じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

文字の大きさ
648 / 860
15章 燃え尽きた松明

13-2

しおりを挟む
13-2

「ミゲル、マルティナ。みなさまを、あの場所までお連れしなさい。わしも同行したいが、年寄りに山道はこたえるのでな」

ステイン牧師にそう言われ、双子の兄妹はうなずいて立ち上がった。

「ご案内いたします。ついてきてくださいますか」

移動するのか。ここじゃできない話ってことか……?よく分からないけど、従うほかないだろう。
廊下を歩きながら、ミゲルが説明する。

「これから、件のお方に関する重要な場所、我々が聖域と呼ぶ場所にご案内します」

「聖域……?」

「はい。口で言うよりも、実際に見てもらったほうが早いと思うので」

見せたいものがある、か。光の魔力に関する資料ってことかな。

「それと……」

「ん?」

「……妹を助けていただいて、ありがとうございました」

ぼそぼそ言うなよな、感謝しているならさ?まあいいか、こいつならこれで上出来だ。俺はにやりと笑った。
二人はグランテンプルを出ると、裏手の山へと入っていく。道はくねくねねじ曲がって、かなり奥まで続いているようだ。一体どこまで行く気なんだろう。
外はまた小雨が降り出していて、地面が濡れて滑りやすい。二人がランタンを持って先導し、その後ろを俺たちがついていく。

「……桜下殿」

歩いていると、エラゼムが小声で話しかけてきた。

「先ほどは勝手なまねをしてしまい、申し訳ございません」

「ん?ああ、アンデッドだって打ち明けたことか?いいよ別に、あれで牧師も納得してくれたんだし」

「ありがとうございます。なにを言っても言い訳にしかなりませぬが、あの場で取り繕うことは、牧師殿に……ひいては、その聖人様にも失礼だと思ったのです」

「うん、わかるよ。牧師が腹割ってくれたんだから、こっちも誠意を持って返さないとな。ただ……」

「……桜下殿?」

「いや……エラゼムは、その人がメアリーだって思うか?」

「それは……」

エラゼムは言葉を区切ると、力なく兜を横に振る。

「……わかりませぬ。この目で確かめてみるまでは、なんとも」

「そうだよな……悪い、妙なこと訊いた」

たぶん俺は、緊張しているんだ。いよいよ、だからな。その後しばらく、俺たちは無言で歩き続けた。

「……その方は」

ん?唐突に、マルティナが背中を向けたままで、話し始めた。

「その方は、数多くの人の命を救ったといいます。どれほど死の淵に瀕していたとしても、たちどころに治してしまうのだと」

「そうなのか。光の魔力の持ち主と考えれば、誇張だとも思えないな」

「ええ、私もそう思います。それほどの功績がなければ、聖人としてたてまつられもしないでしょう」

「なあ、その人の名前って、分からないのか?」

「それが、ご自身のことをほとんど語らない方だったようで……どうやら、意図的に記録に残らないようにしていたみたいです」

ふうむ、そうか。名前が分かれば、メアリーかどうか一発で分かったんだけど。

「光の魔力を持つ人は、正体を隠したがるっていいますよね」

ウィルが俺の隣に浮かんで、話しかけてくる、彼女の声は俺たちにしか聞こえていないので、俺は無言でうなずき返した。

「だとしたら、名前を隠すのもうなずけるんでしょうか」

そうだな。それを加味すれば、そこまでおかしな話じゃない。だけど俺は、もう一つの可能性も考えていた。

(メアリーが、正体を隠していたのだとしたら)

メアリーは、エラゼムたちの下に戻らなかった。向かうと言っていた北の町にも、行った痕跡は見つからなかった。なんらかの事故に巻き込まれたのではないとしたら、考えられるのは……

(最初から、戻らない気だったんじゃないか)

メアリーは自由を欲していた。自分を知らない土地に行き、そこで新たな人生を始める……そう望んだのだとしたら、メアリーの名前が見つからなくても不思議はない。

(でもそれだと、エラゼムや城を捨てたってことだよな……)

もし本当にそうだったとしたら、エラゼムがそのことを知った時、どれほどショックを受けるだろうか。俺は、この先に待つのがメアリーであってほしいとも、外れてほしいとも思っていた。
山道は、だんだん谷あいの土地へと入っていく。両側の崖には苔がびっしりと生え、雨のしずくがキラキラと光っていた。そこをずっと進むと、やがて前方に、石でできた門が見えてきた。

「ここが、聖域の入り口です」

ついにか……ごくり。
ミゲルが不思議な形の鍵?のようなものを取り出し、門に近づく。ごそごそやると、ゴトリという音が聞こえ、門が地面の下へと沈み始めた。その向こうには、洞窟の入り口がぽっかり開いている。

「こちらです。暗いので、気を付けてついてきてください」

ミゲルとマルティナは、洞窟の奥へと進みだした。うひゃあ、まだあるのか。
洞窟は狭く、冷たい空気で満たされていた。ライラが怖がって俺に引っ付いてくる。体の大きいエラゼムは、窮屈そうに肩を縮めていた。

「もうすぐです……」

マルティナの声が洞窟に反響する。
やがて、前方に明かりが見えてきた。え、明かり?だって今は夜だし、月明かりも雲に隠れて見えないはずだぜ?

