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15章 燃え尽きた松明
5-5
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「た、倒すっ!?ダイダラボッチを!?」
一番驚いたのは、やっぱりというか、アルアだった。
「できっこない!あいつは、不死身なんだってば!」
「いいや、そう見えているだけだ。そもそも、普通の生き物が不死身だなんて、おかしな話なんだ。だから必ず、そこにはカラクリがある……たぶん」
最後の方に自信が揺らいだ。俺が閃いたコレは、あくまで仮説にすぎない。百パーセントあっている保証はないけれど……
「わかった。わたしは、何をすればいい?」
フランは当たり前のように、そう言ってくれた。少しも疑ったりせずに、ただ俺の言葉を待っている。信頼、してくれているんだ。俺は胸が熱くなった。
「フラン。奴の、“足下”だ。どうにかして、そこまで行ってほしい」
「足下?そこまで行ったら?」
「たぶん、そこまで行けば、全部分かるはずなんだ……その先は、フランに任せてもいいか?」
「わかった。その場の判断ってことね」
フランはやっぱり、こくりとうなずいた。そんなフランだからこそ、俺も任せられるんだ。
「で、俺たちの方は、フランが邪魔されないようにサポートに回る。魔法でなら一時的に無力化できるから、それで……」
「それなら、アタシに任せてほしーの」
おっ。ロウランがぴしっと手を上げた。
「せっかくの復帰戦なんだから、アタシもいいとこ見せたいな」
「ロウラン、行けるのか?」
「あの白いのが、そのコんとこに行かないようにすればいいんでしょ?お安い御用なの」
ロウランは胸を張ると、そこをとんと拳で叩いた。
「わかった。ロウラン、頼む」
「えへへへ。頼まれたの♪」
ロウランのやつ、ずいぶんはしゃいでいるな。よっぽど実体に戻れたのが嬉しいのか?
「よーし。それなら、タイミングを合わせよう。一、二の、三で、ロウランはドームを消してくれ。それと同時に、フランがスタートだ」
「わかった」「りょーかいなの」
「みんなは、万が一に備えて、防御の準備を頼む」
「わかりました」「うん!」「御意に」「はいはい」
うっしゃ、作戦開始だ!フランがぐっと姿勢を低くし、スタート位置につく。ロウランがカウントを開始した。
「それじゃあ、いくよぉ。いち、にぃの……」
ドクドクと、耳の奥で音が鳴っている。緊張と興奮で、はち切れそうだ。俺のひらめきには自信がある。だけど、絶対の保証はない。頼むぜぇ、うまくいってくれ……!
「さんっ!」
シャァ!俺たちを囲っていた金の膜が、一瞬でなくなった。それとほとんど同時に、フランがどんっと飛び出す。
「ううっ……!」
俺は息をのんだ。ロウランが言っていた通り、ドームの外側には、おびただしい数のダイダラボッチの触腕がひしめいていた。俺たちがこもっている間に、さらに数を増したようだ。フランが走る足音を聞きつけて、触手が彼女を追い始めた!
「ロウラン!」
「そうは、させないのっ!」
ロウランが腕を伸ばすと、彼女の全身から伸びた金が無数のワイヤーとなって、触手に絡みついた。ギチィ!
「つっかまえたの♪」
「ははっ、いいぞロウラン!フラン、いっけー!」
ロウランがダイダラボッチの動きを封じている間に、フランは猛スピードで駆け抜け、あっという間に森に消えていった。よし、これなら……
「あれ?うわわわ!」
お、おお!?ロウランの体が引っ張られて、ふわりと宙に浮く!
