645 / 860
15章 燃え尽きた松明
12-2
しおりを挟む
12-2
「おかしい」
ウォルフ爺さんの玄関口に立った際、フランは警告するように言った。だが今回ばかりは、俺でもその理由が分かった。
「明かりが消えてる」
時刻は真夜中も近い。闇夜に浮かぶ爺さんちの窓には、明かりが一つも灯っていないのだ。
「もう、寝ているとかは……」
ウィルの声には全然自信がない。
「確かめるっきゃないな」
俺は息を吸い込むと、扉をゆっくりノックした。ドン、ドン。
「……」
「……出ませんね」
中から物音は聞こえない。本当に寝ているのか……?俺が何とはなしに取っ手に手を掛けると、キィと音を立てて開いたじゃないか。
「おい、開いてるぞ……」
「え?ど、どうして……鍵は……」
「してないみたいだな」
扉の内側には、閂を掛けるための金具がついている。そこに本来ならはめられているはずの板切れは、わきに立てかけられていた。
「気を付けてよ。なにがあるか分からない」
フランの警告にうなずくと、そっと扉の中に入った。
家の中は真っ暗だった。火が焚かれていた様子もない。冷え冷えとして、静まり返っている。
「……」
俺はアニから放たれる細い明りを頼りに、室内の様子を探る。元が小さなボロ屋だから、そこまで広くはない。キッチンとリビング、そして扉が一つ。扉か……
「あの部屋も見てみるか……」
俺はそろそろと足を踏み出した。ぐに。
「うおぉ!?」
「きゃああ!」
俺が悲鳴を上げると、ウィルが飛び上がった。何か、踏んづけたぞ!俺はとっさに、アニを足元へ向けた。そこにいたのは……
「じ、爺さん!」
倒れていたのは、ウォルフ爺さんだ。頭から血を流している!俺は慌てて屈むと、爺さんの肩をゆする。
「爺さん、しっかりしろ!」
「……ぅ、ぅ……」
「まだ息はある!アニ、治癒魔法を!」
『承知しました。……キュアテイル!』
アニから青色の光が放たれ、爺さんの体を包み込む。
「爺さん!しっかりしろ!」
「う、うぅ……誰……わしは……?」
「爺さん!何があったんだ?あんたの娘は?」
「娘……?ヤンは……ヤンは……」
ウォルフ爺さんはうわごとのように、ヤンの名前を繰り返している。
「くそ、意識が混乱してるのか?」
『頭部へのダメージが影響しているのかも知れません。私の魔法では、そこまでの治癒は難しいです』
「そうか……なら、グランテンプルで治してもらおう。どうせこの後行くんだし」
「ダーリン、アタシが運ぶの」
ロウランは包帯をしゅるしゅると伸ばすと、爺さんの体を優しく持ち上げた。器用な使い方もできるんだな。
「よし、急ごう」
あっちの様子も気になるし、爺さんの治療も早い方がいいはず。俺たちが慌ただしく家から出ると、爺さんがしきりに何かをつぶやいていることに気付いた。
「ヤンが……ヤンと、目があったんだ……」
「え?爺さん、なんだって?」
「目が合った……目玉が……ヤンの目……目が……」
目が合った?ひょっとして、ヤンの嘘のことか?つっても、これだけじゃよく分からないな。そもそも、ヤンはどこに行った?
