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14章 痛みの意味
8-1 迷宮
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8-1 迷宮
「この部屋のどっかに、罠があるんだよな……」
俺はそう呟くと、暗く広い部屋をぐるっと見渡した。
エラゼムいわく、この部屋はダンジョンにおけるギミック、侵入者を撃退する大掛かりな仕掛けだ。立ち入った者を確実に抹殺するために作られたギミックは、落とし穴のような単純な罠とは訳が違う。相当に手の込んだトラップが、俺たちを出迎えてくれるはずだ……もっとも、それを承知で飛び込んだのも事実だけどな。
「……今んとこは、何もないな?」
入口のところで固まったまま、俺たちは部屋の中に目を凝らす。部屋はただただだだっ広く、装飾や怪しい装置なんて物も見当たらない。だからといって安心できるわけはないけど、扉を開けた途端大爆発!なんてことがなくてよかった。
「……進みましょう。桜下殿、くれぐれも慎重についてきてください」
そう言うとエラゼムは、じりじりとすり足で前進し始めた。少し距離をおいて、俺も進み始める。この部屋に罠がある事は分かりきっている。問題は、どんな罠が飛んでくるかだ。天井が落ちて来るか?床が抜けるか?毒ガスが噴き出すか?いずれにしても、一瞬の遅れが命取りになる。僅かな兆候も見逃さないよう、俺たちは極限まで神経を張り詰めさせた。
だから、背後で勢いよく扉が閉まった時には、全員が飛び上がりそうなほど驚いた。
「なんだ!?扉が……?」
ガチャン!扉が閉まると同時に、施錠をしたような金属音。閉じ込められたってことか!?
「っ!周りだ!」
フランが叫ぶ。ああっ、部屋のあちこちに魔法陣が!
「魔法!?」
「いや、これは……」
ズゴゴゴゴ!
魔法陣の中から、湧き上がるように腕が現れる。次いで肩、胴体、足。頭はない。魔導で動く、岩石の兵。
「ゴーレム……!」
「モンスターハウスです!大群が来ます!」
あっと言う間に、四方がゴーレムによって埋め尽くされた。数なんて数えたくもない。や、やばいぞ。密室に、モンスターの群れと一緒に閉じ込められたなんて。しかも高火力広範囲魔法担当のライラは、今はいない!
「ゴゴゴゴゴ!」
ゴーレムが動き出した!エラゼムは剣を構え、フランは爪を抜き、果敢に飛び掛かっていく。 だが、あまりにも多勢に無勢だ。二人は懸命に食い止めていたが、すり抜けた数匹が、こっちに迫ってくる!
「掴まりなさい!」
え?うわ!いきなり脇を抱えられたと思ったら、強い力で引っ張られた。アルルカが俺を抱えて翼を広げたのだ。ゴーレムの腕が俺たちを捕える寸前、アルルカはその指の間をすり抜けて、宙へと飛び出した。
くそっ、だけど、天井が低い!宙に逃げても安全とは言えなさそうだ。ゴーレムが拳を振り上げれば、俺たちを楽々ぺしゃんこにできるだろう。ほら、言ってるそばから!
「ゴゴゴォ!」
「ッ~~~!」
突き出てきた腕を、アルルカはローリングしてかわした。うわ、視界がぐるぐる回る……だけどゴーレムの数は、一体二体じゃない。無数の手が伸びて、蝶を捕まえようとする子どもみたいに、俺たちに襲い掛かる。アルルカは一瞬たりとも速度を落とさず、右に左に上に下に、紙一重のところでゴーレムをかわし続けた。小刻みに揺さぶられて、俺は失神寸前だ。とにかくアルルカを信じて、無我夢中で彼女にしがみつく。下手に暴れたら、重心を崩して即撃墜だ。
キラッ。
ん……?揺れる視界の端で、何かが光を放った。最初はフランの瞳かと思ったが、違う。赤い光の正体は、一回りほど大きなゴーレムの胸に埋め込まれた、深紅の宝石が放つ光だ。そう、まるで漫画やゲームでよくある、レーザービームでも撃ってきそうな宝石……え!?