「ロウラン!」「ロウラン嬢!」
俺とエラゼムが飛びついて、なんとかロウランの体を捕まえた。
「ごめんなの!あっちも、本気を出してきたみたい……!」
ロウランはぺろりと唇を舐めると、再びぐっと腕を伸ばす。触手が振りほどこうと、とんでもない力で引っ張っているんだ。
「おとなしく、する、のぉぉ……」
ギチギチと、ロウランから伸びる金がしなっている。今ロウランは、ダイダラボッチ相手に、力勝負の綱引き対決を仕掛けているんだ。今のところ、勝負は五分だが……
だが相手には、フェアプレイの精神はないみたいだ。ダイダラボッチは、新たな触腕を生やしてきた!
「あいつ、きたねーぞ!」
「ふ、ふーん。そっちがそう来るなら、こっちにも考えがあるよー……!」
さわさわさわ。ロウランが体に巻いている包帯が、風に吹かれたようにうねうねと動き始めた。
「これで、どうだ!」
シャアアー!包帯がほどけて、猛スピードで飛んで行く!って、え?明らかに、巻いてあった長さよりも長くないか!?まあとにかく、その包帯は、新たに生えた触手に絡みついた。
「まだまだなのぉぉぉ!」
う、うわ。ロウランが叫ぶと、絡みついた包帯がさらにぐんぐん伸びていく。包帯はぐるぐるとダイダラボッチの周りに渦を巻き、触手どころか、ダイダラボッチの上半身をほとんど覆い隠してしまった。
「はぁ、はぁ……包帯法、完了なの……♪」
ひ、ひええ。山ほどもある怪物を、ぐるぐる巻きに……何メートル、いや何キロ分の長さがあるんだろ……俺が目の前の光景にぽかんとした、その瞬間だった。
パーン!
突然、あぶくが弾けるような音がした。
「あれ?」
「うわっ!」
「ぬおっ!?」
俺とエラゼムとロウランは、そっくりそろってひっくり返った。ドッシーン!ライラが驚いた顔で、倒れた俺たちのそばに膝をつく。
「ど、どうしたの?みんな……」
「い、いや。急に軽くなってな……」
「軽く?」
「ああ。綱引きの綱を、ぱっと放されたみたいにさ」
さっきまで必死に押さえていたロウランの体が、きゅうに引っ張られなくなったんだ。綱を放された、ということは……俺は体を起こして、ダイダラボッチがいたあたりを見た。
「っ!しゃあ!ビンゴだ!」
いやっほう!俺は思わず小躍りしたくなった。ロウランの包帯がはらはらと解けていくと、中にいたダイダラボッチの姿は、跡形もなく消えていたからだ。
「フランのやつ、上手くやったんだな!やった、勝った!」
「や、やったー?」
よく分かっていない顔のライラの手を掴んで、俺はくるくると踊った。
「か、勝った?んですか?」
やっぱりよく分かっていない顔のウィルは、喜んだらいいのか、それともまだ気を引き締めるべきなのか、決めかねているみたいだった。
「はあ、あはは。そっか、ごめんごめん、ちゃんと説明してなかったな」
回り過ぎてライラが目を回してしまったので、俺は腰を下ろした。仲間たちも輪になって座る。あ、アルアだけは呆けているので、その輪には加わろうとしなかったけど。
「ええっと、何から話せばいいか……」
するとウィルが、おずおずと口を開く。
「まず、フランさんが何をしに行ったのか、教えてくれませんか?」
「ああ、そうだな。フランには、ダイダラボッチの本体を叩きに行ってもらったんだ」
「ほ、本体?」
俺はこくりとうなずき、ウィルはぽかんと口を開けた。
「あのダイダラボッチは、偽物だったってことですか?」
「偽物というか、仮の姿というか。俺は、あのダイダラボッチを、別の何かに操られてるものだって考えたんだ」
「操られている?」
「そ。ちょうど、人形劇みたいな要領でさ。あいつは、泡でできた巨大な人形だったんじゃないかな」
「人形……にわかには、信じられません。どうして、そんなことに気付いたんですか?」
「いくつかあるけど……まず、あいつが不死身だったこと。けどさ、やっぱりおかしいだろ。死なない生き物なんて、ありえないよ」
「それは、まあ……」