「着きました。ここが、私たちが聖域と呼ぶ場所です」

洞窟を抜けると、そこは……

「ここが、聖域……」

そこは、柔らかな青い光に包まれた空間だった。
洞窟の一部が膨らんで、小部屋のようになっている。周囲にはコケやきのこやツタが生え、岩壁を覆っていた。どうして地下に植物が……不思議に思っていると、ウィルが天井のあたりをじっと見つめていることに気が付いた。飛んでいる彼女のすぐそばの天井に、大きな穴が空いている。なるほど、昼間はそこから陽が差すのか。

(でも、それならこの光は一体……?)

目を走らせていくと、それはすぐに見つかった。
小部屋の一番奥に、光り輝く水晶に覆われた、不思議な形の岩があったのだ。淡い光は、その水晶から放たれていた。

「なるほど、これは確かに、神聖な空間だ……けど、これを見たからなんなんだ?」

ここは確かに神秘的だが、あくまでただの場所だ。それ以上の感想は出てこないぞ。

「よくごらんになってください。その、水晶に覆われた岩を」

マルティナがおごそかな声で告げる。岩を見ろ?確かに綺麗だが、それだけなのでは……

(……ん?)

なんだ、この違和感?不思議な形ではあるが、なにかが引っ掛かる。何かをかたどっているような……?

「ぁ……!」

ウィルが小さな声を漏らすと、口を覆った。

「ウィル?どうした?」

「ひと……」

「人?」

「人の、かたち……」

なんだと?俺はバッと岩を凝視する。
岩の細部の形……凹凸の形……人と言われて改めて見ると、それは確かに……!

「にん、げん……!?」

それは確かに、うつむき、祈りをささげるような恰好でひざまずく、女性の形をしていた。彫像……?いや、それにしては、あまりにも……あまりにも、生気を感じる。薄暗さで最初は分からなかったが、肩にかかる髪の一本一本や、指の関節のしわまで見て取れるくらいだ。

「そうです。その方こそ、私たちが聖人と呼ぶお方……その、最期のお姿です」

どういう、ことだ……?この石像が、最期の姿……?

「光の……」

俺にぴったりと張り付いたライラが、震える声で言う。

「光の魔力の、代償……」

なに……?代償……?そうだ、思い出した!

「そ……そうか。光の魔力を使い過ぎると……」

光の聖女、キサカを思い出す。あいつはエドガーの呪いを解いた後、足が石化してしまっていた。それが、光の魔力、光の魔法。奇跡を起こす代わりに、使用者の命が犠牲となる……

「それじゃあ、まさか……」

「そうです。このお方は、自らの命と引き換えに、多くの人の命をお救いになられました。その献身があったからこそ、当時の教団の方々も心打たれたのでしょう。こうして人里離れた場所に安置し、最期の望みであった、自らを隠し、公にしないでほしいという願いを叶えたのです」

そうだったのか……でもまさか、こんな形で……

ガシャン。

大きな音がして、俺は振り返った。
エラゼムが、がっくりと膝をついている。

「メアリー様……」

「え」

「メアリー様、です。間違いありません……」

なっ、なんだって!俺は慌てて、その女性の石像の顔を凝視する。ややうろ覚えではあるが、かつてエラゼムの記憶の中で見たメアリーと、確かに似ている……!

「ほ、本当に……?この人が、エラゼムさんの主様なんですか?」

「ああ……なあ、マルティナ」

俺はマルティナに問いかける。

「この聖域ができたのは、百年前で間違いないか?」

「ええ。正確な年数は分かりませんが、それくらい前に作られたと、記録に残っています」

「じゃ、年代も一致するな……」

てことはやっぱり、この人は、メアリーなんだ……俺は何とも言えない気持ちで、石となったメアリーを見つめる。百年前の人だから、当然生きてはいないのは分かっていた。だけど、こんな形で再会することになるとは……

「エラゼム……」

ライラが俺から離れて、エラゼムの肩に触れる。エラゼムは膝をついたまま、さっきから微動だにしていない。

「このお方について、もう少しだけ分かっていることがあります」

ふいに、ミゲルが壁の方に歩いて行って、何かに触れた。コケに覆われた壁の一部に、石のプレートが埋め込まれている。

「記録によれば、百年間のこの町は、壊滅の危機に瀕していたそうです。嵐による災害、それによる不作が原因の飢饉、追い打ちをかけるような疫病の流行。その危機を救ってくれたのが、この方だったと」

「じゃあまさか……町の人たち全員を治療して……?」

だとしたら、いったいどれほどの数の命を、この人は救ったんだろうか。そしてその時、何を思っていたのか……俺には分からない。きっと、この場にいる誰にも、分からない。

「……マルティナ嬢。ミゲル殿」

あ……エラゼムが、ゆっくりと言葉を発した。

「明日、改めてここに案内していただくことはできないでしょうか。今日はもう夜も深い。しっかりとした気持ちで、臨みたいのです」

「分かりました。牧師様に伝えておきます。きっとお許しいただけると思いますよ」

「恩に着ます」

そう言うと、エラゼムは立ち上がって俺たちを見た。

「皆さま。今夜は宿に戻りませぬか。戦いの後でお疲れでしょう」

「でも、エラゼム……いいのか?」

「はい。先ほども言いましたように、今は心の整理がついておりませぬ。かこつけましたが、吾輩も時間がほしいのです」

「エラゼムがそう言うなら……」

俺たちは一度山を下りることになった。



つづく
====================

ゴールデンウィークは更新頻度2倍!
しばらくの間、毎日0時と12時の1日2回更新を実施します。
長期休暇に、アンデッドとの冒険はいかがでしょうか。

読了ありがとうございました。

====================

Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、
作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。
よければ見てみてください。

↓ ↓ ↓

https://twitter.com/ragoradonma
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...