602 / 860
15章 燃え尽きた松明
1-2
しおりを挟む
1-2
港の市場は、活気に満ち溢れていた。様々な魚介類、売り子の大きな声。少し生っぽい匂いがするけど、ものが新鮮だからか、そこまで気にはならない。
「つっても、魚市場でデートするって、どうなんだ?」
「どうって、私に聞かれましても……」
俺とウィルは、並んで市場をぶらついていた。並んでと言っても、ウィルは幽霊なので、はたから見れば俺一人が散歩しているように見えるはずだ。会話も俺の独り言に聞こえるだろうけど、この活気のおかげで悪目立ちせずにすんでいる。
「桜下さんは、嫌ですか?」
「俺?俺は、嫌じゃないけど。そういうウィルは?」
「えっと……正直なこと言うと、よく分からないんです。だって、男の子とデートなんて、初めてしますし……」
ウィルはうつむきがちに、頬を染めながら言った。う、そう言われると、俺だってそうだ。
「桜下さんは、前の世界でデートとかしたんですか?」
「ねーよ、あるわけないだろ……言わせないでくれ、悲しくなるから」
「あ、すみません。ふふふ、でも、ちょっと安心しました。……あ!見てください、桜下さん!おっきな魚!」
ウィルがはしゃいだ声で、とある店先を指さした。丸々太った魚が、水桶にでーんと置かれている。
「おおっ、ほんとだ。これ一匹で、何人分になるかな」
「うーん、さばくのも大変そうですね……鱗が固そう。それに、どんな味なのかしら。あ、見てください。あっちのお魚は、とってもカラフルですよ」
「うわ、ほんとだ。あんなの食べたら、腹壊すんじゃないか?」
「もう!雰囲気壊すようなこと言わないでくださいよ。ほんとにもう、ふふふ。汚いなぁ」
市場なんて、デートコースに相応しくないと思っていたけれど。ウィルと一緒に店先を眺めて回るのは、ことのほか楽しかった。男女のデートとして、これが正しいのかは分からないけどな。でも、ウィルの表情を見る限り、彼女も楽しそうだ。ウィルはよく笑い、俺もつられて、いっしょになって笑った。
歩いていくと、魚ばかり扱う店の中に、ちらほら別のものが混じり始めた。野菜を売っていたり、日用品を売っていたり。珍しいな、魚から作られたロウソクなんてのも売っているぞ。
「お……」
「わぁ……綺麗ですね」
とある店先の前で、俺たちは足を止めた。そこは中古品を扱う質屋のようで、ガラスのショーウィンドウには、キラキラしたアクセサリーや、ガラス細工なんかが並べられている。
「ほんとだな。はぁー、よくこんなにガラスを細くできるな……」
「ですねぇ。きっと腕のいい職人さんが作ったんでしょうね」
ふぅむ。これは、どうしたもんかな。デートでアクセサリー屋に立ち寄って、女の子がステキだねとウィンドウを眺めている。これは、やっぱりプレゼントをすべきなのではないか?
(値札は……えっ!?!?)
