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15章 燃え尽きた松明
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ウィルと俺は、公園に唯一置かれている、誰かがそこに忘れていったようなベンチに並んで腰かけた。だいぶ痛んでいて、俺がお尻を乗っけると、ミシッと不吉に揺らぐ。ぺしゃんこにならないか心配だなぁ。
「で、何が訊きたいんだ?」
俺は改めて、となりのウィルに訊ねる。ウィルは両の指を胸の前で合わせてから、歯切れ悪く口を開いた。
「んーと……少しだけ、突っ込んだことなので。答えたくなければ、そう言ってくれていいんですが」
「え……な、なんだよ。いったい何を訊く気だ?スリーサイズなら教えないぞ」
「わ、私だっていいですよ、そんなもの!じゃなくてですね……桜下さん、この前の、アルルカさんに血をあげた時の事、覚えてますか?」
うぐっ。そりゃあ、覚えている……俺がアルルカの策にまんまと嵌り、だいぶ変態じみた行為をさせられた時だ……
「まあな……でも、あん時のことは前に話したじゃないか。まさか、まだ掘り返すのかよ?もう勘弁してくれ……」
「あっいえ、そういうわけじゃ。ただ、あの時桜下さん、言ってましたよね?えっちなことはなかったって」
「……」
のどの奥で、変な音が出た。確かに、そう受け答えした気がするけど……ウィルが妙な前置きをした意味が分かった。つまり、“そっち”の話なのか。
「……アルルカは毎回、妙なことに拘るんだよ。そういう風に見えるかもしれないけど、少なくとも俺は、一線を越えたことはないと思ってる」
「ええ、信じます。私も、桜下さんなら、アルルカさんの色香に誑かされることはないだろうって思ってましたから」
「なんだ、そうなのかよ?まぁでも、正しい認識だな。俺は健全な青少年だ!」
「ええ~?それは早計だなぁ。だって桜下さん、私の胸が当たるのはまんざらでもないって、前に言ってましたもんね」
「んなっ、ごほっ、ごほ!」
「あははは。すごい焦ってる」
くうぅ……ウィルめ、俺をからかいたいのか?
「はぁ、はぁ……くそ、なんなんだ。俺をいじめて楽しいのか?」
「わりと……」
「おい!」
「冗談です、冗談。別に、おかしなことじゃないですもの。男の子が、女の子のことを気にするのは」
ぬぅ、大人ぶったこと言いやがって。ウィルだって、俺とそこまでは変わらないはずのくせに。俺は唇を尖らせる。
「そういうお前は、どうなんだよ?」
「私?そりゃあ、ちょっとはありますよ」
「おお、意外とあっさり……でも、そうか。ウィルってシスターのくせに、意外と擦れてるとこあったしな。覚えてるか?俺たちが初めて会った夜、お前が何て言ってたか。確か、ここで素っ裸になって……」
「うわー!いいですよ、みなまで言わなくて!」
ウィルは俺の発言を遮ると、ぷくーっと膨れてしまった。あははは、形勢逆転だな。
「だ、だいたいですね!シスターのくせにって言いますけど、シスターだって神の従僕である前に、一人の人間なんです。敬虔なる神は、人が煩悩を忘れることはできないことをよくご存じだったんですよ。リビドーを見て見ぬふりをするのではなく、それを見つめ、うまく付き合う方法を模索することで、人は神の領域へ一歩でも歩み寄ろうとし……」
「ん、ん?」
「あ。すみません、つい昔の癖で……えーっと、ようはですね。処女は子どもを産めませんが、神は赤子を祝福するってことなんです」
「……?」
「あれ、分かりづらかったですか?えっと、うんと……つまりですね。私の仕えるゲデン神は、死と再生の神です。死というのは言わずもがなだと思いますが、再生というのはすなわち、生命の誕生を意味します。ゲデン神は、生命の産まれるプロセスも含めて、それを祝福しているんです。だからゲデンのシスターたちも、それにはある程度、寛容なんですよ。もちろん、姦淫はもってのほかですが」
「はあ……それは分かったけど、今のが、ウィルが俺に言いたいことだったのか?」