「で次が、あいつに電気が流れてたこと。これで、俺はあいつが人形だって確信したんだ」
「はぁ……どうして電気が流れてると、人形確定なんです?」
おっと、それの説明は難しいかもしれない。だって、俺がそれに気づいたのって、ロボットを思い出したからなんだ。ロボットは、電気で動くだろ。そうじゃないロボもいるかもだけど、ほとんどはそのはずだ。で、ダイダラボッチが電撃攻撃をしてこなかったことから、電気は攻撃目的に使用されていないことが分かった。攻撃以外の電気の使い道が、俺には動力しか思いつかなかったんだ。
(ただ、それをどう説明すっかな)
ロボットは、前の世界じゃありふれていた。けどこの世界には、電子機器なんてあるわけがない。ロボットを知らないみんなに、一からロボットの説明ができるほど、俺も機械に詳しくないしな……
「まあ……知識と、直感、かな?」
結局俺は、そうはぐらかした。ウィルとライラは、素直におぉーっと感心してくれている。う、ちょっとだけ罪悪感……
「けどそんなら、どうして本体が足下だって分かったのよ?」
アルルカからの質問だ。やつにしては珍しく、興味津々な様子だった。
「それはまあ、消去法かな?」
「はぁ?」
「いやまあ、そこには俺も確信がなかったんだけどさ。あいつって、音に敏感に反応してただろ?逆に言えば、音しか情報源がなかったのかなって」
「……どういうことよ」
「まあ単純にさ、俺たちが見えない位置に居たんじゃないかな」
「見えない……」
「うん。でもって一度、ライラがあいつの体を吹っ飛ばしてる。だからあいつの体、頭とか腕とかには、本体はいないって分かった。そこにいたなら、俺たちが見えてたはずだしな。そうなると残るのは、俺たちが見えない位置にあって、なおかつダイダラボッチのすぐそばの場所だけだ」
「それで、足下ってわけね……」
俺は再度うなずいた。ずーっと木々に隠れて見えなかった、あいつの下半身が怪しいっていうのは、割とすぐに思い至ったことだ。
「ただし、音を頼りにしているのなら、ここからうーんと離れた場所に潜伏している可能性もあった。だから確証はなかったんだけど……」
「それもそうね」
「ただ、一度ライラが体を吹き飛ばした時、あいつは足下から徐々に再生したからな。本体がそこにいたからこそ、そういう復活の仕方をしたんだろうなって」
「……」
アルルカは腕を組んで、俺の推理を反芻しているようだ。エラゼムががしゃりとうなずく。
「相も変わらず、見事な観察眼ですな、桜下殿。ではフラン嬢がその本体を叩いたことで、あの巨人が消え去ったということですか」
「そういうことだと思う。ただ、本体がどんなのかまでは、さっぱりわかんねーな。そこは、フランが戻ってきてから……」
っと。噂をしたそばから、足音が近づいてきた。すぐに木々の間から、フランが髪をなびかせて戻ってきた。
「フラン、おかえり!上手くやってくれたんだな」
「まあ、うん。ほとんど何もしてないけど」
うん?フランは何とも言えない、微妙な顔をしている。何かあったのか?
「フラン?どうした?」
「……見てもらったほうが早いか。これ」
そう言ってフランは、ガントレットのはまった手を差し出してきた。手に何か握っているようだ。俺たちみんなが注目する中、ぱっと、フランが手を開く。すると、そこには……
「な?なんだ、これぇ?」
「虫、ですか?」
そこにいたのは、数センチ程度の大きさしかない、小さな虫だった。どことなくセミに似ているけど、頭には角が生えている。だけど、それだけだ。
「え、フラン?もしかして、こいつが?」
「……うん。あの化け物の足下に行ったら、こいつがたくさんいた。わたしが近寄ったら、みんな一斉に逃げて行って。それと同時に、化け物の体が消え去った」
「なんと……」と、エラゼムが呆れたようにつぶやく。
「では、ダイダラボッチの正体は、小さな虫……」
なんてこった。俺も力が抜けてしまった。あの馬鹿でかい巨人を、こんな小さな虫が操っていたのか?