「おいおい、まっ……!」
宝石からひときわ強い光が放たれる!アルルカは他のゴーレムの攻撃をかわすのに必死で、全く気付いていない。
「うおお!ちっくしょうが!」
くそったれめ、これでも喰らいやがれ!俺はもはや、やけくそで腰の短剣を抜くと、びゅんとがむしゃらに放り投げた。緋色の剣が、ヒュンヒュンと回転しながら宙を舞う。それとほぼ同時に、ゴーレムの胸から、真っ赤に燃えるレーザービームが照射された。あんなビーム相手に、俺が投げた短剣がいかほどの効力を持つものか。きっと一瞬で消し炭にされて、その数瞬後には俺たちも……
しかしそこで、奇跡が起きた。ビームは、短剣の刃に直撃した。するとビームが、鏡のように跳ね返ったのだ!反射したビームは、ゴーレムを逆に返り討ちにしてしまった。うひゃっほう!幸運の女神のキスは、生きとし生けるものの為に!
「やるじゃない!見直したわ!」
アルルカが興奮気味に叫ぶ。だが、その時だ。
一体のゴーレムが、アルルカの翼の端を掴んだ。ぐらりと視界が揺れる。アルルカはすぐに翼を引き抜いたが、その瞬間だけはどうしても動きが止まってしまった。そこへ、片腕がトゲ付きのこん棒のように変化した、ゴーレムの一撃が飛んでくる!
「ちぃ!」
アルルカは俺を抱き込んで、背中を向けた。メギメギ!嫌な音がしたかと思うと、俺たちはぶっ飛ばされて、固い何かに激突した。ドガッ!
「がはっ……」
一瞬、視界が完全に真っ黒になった。すぐにドスンと床に落ちる。壁に叩きつけられたのか……?頬を何かが伝っている。血、か?ぶつけた拍子に、どこか切れたらしい。
「アルルカ、大丈夫か……」
「……よくは、ないわね。ごほっ」
……!アルルカは、酷いありさまだった。俺をかばったせいで、ゴーレムの一撃をもろに食らってしまったんだ。背中がぐちゃぐちゃで、骨まで見えてしまっている……
「アルルカ!待ってろ、いまファズの呪文で……」
「いい、から。逃げなさい!あたしはいいから!」
アルルカが俺を押しのけようとする。だけど、遅すぎた。俺たちの周りに、ずらりとゴーレムが大挙している。壁を背にしたこの状況、逃げ場はどこにもない。
「くそったれ……大ピンチってやつじゃないか」
さあ、どうする。さっきみたいなラッキーパンチはもうないぞ……!
その時俺は、アルルカが小声で、ぶつぶつと何かつぶやいていることに気付いた。魔法か!けど今、アルルカの手元には、愛用の竜をかたどった杖はない。さっき吹っ飛ばされたときに落としてしまったんだ。アルルカお得意の高速詠唱は、杖がないと使えない。そして通常の詠唱に掛かる時間を、ゴーレムたちが待ってくれるとは思えなかった。万事休すだ!
「メイフライヘイズ!」
ぶわぁー!わ、な、なんだ?突如目の前の空気が揺らぎ、何人もの“俺たち”が現れた。こっ、これは、ウィルの蜃気楼魔法!
ゴーレムたちは突然の幻影に一瞬面食らったが、機械的に全ての“俺たち”を排除し始めた。 拳をドスドスと振り下ろすが、“俺たち”はもやもやと揺らぐだけ。しめた、奴らバグりやがったぞ!その間に、アルルカは呪文を唱え終わった。
「スノーフレーク!」
サァー!パキパキパキ!アルルカの手から銀色の冷気が伸び、ゴーレムたちの足を凍てつかせていく。でも、これだけか?アルルカにはもっと強力な魔法もあったはずなのに。だが俺は、すぐにその理由が分かった。一瞬足止めすれば、それで十分だったのだ。
「ぬうりゃあ!」
「やああああああ!」
スガッ!一閃。あれだけいたゴーレムたちが、ことごとく真っ二つになった。
「桜下殿!」
「桜下、大丈夫!?」
「フラン、エラゼム!ばっちりなタイミングだったぜ!」
他のゴーレムをやっつけた二人が、援軍に駆け付けてくれたんだ。助かった!俺とアルルカが逃げまどっている間に、二人はほとんどのゴーレムを倒してしまっていた。破壊された残骸が、床におびただしく散らばっている。
「ふはぁ、よかった。これでなんとか……」
ずずずず……
「って、おいおいおい!また生まれてきてんぞ!」
フランとエラゼムは、ぎょっとして後ろを振り返った。再び魔法陣が現れ、新たなゴーレムが生成されつつある。嘘だろ、無限湧きなのか!?