「へ?……あれ?」
ウィルはぽかんと口を開けた。おいおい……
「まあ何となく、言いたいことは察せれたけどさ……なんだって急に、そっちの話なんだ?」
「あ、ええと……これは、イジワルとかそういうんじゃなくて、純粋に気になってたことなんですが。桜下さんって、その、年頃の割には、そういう欲求が少なくありません?」
んなっ。またむせそうになったが、ウィルはイジワルじゃないと前置きしていた。からかっているわけじゃないってことだ。
「んなこと……考えたこともなかったよ。友達とかいなかったから、比べる機会もなかったしさ」
「ですか。まあ私も、詳しいわけじゃ……比較対象は一人ですし」
「ああ……あいつか」
「ええ……」
ウィルのよく知る男っつったら、幼馴染のデュアンしかいないだろう。ただあいつは、底抜けの女好きだからなぁ。
「あいつと比べちゃ、世の中のほとんどの男子が聖人になっちまうと思うけど」
「あはは、そうかもしれません。けど桜下さんって、女の子と触れ合う機会が多いでしょう?私、フランさん、それにアルルカさんも。おっぱいもよく触ってるし」
「お、俺がしたくてしてるんじゃないぞ!」
「わかってますって。でも、触ることには触るでしょう?そう言う時に、むらぁっと来たりとか、しないんですか?」
「ねえよ!」
仮にあったとしても、この場じゃ絶対言わない。
「うーん、そうなんですよねぇ。女の子ってその辺、意外と敏感なんです。いやらしい感じとかしたら、案外すぐ分かるんですよ」
え……さっと血の気が引いた。そ、そうなの?よかったぁ、今まで鼻の下伸ばさなくて……
「特に私なんか、ちょこっと、ね?平均より、大きかったというか……なので、嫌でも気付くようになっちゃうんですよ」
「ああ……似たようなことは、聞いたことあるよ」
女の人は、胸を見られるとすぐに分かるって言うよな……俺、ほんとに大丈夫だったかな?過去にそういう行いをしていないかどうか、不安になってきた。
「そうなんですよ。デュアンさんなんか、もろバレバレでした……でも、桜下さんはそういうの、全然なくて。それって、どうしてだろうなって」
ほっ。とりあえず、俺のやましい下心は露見していなかったらしい。にしても、どうしてだって?
「いちおう言っておくけど、男はみんなデュアンみたいなわけじゃないぞ」
「もしそうだったら、この世の終わりですよ……」
「ははは、ひでえ言いようだな。そうだなぁ……特に意識したことなかったから、理由らしい理由って言われても……あ、でも」
「なんですか?」
「んー、ちょっとだけ、思い当たるかも。ただな……ウィル、お前、口は堅いか?」
「へ?ええ、まあ……言うなと言うなら、守りますが。話しにくいことですか?」
「ちょっとな」
「あの、桜下さんが辛いなら、無理にとは……」
「俺というか、別の人の過去を話すことになっちゃうんだ。けど、ほとんどみんなには話してるしな……うん、じゃあ一応、ここだけの話ってことにしてくれるか」
ウィルはごくりと喉をならすと、しっかりとうなずいた。
「じゃあ話すけど。こっちの世界に来る前、俺がまだ病院にいたころだ」
「桜下さんと、確か一の国のクラークさん、それに三の国の尊さんも一緒だったんですよね」
「そうそう。で、尊な。あいつが入院してた理由って覚えてるか?」
「確か……頭の病気だった、んですよね。だんだん子どもに戻って行ってしまうっていう……」
「うん。ただ、それって実は、入院した後に発症した病だったんだ。入院することになった理由は、別にあるんだよ」
「すると、それとは別の病気を?」
「病気というか、怪我、かな。俺も、看護師が話してるのをちらっと聞いただけで、詳しいことは何も知らないんだけどさ。尊って、男に酷い暴力を受けて、それで入院していたらしいんだ」
ウィルの顔が、さっと引きつった。神殿で厳しい話も多く聞いていた彼女だ、何となく察したんだろう。
「その、暴力って……?」
「分かんねえ。本人に訊けるわけないし、確かめる気もなかった。ただそのせいで、尊のお母さんは、尊に男が近づくのをすごく嫌っててな。俺が尊と会えるのは、お母さんの目を盗んだ時だけだったよ」
