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14章 痛みの意味

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「いくぞ!ディストーションハンド・オーバードライブ!」

ブワァァァー!俺の右手から溢れ出る霊波が、ダンジョンの壁を伝って、隅々まで行き渡っていく。出力を上げろ!このダンジョンのすべてに、俺の魔力を響かせるんだ!

「おりゃあああ!」

俺から溢れ出す霊波に当てられ、仲間たちはぶるりと震えた。フランの髪はバサバサと波打っているし、ウィルのスカートはひらひらと舞っている。一瞬意識が逸れそうになったが、集中だ、集中!
やがて、全ての浮かばれぬ魂と“繋がった”のを感じた。俺は彼ら一体一体に語り掛ける。そして、協力して欲しい旨と、その詳細を伝えた。
……。

「……ロウラン」

「うまくいったの?」

「ああ。全員、協力してくれるってさ」

「よかったぁ。さすがダーリンなの♪それじゃあ、次はアタシに、いい?」

「ふう。よし、わかった」

これから何度も魔力放出を繰り返すことになるからな、頑張らないと。だが俺は、魔力の量だけはべらぼうなようだからな。なぁに、何とかしてみせるさ。
俺はカバンの中から、群青色の箱を取り出した。これは、ロウランの“棺桶”だ。この中には、ロウランの“本体”が入っているんだけど……驚くほど軽い。中からはカサッっと乾いた音がするし。

「……ロウラン。やっぱこれ、開けちゃダメだよな?」

「え?うぅーん……恥ずかしいから、あんまり見てほしくないけど……ハダカが見たいなら、いま脱いであげるの。ほらほら」

「わかった、いいから。悪かった!それよりほら、やるぞ!」

俺はくねくねしているロウランを無視して、箱に右手を当てた。そして、強く魔力を込める。

「んっ……感じるの。ダーリンの強い魔力が、アタシの中に入ってくる……」

霊体のロウランは目を閉じて、その感覚に集中しているようだ。が、すぐにハッとして目を開く。

「あっ、こうじゃなかったの。こほん……」

「……?」

「あぁーん♪ダーリンのあっついのが、どくどく入ってくるぅ」

な、なんだぁ?俺は全身から力が抜けて、箱を落としそうになってしまった。気が遠くなりそうだ……ウィルは眉を吊り上げて目を見開き、反対にフランは目をすっと細めて、眉間にしわを寄せた。エラゼムはむせている。

「いやぁーん。感じちゃうのぉ~」

「……いちおう訊くけど、ロウラン。それは、なんだ?」

「なにって、ダーリンの魔力を注がれてる感想なの。どきどきした?」

「まあ……いろんな意味で、動揺はしてるけど……」

「にひひ♪なによりなの。あ~ん、お~ん」

……時々、ロウランが大人なのか子どもなのか、分からなくなる時があるよ。今がまさにそれだけど。ロウランは悩ましい(?)声を上げながら体をよじり、時折ちらっとこちらを見た。俺はどう反応したらいいのか分からず、ぎこちない笑みを浮かべるしかないが……

「いやぁーん。うぅ~ん!」

「黙ってることはできないの!」「んですか!」

髪を逆立てたフランとウィルの剣幕に押されて、ロウランはようやく大人しくなった。

「うん、力を感じる。みなぎってきたの!」

しばらく魔力を注ぐと、ロウランは目に見えて元気になった。具体的には、体が透けなくなった。心なしか、瞳の色も濃くなった気がする。

「ダーリンの力、やっぱりすごいの!」

「そりゃどうも。で、いけそうか?」

「ばっちり!それじゃ、さっそく始めるよ!……ライノ・ライナー!」

ロウランが両腕を突き出すと、どろりと溶けていた元鉄格子が、ぴくぴくと動き始めた。アメーバのように動く金属は、次第に集まって、真ん丸の球体になった。と、ある一点だけが伸びて、鋭く細くなっていく。丸から、円錐形になったぞ。さらにさらに、螺旋状の溝が現れると……これ、もしかしなくても。ドリルだ!