無数に並ぶゼロの数を見て、俺の目玉が飛び出す。すると隣で、ウィルがぷははっと笑った。
「桜下さん、顔、顔!あはは」
「あ、ご、ごめん。顔に出てたか……」
「あははは。いいですよ、変に気を遣わなくて。確かに素敵ですけど、こんなもの持って旅はできませんよ」
「そ、そうか?」
「はい。だからその分、今日のデートを楽しいものにしてくださいね?」
むぅ。そう言われちゃ、何も言えないな。より一層張り切るしかないだろう。
「あ……」
「ん?どうした、ウィル?」
「あ、いえ。別に大したことじゃ……」
ん?なんだろう。彼女が見ていたのは、一つのガラスのアクセサリーだ。宝石のような飾りがはめられていて、ウィルのロッドによく似ている……あ。
(ウィルのロッドは、たしかウィルの父さんが作ったって……)
ひょっとして、ウィルは……?俺がそろりと様子を伺うと、ウィルは困り顔で微笑んだ。
「やめましょう。今日は楽しいデートにしたいんです。ね?」
「……ウィルが、そう言うなら」
「はい。何も見なかったことにしましょう。あ、それよりも、お昼がまだでしたよね。どこかのお店に入りましょうか」
この話はここまでにしよう、ってことだな。俺は素直に応じた。
「そーだな。どっかに飯屋ないか、探しに行こうぜ」
「はい!」
市場から少し離れると、こじゃれたレンガ造りの食堂が目に留まった。海に面した通りに店を構えていて、開放的な店先からは、シーフードのい~い匂いが漂ってくる。俺たちはすぐその店に決めた。
店に入ると、すぐに声の大きなおばちゃんが出迎えてくれた。
「はい、いらっしゃい。どこでも好きな席に座っとくれ。ご注文は?子どもだから、まだ酒は飲まないかね」
「あ、う、うん。なあ、ここのおすすめは何なんだ?」
「え?あっはは、そりゃあなんてったって、タキターロのステーキさ。この町に来てそれを食べなきゃ、他に一体何を食べるって言うんだい?」
へーえ。ステーキ……てことは、肉料理か。タキターロが何なのかは分からないけど、てっきり魚介料理屋だと思っていた。でも、それだけ推してくるんだ。間違いはないだろう。
俺がそれを頼むと、おばちゃんはうなずいて、厨房へと引っ込んでいった。
「桜下さん桜下さん、タキターロって、一体なんですかね?」
席に着くと、ウィルが興味津々な様子で訊ねてくる。
「なんだ、ウィルも知らないのか?俺もよくわかんねーんだ。ステーキって言ってたから、なんかの肉なんだろうな」
「うーん……どうします?とんでもないモンスターの丸焼きみたいなのが出てきたら」
「お前、自分は食べないからって、言いたい放題だな……」
がしかし、俺とウィルの心配は、料理が出てくると全くの的外れだったことが分かった。
「へい、お待ち。これがタキターロのステーキだよ」
出されたのは、おっきな白身のステーキだった。焼きたてで、ジュウジュウと音を立てている。ソースがいい香りだ……
「これ、なんの肉なんだ?」
「ええ?知らないのかい?タキターロは、この町の特産さ。でっかい脂ののった魚でね、うまいのよ、これが。ま、百聞は一見に如かずだね。食べてみな」
魚!へえ、これが……俺は言われた通り、ナイフで一口切り取ると、ぱくっと食いついた。
「お、おお……!うまい!」
俺が目を輝かせると、おばちゃんは満足気に笑って、奥へ戻っていった。
「桜下さん、そんなにおいしいんですか?」
「ああ、魚とは思えないよ。ウィルも食べてみるか?」
俺はそう言って、フォークをウィルへと差し出した。
「いいんですか?じゃあお願いします……えへへ。これって、ちょっとデートっぽいですね」
「あ、そ、そうかもな」
むむむ……ウィルにあーんするのなんて、前は普通にやっていたのに……意識すると、ちょっと恥ずかしいな。俺は魚を刺したフォークに、ぐっと魔力を込める。一瞬フォークが輪郭を失い、すぐ元に戻った。これでウィルでも、味が分かるようになったはずだ。