俺たちが呆れている中、フランの手の上の虫は、ぷくぷくと泡を吐いて威嚇していた。やがて羽を広げると、ぶーんと森の方へと飛んで行ってしまった。
「……幽霊の、正体見たり、枯れ尾花なんていうけれど……」
なんとまあ、びっくりだ。幽霊と聞いて、ウィルが首をかしげているけど、説明する気にもなれない。
「し……信じられない……」
あん?俺は声のした方へ振り返った。そこにいるのは、腰を抜かしていたアルアだ。ぽかんとしたアルアは、静かになった夜の空を見上げて、それから俺たちを見つめた。
「あなたたち……ダイダラボッチを、倒したの……?」
「倒したというか、追っ払っただけだけどな」
「だとしても、信じられない……あいつは不死身で、誰だって敵わなかったのに」
「ん、まあ、不死身も不敗もありえないってことだ……さてと。フランが追っ払った虫たちも、またいつ戻ってくるかも分からないな」
エラゼムが同意する。
「長居は無用ですな。ライラ嬢、お疲れでしょうが、馬を呼び出せますか?」
「うん!任せて」
すっかりエラゼムと仲直りしたライラは、素直にストームスティードを呼び出した。俺はアルアの馬を見る。
「アルア、あんたの馬、ちゃんと走れそうか?」
アルアの茶色の馬は、騎手と同様に、地面に倒れて呆けている。怪我をしたってよりか、ショックが大きすぎて腰を抜かしているようだ。俺の問い掛けに、アルアははっとして、馬をなだめ始めた。幸い、それから五分と経たずに、馬は再び立ち上がってくれた。馬も馬で、恐ろしい存在がいなくなったことを理解しているみたいだ。
「よし。かなりの回り道になっちまったけど、当初の予定に戻ろう。さあ、とっとと森を抜けようぜ」
「わ、わかった」
アルアはたどたどしく返事をすると、俺たちの先を進み始めた。森は再び静かになった。ダイダラボッチの脅威が去った以上、多少のひづめの音は気にしなくていい。俺たちはなるべく急いで、夜の森を駆け抜けた。
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
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「いいや、そう見えているだけだ。そもそも、普通の生き物が不死身だなんて、おかしな話なんだ。だから必ず、そこにはカラクリがある……たぶん」
最後の方に自信が揺らいだ。俺が閃いたコレは、あくまで仮説にすぎない。百パーセントあっている保証はないけれど……
「わかった。わたしは、何をすればいい?」
フランは当たり前のように、そう言ってくれた。少しも疑ったりせずに、ただ俺の言葉を待っている。信頼、してくれているんだ。俺は胸が熱くなった。
「フラン。奴の、“足下”だ。どうにかして、そこまで行ってほしい」
「足下?そこまで行ったら?」
「たぶん、そこまで行けば、全部分かるはずなんだ……その先は、フランに任せてもいいか?」
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「ロウラン、行けるのか?」
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ロウランは胸を張ると、そこをとんと拳で叩いた。
「わかった。ロウラン、頼む」
「えへへへ。頼まれたの♪」
ロウランのやつ、ずいぶんはしゃいでいるな。よっぽど実体に戻れたのが嬉しいのか?
「よーし。それなら、タイミングを合わせよう。一、二の、三で、ロウランはドームを消してくれ。それと同時に、フランがスタートだ」
「わかった」「りょーかいなの」
「みんなは、万が一に備えて、防御の準備を頼む」
「わかりました」「うん!」「御意に」「はいはい」
うっしゃ、作戦開始だ!フランがぐっと姿勢を低くし、スタート位置につく。ロウランがカウントを開始した。
「それじゃあ、いくよぉ。いち、にぃの……」
ドクドクと、耳の奥で音が鳴っている。緊張と興奮で、はち切れそうだ。俺のひらめきには自信がある。だけど、絶対の保証はない。頼むぜぇ、うまくいってくれ……!