「桜下殿!準備が整いましたぞ!」
「あ、悪い!行こう!」
エラゼムの手を掴んで、俺はストームスティードにまたがった。
「はぁ、はぁ……」
「ミゲル、大丈夫?」
「ああ、マルティナ。だが……くそ、あいつは一体何なんだ……!」
肩で息をするミゲルを、マルティナが涙のたまった目で見つめている。ミゲルは額と右腕から血を流していた。
「ミゲル……ごめんなさい。私のせいで……」
「お前のせいじゃない。何も、悪いことなんてしていないだろう」
「でも……」
「いいから。それより、あいつはどこに行った?」
ミゲルは手を付きながら立ち上がると、格子のすき間から外を伺う。二人は、神殿の側の納屋の中に隠れていた。
数十分ほど前、何者かが神殿の門を叩いた。不審に思いながらも、二人は表へと出た。いくら怪しいといっても、訪問者を出迎えもしない神殿は、大陸広しと言えど聞いたこともない。幸い門にはのぞき窓があるので、危険そうなら門を開けなければいいだけだ。二人はそう楽観していた。
だが来訪者は、二人の想像を超えていた。二人の足音を聞くや否や、門を無理やりおしやぶってきたのだ。閂が折れ曲がり、丈夫な木の門がメキメキと音を立てる光景に、二人は度肝を抜かれ、それからすぐに正気に戻って逃げ出した。
しかし侵入者は、どこまでも二人を追ってくる。逃げながら何とかスキをついて、ミゲルが角材で一撃を与えもしたが、まるで効いていない様子だ。二人は撃退を諦め、広い敷地を必死に逃げ回った。助けは期待していなかった。二人を助けてくれる人間は、ここにはいないと知っていたから。
「はぁ、はぁ……どうやら、撒けたらしいぞ。姿が見当たらない」
「ほ、本当?よかった……」
「ああ。チッ、あの生意気な小僧たち、犯人を捕まえるだとか粋がっていたくせに。まったくできてないじゃないか」
「そんな、ミゲル……あの子たちだって、私たちの為に色々してくれたのよ」
「どこがだ?肝心な時に役に立たないで、なにが……」
その時だった。二人が隠れている納屋の扉が、ものすごい力で叩かれた。ドガン、ドガン!
「っ」「っ!」
ミゲルははっと顔を上げ、マルティナは縮み上がった。鍵もない納屋の扉は、簡単に破られてしまう。バリバリ!
戸口には、真っ黒な人影が立っていた。かなりの大柄で、体つきもがっしりしている。全身をすっぽりとマントで覆っているせいで、それ以上の情報は不明だ。唯一確かなのは、この人物が、二人をここまで追い詰めた張本人だという事だった。
「ぐっ……」
「ミゲル……!」
二人は固く抱き合った。もはやそれ以外に、打つ手はなかったのだ。黒い人影が、納屋の中へ押し入ろうとする。
ダガァーン!
「え?」
突如、人影が吹っ飛ぶように消えた。唖然とする二人の前に、ひょいっと顔がのぞく。
「よっ。間に合ってよかった」
「やあぁ!」
倒れた黒マントに、フランが鉤爪を抜いて追撃を仕掛ける。ビリィー!
フランの鉤爪は、マントを切り裂いただけだった。奴は素早くわきに転がって避けると、足のばねを使ってさっと立ち上がる。俊敏だな、あいつ。
フランに引き裂かれたマントは、しゅうしゅうと黒い煙を上げ始めた。鉤爪の毒による腐食にギョッとしたのか、奴はマントを慌てて脱ぎ捨てる。ばさりと、黒い布が宙を漂い、闇夜に消えた。
「やっぱり……ヤン。あんただったんだな」
「……」
マントの下から出てきたのは、頭にバンダナを巻いた、中年の女性。ウォルフ爺さんの娘、ヤンだった。
「ヤン!どういうつもりだ!爺さんを怪我させたのもお前か?」
「……」
ヤンは口を開こうとしない、ただ恐ろしい目で、こちらを睨むだけだ。いいだろう、だんまりなら、こっちから好き勝手喋ってやる。
「ヤン、答えろ!なんで自分の父親を!そんなことしてまですることが、シスターを襲う事か?なかなか見上げたもんだな、ヤン!」
「黙れ!邪魔をするな、小僧!」
低く恐ろしい声と共に、ヤンは滑るような足さばきでこちらに向かってきた。うっ、まるで手練れの暗殺者みたいじゃないか。昼間と全く印象が違う。
「ヴィントネルケ!」
ピュウウゥゥゥ!突如、つむじ風が巻き起こり、ヤンの動きががくんと止まった。ライラが両手を突き出して、風の鎖を生み出したんだ。
「よし、捕まえた!」
「いけー、フラン!」
フランが姿勢を低くしながら、猛スピードで突っ込んで行く。渾身の右ストレートが直撃すると、ヤンはくの字になってぶっ飛んだ。
「決まった!一発ノックアウトか?」
「いや、まだだよ」
え、おい。嘘だろ。ヤンはぶっ飛ばされはしたが、受け身でも取ったのか、瞬時に起き上がった。ガーゴイルすらぶっ飛ばす、フランのパンチをもらったんだぞ?あり得ないだろ、あいつ。
「……おい。なぜ私だと分かった、小僧」
あん?ヤンが話しかけて来たのは、俺か?とりあえず、答えておくか?
