じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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14章 痛みの意味

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「ぐっ……」

まぶた越しにも分かる猛烈な光が、徐々に弱まっていく。俺はそろそろと目を開けたが、光が網膜に焼き付いていて何も見えない。

「みんな……いるのか?」

俺は手をふらふらと伸ばした。何か、触れるものはないだろうか……すると指先に、ふにりとした感触があった。

「……ちょっと」

「お?その声、フランか?」

「そうだけど……どこ触ってるの」

「え?どこ触ってるんだ……?」

「わたしの胸」

うわっちゃっちゃ!俺は大慌てで腕を引っ込めたが、その拍子にバランスを崩して、どしんと尻もちをついてしまった。うぅ……目が見えないだけで、バランスを保つのがここまで難しくなるとは。

「すまん、フラン……他のみんなはいるのか?」

すると口々に、ウィル、エラゼム、そしてアルルカの声が聞こえてきた。

「いる。……いや、一つ訂正」

「うん?」

「ライラ。あの子だけがいない」

「……っ!」

そうだ、あの時!ライラに手を伸ばそうとして、それで……俺はぎゅっと固く目を閉じ、ぱっと開いた。うすぼんやりとだが、フランの輪郭が見える。よし、だいぶ慣れてきたな。

「あの、くそ魔導士め!最初からライラが目的だったんだ!」

「みたいだね。でも、あの子の何が目的なんだろう」

「わっかんねえ。大方、四属性と何か関係があるんだろうが……」

ライラから四属性の秘密でも聞き出すつもりか?だが当のライラだって、それを理解してはいないのだから、答えられるはずもない。でも、あの老魔導士が、それで「はいそうですか」と納得するとも思えない……

「このままじゃ、ライラが危ない!早く助けに行かないと!」

「わかってる。けど……」

フランが周りを見るような仕草をする。くっ、俺の目には何も見えないな……あっ、アニがいたじゃないか。そんな事も忘れていたなんて、ずいぶん動転していたらしい。俺もシャツの下からアニを取り出して、周囲の様子を伺ってみた。
アニの青白い光に照らし出されたのは、洞窟の石壁だった……だけど、天然のものじゃない。人の手によって削られた、人工的な洞窟だ。

「どこだ、ここ……?」

するとウィルが、暗闇の中から俺たちのそばへやってきた。こうして見ると、本当に幽霊みたいだな……なんて、どうでもいい事を考えてしまった。
彼女は恐怖に顔を引きつらせながら、自分の予想を口にする。

「ここって、あの魔導士が言っていた……ダンジョンってやつの中、なんじゃないでしょうか?」

「ダンジョン……それじゃあここは、あいつが作った迷宮ってことか?」

「たぶん……少なくとも普通の洞窟では、絶対にありません」

「いやにはっきり言い切るな。何かあったか?」

「すり抜けられないんです。いつかの、試練の部屋と同じように」

なんだって。幽霊であるウィルがすり抜けられない……?

