じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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14章 痛みの意味

9-2

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9-2

「うわあああ!落っこち……!」

ない。わずかな浮遊の後、俺の足はすぐに床に触れた。だが触れたそばらから、つるりと滑ってすっころんだ。ガツ!っつぅ~、頭が……

「ど、どうなってんだ……?」

俺は目に涙をにじませながら、ようやく事態を把握した。床が抜けたんじゃない。傾いたんだ。長々と続いていた一本道は、今や巨大な滑り台と化していた。俺や仲間たちは、その上を猛スピードで滑走している。

「下!針が!」

なんだって?アニの光が辛うじて、滑り台の終点を照らし出した。一瞬だったが、ぎらりと鋭い光沢が、目に飛び込んでくる。あそこに俺が飛びこんだなら、人間標本のいっちょ上がりだ。

「冗談じゃないぞ!」

俺は靴のかかとを立てて、必死にブレーキを掛けようとした。が、ワックスでも塗られているのかってくらい、ちっとも速度が落ちない!

「なんだこれ、止まらねえ!」

重力に引かれるまま、俺の体はどんどん加速していく。このままじゃ確実におじゃんだ!

「こっちよ!」

え?頭の上らへんから、声が聞こえてきた。俺の斜め上あたりを、アルルカが腹ばいになって滑っている。

「手!ぼさっとしない!」

アルルカが片手をこちらに伸ばしている。俺も無我夢中で、必死に腕を伸ばした。くそ、体が斜めになっているから、距離感が掴みづらい!それでも何とか、手を握ることに成功した。とたん、ぐいぃっと体が引っ張られる。

「飛ぶわよ!」

アルルカは羽を広げると、滑りながら強引に宙へと飛び出した。うおぉ、手に体重がかかる。けど絶対に離しちゃいけない。これを離したら、今度こそおしまいだ。
アルルカは加速のエネルギーに引っ張られ、しばらく前方につんのめってから制止した。ぐおぉ、ブレーキの勢いが全て掛かって、手首が引っこ抜けそうだ。振り子時計のように、俺の体がぶらぶらと揺れる。

「ぬおおぉぉ……アルゥルカぁ、離さないでくれよぉぉ……」

「あら、なんか楽しそうね。ほれほれ」

「ばっ、バカヤロ!ゆら、揺らすなよぉぉぉ……」

このバカヴァンパイア、あろうことか俺を揺すって遊びはじめやがった!今や縦揺れどころか、横揺れも加わってぐるぐると回っている。

「キャハハハ!ぶざまねぇ~。釣られた亀みたい」

「て、てめええぇぇぇ……」

「ちょうどいいわ、この前の満月、さんざんいじめられた仕返しをしようかしら」

「あー!お前、そのことは言うなってば!」

一しきり俺をいじめると、アルルカはようやく揺らすのをやめた。

「あ、そうだ!こんなことしてる場合じゃないぞ!みんなはどうした?」

「無事よ。ほれ」

アルルカが羽を動かして、ゆっくりと下降し始めた。坂道の終盤で、フランがウィルのロッドに掴まって静止している。

「フラン!無事だったか」

「うん。ウィルが引っ張ってくれて。本人には触れないけど、ロッドには実体があるからね」

「おおー。ウィル、機転が利くなぁ」

「あぁぁ、あの、褒めてくれるのは嬉しいんですけど、できれば手伝ってもらえませんか。も、もうそろそろ、腕が限界……」

おっと。ウィルは顔を真っ赤にして、プルプル震えていた。フランはロッドから、アルルカの足へと掴まりなおした(アルルカは嫌そうな顔をしたが……)。

「あ、じゃあエラゼムは?」

「エラゼムなら、最後まで滑って行って……」

え?鉄の塊の彼が最後まで行ったってことは……俺たちは一番底まで下りた。

「みなさま、ご無事でなによりです」

エラゼムは背筋を伸ばして、軽く頭を下げた。ずいぶんすましているけど、彼の背後には折れた棘がバラバラと散らばっている。……どうやら、まともに突っ込んだみたいだな。

「けど、ビビったなぁ。まさか、道が突然滑り台になるだなんて」

俺は滑り落ちてきた坂を見上げる。角度は急で、かなりの落差だ。しかも魔法で摩擦を軽減しているのか、驚くほどよく滑る。タコみたいに吸盤でもなけりゃ、絶対に止まれはしないだろう。