「あんたが、ちょっとしたミスをしたことに気付いたんだ。昼間の会話で」
「ちっ。やはりあの時、始末しておくべきだったか」
おお、怖いことを言う。そうか、昼間の時点で、ヤンは俺たちを怪しんでいたんだな。思い返せば、少しだけ様子がおかしかった気もする。
「それより、俺も答えたんだから、そっちも答えてもらいたいね。なんでこんなことを?」
「ふん、いいだろう。……これは、復讐だ」
「復讐?」
「それに、お前は知らんのだ。その女は、普通の人間とは違う」
なんだって?俺は納屋の中の、マルティナを振り返った。
「どういう事だ?どう見てもただの人だろう」
「知らぬならいい。そのまま死ぬがよい!」
うおっと、まだやる気ってか?だが、ヤンの様子がおかしい。その場で棒立ちしたまま、両手を握り合わせている。
「おおおぉぉぉォォォォオオオオ!」
ビリビリビリッ!
な、なんだ!?突然ヤンが叫んだ。この声、人間のそれか?ヤンの咆哮はだんだんと歪み、人ならざるものへとなっていく。
「オオオアアアアア!」
ブチブチブチ!ヤンの服が張り裂けた音だ。体がどんどん膨張している……と思った次の瞬間には、皮膚そのものが引き裂けた。中からは血が噴き出る代わりに、緑色の甲殻が姿を現す。
ヤンの顔だった部分は、どんどん引き延ばされて、棘だらけの首へと置き換わった。バンダナが巻いてあった頭部には、毛が無い。唯一あった、一筋の亀裂のようなものがカパッと開かれると、巨大な一つ目がぎょろりとこちらを睨んだ。
おののく俺たちが見つめる中、ヤンは瞬く間に、一つ目の化け物へと姿を変えてしまった。
「コノ姿ヲ見タ者ハミナ、殺ス」
緑色の化け物は、一つ目をギョロギョロと回転させた。
「マジかよ……」
つづく
====================
ゴールデンウィークは更新頻度2倍!
しばらくの間、毎日0時と12時の1日2回更新を実施します。
長期休暇に、アンデッドとの冒険はいかがでしょうか。
読了ありがとうございました。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
「おかしい」
ウォルフ爺さんの玄関口に立った際、フランは警告するように言った。だが今回ばかりは、俺でもその理由が分かった。
「明かりが消えてる」
時刻は真夜中も近い。闇夜に浮かぶ爺さんちの窓には、明かりが一つも灯っていないのだ。
「もう、寝ているとかは……」
ウィルの声には全然自信がない。
「確かめるっきゃないな」
俺は息を吸い込むと、扉をゆっくりノックした。ドン、ドン。
「……」
「……出ませんね」
中から物音は聞こえない。本当に寝ているのか……?俺が何とはなしに取っ手に手を掛けると、キィと音を立てて開いたじゃないか。
「おい、開いてるぞ……」
「え?ど、どうして……鍵は……」
「してないみたいだな」
扉の内側には、閂を掛けるための金具がついている。そこに本来ならはめられているはずの板切れは、わきに立てかけられていた。
「気を付けてよ。なにがあるか分からない」
フランの警告にうなずくと、そっと扉の中に入った。
家の中は真っ暗だった。火が焚かれていた様子もない。冷え冷えとして、静まり返っている。
「……」
俺はアニから放たれる細い明りを頼りに、室内の様子を探る。元が小さなボロ屋だから、そこまで広くはない。キッチンとリビング、そして扉が一つ。扉か……
「あの部屋も見てみるか……」
俺はそろそろと足を踏み出した。ぐに。
「うおぉ!?」
「きゃああ!」
俺が悲鳴を上げると、ウィルが飛び上がった。何か、踏んづけたぞ!俺はとっさに、アニを足元へ向けた。そこにいたのは……
「じ、爺さん!」
倒れていたのは、ウォルフ爺さんだ。頭から血を流している!俺は慌てて屈むと、爺さんの肩をゆする。
「爺さん、しっかりしろ!」
「……ぅ、ぅ……」
「まだ息はある!アニ、治癒魔法を!」
『承知しました。……キュアテイル!』
アニから青色の光が放たれ、爺さんの体を包み込む。
「爺さん!しっかりしろ!」
「う、うぅ……誰……わしは……?」
「爺さん!何があったんだ?あんたの娘は?」
「娘……?ヤンは……ヤンは……」
ウォルフ爺さんはうわごとのように、ヤンの名前を繰り返している。
「くそ、意識が混乱してるのか?」
『頭部へのダメージが影響しているのかも知れません。私の魔法では、そこまでの治癒は難しいです』
「そうか……なら、グランテンプルで治してもらおう。どうせこの後行くんだし」
「ダーリン、アタシが運ぶの」
ロウランは包帯をしゅるしゅると伸ばすと、爺さんの体を優しく持ち上げた。器用な使い方もできるんだな。
「よし、急ごう」
あっちの様子も気になるし、爺さんの治療も早い方がいいはず。俺たちが慌ただしく家から出ると、爺さんがしきりに何かをつぶやいていることに気付いた。
「ヤンが……ヤンと、目があったんだ……」
「え?爺さん、なんだって?」
「目が合った……目玉が……ヤンの目……目が……」
目が合った?ひょっとして、ヤンの嘘のことか?つっても、これだけじゃよく分からないな。そもそも、ヤンはどこに行った?