「じ、じゃあ……ほい」
「は、はい……あーん」
ぱくっと、魚がウィルの唇の奥に消える。ウィルは幽霊だから、実際に食べることはできない。現にほら、俺が引っ込めたフォークには、まだ魚が残ったままだ。
「んー。ほんとだ、脂がのってますね。このソースもおいしい……こんな料理があるんですねぇ。お魚のステーキかぁ……うん、また一つ、学びを得ました」
ウィルはしばらくもぐもぐやった後、そう感想を述べた。さて、このフォークに残った魚だけど……捨てるわけにもいくまい。俺が食べると、魚はすっかり熱を失っていて、冷蔵庫から出したばかりのようだった。
「あ……」
「な、なんだよ。その顔は。だって、俺が食べるしかないだろ」
「そ、そうですよね。ええ……いまさら、ですしね。間接じゃなくて、直接もしているわけですし……」
「……」
ごほん、ごほん。ウィルのやつ、自分で言っておいて、自分で赤くなってるぞ。ったく、付き合ってらんねーや。
ともかく、料理は非常においしかった。少々値は張ったが、この前稼いだばかりだから、財布もまだまだ重いし。
「ごちそうさまでした」
店を出ると、少し陽が傾いてきていた。まだ明るいけど、そろそろ帰りのことも考えとかないとな。この世界に電灯は無いから、夜は本当に暗いんだ。
「さてと。もう少しくらいなら、ぶらぶらできそうだけど。どうする?」
「いいですね。さっきまで賑やかなところにいましたから、ちょっと静かなところに行きませんか?」
静かな所、か。町の奥の方へ行けば、そんな場所もあるだろうか。俺が歩き出すと、ウィルがすっと、腕を絡めてきた。豊かな胸が腕に当たって、思わずドキッとする。
「うぃ、ウィル?」
「こ、これくらい、いいですよね?だって、いちおうデート、なんですし……」
「まあ、そりゃ……」
俺だって、嫌なわけじゃない。ただ、恥ずかしいだけで……周りの人には見られていないんだけれど、それでもやっぱり、照れ臭いものは照れ臭いんだ。女の子とこうやって、町中を歩くなんて……
(でも、こうして見るとウィルって、やっぱり可愛いよな)
さらさらの金髪。浮いているから、俺より少し目線は高い。まつ毛は長く、上に鉛筆が乗りそうだ。すっと引かれた小鼻に、控えめな唇。幽霊だから血色は悪いけど、それはそれで透き通るような透明感ってのがある。まあ、ウィルの場合、本当に透き通っているんだけど……
っと。ウィルがちらりとこちらを見てきて、目が合ってしまった。うわっちゃっちゃ!急いで顔を背けたけど、たぶん、バレてるだろうなぁ……その後でこっそり見てみたら、ウィルの頬はピンク色になっていた。ああ、やっぱりバレてた。
港を少し離れると、小高い丘の上に立つ神殿が見えた。そこへ向かう坂の途中に、小さな公園があり、俺たちはそこで休憩することにした。公園からは港が一望出来て、なかなかいい眺めだ。
「わあ。綺麗な公園ですね!」
「だな。ま、公園自体は大したことないけど」
「一言多いなぁ、もう。けどおかげで、人がいなくて助かりました。こうして気兼ねなく、桜下さんと話せますもん」
それはそうだ。ここの公園は、町民の憩いの場というわけでもないのか、人の姿は見当たらない。まあここまで来るのに、それなりに登ったからな。日ごろから訪れようとは思わないのかもしれない。
「あそうだ、ウィル。今更なんだけどさ」
「はい?」
「お礼って、こんなんでよかったのか?デートなんて言ったけど、結局したことなんて、町をうろついただけじゃないか」
お礼にしちゃ、ずいぶん安上がりすぎる気が……もっとも、じゃあ完璧なデートプランを立てろと言われても困ってしまうが。
「そうですね……今日半日、私と過ごして、桜下さんはどうでしたか?」
「俺?俺はまあ、楽しかったけど」
「ほんとですか?ならよかった、私も楽しかったです。デートって、お互い楽しければ、大成功なんじゃないんですか?」