「つうろ……ごほっ。通路に!」
アルルカが血を吐きながら叫ぶ。え?通路?
ああっ!気が付かなかったけど、確かにすぐそばの壁に、通路が開いている。暗くて最初は見えなかったんだ。けどゴーレムが減った今なら、通路を遮るものは何もない!
「そっ、そうだな!いつまでも付き合ってやる義理はないぞっ!」
俺は肩に、アルルカの腕を回した。すぐに反対側をフランが支えてくれる。俺たちが立ち上がると、アルルカは上を見上げて吠えた。
「シスター!あたしの杖!」
「は、はい!」
どこからかウィルの返事が聞こえてくる。俺とフラン、そしてエラゼムは、全速力で通路へと走った。距離は大したことないけど、そのわずかな間にも、ゴーレムはどんどん湧き出してきているから、気が気じゃない。俺は足が引っこ抜けるんじゃないかってくらいに、全力で走った。
ほとんど飛び込むように通路へ逃げ込むと同時に、第二陣のゴーレムたちが産声を上げた。しかも第一陣より、さらに数が増えている。こ、このままじゃここもヤバイぞ!
「アルルカさんっ!」
俺たちに少し遅れて、ウィルが飛び込んできた。手に持っていたアルルカの杖を、放るようにパスする。アルルカはそれをしっかり受け取ると、ビシッと構えた。その先には、今まさに雪崩れ込まんとするゴーレムの大群が!
「掃討する!ゼロ・アベーテ!」
ザシャシャシャシャシャアー!
キラキラ輝く氷の粒子が、吹雪のように杖先からふき出す。粒子が舐めた床や壁は一瞬で氷に覆われ、ゴーレムたちを瞬く間に氷像へと変え、さらには部屋全体をも完全凍結させた。ここにいても、寒さで体が震えそうなくらいだ。あの中は、間違いなく絶対零度に達しているだろう……
ピシピシピシ……パキィーン。
沈黙。冬の雪原に何の物音もしないのと同じように、氷漬けの部屋からは一切の音がしてこなかった。ゴーレムが動く気配も、魔法陣が発動する気配もない。
今度こそ、終わったのだ。
「は、は、はぁ……」
ううぅ。今更ながら足が震えてきた。これは、寒さのせいということにしておこう……
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「この部屋のどっかに、罠があるんだよな……」
俺はそう呟くと、暗く広い部屋をぐるっと見渡した。
エラゼムいわく、この部屋はダンジョンにおけるギミック、侵入者を撃退する大掛かりな仕掛けだ。立ち入った者を確実に抹殺するために作られたギミックは、落とし穴のような単純な罠とは訳が違う。相当に手の込んだトラップが、俺たちを出迎えてくれるはずだ……もっとも、それを承知で飛び込んだのも事実だけどな。
「……今んとこは、何もないな?」
入口のところで固まったまま、俺たちは部屋の中に目を凝らす。部屋はただただだだっ広く、装飾や怪しい装置なんて物も見当たらない。だからといって安心できるわけはないけど、扉を開けた途端大爆発!なんてことがなくてよかった。
「……進みましょう。桜下殿、くれぐれも慎重についてきてください」
そう言うとエラゼムは、じりじりとすり足で前進し始めた。少し距離をおいて、俺も進み始める。この部屋に罠がある事は分かりきっている。問題は、どんな罠が飛んでくるかだ。天井が落ちて来るか?床が抜けるか?毒ガスが噴き出すか?いずれにしても、一瞬の遅れが命取りになる。僅かな兆候も見逃さないよう、俺たちは極限まで神経を張り詰めさせた。
だから、背後で勢いよく扉が閉まった時には、全員が飛び上がりそうなほど驚いた。
「なんだ!?扉が……?」
ガチャン!扉が閉まると同時に、施錠をしたような金属音。閉じ込められたってことか!?
「っ!周りだ!」
フランが叫ぶ。ああっ、部屋のあちこちに魔法陣が!
「魔法!?」
「いや、これは……」
ズゴゴゴゴ!
魔法陣の中から、湧き上がるように腕が現れる。次いで肩、胴体、足。頭はない。魔導で動く、岩石の兵。
「ゴーレム……!」
「モンスターハウスです!大群が来ます!」
あっと言う間に、四方がゴーレムによって埋め尽くされた。数なんて数えたくもない。や、やばいぞ。密室に、モンスターの群れと一緒に閉じ込められたなんて。しかも高火力広範囲魔法担当のライラは、今はいない!