「桜下殿!準備が整いましたぞ!」
「あ、悪い!行こう!」
エラゼムの手を掴んで、俺はストームスティードにまたがった。
「はぁ、はぁ……」
「ミゲル、大丈夫?」
「ああ、マルティナ。だが……くそ、あいつは一体何なんだ……!」
肩で息をするミゲルを、マルティナが涙のたまった目で見つめている。ミゲルは額と右腕から血を流していた。
「ミゲル……ごめんなさい。私のせいで……」
「お前のせいじゃない。何も、悪いことなんてしていないだろう」
「でも……」
「いいから。それより、あいつはどこに行った?」
ミゲルは手を付きながら立ち上がると、格子のすき間から外を伺う。二人は、神殿の側の納屋の中に隠れていた。
数十分ほど前、何者かが神殿の門を叩いた。不審に思いながらも、二人は表へと出た。いくら怪しいといっても、訪問者を出迎えもしない神殿は、大陸広しと言えど聞いたこともない。幸い門にはのぞき窓があるので、危険そうなら門を開けなければいいだけだ。二人はそう楽観していた。
だが来訪者は、二人の想像を超えていた。二人の足音を聞くや否や、門を無理やりおしやぶってきたのだ。閂が折れ曲がり、丈夫な木の門がメキメキと音を立てる光景に、二人は度肝を抜かれ、それからすぐに正気に戻って逃げ出した。
しかし侵入者は、どこまでも二人を追ってくる。逃げながら何とかスキをついて、ミゲルが角材で一撃を与えもしたが、まるで効いていない様子だ。二人は撃退を諦め、広い敷地を必死に逃げ回った。助けは期待していなかった。二人を助けてくれる人間は、ここにはいないと知っていたから。
「はぁ、はぁ……どうやら、撒けたらしいぞ。姿が見当たらない」
「ほ、本当?よかった……」
「ああ。チッ、あの生意気な小僧たち、犯人を捕まえるだとか粋がっていたくせに。まったくできてないじゃないか」
「そんな、ミゲル……あの子たちだって、私たちの為に色々してくれたのよ」
「どこがだ?肝心な時に役に立たないで、なにが……」
その時だった。二人が隠れている納屋の扉が、ものすごい力で叩かれた。ドガン、ドガン!
「っ」「っ!」
ミゲルははっと顔を上げ、マルティナは縮み上がった。鍵もない納屋の扉は、簡単に破られてしまう。バリバリ!
戸口には、真っ黒な人影が立っていた。かなりの大柄で、体つきもがっしりしている。全身をすっぽりとマントで覆っているせいで、それ以上の情報は不明だ。唯一確かなのは、この人物が、二人をここまで追い詰めた張本人だという事だった。
「ぐっ……」
「ミゲル……!」
二人は固く抱き合った。もはやそれ以外に、打つ手はなかったのだ。黒い人影が、納屋の中へ押し入ろうとする。
ダガァーン!
「え?」
突如、人影が吹っ飛ぶように消えた。唖然とする二人の前に、ひょいっと顔がのぞく。
「よっ。間に合ってよかった」
「やあぁ!」
倒れた黒マントに、フランが鉤爪を抜いて追撃を仕掛ける。ビリィー!
