じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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15章 燃え尽きた松明

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港の市場は、活気に満ち溢れていた。様々な魚介類、売り子の大きな声。少し生っぽい匂いがするけど、ものが新鮮だからか、そこまで気にはならない。

「つっても、魚市場でデートするって、どうなんだ?」

「どうって、私に聞かれましても……」

俺とウィルは、並んで市場をぶらついていた。並んでと言っても、ウィルは幽霊なので、はたから見れば俺一人が散歩しているように見えるはずだ。会話も俺の独り言に聞こえるだろうけど、この活気のおかげで悪目立ちせずにすんでいる。

「桜下さんは、嫌ですか?」

「俺?俺は、嫌じゃないけど。そういうウィルは?」

「えっと……正直なこと言うと、よく分からないんです。だって、男の子とデートなんて、初めてしますし……」

ウィルはうつむきがちに、頬を染めながら言った。う、そう言われると、俺だってそうだ。

「桜下さんは、前の世界でデートとかしたんですか?」

「ねーよ、あるわけないだろ……言わせないでくれ、悲しくなるから」

「あ、すみません。ふふふ、でも、ちょっと安心しました。……あ!見てください、桜下さん!おっきな魚!」

ウィルがはしゃいだ声で、とある店先を指さした。丸々太った魚が、水桶にでーんと置かれている。

「おおっ、ほんとだ。これ一匹で、何人分になるかな」

「うーん、さばくのも大変そうですね……鱗が固そう。それに、どんな味なのかしら。あ、見てください。あっちのお魚は、とってもカラフルですよ」

「うわ、ほんとだ。あんなの食べたら、腹壊すんじゃないか?」

「もう!雰囲気壊すようなこと言わないでくださいよ。ほんとにもう、ふふふ。汚いなぁ」

市場なんて、デートコースに相応しくないと思っていたけれど。ウィルと一緒に店先を眺めて回るのは、ことのほか楽しかった。男女のデートとして、これが正しいのかは分からないけどな。でも、ウィルの表情を見る限り、彼女も楽しそうだ。ウィルはよく笑い、俺もつられて、いっしょになって笑った。
歩いていくと、魚ばかり扱う店の中に、ちらほら別のものが混じり始めた。野菜を売っていたり、日用品を売っていたり。珍しいな、魚から作られたロウソクなんてのも売っているぞ。

「お……」

「わぁ……綺麗ですね」

とある店先の前で、俺たちは足を止めた。そこは中古品を扱う質屋のようで、ガラスのショーウィンドウには、キラキラしたアクセサリーや、ガラス細工なんかが並べられている。

「ほんとだな。はぁー、よくこんなにガラスを細くできるな……」

「ですねぇ。きっと腕のいい職人さんが作ったんでしょうね」

ふぅむ。これは、どうしたもんかな。デートでアクセサリー屋に立ち寄って、女の子がステキだねとウィンドウを眺めている。これは、やっぱりプレゼントをすべきなのではないか?

(値札は……えっ!?!?)

無数に並ぶゼロの数を見て、俺の目玉が飛び出す。すると隣で、ウィルがぷははっと笑った。

「桜下さん、顔、顔!あはは」

「あ、ご、ごめん。顔に出てたか……」

「あははは。いいですよ、変に気を遣わなくて。確かに素敵ですけど、こんなもの持って旅はできませんよ」

「そ、そうか?」

「はい。だからその分、今日のデートを楽しいものにしてくださいね?」

むぅ。そう言われちゃ、何も言えないな。より一層張り切るしかないだろう。

「あ……」

「ん?どうした、ウィル?」

「あ、いえ。別に大したことじゃ……」

ん?なんだろう。彼女が見ていたのは、一つのガラスのアクセサリーだ。宝石のような飾りがはめられていて、ウィルのロッドによく似ている……あ。

(ウィルのロッドは、たしかウィルの父さんが作ったって……)