「前にも、こんなことがあったな」

「ええ。あれは、ロウランさんの遺跡でのことでしたが……」

「でもあん時は、みんなが見せられた幻覚での出来事だった。けど今は、紛れもない現実だ」

ウィルが動けるのなら、ライラの様子を見てきてもらえたのに……くそ、痛いな。

「魔術師が作ったダンジョンだもんな……その辺の対策は抜かりないってわけか。ちくしょ……」

「ダーリン!大丈夫なの!?」

うわぁ!何の脈絡もなく、目の前一杯に女の子の顔が現れた。

「び、びっくりした。ろ、ロウランか?」

「そうだよ!ねえ、怪我はない?」

突然現れたロウランは、取り乱した様子で、しきりに俺の体をあちこち触ってくる。く、くすぐったいな。

「大丈夫だって、ロウラン。それよりお前、状況分かってんのか?」

「ああ、よかった……うん。だってアタシ、姿は霊体だけど、ちゃんとダーリンたちのことは見えてるって言ったじゃない」

ああ、そう言えばそうだっけ。

「あ、そうだロウラン!お前なら、このダンジョンの壁を抜けられないか?」

「え?うーん、試してみるけど……」

ロウランは、壁に手で触れてみた。だが白い指は、壁に阻まれて、突き抜けることはなかった。

「ごめんね。ダメみたい」

「ちくしょう……」

俺はイライラと首を振った。やっぱり、そううまくはいかないか。
俺たちが話しているうちに、エラゼムとアルルカも、闇の中から現れた。二人とも俺たちの話を聞いていたようで、深刻そうな空気を纏っている。

「ゴーストすらも対策済みということは……おそらく、破壊も難しいでしょうな。しかし、一度試してみましょう」

エラゼムはそう前置きしたうえで、大剣の角で壁を突き刺してみた。ガキィーン!エラゼムの剣は、あっけなく跳ね返された。まるで鋼の塊を叩いた様な音だ。
念には念を入れてフランも試してみたが、やはり駄目だった。フランの渾身のストレートでも、岩壁にはかすり傷が付いただけだった。穴を開けるには、あと千発以上殴らないといけないだろうな。

「壊せないとなると……出口を探すしかないか」

しかし、アルルカは首を横に振ると、不機嫌そうに壁を蹴っ飛ばす。

「それはどうかしら、ねっ!(ドカッ)……このクソ忌々しい迷宮を作ったのが、あのクソよぼよぼジジイなんだとしたら、事はそう簡単じゃないわよ」

「なに?おい、このダンジョンを突破するのが簡単だなんて、俺も思っちゃないぞ」

「そーじゃないわよ。チッ、鈍いわね。いい?あたしだったら、邪魔者を始末するための施設に、わざわざ非常口を設けたりはしないわ」

「あ……」

さーっと、血の気が引いた。他の仲間たちの顔も強張る。

「じゃあ、ここには……出口は、ない?」

「そっちの方が現実的だと思うわよ。わざわざゴールを設定する意味がないもの。ここから一生出てこられないほうが、あっちも都合がいいでしょうしね」

そんな……出口もない、破壊もできないのだとしたら、脱出手段は無いに等しい。ここに来た時点で、もうおしまいなのか……?

「……ちがう」

悲嘆に暮れかけた俺を引き戻したのは、フランの一言だった。

「その考えは、あまりにもネガティブ過ぎる」

「なによ。じゃああんたはポジティブに、どこかに必ずゴールがある、そこであのジジイが花束を持って出迎えてくれるって思ってるわけ?」

「そうじゃない。わたしも、“ゴール”はないと思ってる。けど、“出口”くらいならあってもおかしくない」

「……どういう意味よ」

ゴールはないが、出口はある……?どちらも同じ意味に聞こえるが、二つに違いはあるのか……?

「例えば、このダンジョンでなんらかのアクシデントがあったら?実は一か所壁が壊れていて、そこから容易に抜け出せるとしたら」

「はあ?その壊れた壁を探そうっての?バッカじゃないの。んなもんがあったら、とっくにジジイが塞いでるわよ」

「どうやって?」

「だぁーかーらー、どうもクソも、ジジイがちょいちょいっとやれば……」

「だから、どうやって?ここに出口がないんなら、誰も入ってこれないのに?」

……あ!そういうことか!