俺みたいな子どもや、医者の先生にすらいい顔をしなかったんだから、お母さんの警戒心は相当刺々しかった。
「尊さんに、そんなことが……」
「俺は、尊を安心させたくってな。だから極力、男って意識させるようなことはしないように心がけてたんだ。俺がそのへん抑えて見えるのは、そん時の名残かもしれないな」
自分でも無意識のうちに、ブレーキを踏んでいたのかも。もちろん、単に俺が女性に慣れていないってのもあるけどさ。
「そうだったんですね……ああ、それで」
「うん?」
「王都で反乱が起きたことのことを、思い出したんです。桜下さん、女王様のピンチに我先にって飛び降りて行ったでしょう?あれは、尊さんのような目に遭ってほしくなかったからなんですね」
「んん?いやまぁ、そうなのかな。あん時は夢中だったから」
けど言われてみれば、そういう節もあったのかな。まあ単純に、誰かが嬲られるのを見る趣味なんかないってのもあるけど。
「まあ、そんなところかな。尊といた頃の癖だと思う」
「そうでしたか……桜下さん。話してくれて、ありがとうございました」
話を聞き終えると、ウィルは軽く礼をした。
「やっぱり桜下さんにとって、尊さんは特別な存在なんですね」
「まあ、な。あん時の俺は、あー……けっこう、ぞっこんだったから」
「……ちょっと、妬けちゃいます」
ウィルは少し拗ねたような顔をしていたが、すぐに明るく笑った。
「でも、安心しました。桜下さんが全然女性に興味ないって言い出したら、どうしようかと思ってましたよ」
「……そんなに高尚なやつじゃねーよ。今日だって、結構ドキドキしてたんだぞ」
俺がぼそぼそと言うと、ウィルはにっこり笑った。
「ほんとですか?よかった……実は私も、そうなんです」
俺とウィルは顔を見合わせて、くすっと笑いあった。いつの間にか、日差しはオレンジ色に変わりつつある。そろそろ戻らないと。俺とウィルの初デートは、そうやって幕を閉じた。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ウィルと俺は、公園に唯一置かれている、誰かがそこに忘れていったようなベンチに並んで腰かけた。だいぶ痛んでいて、俺がお尻を乗っけると、ミシッと不吉に揺らぐ。ぺしゃんこにならないか心配だなぁ。
「で、何が訊きたいんだ?」
俺は改めて、となりのウィルに訊ねる。ウィルは両の指を胸の前で合わせてから、歯切れ悪く口を開いた。
「んーと……少しだけ、突っ込んだことなので。答えたくなければ、そう言ってくれていいんですが」
「え……な、なんだよ。いったい何を訊く気だ?スリーサイズなら教えないぞ」
「わ、私だっていいですよ、そんなもの!じゃなくてですね……桜下さん、この前の、アルルカさんに血をあげた時の事、覚えてますか?」
うぐっ。そりゃあ、覚えている……俺がアルルカの策にまんまと嵌り、だいぶ変態じみた行為をさせられた時だ……
「まあな……でも、あん時のことは前に話したじゃないか。まさか、まだ掘り返すのかよ?もう勘弁してくれ……」
「あっいえ、そういうわけじゃ。ただ、あの時桜下さん、言ってましたよね?えっちなことはなかったって」
「……」
のどの奥で、変な音が出た。確かに、そう受け答えした気がするけど……ウィルが妙な前置きをした意味が分かった。つまり、“そっち”の話なのか。
「……アルルカは毎回、妙なことに拘るんだよ。そういう風に見えるかもしれないけど、少なくとも俺は、一線を越えたことはないと思ってる」
「ええ、信じます。私も、桜下さんなら、アルルカさんの色香に誑かされることはないだろうって思ってましたから」
「なんだ、そうなのかよ?まぁでも、正しい認識だな。俺は健全な青少年だ!」
「ええ~?それは早計だなぁ。だって桜下さん、私の胸が当たるのはまんざらでもないって、前に言ってましたもんね」
「んなっ、ごほっ、ごほ!」
「あははは。すごい焦ってる」
くうぅ……ウィルめ、俺をからかいたいのか?