「さんっ!」
シャァ!俺たちを囲っていた金の膜が、一瞬でなくなった。それとほとんど同時に、フランがどんっと飛び出す。
「ううっ……!」
俺は息をのんだ。ロウランが言っていた通り、ドームの外側には、おびただしい数のダイダラボッチの触腕がひしめいていた。俺たちがこもっている間に、さらに数を増したようだ。フランが走る足音を聞きつけて、触手が彼女を追い始めた!
「ロウラン!」
「そうは、させないのっ!」
ロウランが腕を伸ばすと、彼女の全身から伸びた金が無数のワイヤーとなって、触手に絡みついた。ギチィ!
「つっかまえたの♪」
「ははっ、いいぞロウラン!フラン、いっけー!」
ロウランがダイダラボッチの動きを封じている間に、フランは猛スピードで駆け抜け、あっという間に森に消えていった。よし、これなら……
「あれ?うわわわ!」
お、おお!?ロウランの体が引っ張られて、ふわりと宙に浮く!
「ロウラン!」「ロウラン嬢!」
俺とエラゼムが飛びついて、なんとかロウランの体を捕まえた。
「ごめんなの!あっちも、本気を出してきたみたい……!」
ロウランはぺろりと唇を舐めると、再びぐっと腕を伸ばす。触手が振りほどこうと、とんでもない力で引っ張っているんだ。
「おとなしく、する、のぉぉ……」
ギチギチと、ロウランから伸びる金がしなっている。今ロウランは、ダイダラボッチ相手に、力勝負の綱引き対決を仕掛けているんだ。今のところ、勝負は五分だが……
だが相手には、フェアプレイの精神はないみたいだ。ダイダラボッチは、新たな触腕を生やしてきた!
「あいつ、きたねーぞ!」
「ふ、ふーん。そっちがそう来るなら、こっちにも考えがあるよー……!」
さわさわさわ。ロウランが体に巻いている包帯が、風に吹かれたようにうねうねと動き始めた。
「これで、どうだ!」
シャアアー!包帯がほどけて、猛スピードで飛んで行く!って、え?明らかに、巻いてあった長さよりも長くないか!?まあとにかく、その包帯は、新たに生えた触手に絡みついた。
「まだまだなのぉぉぉ!」
う、うわ。ロウランが叫ぶと、絡みついた包帯がさらにぐんぐん伸びていく。包帯はぐるぐるとダイダラボッチの周りに渦を巻き、触手どころか、ダイダラボッチの上半身をほとんど覆い隠してしまった。
「はぁ、はぁ……包帯法、完了なの……♪」
ひ、ひええ。山ほどもある怪物を、ぐるぐる巻きに……何メートル、いや何キロ分の長さがあるんだろ……俺が目の前の光景にぽかんとした、その瞬間だった。
パーン!
突然、あぶくが弾けるような音がした。
「あれ?」
「うわっ!」
「ぬおっ!?」
俺とエラゼムとロウランは、そっくりそろってひっくり返った。ドッシーン!ライラが驚いた顔で、倒れた俺たちのそばに膝をつく。
「ど、どうしたの?みんな……」
「い、いや。急に軽くなってな……」
「軽く?」
「ああ。綱引きの綱を、ぱっと放されたみたいにさ」
さっきまで必死に押さえていたロウランの体が、きゅうに引っ張られなくなったんだ。綱を放された、ということは……俺は体を起こして、ダイダラボッチがいたあたりを見た。
「っ!しゃあ!ビンゴだ!」
いやっほう!俺は思わず小躍りしたくなった。ロウランの包帯がはらはらと解けていくと、中にいたダイダラボッチの姿は、跡形もなく消えていたからだ。
「フランのやつ、上手くやったんだな!やった、勝った!」
「や、やったー?」
よく分かっていない顔のライラの手を掴んで、俺はくるくると踊った。
「か、勝った?んですか?」
やっぱりよく分かっていない顔のウィルは、喜んだらいいのか、それともまだ気を引き締めるべきなのか、決めかねているみたいだった。
「はあ、あはは。そっか、ごめんごめん、ちゃんと説明してなかったな」
回り過ぎてライラが目を回してしまったので、俺は腰を下ろした。仲間たちも輪になって座る。あ、アルアだけは呆けているので、その輪には加わろうとしなかったけど。
「ええっと、何から話せばいいか……」
するとウィルが、おずおずと口を開く。
「まず、フランさんが何をしに行ったのか、教えてくれませんか?」
「ああ、そうだな。フランには、ダイダラボッチの本体を叩きに行ってもらったんだ」
「ほ、本体?」
俺はこくりとうなずき、ウィルはぽかんと口を開けた。
「あのダイダラボッチは、偽物だったってことですか?」
「偽物というか、仮の姿というか。俺は、あのダイダラボッチを、別の何かに操られてるものだって考えたんだ」
「操られている?」
「そ。ちょうど、人形劇みたいな要領でさ。あいつは、泡でできた巨大な人形だったんじゃないかな」
「人形……にわかには、信じられません。どうして、そんなことに気付いたんですか?」
「いくつかあるけど……まず、あいつが不死身だったこと。けどさ、やっぱりおかしいだろ。死なない生き物なんて、ありえないよ」
「それは、まあ……」
「で次が、あいつに電気が流れてたこと。これで、俺はあいつが人形だって確信したんだ」
「はぁ……どうして電気が流れてると、人形確定なんです?」
おっと、それの説明は難しいかもしれない。だって、俺がそれに気づいたのって、ロボットを思い出したからなんだ。ロボットは、電気で動くだろ。そうじゃないロボもいるかもだけど、ほとんどはそのはずだ。で、ダイダラボッチが電撃攻撃をしてこなかったことから、電気は攻撃目的に使用されていないことが分かった。攻撃以外の電気の使い道が、俺には動力しか思いつかなかったんだ。
(ただ、それをどう説明すっかな)
ロボットは、前の世界じゃありふれていた。けどこの世界には、電子機器なんてあるわけがない。ロボットを知らないみんなに、一からロボットの説明ができるほど、俺も機械に詳しくないしな……
「まあ……知識と、直感、かな?」
結局俺は、そうはぐらかした。ウィルとライラは、素直におぉーっと感心してくれている。う、ちょっとだけ罪悪感……
「けどそんなら、どうして本体が足下だって分かったのよ?」
アルルカからの質問だ。やつにしては珍しく、興味津々な様子だった。
「それはまあ、消去法かな?」
「はぁ?」
「いやまあ、そこには俺も確信がなかったんだけどさ。あいつって、音に敏感に反応してただろ?逆に言えば、音しか情報源がなかったのかなって」
「……どういうことよ」
「まあ単純にさ、俺たちが見えない位置に居たんじゃないかな」
「見えない……」
「うん。でもって一度、ライラがあいつの体を吹っ飛ばしてる。だからあいつの体、頭とか腕とかには、本体はいないって分かった。そこにいたなら、俺たちが見えてたはずだしな。そうなると残るのは、俺たちが見えない位置にあって、なおかつダイダラボッチのすぐそばの場所だけだ」
「それで、足下ってわけね……」
俺は再度うなずいた。ずーっと木々に隠れて見えなかった、あいつの下半身が怪しいっていうのは、割とすぐに思い至ったことだ。
「ただし、音を頼りにしているのなら、ここからうーんと離れた場所に潜伏している可能性もあった。だから確証はなかったんだけど……」
「それもそうね」
「ただ、一度ライラが体を吹き飛ばした時、あいつは足下から徐々に再生したからな。本体がそこにいたからこそ、そういう復活の仕方をしたんだろうなって」
「……」
アルルカは腕を組んで、俺の推理を反芻しているようだ。エラゼムががしゃりとうなずく。
「相も変わらず、見事な観察眼ですな、桜下殿。ではフラン嬢がその本体を叩いたことで、あの巨人が消え去ったということですか」
「そういうことだと思う。ただ、本体がどんなのかまでは、さっぱりわかんねーな。そこは、フランが戻ってきてから……」
っと。噂をしたそばから、足音が近づいてきた。すぐに木々の間から、フランが髪をなびかせて戻ってきた。
「フラン、おかえり!上手くやってくれたんだな」
「まあ、うん。ほとんど何もしてないけど」
うん?フランは何とも言えない、微妙な顔をしている。何かあったのか?
「フラン?どうした?」
「……見てもらったほうが早いか。これ」
そう言ってフランは、ガントレットのはまった手を差し出してきた。手に何か握っているようだ。俺たちみんなが注目する中、ぱっと、フランが手を開く。すると、そこには……
「な?なんだ、これぇ?」
「虫、ですか?」
そこにいたのは、数センチ程度の大きさしかない、小さな虫だった。どことなくセミに似ているけど、頭には角が生えている。だけど、それだけだ。
「え、フラン?もしかして、こいつが?」
「……うん。あの化け物の足下に行ったら、こいつがたくさんいた。わたしが近寄ったら、みんな一斉に逃げて行って。それと同時に、化け物の体が消え去った」
「なんと……」と、エラゼムが呆れたようにつぶやく。
「では、ダイダラボッチの正体は、小さな虫……」
なんてこった。俺も力が抜けてしまった。あの馬鹿でかい巨人を、こんな小さな虫が操っていたのか?
俺たちが呆れている中、フランの手の上の虫は、ぷくぷくと泡を吐いて威嚇していた。やがて羽を広げると、ぶーんと森の方へと飛んで行ってしまった。
「……幽霊の、正体見たり、枯れ尾花なんていうけれど……」
なんとまあ、びっくりだ。幽霊と聞いて、ウィルが首をかしげているけど、説明する気にもなれない。
「し……信じられない……」
あん?俺は声のした方へ振り返った。そこにいるのは、腰を抜かしていたアルアだ。ぽかんとしたアルアは、静かになった夜の空を見上げて、それから俺たちを見つめた。
「あなたたち……ダイダラボッチを、倒したの……?」
「倒したというか、追っ払っただけだけどな」
「だとしても、信じられない……あいつは不死身で、誰だって敵わなかったのに」
「ん、まあ、不死身も不敗もありえないってことだ……さてと。フランが追っ払った虫たちも、またいつ戻ってくるかも分からないな」
エラゼムが同意する。
「長居は無用ですな。ライラ嬢、お疲れでしょうが、馬を呼び出せますか?」
「うん!任せて」
すっかりエラゼムと仲直りしたライラは、素直にストームスティードを呼び出した。俺はアルアの馬を見る。
「アルア、あんたの馬、ちゃんと走れそうか?」
アルアの茶色の馬は、騎手と同様に、地面に倒れて呆けている。怪我をしたってよりか、ショックが大きすぎて腰を抜かしているようだ。俺の問い掛けに、アルアははっとして、馬をなだめ始めた。幸い、それから五分と経たずに、馬は再び立ち上がってくれた。馬も馬で、恐ろしい存在がいなくなったことを理解しているみたいだ。
「よし。かなりの回り道になっちまったけど、当初の予定に戻ろう。さあ、とっとと森を抜けようぜ」
「わ、わかった」
アルアはたどたどしく返事をすると、俺たちの先を進み始めた。森は再び静かになった。ダイダラボッチの脅威が去った以上、多少のひづめの音は気にしなくていい。俺たちはなるべく急いで、夜の森を駆け抜けた。
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辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
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しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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