「いっけー!」

ロウランが腕を振ると、鋼鉄のドリルは、激しく回転を始めた。そして天井にぶっ刺さる!ギャガガガガガ!

「ぐわ!み、耳が……」

天上の石材が砕かれると、密室の地下空間に轟音が響き渡る。あまりの音に、頭蓋骨ごと脳ミソが振動しているみたいだ。ロウラン以外のみんなは、耳を押さえてうずくまった。ああ、けどエラゼムには同情するな。塞ぐべき耳がないので、何もできずにいる。

「……だ……から……の!」

「なに!?なんだって!」

「まだ……ほうがとけ……いから、カチカチ……のぉー!」

ロウランは顔を赤くして声を張り上げているが、音がすごすぎて全然聞き取れない。何となくだけど、まだ防御魔法が解けていないから、ドリルがカチカチだって言いたいのか?

(けどほんとうに、すごいパワーだ)

ドリルはあっという間に天井を砕き、その先の土へと進む。とたん、猛烈な量の石と土砂が、ドバドバと排出されはじめた。うひゃあ、酷い土煙だ!ごほ、エホ!

「このままじゃ、五分で埋もれちまうな。よし、“みんな”!作業を始めるぞ!」

俺が呼びかけると、ダンジョン中のあちこちから返事があがった。
声の主は、さっきのオーバードライブで繋がった、死霊たちだ。老魔道士の罠に嵌り、地上への未練を遺して死んだ彼ら。そんな彼らに、俺は協力を要請した。結果は、二つ返事で了承してくれたよ。彼らの望みは、ただ一つ。この暗い迷宮を、抜け出すことだったから。

「人海戦術だ!そーら、運べ運べ!」

ロウランの計画は、単純なものだった。つまり、地上まで穴を掘って脱出しようってわけだな。確かにそれができるなら、一番確実な方法だ。が、問題もある。穴を掘れば、その分の土砂が出てくる。この狭い部屋に、それだけの土砂を置いておくスペースはない。

「だからこそ、人手を増やせる俺の能力ネクロマンスが生きてくる!」

死霊たちの力は極めて微弱だったが、ちりも積もればなんとやら。当然、俺や仲間たちも働くから、全体ならかなりの労働力になるはずだ。さあ、こっからはひたすら、土木作業!
ドリルが次々に掻き出す土やがれきを、ひたすら通路の奥へ、奥へと押しやっていく。俺やウィル、それに死霊たちは並み以下の力しか出せないので、バケツリレー形式だ。だけどフラン、エラゼム、アルルカの並み以上組は、巨大ながれきをゴトンゴトンと転がしていったり、あるいは魔法で凍らせて、一気に運び出したりと、さながら重機のように活躍した。

「ったく、なんであたしがこんなことを……あーあー、土埃、泥まみれ!ガキじゃあるまいし、なんで泥んこになって土遊びしなきゃなんないのよ」

「アルルカ、文句言うなよ。ここを出られなかったら、一生風呂にも入れないんだぞ」

「ふんっ。いっそ、ダンジョンの奥底にでも引きこもってみる?あんたの最後の血の一滴まで、あたしがたっぷり愛してあげるわよ?」

「いってろ!グダグダいわずに、手を動かせよ、手を!」

するとしばらくの間、アルルカは足だけでがれきを運びはじめやがった。くぅー、腹立つなぁ!
文句ばっかりのヴァンパイアと違って、死霊たちは黙々とよく働いてくれる。もっとも、口がきけないからというのもあるが。死霊たちの恰好はめいめいだ。完全に白骨化しているもの、ボロボロだが衣服が残っているもの、霊体のもの……

「こうして集まってみると……どれだけの数の人が犠牲になったのか、改めて実感しますね……」

「ああ。そのおかげで、俺たちの作戦は、こうして順調だ。皮肉なもんだよ」

けれど、順調に思えたトンネル工事も、中盤あたりで陰りが見えだした。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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