「ゴゴゴゴゴ!」
ゴーレムが動き出した!エラゼムは剣を構え、フランは爪を抜き、果敢に飛び掛かっていく。 だが、あまりにも多勢に無勢だ。二人は懸命に食い止めていたが、すり抜けた数匹が、こっちに迫ってくる!
「掴まりなさい!」
え?うわ!いきなり脇を抱えられたと思ったら、強い力で引っ張られた。アルルカが俺を抱えて翼を広げたのだ。ゴーレムの腕が俺たちを捕える寸前、アルルカはその指の間をすり抜けて、宙へと飛び出した。
くそっ、だけど、天井が低い!宙に逃げても安全とは言えなさそうだ。ゴーレムが拳を振り上げれば、俺たちを楽々ぺしゃんこにできるだろう。ほら、言ってるそばから!
「ゴゴゴォ!」
「ッ~~~!」
突き出てきた腕を、アルルカはローリングしてかわした。うわ、視界がぐるぐる回る……だけどゴーレムの数は、一体二体じゃない。無数の手が伸びて、蝶を捕まえようとする子どもみたいに、俺たちに襲い掛かる。アルルカは一瞬たりとも速度を落とさず、右に左に上に下に、紙一重のところでゴーレムをかわし続けた。小刻みに揺さぶられて、俺は失神寸前だ。とにかくアルルカを信じて、無我夢中で彼女にしがみつく。下手に暴れたら、重心を崩して即撃墜だ。
キラッ。
ん……?揺れる視界の端で、何かが光を放った。最初はフランの瞳かと思ったが、違う。赤い光の正体は、一回りほど大きなゴーレムの胸に埋め込まれた、深紅の宝石が放つ光だ。そう、まるで漫画やゲームでよくある、レーザービームでも撃ってきそうな宝石……え!?
「おいおい、まっ……!」
宝石からひときわ強い光が放たれる!アルルカは他のゴーレムの攻撃をかわすのに必死で、全く気付いていない。
「うおお!ちっくしょうが!」
くそったれめ、これでも喰らいやがれ!俺はもはや、やけくそで腰の短剣を抜くと、びゅんとがむしゃらに放り投げた。緋色の剣が、ヒュンヒュンと回転しながら宙を舞う。それとほぼ同時に、ゴーレムの胸から、真っ赤に燃えるレーザービームが照射された。あんなビーム相手に、俺が投げた短剣がいかほどの効力を持つものか。きっと一瞬で消し炭にされて、その数瞬後には俺たちも……
しかしそこで、奇跡が起きた。ビームは、短剣の刃に直撃した。するとビームが、鏡のように跳ね返ったのだ!反射したビームは、ゴーレムを逆に返り討ちにしてしまった。うひゃっほう!幸運の女神のキスは、生きとし生けるものの為に!
「やるじゃない!見直したわ!」
アルルカが興奮気味に叫ぶ。だが、その時だ。
一体のゴーレムが、アルルカの翼の端を掴んだ。ぐらりと視界が揺れる。アルルカはすぐに翼を引き抜いたが、その瞬間だけはどうしても動きが止まってしまった。そこへ、片腕がトゲ付きのこん棒のように変化した、ゴーレムの一撃が飛んでくる!
「ちぃ!」
アルルカは俺を抱き込んで、背中を向けた。メギメギ!嫌な音がしたかと思うと、俺たちはぶっ飛ばされて、固い何かに激突した。ドガッ!
「がはっ……」
一瞬、視界が完全に真っ黒になった。すぐにドスンと床に落ちる。壁に叩きつけられたのか……?頬を何かが伝っている。血、か?ぶつけた拍子に、どこか切れたらしい。
「アルルカ、大丈夫か……」
「……よくは、ないわね。ごほっ」
……!アルルカは、酷いありさまだった。俺をかばったせいで、ゴーレムの一撃をもろに食らってしまったんだ。背中がぐちゃぐちゃで、骨まで見えてしまっている……
「アルルカ!待ってろ、いまファズの呪文で……」
「いい、から。逃げなさい!あたしはいいから!」
アルルカが俺を押しのけようとする。だけど、遅すぎた。俺たちの周りに、ずらりとゴーレムが大挙している。壁を背にしたこの状況、逃げ場はどこにもない。
「くそったれ……大ピンチってやつじゃないか」
さあ、どうする。さっきみたいなラッキーパンチはもうないぞ……!