「それは……そうなのかな?」
俺にデートのあれやこれやなんて、語れるわけがない。ウィルがそう言うのなら、それでいいのかもしれないけど……
「けど、なんつーか、こう……あまりにも、普通過ぎたというか」
「そうですかね?私からしたら、桜下さんと二人きりってだけでも、かなり特別感ありますよ。だって桜下さん、いつも誰かと一緒でしょう?」
「そう言われれば、そうかも」
振り返ってみれば、ウィルと完全に二人きりになる機会は、ほとんどなかった。いつも誰かしら、他の仲間がそばにいたからな。
「まあウィルが満足なら、いいんだけどさ。ちょっと申し訳なくなっちゃって」
「ええ~?うーん、そこまで言うんでしたら……あ、じゃあ一つ。桜下さんに訊いてみたいことがあったんですが。この機会に、質問してもいいですか?」
「質問?それくらいなら、全然お安い御用だ。いいぜ。で、何を?」
「ありがとうございます。それじゃあ……」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
港の市場は、活気に満ち溢れていた。様々な魚介類、売り子の大きな声。少し生っぽい匂いがするけど、ものが新鮮だからか、そこまで気にはならない。
「つっても、魚市場でデートするって、どうなんだ?」
「どうって、私に聞かれましても……」
俺とウィルは、並んで市場をぶらついていた。並んでと言っても、ウィルは幽霊なので、はたから見れば俺一人が散歩しているように見えるはずだ。会話も俺の独り言に聞こえるだろうけど、この活気のおかげで悪目立ちせずにすんでいる。
「桜下さんは、嫌ですか?」
「俺?俺は、嫌じゃないけど。そういうウィルは?」
「えっと……正直なこと言うと、よく分からないんです。だって、男の子とデートなんて、初めてしますし……」
ウィルはうつむきがちに、頬を染めながら言った。う、そう言われると、俺だってそうだ。
「桜下さんは、前の世界でデートとかしたんですか?」
「ねーよ、あるわけないだろ……言わせないでくれ、悲しくなるから」
「あ、すみません。ふふふ、でも、ちょっと安心しました。……あ!見てください、桜下さん!おっきな魚!」
ウィルがはしゃいだ声で、とある店先を指さした。丸々太った魚が、水桶にでーんと置かれている。
「おおっ、ほんとだ。これ一匹で、何人分になるかな」
「うーん、さばくのも大変そうですね……鱗が固そう。それに、どんな味なのかしら。あ、見てください。あっちのお魚は、とってもカラフルですよ」
「うわ、ほんとだ。あんなの食べたら、腹壊すんじゃないか?」
「もう!雰囲気壊すようなこと言わないでくださいよ。ほんとにもう、ふふふ。汚いなぁ」
市場なんて、デートコースに相応しくないと思っていたけれど。ウィルと一緒に店先を眺めて回るのは、ことのほか楽しかった。男女のデートとして、これが正しいのかは分からないけどな。でも、ウィルの表情を見る限り、彼女も楽しそうだ。ウィルはよく笑い、俺もつられて、いっしょになって笑った。
歩いていくと、魚ばかり扱う店の中に、ちらほら別のものが混じり始めた。野菜を売っていたり、日用品を売っていたり。珍しいな、魚から作られたロウソクなんてのも売っているぞ。
「お……」
「わぁ……綺麗ですね」
とある店先の前で、俺たちは足を止めた。そこは中古品を扱う質屋のようで、ガラスのショーウィンドウには、キラキラしたアクセサリーや、ガラス細工なんかが並べられている。
「ほんとだな。はぁー、よくこんなにガラスを細くできるな……」
「ですねぇ。きっと腕のいい職人さんが作ったんでしょうね」
ふぅむ。これは、どうしたもんかな。デートでアクセサリー屋に立ち寄って、女の子がステキだねとウィンドウを眺めている。これは、やっぱりプレゼントをすべきなのではないか?
(値札は……えっ!?!?)