フランの鉤爪は、マントを切り裂いただけだった。奴は素早くわきに転がって避けると、足のばねを使ってさっと立ち上がる。俊敏だな、あいつ。
フランに引き裂かれたマントは、しゅうしゅうと黒い煙を上げ始めた。鉤爪の毒による腐食にギョッとしたのか、奴はマントを慌てて脱ぎ捨てる。ばさりと、黒い布が宙を漂い、闇夜に消えた。
「やっぱり……ヤン。あんただったんだな」
「……」
マントの下から出てきたのは、頭にバンダナを巻いた、中年の女性。ウォルフ爺さんの娘、ヤンだった。
「ヤン!どういうつもりだ!爺さんを怪我させたのもお前か?」
「……」
ヤンは口を開こうとしない、ただ恐ろしい目で、こちらを睨むだけだ。いいだろう、だんまりなら、こっちから好き勝手喋ってやる。
「ヤン、答えろ!なんで自分の父親を!そんなことしてまですることが、シスターを襲う事か?なかなか見上げたもんだな、ヤン!」
「黙れ!邪魔をするな、小僧!」
低く恐ろしい声と共に、ヤンは滑るような足さばきでこちらに向かってきた。うっ、まるで手練れの暗殺者みたいじゃないか。昼間と全く印象が違う。
「ヴィントネルケ!」
ピュウウゥゥゥ!突如、つむじ風が巻き起こり、ヤンの動きががくんと止まった。ライラが両手を突き出して、風の鎖を生み出したんだ。
「よし、捕まえた!」
「いけー、フラン!」
フランが姿勢を低くしながら、猛スピードで突っ込んで行く。渾身の右ストレートが直撃すると、ヤンはくの字になってぶっ飛んだ。
「決まった!一発ノックアウトか?」
「いや、まだだよ」
え、おい。嘘だろ。ヤンはぶっ飛ばされはしたが、受け身でも取ったのか、瞬時に起き上がった。ガーゴイルすらぶっ飛ばす、フランのパンチをもらったんだぞ?あり得ないだろ、あいつ。
「……おい。なぜ私だと分かった、小僧」
あん?ヤンが話しかけて来たのは、俺か?とりあえず、答えておくか?
「あんたが、ちょっとしたミスをしたことに気付いたんだ。昼間の会話で」
「ちっ。やはりあの時、始末しておくべきだったか」
おお、怖いことを言う。そうか、昼間の時点で、ヤンは俺たちを怪しんでいたんだな。思い返せば、少しだけ様子がおかしかった気もする。
「それより、俺も答えたんだから、そっちも答えてもらいたいね。なんでこんなことを?」
「ふん、いいだろう。……これは、復讐だ」
「復讐?」
「それに、お前は知らんのだ。その女は、普通の人間とは違う」
なんだって?俺は納屋の中の、マルティナを振り返った。
「どういう事だ?どう見てもただの人だろう」
「知らぬならいい。そのまま死ぬがよい!」
うおっと、まだやる気ってか?だが、ヤンの様子がおかしい。その場で棒立ちしたまま、両手を握り合わせている。
「おおおぉぉぉォォォォオオオオ!」
ビリビリビリッ!
な、なんだ!?突然ヤンが叫んだ。この声、人間のそれか?ヤンの咆哮はだんだんと歪み、人ならざるものへとなっていく。
「オオオアアアアア!」
ブチブチブチ!ヤンの服が張り裂けた音だ。体がどんどん膨張している……と思った次の瞬間には、皮膚そのものが引き裂けた。中からは血が噴き出る代わりに、緑色の甲殻が姿を現す。
ヤンの顔だった部分は、どんどん引き延ばされて、棘だらけの首へと置き換わった。バンダナが巻いてあった頭部には、毛が無い。唯一あった、一筋の亀裂のようなものがカパッと開かれると、巨大な一つ目がぎょろりとこちらを睨んだ。
おののく俺たちが見つめる中、ヤンは瞬く間に、一つ目の化け物へと姿を変えてしまった。
「コノ姿ヲ見タ者ハミナ、殺ス」
緑色の化け物は、一つ目をギョロギョロと回転させた。
「マジかよ……」
つづく
====================
ゴールデンウィークは更新頻度2倍!
しばらくの間、毎日0時と12時の1日2回更新を実施します。
長期休暇に、アンデッドとの冒険はいかがでしょうか。
読了ありがとうございました。
====================
Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。
↓ ↓ ↓
https://twitter.com/ragoradonma
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる