことでさあ」
ジルはしかめっ面でそう言うと、近くの椅子を引っ張って来て、俺たちのそばに座った。
「はぁ。知られちまったからには、ごまかしようもないです。そこの騎士様の言う通り、アタシは若いころは、戦士としてあちこち放浪していたんですよ。宿は親父が切り盛りしてました。当時のアタシは、なんというか、青かったもんですから。宿の主人なんて、まっぴらごめんだったわけです」
ははー、戦士。どうりで体がおっきい。いや、恵まれた体格だったからこそ、戦士を志せたのか。
「左様でしたか。さすらいの戦士から、勇者の仲間まで昇格なさるとは、かなりの腕だったのでしょうな」
「なぁに、大したことはありませんよ。当時は大陸でも五本の指に入ると自負してましたがね。まあそんくらいの歳の戦士っていうのは、誰もかれもがそう思ってるもんですから。しかし何の因果か、王都をうろついてたところを勇者にスカウトされちまいまして、そのまま成り行きで、いっしょに行くことになったんでさ」
「その時期となると……ご主人が同行していた勇者は、もしや」
時期?さっきジルは、二十年前って言っていたっけ。二十年……
「あ!まさか……?」
「……その通り。アタシが当時いたのは、勇者セカンドのパーティーです」
せ、セカンドの!二の国最悪の勇者と呼ばれるあいつにも、パーティー仲間がいたんだ!ジルは当時のことを思い出すように、目尻に小じわを寄せる。
「セカンド……誤解しないでいただきたいんですがね。アタシがあいつと出会った当時、あいつはまだほんの子どもでした。どこにでもいるような、いやむしろどこか弱弱しく見えるような、そんなガキんちょです」
そうなの?いや、そうか……セカンドも召喚された時は、俺と同い年くらいだったと聞いている。この世界に召喚されたばかりで、まだ慣れていなかったんだろう。けれど、セカンドの悪評を聞いて育ってきたウィルやフランは、それが信じられないみたいだ。ジルがうなずく。
「ええ、なかなか信じられないでしょう。ですがね、あの極悪人にも、人の子だった時が確かにあったんです。アタシも、ほかの仲間たちも、誰もあいつの正体に気付けなかった。いやむしろ、気付けていたなら、あんなことには……」
あんなこと……だがセカンドがいなければ、フランやロア、コルトみたいなセカンドミニオンは生まれてこなかった……複雑な心境だ。
「……ご主人は長期にわたって、かの勇者と行動を共にしていたのですか?」
「いいえ。ある時期から、あいつは自分の周りに人を置いとかなくなりました。いや、より正確に言や、男を寄せ付けなくなったって感じですかね。なるべく若くてきれいな娘を侍らせようと、躍起になってました。ま、正直に言えば、気持ちもわからんでもなかった。アタシも若い男でしたから、お盛んなのも理解できるってもんです。ちょうどその頃、ファーストに娘が産まれてましたから、焦る気持ちもあったんでしょうね」
ファーストの娘……アルアのお母さんか。セカンドは、同年代が結婚して子どももいて、それで自分も遅れまいとしたんだな。ジルの言う通りだ、気持ち分かるかも。
「まぁとは言え、アタシも邪険にされてまでお供しようとは思いませんでしたから。アタシはやつの下を離れ、その内に嫁さんと出会って、あいつらを授かったのを節目に戦士を引退しました。親父が死んで、そんでまあ、いろいろありまして、女房が出て行ってからは、アタシが主人としてやってきたってわけでさ」
「そうでしたか。戦士としての自分よりも、よき父であろうとされたのですな。ご立派な決断だったと思います」
「よしてくだせえ。若いころにほっつき歩いてたせいで、宿もこのありさまです。なんとかクリスの代まで繋いでやらないと、ご先祖に顔向けできねえ」
ジルは肩を落とす。まあ確かに、ここはちょいと寂れているしな……場がしんみりしたところで、ライラが口を開いた。
「ねえ。クレアおねーちゃんが、お前が三冠の宴を見たことあるって言ってたけど。ほんとーなの?」
ライラの空気を読まない質問に、ジルは片眉を上げた。
「え?ええ、確かに。セカンドのパーティーを離れる最後の年に、その宴が開かれたんでさ。アタシはくっ付いて行っただけでしたが、噂にたがわぬすばらしさでしたよ。なるほど、クレアはこの話を皆さんにしていて、口を滑らせやがったんですね?まったく。あいつはこの話が大好きで、なんどもなんども話してくれてせがまれたもんですよ」
「ふーん。じゃあ、ぜんぶほんとなんだ……」
「そうだと思いやすぜ。あいつの誇張が入ってないとは言い切れやせんが、素晴らしいという言葉に相応しい催しだということは保証できます。ひょっとして、また近頃開かれるんですかい?」
「うん。桜下が王女さまに……」
「わーわー!ジル、ありがとう!参考にナッタヨ!」