無数に並ぶゼロの数を見て、俺の目玉が飛び出す。すると隣で、ウィルがぷははっと笑った。
「桜下さん、顔、顔!あはは」
「あ、ご、ごめん。顔に出てたか……」
「あははは。いいですよ、変に気を遣わなくて。確かに素敵ですけど、こんなもの持って旅はできませんよ」
「そ、そうか?」
「はい。だからその分、今日のデートを楽しいものにしてくださいね?」
むぅ。そう言われちゃ、何も言えないな。より一層張り切るしかないだろう。
「あ……」
「ん?どうした、ウィル?」
「あ、いえ。別に大したことじゃ……」
ん?なんだろう。彼女が見ていたのは、一つのガラスのアクセサリーだ。宝石のような飾りがはめられていて、ウィルのロッドによく似ている……あ。
(ウィルのロッドは、たしかウィルの父さんが作ったって……)
ひょっとして、ウィルは……?俺がそろりと様子を伺うと、ウィルは困り顔で微笑んだ。
「やめましょう。今日は楽しいデートにしたいんです。ね?」
「……ウィルが、そう言うなら」
「はい。何も見なかったことにしましょう。あ、それよりも、お昼がまだでしたよね。どこかのお店に入りましょうか」
この話はここまでにしよう、ってことだな。俺は素直に応じた。
「そーだな。どっかに飯屋ないか、探しに行こうぜ」
「はい!」
市場から少し離れると、こじゃれたレンガ造りの食堂が目に留まった。海に面した通りに店を構えていて、開放的な店先からは、シーフードのい~い匂いが漂ってくる。俺たちはすぐその店に決めた。
店に入ると、すぐに声の大きなおばちゃんが出迎えてくれた。
「はい、いらっしゃい。どこでも好きな席に座っとくれ。ご注文は?子どもだから、まだ酒は飲まないかね」
「あ、う、うん。なあ、ここのおすすめは何なんだ?」
「え?あっはは、そりゃあなんてったって、タキターロのステーキさ。この町に来てそれを食べなきゃ、他に一体何を食べるって言うんだい?」
へーえ。ステーキ……てことは、肉料理か。タキターロが何なのかは分からないけど、てっきり魚介料理屋だと思っていた。でも、それだけ推してくるんだ。間違いはないだろう。
俺がそれを頼むと、おばちゃんはうなずいて、厨房へと引っ込んでいった。
「桜下さん桜下さん、タキターロって、一体なんですかね?」
席に着くと、ウィルが興味津々な様子で訊ねてくる。
「なんだ、ウィルも知らないのか?俺もよくわかんねーんだ。ステーキって言ってたから、なんかの肉なんだろうな」
「うーん……どうします?とんでもないモンスターの丸焼きみたいなのが出てきたら」
「お前、自分は食べないからって、言いたい放題だな……」
がしかし、俺とウィルの心配は、料理が出てくると全くの的外れだったことが分かった。
「へい、お待ち。これがタキターロのステーキだよ」
出されたのは、おっきな白身のステーキだった。焼きたてで、ジュウジュウと音を立てている。ソースがいい香りだ……
「これ、なんの肉なんだ?」
「ええ?知らないのかい?タキターロは、この町の特産さ。でっかい脂ののった魚でね、うまいのよ、これが。ま、百聞は一見に如かずだね。食べてみな」
魚!へえ、これが……俺は言われた通り、ナイフで一口切り取ると、ぱくっと食いついた。
「お、おお……!うまい!」
俺が目を輝かせると、おばちゃんは満足気に笑って、奥へ戻っていった。
「桜下さん、そんなにおいしいんですか?」
「ああ、魚とは思えないよ。ウィルも食べてみるか?」
俺はそう言って、フォークをウィルへと差し出した。
「いいんですか?じゃあお願いします……えへへ。これって、ちょっとデートっぽいですね」
「あ、そ、そうかもな」
むむむ……ウィルにあーんするのなんて、前は普通にやっていたのに……意識すると、ちょっと恥ずかしいな。俺は魚を刺したフォークに、ぐっと魔力を込める。一瞬フォークが輪郭を失い、すぐ元に戻った。これでウィルでも、味が分かるようになったはずだ。
「じ、じゃあ……ほい」
「は、はい……あーん」
ぱくっと、魚がウィルの唇の奥に消える。ウィルは幽霊だから、実際に食べることはできない。現にほら、俺が引っ込めたフォークには、まだ魚が残ったままだ。
「んー。ほんとだ、脂がのってますね。このソースもおいしい……こんな料理があるんですねぇ。お魚のステーキかぁ……うん、また一つ、学びを得ました」