「そして、滑り落ちていった先に待つものは……」

俺は坂から目を移す。滑り台の終点には、壁一面の針剣山。長さ五十センチはありそうな、鋭い金属の杭が一定間隔で並び、哀れな獲物を待ち受けていた。あ、けど一か所だけ、棘がきれいに人型に折れていた。誰がどこに突っ込んだのか丸わかりだな。

「うっ」

ん?ウィルが息をのんだ。彼女は棘の壁の一角を見つめている。う、あれは……

「……犠牲者か」

ボロボロの服を纏った骸骨が、棘のすき間にもたれるように立っていた。たぶん、彼もしくは彼女は即死だっただろう。頭蓋骨の目の部分から、棘が突き出ていたから。

「それに、なんだよ……一人どころじゃないじゃないか……」

よく見ればそこかしこに、犠牲者たちの骸が放置されていた。ここは清掃が行われないのか?いや、その割には血の跡が見当たらない。ってことは、遺体だけ放置されたってことだな。たぶん、見せしめのために。

「んっとに趣味悪いぜ……」

「やだ、これ……」

またもやウィルが、何か見つけた。それは、床の隅にわずかに残された、黒ずんだ汚れだった。隅っこだから、拭われずに残っていたのだろうか。

「その汚れが、どうかしたか?」

「これ、ただの染みじゃありません……文字、です」

「え?」

近づいて見ると、確かに……文字に、見えなくもない。かなり崩れているが、辛うじてこう読み取れる。

「弟よ、すまない……か」

「きっとこの人は、お兄さんかお姉さんだったんですね……幸か不幸か、刺さりどころのせいで即死しなくて……最期の力を振り絞って、これを……」

「ああ……」

体中を貫かれる痛みは、想像を絶するものだったに違いない。出血からして死は免れないだろうし……ウィルの言う通り、本当に幸か不幸か、だな。

「弟よ……」

「え」「え?」

俺とウィルの声が重なる。さっきの声、誰だ?低い声で、それでいて耳元で囁くようだったが……振り返ると、そこに血まみれの男が立っていた。

「わああ!」

「きゃああ!」

ウィルが俺に飛びついてきて、二人そろってドスンと尻もちをついた。悲鳴を聞いて、フランとエラゼムがすっ飛んでくる。

「桜下殿!これは……」

「あ、ああ、うん。とりあえずは、大丈夫だ」

俺は手ぶりでエラゼムたちを制した。急だったので驚いてしまったが……

「亡霊だ。悪さはしないよ、たぶん」

俺は慎重に立ち上がると、その亡霊を見やった。
男は顔から全身から、血をだらだらと流し、うつろな表情でこっちを見ている。その暗い目は、何かを訴えかけているようだが……

「か、彼は、何が言いたいんでしょうか」

同じ幽霊のくせに、ウィルはびくびくした様子で、俺の腕を離さない。近いなぁ、当たってるんだけど……いや、それよりだな。

「何が言いたい、か……分かんないな。ただ、悪意は感じない。たぶん、誰かに無念を訴えたいんだと思う」

ネクロマンサーの俺がちっとも気付かなかったくらいだから、相当力の弱いアンデッドだ。そして、さっきの台詞、「弟よ」。たぶんこの霊が、あの遺文の書き主なんだろう。彼が何を思い遺し、何に後悔しているのか……彼はそれを語ることは出来ない。そして今は、それを探っている暇もないんだ。