その時俺は、アルルカが小声で、ぶつぶつと何かつぶやいていることに気付いた。魔法か!けど今、アルルカの手元には、愛用の竜をかたどった杖はない。さっき吹っ飛ばされたときに落としてしまったんだ。アルルカお得意の高速詠唱は、杖がないと使えない。そして通常の詠唱に掛かる時間を、ゴーレムたちが待ってくれるとは思えなかった。万事休すだ!
「メイフライヘイズ!」
ぶわぁー!わ、な、なんだ?突如目の前の空気が揺らぎ、何人もの“俺たち”が現れた。こっ、これは、ウィルの蜃気楼魔法!
ゴーレムたちは突然の幻影に一瞬面食らったが、機械的に全ての“俺たち”を排除し始めた。 拳をドスドスと振り下ろすが、“俺たち”はもやもやと揺らぐだけ。しめた、奴らバグりやがったぞ!その間に、アルルカは呪文を唱え終わった。
「スノーフレーク!」
サァー!パキパキパキ!アルルカの手から銀色の冷気が伸び、ゴーレムたちの足を凍てつかせていく。でも、これだけか?アルルカにはもっと強力な魔法もあったはずなのに。だが俺は、すぐにその理由が分かった。一瞬足止めすれば、それで十分だったのだ。
「ぬうりゃあ!」
「やああああああ!」
スガッ!一閃。あれだけいたゴーレムたちが、ことごとく真っ二つになった。
「桜下殿!」
「桜下、大丈夫!?」
「フラン、エラゼム!ばっちりなタイミングだったぜ!」
他のゴーレムをやっつけた二人が、援軍に駆け付けてくれたんだ。助かった!俺とアルルカが逃げまどっている間に、二人はほとんどのゴーレムを倒してしまっていた。破壊された残骸が、床におびただしく散らばっている。
「ふはぁ、よかった。これでなんとか……」
ずずずず……
「って、おいおいおい!また生まれてきてんぞ!」
フランとエラゼムは、ぎょっとして後ろを振り返った。再び魔法陣が現れ、新たなゴーレムが生成されつつある。嘘だろ、無限湧きなのか!?
「つうろ……ごほっ。通路に!」
アルルカが血を吐きながら叫ぶ。え?通路?
ああっ!気が付かなかったけど、確かにすぐそばの壁に、通路が開いている。暗くて最初は見えなかったんだ。けどゴーレムが減った今なら、通路を遮るものは何もない!
「そっ、そうだな!いつまでも付き合ってやる義理はないぞっ!」
俺は肩に、アルルカの腕を回した。すぐに反対側をフランが支えてくれる。俺たちが立ち上がると、アルルカは上を見上げて吠えた。
「シスター!あたしの杖!」
「は、はい!」
どこからかウィルの返事が聞こえてくる。俺とフラン、そしてエラゼムは、全速力で通路へと走った。距離は大したことないけど、そのわずかな間にも、ゴーレムはどんどん湧き出してきているから、気が気じゃない。俺は足が引っこ抜けるんじゃないかってくらいに、全力で走った。
ほとんど飛び込むように通路へ逃げ込むと同時に、第二陣のゴーレムたちが産声を上げた。しかも第一陣より、さらに数が増えている。こ、このままじゃここもヤバイぞ!
「アルルカさんっ!」
俺たちに少し遅れて、ウィルが飛び込んできた。手に持っていたアルルカの杖を、放るようにパスする。アルルカはそれをしっかり受け取ると、ビシッと構えた。その先には、今まさに雪崩れ込まんとするゴーレムの大群が!
「掃討する!ゼロ・アベーテ!」
ザシャシャシャシャシャアー!
キラキラ輝く氷の粒子が、吹雪のように杖先からふき出す。粒子が舐めた床や壁は一瞬で氷に覆われ、ゴーレムたちを瞬く間に氷像へと変え、さらには部屋全体をも完全凍結させた。ここにいても、寒さで体が震えそうなくらいだ。あの中は、間違いなく絶対零度に達しているだろう……
ピシピシピシ……パキィーン。
沈黙。冬の雪原に何の物音もしないのと同じように、氷漬けの部屋からは一切の音がしてこなかった。ゴーレムが動く気配も、魔法陣が発動する気配もない。
今度こそ、終わったのだ。
「は、は、はぁ……」
ううぅ。今更ながら足が震えてきた。これは、寒さのせいということにしておこう……
つづく
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