じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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13章 歪な三角星

5-1 シェオルリゾート

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5-1 シェオルリゾート

「ねぇー、本当にこの道であってたの?」

「いやだって、さっき会ったおじさんはそうだって言ってたじゃないか」

「そうだけど……どんどん山に入ってくじゃん」

「まあ……ちょっと、俺も不安になっては来たけども」

俺は次第に薄れていく道と、次第に濃くなっていく頭上の枝葉を交互に見てから、ごくりとつばを飲んだ。
ラクーンを出てからは、以前も通った三の国へ続く道を、ただまっすぐ進むだけだった。見知った道ゆえに、不安も感じちゃなかった。が、クレアに教えてもらったオンドル村へ続く道に舵を切ってからは、俺たちの表情は次第に曇っていっている。
道は荒れ果て、道と呼べるかすら怪しいありさまだ。木々の合間にできたすき間を進んでいると言った方がいいだろう。頭上にはアーチのように枝が伸び、天然のトンネルの中を歩いているようだ。巡礼街道も大概酷い状態だったけど、ここを見た後だと、あそこが立派な大通りに思えてくる。

「でも、間違ってはいないはずですよ。ヘイズさんにもらったパンフレットにも、この道だって書いてありましたもん……」

そういうウィルの声には、ちっとも自信がない。でも、確かにそうなんだ。あのパンフにもオンドルのことは書いてあったし、念のため道を逸れる前に、途中ですれ違った荷馬車のおじさんに確認もしておいた。間違いなく、この先には村があるはずなんだ!
が、俺もそれを口に出す気にはなれなかった。かれこれ三時間くらい山道を進んでいる気がする。悪路が続くせいで、ストームスティードはのろのろとしか歩けない。うっそうと茂った木々のせいで視界も悪く、曲がりくねった道は先も見通せない。行けども行けども人の住んでいる痕跡は見つからず、そのせいで人跡未踏の地に分け入っているような感覚になってくるものだから、俺たちはすっかり気が滅入ってしまっていた。

「ここまでも一本道でしたし、迷う心配はないはず……ですよね?」

「ああ……クレアも奥まったところにある村だって言ってたから、きっとこの先にあるんだろう……それとも、あんまりに目立たな過ぎて、通り過ぎたなんてことはないよな?」

「や、やだ!不安になるようなこと言わないでくださいよ!」

ウィルがガクガクと揺すぶるので、俺は危うく馬から落っこちそうになった。ずっと馬に乗り続けたせいでケツが痛い。それでも休憩しようと言い出さなかったのは、一秒でも早く村を見つけて安心したかったからに他ならない……

「……ん。なんだろう、今の」

お?俺たちの隣を歩いていたフランが、ふいに目を細めた。何かが見えたのか?

「おお!まさか、人を見つけたか?」

「わかんない。何かが動いた気がしたんだけど……」

フランは前方の茂みのあたりを注視しているようだ。人じゃなければ、動物?茂みは濃い緑の葉を無数に付けているが、葉っぱは静かなままで、中に何かがいる気配はない。

「……気のせい、だったかな」

フランはそう言いはするが、足を動かそうとはしない。彼女の目の良さを知っている俺も、スッキリしない気分だ。比較的人気ひとけの多い街道ならいざ知らず、こういう獣道では、文字通りモンスターが出てきてもおかしくはない。

「待ちなさい。前じゃないわ。後ろよ」

枝葉のせいで翼が使えず、地面を歩いていたアルルカが、後ろを振り返った。俺も首を反転させる。するとそこには、前にあるのとそっくりな、濃い緑の茂みがあった。あれ?さっきあそこを通った時、あんな茂みあったっけ?

「……っ!それだけじゃありませんよ!右にも、左にも!」

え?うわ、本当だ!いつの間にか俺たちの周りに、緑の葉がいくつも茂っているじゃないか。一瞬で生えたわけはないから、これはつまり……

「……ジュラララララ!」

うわあー!茂みが突然起き上がり、地面の下から木の根のような姿の、鋭い牙を持つモンスターが現れた!アニが警告するように小刻みに揺れる。

『アルラウネ!ここはやつらの群生地です!』

あ、アルラウネだって?その植物のようなモンスターは、いつの間にか俺たちを完全に包囲していた。その数の多いのなんの、山全体がうごめいているみたいだ。こんなになるまで、全く気が付かなかったなんて!草木そっくりのせいで、山道に完全に溶け込んでいたんだ。