「はぁ、はぁ……くそ、なんなんだ。俺をいじめて楽しいのか?」
「わりと……」
「おい!」
「冗談です、冗談。別に、おかしなことじゃないですもの。男の子が、女の子のことを気にするのは」
ぬぅ、大人ぶったこと言いやがって。ウィルだって、俺とそこまでは変わらないはずのくせに。俺は唇を尖らせる。
「そういうお前は、どうなんだよ?」
「私?そりゃあ、ちょっとはありますよ」
「おお、意外とあっさり……でも、そうか。ウィルってシスターのくせに、意外と擦れてるとこあったしな。覚えてるか?俺たちが初めて会った夜、お前が何て言ってたか。確か、ここで素っ裸になって……」
「うわー!いいですよ、みなまで言わなくて!」
ウィルは俺の発言を遮ると、ぷくーっと膨れてしまった。あははは、形勢逆転だな。
「だ、だいたいですね!シスターのくせにって言いますけど、シスターだって神の従僕である前に、一人の人間なんです。敬虔なる神は、人が煩悩を忘れることはできないことをよくご存じだったんですよ。リビドーを見て見ぬふりをするのではなく、それを見つめ、うまく付き合う方法を模索することで、人は神の領域へ一歩でも歩み寄ろうとし……」
「ん、ん?」
「あ。すみません、つい昔の癖で……えーっと、ようはですね。処女は子どもを産めませんが、神は赤子を祝福するってことなんです」
「……?」
「あれ、分かりづらかったですか?えっと、うんと……つまりですね。私の仕えるゲデン神は、死と再生の神です。死というのは言わずもがなだと思いますが、再生というのはすなわち、生命の誕生を意味します。ゲデン神は、生命の産まれるプロセスも含めて、それを祝福しているんです。だからゲデンのシスターたちも、それにはある程度、寛容なんですよ。もちろん、姦淫はもってのほかですが」
「はあ……それは分かったけど、今のが、ウィルが俺に言いたいことだったのか?」
「へ?……あれ?」
ウィルはぽかんと口を開けた。おいおい……
「まあ何となく、言いたいことは察せれたけどさ……なんだって急に、そっちの話なんだ?」
「あ、ええと……これは、イジワルとかそういうんじゃなくて、純粋に気になってたことなんですが。桜下さんって、その、年頃の割には、そういう欲求が少なくありません?」
んなっ。またむせそうになったが、ウィルはイジワルじゃないと前置きしていた。からかっているわけじゃないってことだ。
「んなこと……考えたこともなかったよ。友達とかいなかったから、比べる機会もなかったしさ」
「ですか。まあ私も、詳しいわけじゃ……比較対象は一人ですし」
「ああ……あいつか」
「ええ……」
ウィルのよく知る男っつったら、幼馴染のデュアンしかいないだろう。ただあいつは、底抜けの女好きだからなぁ。
「あいつと比べちゃ、世の中のほとんどの男子が聖人になっちまうと思うけど」
「あはは、そうかもしれません。けど桜下さんって、女の子と触れ合う機会が多いでしょう?私、フランさん、それにアルルカさんも。おっぱいもよく触ってるし」
「お、俺がしたくてしてるんじゃないぞ!」
「わかってますって。でも、触ることには触るでしょう?そう言う時に、むらぁっと来たりとか、しないんですか?」
「ねえよ!」
仮にあったとしても、この場じゃ絶対言わない。
「うーん、そうなんですよねぇ。女の子ってその辺、意外と敏感なんです。いやらしい感じとかしたら、案外すぐ分かるんですよ」
え……さっと血の気が引いた。そ、そうなの?よかったぁ、今まで鼻の下伸ばさなくて……
「特に私なんか、ちょこっと、ね?平均より、大きかったというか……なので、嫌でも気付くようになっちゃうんですよ」
「ああ……似たようなことは、聞いたことあるよ」
女の人は、胸を見られるとすぐに分かるって言うよな……俺、ほんとに大丈夫だったかな?過去にそういう行いをしていないかどうか、不安になってきた。
「そうなんですよ。デュアンさんなんか、もろバレバレでした……でも、桜下さんはそういうの、全然なくて。それって、どうしてだろうなって」
ほっ。とりあえず、俺のやましい下心は露見していなかったらしい。にしても、どうしてだって?
「いちおう言っておくけど、男はみんなデュアンみたいなわけじゃないぞ」
「もしそうだったら、この世の終わりですよ……」
「ははは、ひでえ言いようだな。そうだなぁ……特に意識したことなかったから、理由らしい理由って言われても……あ、でも」
「なんですか?」
「んー、ちょっとだけ、思い当たるかも。ただな……ウィル、お前、口は堅いか?」
「へ?ええ、まあ……言うなと言うなら、守りますが。話しにくいことですか?」
「ちょっとな」
「あの、桜下さんが辛いなら、無理にとは……」
「俺というか、別の人の過去を話すことになっちゃうんだ。けど、ほとんどみんなには話してるしな……うん、じゃあ一応、ここだけの話ってことにしてくれるか」
ウィルはごくりと喉をならすと、しっかりとうなずいた。
「じゃあ話すけど。こっちの世界に来る前、俺がまだ病院にいたころだ」
「桜下さんと、確か一の国のクラークさん、それに三の国の尊さんも一緒だったんですよね」
「そうそう。で、尊な。あいつが入院してた理由って覚えてるか?」
「確か……頭の病気だった、んですよね。だんだん子どもに戻って行ってしまうっていう……」
「うん。ただ、それって実は、入院した後に発症した病だったんだ。入院することになった理由は、別にあるんだよ」
「すると、それとは別の病気を?」
「病気というか、怪我、かな。俺も、看護師が話してるのをちらっと聞いただけで、詳しいことは何も知らないんだけどさ。尊って、男に酷い暴力を受けて、それで入院していたらしいんだ」
ウィルの顔が、さっと引きつった。神殿で厳しい話も多く聞いていた彼女だ、何となく察したんだろう。
「その、暴力って……?」
「分かんねえ。本人に訊けるわけないし、確かめる気もなかった。ただそのせいで、尊のお母さんは、尊に男が近づくのをすごく嫌っててな。俺が尊と会えるのは、お母さんの目を盗んだ時だけだったよ」
俺みたいな子どもや、医者の先生にすらいい顔をしなかったんだから、お母さんの警戒心は相当刺々しかった。
「尊さんに、そんなことが……」
「俺は、尊を安心させたくってな。だから極力、男って意識させるようなことはしないように心がけてたんだ。俺がそのへん抑えて見えるのは、そん時の名残かもしれないな」
自分でも無意識のうちに、ブレーキを踏んでいたのかも。もちろん、単に俺が女性に慣れていないってのもあるけどさ。
「そうだったんですね……ああ、それで」
「うん?」
「王都で反乱が起きたことのことを、思い出したんです。桜下さん、女王様のピンチに我先にって飛び降りて行ったでしょう?あれは、尊さんのような目に遭ってほしくなかったからなんですね」
「んん?いやまぁ、そうなのかな。あん時は夢中だったから」
けど言われてみれば、そういう節もあったのかな。まあ単純に、誰かが嬲られるのを見る趣味なんかないってのもあるけど。
「まあ、そんなところかな。尊といた頃の癖だと思う」
「そうでしたか……桜下さん。話してくれて、ありがとうございました」
話を聞き終えると、ウィルは軽く礼をした。
「やっぱり桜下さんにとって、尊さんは特別な存在なんですね」
「まあ、な。あん時の俺は、あー……けっこう、ぞっこんだったから」
「……ちょっと、妬けちゃいます」
ウィルは少し拗ねたような顔をしていたが、すぐに明るく笑った。
「でも、安心しました。桜下さんが全然女性に興味ないって言い出したら、どうしようかと思ってましたよ」
「……そんなに高尚なやつじゃねーよ。今日だって、結構ドキドキしてたんだぞ」
俺がぼそぼそと言うと、ウィルはにっこり笑った。
「ほんとですか?よかった……実は私も、そうなんです」
俺とウィルは顔を見合わせて、くすっと笑いあった。いつの間にか、日差しはオレンジ色に変わりつつある。そろそろ戻らないと。俺とウィルの初デートは、そうやって幕を閉じた。
つづく
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