「メンテナンスハッチ!」

俺が叫ぶと、フランはこくりとうなずいた。

「もし何か不具合があった時、出入り口がないと対応できない。これだけ大掛かりな施設が、一回きりの使い捨てなわけないし」

「そうか、確かにそうだ!さっきあいつは、ミノタウロスだかを飼ってるって言ってたぞ!モンスターだって、餌をやらなきゃ死んじまうはずだ!餌やりにも出入り口がいる!」

仲間たちの顔も、次第に生気を取り戻していく。もう死んでいるけど、それでも今だけ生き返ったみたいだ。

「アルルカの言う通り、わたしもここにはゴールはないと思う。けど……」

「フランの言う通り、出口は必ずあるはず。そこを見つければ。脱出の手段はある!」

俺は胸の中に、希望がむくむくと湧きおこるのを感じた。

「よおーし!それなら、さっそく始めようぜ!こんなダンジョン、とっとと攻略してやろう!」

俺は意気揚々と進みだそうとしたが、そんな俺の腕を、ロウランが引き留めた。

「待って、ダーリン。ダンジョンを舐めちゃダメなの」

「な、なんだよロウラン。別にそんなつもりじゃ……」

「ダンジョンは、普通の場所じゃないの。正しい進み方をしないと、あっという間に死んじゃうよ」

なにを、そんな……しかし、ロウランの目はあくまで真剣だった。

(そういやロウランは、罠だらけの地下遺跡の姫君だったっけ。だからダンジョンについても詳しいのか)

すると、エラゼムまでもが、ロウランの肩を持った。

「桜下殿、吾輩もロウラン嬢に賛同します。差し出がましい真似をいたしますが、ここは一つ、吾輩の話を聞いていただけませぬでしょうか」

「話?」

「ええ……吾輩の生前になりますが、城の騎士の中に、元冒険家だった男がおりました。吾輩よりも一回りほど上の世代でして、百戦錬磨の熟練者だった方です」

「はぁ……」

いきなり何の話だろう。だけどエラゼムは、こんな時に無駄話をするようなやつじゃない。俺は彼の話に耳を傾けた。

「その人は、冒険家だったって?ひょっとして、こんなようなダンジョンにも潜ったことがあるのか?」

「ご明察。彼は昔の冒険譚を語る時には、必ずこう言っておりました。『地上で最も恐ろしい場所は、怒ったカミさんの前だ。だが地下で最も恐ろしい場所はダンジョンだ』、と」

前半で笑いそうになってしまったが、後半でそれも吹き飛んだ。

「彼はかくように語りました。『ダンジョンとは、たいていが魔術師の腕を誇示するために作られるものだが、魔術師というのは往々にして悪意ある人種である。その悪意を持ってして、薄暗く逃げ場のない地下に、恐ろしい罠やモンスターがそこかしこに散りばめられている。すなわちダンジョンとは、悪夢をこの世に再現した場所である』、と」

「悪夢、か……」

「彼の話が誇張であったとは、吾輩は考えておりません。彼は素晴らしい腕の持ち主でしたが、ダンジョンには生涯で二度しか挑まなかったそうですから。そしてその二度目で、命を落としたのです」

「え。ど、どうして。だってその人、騎士だったんだろ?なんでダンジョンなんかに行ったんだ……?」

「はい。一度目は失敗し、命からがら逃げかえった後、冒険家を引退して騎士となりました。そして二度目は、彼の息子を救出するべく向かったのです。息子は父の後を追って冒険家となり、そしてかつての父が破れた壁を、自分こそが超えようとしたのです」

「……それ、どうなったんだよ」

「……二人とも、戻ってはきませんでした」

エラゼムの声は淡々としていた。
俺は今いる場所を、とてつもなく恐ろしい場所のように感じ始めていた。だが一方で、エラゼムが怖がらせるためだけに、この話をしたわけではないのだろうとも思っていた。

「エラゼム。お前なら、ここを突破できるか?」

「はい。……大船に乗ったつもりで、などと大口は叩けませぬが。それでも、彼からひとしきりの知識は教わっています。吾輩の持ちうる智見をすべて動員し、必ずや桜下殿を、無事に導いて見せましょう。そして、吾輩のみならず、ロウラン嬢も、他の皆様も、お力をお貸しくださるはずです」

ロウランは力強くうなずき、それはみんなも同じだった。

「……わかった。なら頼んだぜ、エラゼム。お前を信じるよ」

「御意に」

エラゼムは胸に拳を当てると、深々と礼をした。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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