ひょっとして、ウィルは……?俺がそろりと様子を伺うと、ウィルは困り顔で微笑んだ。

「やめましょう。今日は楽しいデートにしたいんです。ね?」

「……ウィルが、そう言うなら」

「はい。何も見なかったことにしましょう。あ、それよりも、お昼がまだでしたよね。どこかのお店に入りましょうか」

この話はここまでにしよう、ってことだな。俺は素直に応じた。

「そーだな。どっかに飯屋ないか、探しに行こうぜ」

「はい!」

市場から少し離れると、こじゃれたレンガ造りの食堂が目に留まった。海に面した通りに店を構えていて、開放的な店先からは、シーフードのい~い匂いが漂ってくる。俺たちはすぐその店に決めた。
店に入ると、すぐに声の大きなおばちゃんが出迎えてくれた。

「はい、いらっしゃい。どこでも好きな席に座っとくれ。ご注文は?子どもだから、まだ酒は飲まないかね」

「あ、う、うん。なあ、ここのおすすめは何なんだ?」

「え?あっはは、そりゃあなんてったって、タキターロのステーキさ。この町に来てそれを食べなきゃ、他に一体何を食べるって言うんだい?」

へーえ。ステーキ……てことは、肉料理か。タキターロが何なのかは分からないけど、てっきり魚介料理屋だと思っていた。でも、それだけ推してくるんだ。間違いはないだろう。
俺がそれを頼むと、おばちゃんはうなずいて、厨房へと引っ込んでいった。

「桜下さん桜下さん、タキターロって、一体なんですかね?」

席に着くと、ウィルが興味津々な様子で訊ねてくる。

「なんだ、ウィルも知らないのか?俺もよくわかんねーんだ。ステーキって言ってたから、なんかの肉なんだろうな」

「うーん……どうします?とんでもないモンスターの丸焼きみたいなのが出てきたら」

「お前、自分は食べないからって、言いたい放題だな……」

がしかし、俺とウィルの心配は、料理が出てくると全くの的外れだったことが分かった。

「へい、お待ち。これがタキターロのステーキだよ」

出されたのは、おっきな白身のステーキだった。焼きたてで、ジュウジュウと音を立てている。ソースがいい香りだ……

「これ、なんの肉なんだ?」

「ええ?知らないのかい?タキターロは、この町の特産さ。でっかい脂ののった魚でね、うまいのよ、これが。ま、百聞は一見に如かずだね。食べてみな」

魚!へえ、これが……俺は言われた通り、ナイフで一口切り取ると、ぱくっと食いついた。

「お、おお……!うまい!」

俺が目を輝かせると、おばちゃんは満足気に笑って、奥へ戻っていった。

「桜下さん、そんなにおいしいんですか?」

「ああ、魚とは思えないよ。ウィルも食べてみるか?」

俺はそう言って、フォークをウィルへと差し出した。

「いいんですか?じゃあお願いします……えへへ。これって、ちょっとデートっぽいですね」

「あ、そ、そうかもな」

むむむ……ウィルにあーんするのなんて、前は普通にやっていたのに……意識すると、ちょっと恥ずかしいな。俺は魚を刺したフォークに、ぐっと魔力を込める。一瞬フォークが輪郭を失い、すぐ元に戻った。これでウィルでも、味が分かるようになったはずだ。

「じ、じゃあ……ほい」

「は、はい……あーん」

ぱくっと、魚がウィルの唇の奥に消える。ウィルは幽霊だから、実際に食べることはできない。現にほら、俺が引っ込めたフォークには、まだ魚が残ったままだ。

「んー。ほんとだ、脂がのってますね。このソースもおいしい……こんな料理があるんですねぇ。お魚のステーキかぁ……うん、また一つ、学びを得ました」

ウィルはしばらくもぐもぐやった後、そう感想を述べた。さて、このフォークに残った魚だけど……捨てるわけにもいくまい。俺が食べると、魚はすっかり熱を失っていて、冷蔵庫から出したばかりのようだった。

「あ……」

「な、なんだよ。その顔は。だって、俺が食べるしかないだろ」

「そ、そうですよね。ええ……いまさら、ですしね。間接じゃなくて、直接もしているわけですし……」

「……」

ごほん、ごほん。ウィルのやつ、自分で言っておいて、自分で赤くなってるぞ。ったく、付き合ってらんねーや。
ともかく、料理は非常においしかった。少々値は張ったが、この前稼いだばかりだから、財布もまだまだ重いし。