ウィルはしばらくもぐもぐやった後、そう感想を述べた。さて、このフォークに残った魚だけど……捨てるわけにもいくまい。俺が食べると、魚はすっかり熱を失っていて、冷蔵庫から出したばかりのようだった。
「あ……」
「な、なんだよ。その顔は。だって、俺が食べるしかないだろ」
「そ、そうですよね。ええ……いまさら、ですしね。間接じゃなくて、直接もしているわけですし……」
「……」
ごほん、ごほん。ウィルのやつ、自分で言っておいて、自分で赤くなってるぞ。ったく、付き合ってらんねーや。
ともかく、料理は非常においしかった。少々値は張ったが、この前稼いだばかりだから、財布もまだまだ重いし。
「ごちそうさまでした」
店を出ると、少し陽が傾いてきていた。まだ明るいけど、そろそろ帰りのことも考えとかないとな。この世界に電灯は無いから、夜は本当に暗いんだ。
「さてと。もう少しくらいなら、ぶらぶらできそうだけど。どうする?」
「いいですね。さっきまで賑やかなところにいましたから、ちょっと静かなところに行きませんか?」
静かな所、か。町の奥の方へ行けば、そんな場所もあるだろうか。俺が歩き出すと、ウィルがすっと、腕を絡めてきた。豊かな胸が腕に当たって、思わずドキッとする。
「うぃ、ウィル?」
「こ、これくらい、いいですよね?だって、いちおうデート、なんですし……」
「まあ、そりゃ……」
俺だって、嫌なわけじゃない。ただ、恥ずかしいだけで……周りの人には見られていないんだけれど、それでもやっぱり、照れ臭いものは照れ臭いんだ。女の子とこうやって、町中を歩くなんて……
(でも、こうして見るとウィルって、やっぱり可愛いよな)
さらさらの金髪。浮いているから、俺より少し目線は高い。まつ毛は長く、上に鉛筆が乗りそうだ。すっと引かれた小鼻に、控えめな唇。幽霊だから血色は悪いけど、それはそれで透き通るような透明感ってのがある。まあ、ウィルの場合、本当に透き通っているんだけど……
っと。ウィルがちらりとこちらを見てきて、目が合ってしまった。うわっちゃっちゃ!急いで顔を背けたけど、たぶん、バレてるだろうなぁ……その後でこっそり見てみたら、ウィルの頬はピンク色になっていた。ああ、やっぱりバレてた。
港を少し離れると、小高い丘の上に立つ神殿が見えた。そこへ向かう坂の途中に、小さな公園があり、俺たちはそこで休憩することにした。公園からは港が一望出来て、なかなかいい眺めだ。
「わあ。綺麗な公園ですね!」
「だな。ま、公園自体は大したことないけど」
「一言多いなぁ、もう。けどおかげで、人がいなくて助かりました。こうして気兼ねなく、桜下さんと話せますもん」
それはそうだ。ここの公園は、町民の憩いの場というわけでもないのか、人の姿は見当たらない。まあここまで来るのに、それなりに登ったからな。日ごろから訪れようとは思わないのかもしれない。
「あそうだ、ウィル。今更なんだけどさ」
「はい?」
「お礼って、こんなんでよかったのか?デートなんて言ったけど、結局したことなんて、町をうろついただけじゃないか」
お礼にしちゃ、ずいぶん安上がりすぎる気が……もっとも、じゃあ完璧なデートプランを立てろと言われても困ってしまうが。
「そうですね……今日半日、私と過ごして、桜下さんはどうでしたか?」
「俺?俺はまあ、楽しかったけど」
「ほんとですか?ならよかった、私も楽しかったです。デートって、お互い楽しければ、大成功なんじゃないんですか?」
「それは……そうなのかな?」
俺にデートのあれやこれやなんて、語れるわけがない。ウィルがそう言うのなら、それでいいのかもしれないけど……
「けど、なんつーか、こう……あまりにも、普通過ぎたというか」
「そうですかね?私からしたら、桜下さんと二人きりってだけでも、かなり特別感ありますよ。だって桜下さん、いつも誰かと一緒でしょう?」
「そう言われれば、そうかも」
振り返ってみれば、ウィルと完全に二人きりになる機会は、ほとんどなかった。いつも誰かしら、他の仲間がそばにいたからな。
「まあウィルが満足なら、いいんだけどさ。ちょっと申し訳なくなっちゃって」
「ええ~?うーん、そこまで言うんでしたら……あ、じゃあ一つ。桜下さんに訊いてみたいことがあったんですが。この機会に、質問してもいいですか?」
「質問?それくらいなら、全然お安い御用だ。いいぜ。で、何を?」
「ありがとうございます。それじゃあ……」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる