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15章 燃え尽きた松明

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「ロウラン、お前だったのか!」

いつの間にか現れたロウランは、地面を踏みしめて、俺のそばへとやってきた。あれ、踏みしめて?浮かんでないぞ。このロウラン、ひょっとして実体があるのか?

「うん!ダーリンのピンチに、居てもたってもいられなくって。助太刀に来たの♪」

「そ、そうだったのか。助かるよ……」

とにかく、一命はとりとめた。はあぁ……するとこの金色の幕は、ロウランのしわざなのだろうか?こんな技、見たいことないけど。
ふと、フランがつぶやく。

「……ピンチってことなら、ずいぶん前からだと思ったけど。もっと早く出てこれたんじゃない?」

その質問には、ロウランはにこにこ笑うばかりで、答えようとしなかった。こいつ……タイミングを見計らっていやがったな。いや、それはまあいい。

「それよりロウラン、この金色のは、お前の技なのか?ていうかお前、実体が……?」

「そうだよ♪ほーら」

そういってロウランは、なぜか正面から抱き着いてきた。

「あーん、ダーリンの温もりを感じるの。感激ー!」

「ぶあっ、わかった、わかったから。今はそれどころじゃないんだって!」

「それもそうなの。楽しむのはほどほどにしないとね」

パッとロウランが離れる。解放された俺はふと、ロウランの体のあちこちから、金色の紐のようなものが伸びていることに気が付いた。

「ロウラン、その体の、それって……」

「ああ、これ?これはね、アタシ用に特別にチューンアップしてあるんだよ?」

チューンアップ?その紐を辿っていくと、やがて俺たちを覆っている、金色のドームの一部になっていた。え、てことはこれ、ロウランの一部みたいなもん……?

「……このドーム、あいつには破られないのか?」

「今のところは、そうみたいだね。でも、油断しちゃダメなの。外じゃ、これを引っぺがそうと躍起になってるみたいだから」

うげ、ぞおっとした。このドームの外を、あの泡の触手がうごめいているのか……

「けど少なくとも、ちょっとの間は安全なの。話し合うなら、今がチャンスじゃない?」

「お、おお。そうだな、そうしよう」

ロウランのおかげで窮地を脱した俺たちは、急場の作戦会議を開くこととなった。議題は、どうやってこの森から脱するか、だ。

「まず先に、敵の情報を纏めましょうか」

エラゼム指を折りながら、ダイダラボッチの特徴を述べていく。

「敵は泡状の体を持ち、それを自在に操ることが可能。泡ですので、どれほど損傷を受けても即座に再生が可能で、加えて相当に力も強い」

ウィルがこくこくとうなずいた。フレイムパインをへし折って、こっちにぶん投げられるくらいだもんな。

「そして、どうやら音に反応する性質を持っている様子。視覚を持っていないのか、それとも聴覚が優れているのかは、現時点では分かりません。不確定な部分が多いので、こうと決めつけることは難しいと思われます」

うん、同意見だ。高を括っては、痛い目を見る気がする。
すると、ここまで黙って聞いていたアルルカが、イライラした様子で話を遮った。

「はぁっ。ねえ、んな分かり切ったこと、いまさら言い合ってどうすんのよ?それより今は、あいつをぶっ倒す方法でしょうが!」

「アルルカ、こういうのは段取りってのがあるんだよ。大人しくしてろ」

「つったって……」

「いえ、アルルカ嬢にも一理あります。どのみち、分かっている敵の情報はこのくらいのものですから、次の議題に移りましょう。つまり、どうやって奴を出し抜くのか」

そう、そこが問題だ。

「あの化け物には、ほとんどの攻撃が効かなかった。一時的に無力化できても、すぐに再生されるんじゃ、こっちのジリ貧だ」

ライラの魔法も、アルルカの魔法も、ダイダラボッチには効かなかった。魔法がダメなら、物理も同様だろう。

「すっごい強いまほーで、跡形もなく、ぜんぶ吹っ飛ばしてみる……?」

ライラがそう提案してきたが、どうにも気乗りしなさそうだ。

「ライラの魔法っていうと、この前の、炎の竜を呼び出すやつとかか?」

「うん。ブレス・オブ・ワイバーンなら、あいつを丸ごと吹き飛ばせると思うよ。ただ……」

「ただ?」

「あのまほーは、威力があり過ぎるから……この森ごと、消し炭にしちゃうかも」

ああ、確かにな……あの炎の魔法は、とてつもない威力だった。あれを使うのなら、犠牲は覚悟しなくちゃいけないだろう。俺はアルアに、この森について訊ねようと、視界を巡らせた。

「アルア。ちょっと聞きたいんだけど……アルア?」

さっきダイダラボッチにさらわれかけたアルアは、ショックのせいで麻痺しているのか、ぽーっとした顔をしている。いまいち話を聞いているのか分かりにくいけど、とりあえず訊いてみるか。

「あー、アルア?この森って、お前の故郷では大事な場所だったりするのか?」

「え?……この森は、恐ろしい場所でもあるけど、強い力の宿った霊場でもあるの」

「てことは、吹き飛ばしたりしたら、怒られるかな?」

「吹き、飛ばす……?そんなことしたら、どんな祟りが起きるか分からないよ!」

むぅ、まいったな。祟りときたか。呪いや幽霊の実在するこの世界じゃ、祟りを単なる迷信と笑い飛ばすことはできない。

「うん、それならライラ、それは最後の手段だ。背に腹は代えられないけど、ギリギリまで粘ってみよう」

「うん、わかった」

ライラはほっとした顔でうなずいた。ライラは、無関係な動植物を巻き込むことを恐れているんだろう。そんなこと、できれば俺も頼みたくはない。

「でも、それならどうするの?」

フランがじっとこちらを見つめてくる。さて、どうするかな。俺はとにかく、思いついたことをどんどん口にしてみた。

「ロウラン、このままずーっと、朝まで耐えることはできるか?」

「ううーん、ちょおっとキビシイかも。頑張れば行けるかもだけど、確実じゃないことは、今は言わないほうがいいよね?」

「それなら、このまま移動することは?」

「動くこと自体はできるよ。でも、それを許してくれるかどうかは、外のヒトしだいなの」

「じゃ、やっぱりアイツを何とかしないとダメか……」

しかし、どうやって倒せばいいんだ?ダイダラボッチには、あらゆる攻撃が効かない。体を吹き飛ばしても平気だったんだから、まさに不死の存在だ。いっそのことアンデッドだったら、俺の能力でどうとでもできたのに……

(でも……そもそも、奴はどうして不死身なんだ?)

アンデッドでもないのに不死身というのは、生物としてあり得なくないか。マンティコアだって、さすがに首を落としたら息絶えた。なら、奴にも弱点があるのか?いやいや、ライラが全身吹き飛ばして見せたじゃないか!アイアンゴーレムのように、体内に核があるということもなかった。弱点らしい弱点は、奴のどこにも存在しない。

(なら……ひょっとして、あいつは小さな生き物の群れなのか?だから千切れても、すぐに再生できた?)

大きな一つに見えて、実は小さな複数……なんてこと、あるのだろうか。でもそれだと、ライラの炎や、アルルカの氷を受けた一部分の個体は、少なからずダメージを受けていたはず……そうだとしたら、不死身だというアルアの言葉とは食い違ってくる気も……

「……ん?」

ふと気が付くと、仲間たちが固唾を飲んで、俺をじいっと見つめていた。あ、あれ?なんでみんな、そんな顔を?

「うーん、あと、そう言えばなんだけど」

俺が戸惑っていると、ふいにロウランが、頬に手を当ててドームを見上げた。

「なんでか分からないけど、さっきから電気が走ってるみたいなの。ダーリンもみんなも、触れないようにしてね。感電しちゃうから」

「え?電気って、このドームを?」

「そうなの。よく分かんないけど、外にいるでっかいのが流してるみたい」

電気?ダイダラボッチは、電気まで操るのか?クラークじゃあるまいし……それにロウランは、どうやらこの金色の膜に触れているものが、まさに手に取るようにわかるようだ。実際、体から直接伸びている物だから、なんかのカラクリがあるのだろう……

(にしても、電気、か……)

放電能力まであるのなら、なんで今まで使ってこなかったんだ?もしそうされたら、エラゼムでも防げなかっただろう。俺たちはもっと早く終わっていたはずだ。

(電気……電気が流れている、不死身の巨人………………?)

ん……?電気が流れているんじゃなくて、ひょっとして、電気で動いている・・・・・・・・………?

「あっ!!!」

まさしく、電流が走ったようだ。もし、本当にそうなら!

「なら、本体はどこに……?」

「あの、桜下さん……?」

仲間の怪訝そうな声が聞こえるが、返事をしていられない。せっかくのひらめきが、逃げて行ってしまいそうだからだ。

「音……視覚じゃない……ライラが、吹き飛ばした時……!」

これだ!これなら、すべての点が、線に繋がる!

「みんな……あいつを、倒せるかもしれないぜ」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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