俺は大声でライラを遮った。ライラはハッとして、自分の口を押えた。ったくもう、うっかりしすぎだ!ジルはきょとんとしていたが、ニッと笑って立ち上がった。
「確かに。アタシのつまんない話も、そろそろ終いにしましょう。そろそろ明日の仕込みに戻らねえと。ちっ、クリスのやつ、いつまで手間取ってんだか。ささ、みなさんも長旅でお疲れだ。すこぶる快適とは言えませんが、ゆっくり休んでくだせえ」
ジルの口ぶりには、この話はここまでだというメッセージを感じた。もう少しいろいろ聞いてみたい気もしたけれど、あまり根掘り葉掘り聞くのも悪いよな。俺たちは腰を上げて、自分たちの部屋がある二階へと引き上げた。
「お姉ちゃん!はなしてー!」
「クリスぅ~。いっしょに寝よ~よ~」
「……」
どうりでいつまでたっても戻ってこないわけだ。不埒な姉にベッドに引きずり込まれていたクリスを救出して、その日は終わりを告げたのだった。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「ええええぇえぇぇぇ!!!」
ななな、なんだって!?あの親父さん、ジルが、勇者の元パーティー?俺とウィルとライラは、そろって大声を上げた。フランとエラゼムも驚いた顔をしている(エラゼムは俺の想像だ)。伸びているアルルカだけは無反応だったが……
「どど、どうしたんですか!?」
俺たちの大声を聞きつけたのか、クリスが血相を変えて厨房から走ってきた。
「い、いや。どうしたって言うか、こっちが聞きたいって言うか……その、親父さんのことを話していたんだけれど」
「アタシが、どうかしまして?」
わっ。クリスの後ろからは、前掛けで手を拭くジルもやってきた。親父さん、確かにガタイはいいと思っていたけれど……俺たちが唖然とする中で、クレアだけが陽気に笑っている。
「あー、父さんも来たの~?どうせなら、みんなで飲みましょ~よ~」
「ああ?お前また、そんなになるまで酔っ払って……クリス!お前、姉さんをベッドまで連れてってやれ」
「うん。ほらお姉ちゃん、いくよ」
「えぇー!やだやだぁ、まだ飲みたいよぉ」
子どものように駄々をこねるクレアを、クリスがダメ!と叱りつけて引っ張っていく。あれじゃどっちが姉だかわからないな。クリスがきびきびと、クレアがしぶしぶと部屋へと消えると、ジルは申し訳なさそうに頭をかいた。
「すみませんねえ、皆さん。うちのでっかいのが、うるさかったでしょう。酒の席のことだと思って、どうか水に流してやってくれませんか」
「え?……ああいや、怒って大声出したわけじゃなかったんだ。その、びっくりしたというか」
「あ、そうだったんですかい?けど驚いたって、あいつ一体、何を言ったんです?」
「あー……その。親父さんって、その……勇者の、元パーティーだったって」
「んなっ……」
そのとたん、ジルのごつい顔がしわくちゃになった。うわわ、地雷踏んだか?
「……んのやろう。明日とっちめてやらねえと。ったく」
「え、えっと……ごめんな、余計なこと聞いちゃって」
「いえ、お客さん方は悪くねえ。あいつが酔って口滑らせただけの事ですから、気にしないでください」
「そ、そうか?」
けどそうは言うけど、さっきのリアクションは、明らかに古傷に触れられた感じだったぞ。ああ、だけど気になる!ジルがいた勇者パーティーは、一体どんなだったんだろう?単純な好奇心もあるけど、俺も元勇者だから、先輩の話は聞いてみたい。キサカに聞いた件もあるし……すると、そんなそわそわする俺の様子を察してくれたのか、エラゼムが落ち着いた声で問いかける。
「ご主人。確か以前、この宿は代々継いで来たものだとおっしゃっていてはなかったか?」
あ、確かに。勇者パーティーをやっている間、宿はどうしていたんだろう。
「……アタシが勇者の仲間をやっていたのは、もう二十年以上も前のことでさあ」
ジルはしかめっ面でそう言うと、近くの椅子を引っ張って来て、俺たちのそばに座った。
「はぁ。知られちまったからには、ごまかしようもないです。そこの騎士様の言う通り、アタシは若いころは、戦士としてあちこち放浪していたんですよ。宿は親父が切り盛りしてました。当時のアタシは、なんというか、青かったもんですから。宿の主人なんて、まっぴらごめんだったわけです」
ははー、戦士。どうりで体がおっきい。いや、恵まれた体格だったからこそ、戦士を志せたのか。
「左様でしたか。さすらいの戦士から、勇者の仲間まで昇格なさるとは、かなりの腕だったのでしょうな」
「なぁに、大したことはありませんよ。当時は大陸でも五本の指に入ると自負してましたがね。まあそんくらいの歳の戦士っていうのは、誰もかれもがそう思ってるもんですから。しかし何の因果か、王都をうろついてたところを勇者にスカウトされちまいまして、そのまま成り行きで、いっしょに行くことになったんでさ」