「とんでもない数だ……!こんなの相手にしてたら、キリがないぞ!」

「同感ですな!ウィル嬢!前方に炎を!」

「は、はい!」

ウィルが詠唱を開始する。ライラはストームスティードに意識を集中しているので、今はウィルだけが頼りだ。ほどなくして、呪文が山間にこだました。

「トリコデルマ!」

ブワー!赤熱した火の粉が、前方広範囲にまき散らされた。火の粉に当たったアルラウネはジュウジュウと焼け焦げ、狂ったように走り回る。

「ジェラジェラジェラ!?」

「続けて、ファイアフライ!」

そこに蛍光色の炎が威嚇するように飛び込むと、恐れをなしたアルラウネたちはざざーっと左右に広がった。前方に道が開く!

「エラゼム!」

「承知!押し通ります!」

そう叫ぶやいなや、ストームスティードは急発進した。うわっと!慌ててエラゼムの鎧にしがみつく。俺たちはアルラウネの大群の間を、矢のように疾走していく。ウィルがファイアフライでけん制しているので、アルラウネもうかつには近づいては来られない。しかし、連中の執念も相当のようだ。牙の隙間から気味の悪いよだれを垂らしながら、じりじりと包囲網を組みなおそうとしている。

「トリコデルマ!」

ウィルの二度目の攻撃。ジュジュゥー!ジュララララ!?
アルラウネは煙を上げながら逃げ惑い、前方の包囲にぽっかりと穴が開いた。よし!あそこから抜けちまえば!だが飢えたアルラウネたちは、前が駄目だと悟ると、今度は後方から植物とは思えない速度で迫ってきた。葉っぱがこすれるざわざわという音と、身の毛もよだつ鳴き声がぴったりと追いかけてくる。ひいぃ、背中に鳥肌が!
奴らが猛追を始めると、仲間の中から遅れる者が出た。アルルカだ。やつはトンネルのように茂る木々のせいで、翼を展開できない。それでも足は遅くはないのだけれど、アルラウネどものスピードにはわずかに負けている。差がじわじわと詰まってきているんだ。木の根のような触手がすぐ後ろまで迫っているので、さすがのアルルカも血相変えて、必死に走っている。だけどこれじゃ、時間の問題だ!

「遅い!乗って!」

フランが鋭く叫んだ。今の、アルルカに言ったのか?だが当のアルルカも、自分に言われたのかどうかわかっていないようだ。困惑してもたつく彼女に、フランは舌打ちをすると、するりと自分の体をアルルカの懐に潜り込ませた。そして次の瞬間には、荷物を担ぐように彼女を肩に乗せて走っていた。

「なぁ!?ちょ、ちょっと……」

「黙れ!放り投げるよ!」

ぴしゃりと跳ね除けると、フランはさらに速くなった。自分よりでかいやつをしょっているとは思えない走りだ。アルルカはぐっと歯噛みすると、悔しそうに叫んだ。

「余計なマネを!助けたなんて思うんじゃないわよ!」

アルルカは腕を伸ばして、杖だけを後ろに向けた。

「ウォール・オブ・レインディア!」

ザザザー!バキバキバキ!
俺たちの後方に、そり立つ氷の壁が出現した。疾走していたアルラウネたちは、壁にぶつかってずしずしと折り重なる。よし、いまだ!ぐんと加速して、ストームスティードとフランは、アルラウネの包囲網を突破した。だがまだ油断できない。それでもアルラウネたちは、追跡をあきらめてはいない。久方ぶりのごちそうを絶対に逃がしてなるものかという気迫を感じるぜ。それをわかっているのか、エラゼムもフランも速度を緩めはしなかった。
だけど、ああ、冷や冷やするぞ!もともと道が悪すぎて、馬を歩かせていたくらいなんだ。俺のすぐわきを、びゅんびゅんと尖った木々の枝が通り過ぎている。エラゼムが少しでも手綱さばきを誤れば、俺たちはたちまち木に激突するか、枝に体を貫かれることとなるだろう。それだけでも血の気が引くが、後から追ってきたアルラウネどもがそれを見つければ、俺たちが勝手に活け造りになったと大喜びするはずだ。その後どうなるかなんて、考えたくもない。
俺は祈る気持ちでエラゼムの鎧を握りしめた。その辛い時間は、永遠に続くようにも感じられるほどだった……アルラウネの怨嗟の叫びが完全に聞こえなくなるまで、俺たちはスピードを緩めず、山道を全力で走り続けた。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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