「ごちそうさまでした」

店を出ると、少し陽が傾いてきていた。まだ明るいけど、そろそろ帰りのことも考えとかないとな。この世界に電灯は無いから、夜は本当に暗いんだ。

「さてと。もう少しくらいなら、ぶらぶらできそうだけど。どうする?」

「いいですね。さっきまで賑やかなところにいましたから、ちょっと静かなところに行きませんか?」

静かな所、か。町の奥の方へ行けば、そんな場所もあるだろうか。俺が歩き出すと、ウィルがすっと、腕を絡めてきた。豊かな胸が腕に当たって、思わずドキッとする。

「うぃ、ウィル?」

「こ、これくらい、いいですよね?だって、いちおうデート、なんですし……」

「まあ、そりゃ……」

俺だって、嫌なわけじゃない。ただ、恥ずかしいだけで……周りの人には見られていないんだけれど、それでもやっぱり、照れ臭いものは照れ臭いんだ。女の子とこうやって、町中を歩くなんて……

(でも、こうして見るとウィルって、やっぱり可愛いよな)

さらさらの金髪。浮いているから、俺より少し目線は高い。まつ毛は長く、上に鉛筆が乗りそうだ。すっと引かれた小鼻に、控えめな唇。幽霊だから血色は悪いけど、それはそれで透き通るような透明感ってのがある。まあ、ウィルの場合、本当に透き通っているんだけど……
っと。ウィルがちらりとこちらを見てきて、目が合ってしまった。うわっちゃっちゃ!急いで顔を背けたけど、たぶん、バレてるだろうなぁ……その後でこっそり見てみたら、ウィルの頬はピンク色になっていた。ああ、やっぱりバレてた。

港を少し離れると、小高い丘の上に立つ神殿が見えた。そこへ向かう坂の途中に、小さな公園があり、俺たちはそこで休憩することにした。公園からは港が一望出来て、なかなかいい眺めだ。

「わあ。綺麗な公園ですね!」

「だな。ま、公園自体は大したことないけど」

「一言多いなぁ、もう。けどおかげで、人がいなくて助かりました。こうして気兼ねなく、桜下さんと話せますもん」

それはそうだ。ここの公園は、町民の憩いの場というわけでもないのか、人の姿は見当たらない。まあここまで来るのに、それなりに登ったからな。日ごろから訪れようとは思わないのかもしれない。

「あそうだ、ウィル。今更なんだけどさ」

「はい?」

「お礼って、こんなんでよかったのか?デートなんて言ったけど、結局したことなんて、町をうろついただけじゃないか」

お礼にしちゃ、ずいぶん安上がりすぎる気が……もっとも、じゃあ完璧なデートプランを立てろと言われても困ってしまうが。

「そうですね……今日半日、私と過ごして、桜下さんはどうでしたか?」

「俺?俺はまあ、楽しかったけど」

「ほんとですか?ならよかった、私も楽しかったです。デートって、お互い楽しければ、大成功なんじゃないんですか?」

「それは……そうなのかな?」

俺にデートのあれやこれやなんて、語れるわけがない。ウィルがそう言うのなら、それでいいのかもしれないけど……

「けど、なんつーか、こう……あまりにも、普通過ぎたというか」

「そうですかね?私からしたら、桜下さんと二人きりってだけでも、かなり特別感ありますよ。だって桜下さん、いつも誰かと一緒でしょう?」

「そう言われれば、そうかも」

振り返ってみれば、ウィルと完全に二人きりになる機会は、ほとんどなかった。いつも誰かしら、他の仲間がそばにいたからな。

「まあウィルが満足なら、いいんだけどさ。ちょっと申し訳なくなっちゃって」

「ええ~?うーん、そこまで言うんでしたら……あ、じゃあ一つ。桜下さんに訊いてみたいことがあったんですが。この機会に、質問してもいいですか?」

「質問?それくらいなら、全然お安い御用だ。いいぜ。で、何を?」

「ありがとうございます。それじゃあ……」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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