「その時期となると……ご主人が同行していた勇者は、もしや」
時期?さっきジルは、二十年前って言っていたっけ。二十年……
「あ!まさか……?」
「……その通り。アタシが当時いたのは、勇者セカンドのパーティーです」
せ、セカンドの!二の国最悪の勇者と呼ばれるあいつにも、パーティー仲間がいたんだ!ジルは当時のことを思い出すように、目尻に小じわを寄せる。
「セカンド……誤解しないでいただきたいんですがね。アタシがあいつと出会った当時、あいつはまだほんの子どもでした。どこにでもいるような、いやむしろどこか弱弱しく見えるような、そんなガキんちょです」
そうなの?いや、そうか……セカンドも召喚された時は、俺と同い年くらいだったと聞いている。この世界に召喚されたばかりで、まだ慣れていなかったんだろう。けれど、セカンドの悪評を聞いて育ってきたウィルやフランは、それが信じられないみたいだ。ジルがうなずく。
「ええ、なかなか信じられないでしょう。ですがね、あの極悪人にも、人の子だった時が確かにあったんです。アタシも、ほかの仲間たちも、誰もあいつの正体に気付けなかった。いやむしろ、気付けていたなら、あんなことには……」
あんなこと……だがセカンドがいなければ、フランやロア、コルトみたいなセカンドミニオンは生まれてこなかった……複雑な心境だ。
「……ご主人は長期にわたって、かの勇者と行動を共にしていたのですか?」
「いいえ。ある時期から、あいつは自分の周りに人を置いとかなくなりました。いや、より正確に言や、男を寄せ付けなくなったって感じですかね。なるべく若くてきれいな娘を侍らせようと、躍起になってました。ま、正直に言えば、気持ちもわからんでもなかった。アタシも若い男でしたから、お盛んなのも理解できるってもんです。ちょうどその頃、ファーストに娘が産まれてましたから、焦る気持ちもあったんでしょうね」
ファーストの娘……アルアのお母さんか。セカンドは、同年代が結婚して子どももいて、それで自分も遅れまいとしたんだな。ジルの言う通りだ、気持ち分かるかも。
「まぁとは言え、アタシも邪険にされてまでお供しようとは思いませんでしたから。アタシはやつの下を離れ、その内に嫁さんと出会って、あいつらを授かったのを節目に戦士を引退しました。親父が死んで、そんでまあ、いろいろありまして、女房が出て行ってからは、アタシが主人としてやってきたってわけでさ」
「そうでしたか。戦士としての自分よりも、よき父であろうとされたのですな。ご立派な決断だったと思います」
「よしてくだせえ。若いころにほっつき歩いてたせいで、宿もこのありさまです。なんとかクリスの代まで繋いでやらないと、ご先祖に顔向けできねえ」
ジルは肩を落とす。まあ確かに、ここはちょいと寂れているしな……場がしんみりしたところで、ライラが口を開いた。
「ねえ。クレアおねーちゃんが、お前が三冠の宴を見たことあるって言ってたけど。ほんとーなの?」
ライラの空気を読まない質問に、ジルは片眉を上げた。
「え?ええ、確かに。セカンドのパーティーを離れる最後の年に、その宴が開かれたんでさ。アタシはくっ付いて行っただけでしたが、噂にたがわぬすばらしさでしたよ。なるほど、クレアはこの話を皆さんにしていて、口を滑らせやがったんですね?まったく。あいつはこの話が大好きで、なんどもなんども話してくれてせがまれたもんですよ」
「ふーん。じゃあ、ぜんぶほんとなんだ……」
「そうだと思いやすぜ。あいつの誇張が入ってないとは言い切れやせんが、素晴らしいという言葉に相応しい催しだということは保証できます。ひょっとして、また近頃開かれるんですかい?」
「うん。桜下が王女さまに……」
「わーわー!ジル、ありがとう!参考にナッタヨ!」
俺は大声でライラを遮った。ライラはハッとして、自分の口を押えた。ったくもう、うっかりしすぎだ!ジルはきょとんとしていたが、ニッと笑って立ち上がった。
「確かに。アタシのつまんない話も、そろそろ終いにしましょう。そろそろ明日の仕込みに戻らねえと。ちっ、クリスのやつ、いつまで手間取ってんだか。ささ、みなさんも長旅でお疲れだ。すこぶる快適とは言えませんが、ゆっくり休んでくだせえ」
ジルの口ぶりには、この話はここまでだというメッセージを感じた。もう少しいろいろ聞いてみたい気もしたけれど、あまり根掘り葉掘り聞くのも悪いよな。俺たちは腰を上げて、自分たちの部屋がある二階へと引き上げた。
「お姉ちゃん!はなしてー!」
「クリスぅ~。いっしょに寝よ~よ~」
「……」
どうりでいつまでたっても戻ってこないわけだ。不埒な姉にベッドに引きずり込まれていたクリスを救出して、その日は終わりを告げたのだった。
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