「ごめんな。俺には、どうしてやることもできない」

俺が謝ると、男はすうっと薄らいで、消えてしまった。あるいは、俺と話したことで、少しでも彼の未練が晴れればいいのだけれど。

『……シェード。死者の影です。生前の思いを抱えてこの世をさ迷うだけの存在であり、いずれはすべてを忘れて、低級なレイスとなり果てるでしょう。どうすることもできません』

後ろ髪を引かれる俺に、アニが冷酷に告げる。俺はやるせない気持ちで「ああ」と呟いた。今は一刻も早く、ライラの下へ向かうこと。それを忘れちゃいけない。
さて、巨大な滑り台式罠の最下部であるここは、普通は終点、行き止まりだ。アルルカやウィルのように空を飛べでもしないと、どうやっても串刺しになる運命だからな。ところが、フランが壁の一部に違和感を見つけた。ぱっと見はただの石壁だが、よくよく見ると、四方に小さな切れ込みがある。隠し扉だ。

「こんなところに、扉?しかも、めちゃくちゃ分かりづらくされている……」

「どう考えても、侵入者が見つけることを嫌がってるよね」

「それってつまり……!」

扉を開けた俺は、確信した。そこは細い通路になっており、一見するとダンジョンの続きのようにも見えたが、一歩足を踏み入れた途端、ボッ!と音がして、壁の燭台に火が灯ったのだ。わざわざ敵の為に、こんな手の込んだ照明を用意するはずがない。つまり。

「間違いない。ここは、“外の人間”が使う通路だ!」

ついに見つけたぞ!ここがダンジョンの“非常口”だ!きっとこの先が、地上へと繋がっているに違いない!俺たちははやる気持ち抑えきれずに、早足にロウソクで照らされた通路を進んだ。
だがいくらも進まないうちに、通路は行き止まりになった。その代わりに片側の壁が途切れてなくなり、小部屋へと直結している。ならばと、その小部屋を調べたかったが、部屋と通路の間には、頑丈な鉄格子が立ちふさがっていた。

「くそ!これ、壊せないか?」

「わたしがやってみる」

フランが鉤爪を抜いて、思い切り格子へと切りかかった。ガキィィィン!音はすさまじかったが、その割に鉄格子はぴくりとも揺れず、フランの爪はあえなくはじき返された。柵には傷一つ付いちゃいない。

「くそったれ、ここにも魔法か!くあああ、絶対ここで間違いないのに!」

俺は無駄だと分かっていつつも、鉄格子を掴んで揺すってみた。けれど魔法で固定されているからか、音すら鳴らない。とても破壊は無理だ……

「む、ここに鍵穴がありますが……」

エラゼムが鉄格子の一部に、門と鍵穴を見つけた。外の連中が出入りするときは、ここを使っているらしい。やっぱりここは、地上に繋がっているんだ。

「けど、肝心の鍵が……」

ぐあああ!こんな目前まで来て、ダメだって言うのか!?あと少しで、ライラの下へ行けるのに!

「くそ、くそっ!」

俺は頭にきて、鉄格子に力いっぱい拳を叩きつけた。みんなも沈んだ顔で、鉄格子を見つめている。ちくしょう!俺の体は勇者の体なんだろ?ならこんくらいの鉄柵、ぶっ飛ばしてみやがれってんだ!
その時だ。パァー!突如まばゆい光が、部屋いっぱいに広がったじゃないか。

「うお!?」

まぶしい!ま、まさか?俺のパンチが、何かの奇跡を……?
だが光が引いていくと、とくだん俺の拳は関係ないことが分かった。鉄格子は相変わらずピンピンしていて、ちっとも凹んでやいない。なら、さっきの光は?
それを放った正体は、小部屋のなかに唐突に現れた。床に描かれた魔法陣の中心に、二人の人影が立っている。一人は、大柄で赤髪の男。その隣にいるのは、同じく赤髪で、小柄な幼い女の子……!

「なっ……ら、ライラ!」

「……」

ライラは俺の呼びかけにも、目を合わせようとはしなかった。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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