じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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16章 奪われた姫君

3-1 暗雲

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3-1 暗雲

「おいおい、なにやってんだよ?渋滞か?」

俺はストームスティードの足を止めた。街道のど真ん中には、長蛇の列ができている。ってのは、ちょっと言い過ぎか。せいぜい十人くらいだ。ただ、馬車や馬が幅を食うので、結果的に長い列になっている。

「なんで立ち往生してんだ?なんかあったのかな」

「うーん……事故とかには、見えないけどね」

ロウランが俺の肩に手を付いて、背伸びをしている。事故じゃないなら、じゃあなんだ?

「仕方ない。いったん並ぶしかないか」

街道いっぱいに広がった列を、無理やり突っ切るのはマズイだろう。悪目立ちするストームスティードは送り返し、俺たちは歩いて、列の後ろに付けた。
列を待つ間、ウィルが先頭の様子を偵察に行ってくれた話を聞くに、どうやら旅人たちが、何者かに足止めをくらっているらしい。その足止めしているのは、恰好からして、おそらく王国の兵士。人数は一人だけだという。

「王国兵?なんでまたこんなとこに」

「なんでも、検問みたいなことをしているらしいんです。事件の調査だとかで、馬車の中まで調べられてました」

「ええ?そんな取り調べみたいなことを、こんななんでもない往来でやるのか?」

普通そういうのって、町のそばとかでやらないか?その方が人も多く通るだろうし。網を張るなら普通、人通りの多い場所だろ?などと文句を言ったところで、この混雑が解消されるわけでもない。面倒だが、大人しく従おう。それに何より、俺には切り札がある。

「まあこいつがあれば、どうにかなるか」

俺はカバンから、金属製のプレートを取り出す。こいつは、ファインダーパスと言って、あらゆる国境、関門、その他審査が必要な入場時に絶大な効果を発揮する。平たく言えば、これを見せるだけで、大抵のチェックは通れるんだ。これくらいの検問ならわけないだろう!俺はすっかり安心して、余裕で順番を待った。
それに、先の順番の人たちを見ていれば、そんなに大した検問でもないことが分かった。馬車などで荷物の多い人は時間がかかっているが、身一つの旅人はせいぜい二、三個程度の質問をされ、あっさり解放されている。これなら楽勝だな。
さあ、いよいよ俺たちの番がきた。

「はい、次の方。事件の調査のため、ご協力をお願いします」

兵士は覇気のない声で、淡々と読み上げるように言った。

「おう!ただその前に、これを見てくれないか」

「はい?」

俺は自信満々で、兵士の鼻先にファインダーパスを突き付けてやった。兵士は、それをしげしげと眺め……

「あの、それが何か?」

「へ?」

あんぐりと口を開ける。う、うそだろ?兵士は特に驚くこともなく、ぼーっとパスを見つめている。

「いやあの、これこれ」

俺はパスをフリフリした。が、兵士のリアクションは変わらない。

「はあ、見えていますが。その金属のプレートが?」

「えっ。いやだって、これ、ファインダーパスなんだけど」

「ファインダー……ああ、通行許可証ですか。残念ですが、それをお持ちでもご協力いただくことになっています」

うっそー……俺は愕然とした。このパスは、黄門様の印籠みたいなもんだったのに。効果がないのは初めてだ。

「では、取り調べを始めてもよろしいですか?」

「あ、ああ。わかりました……」

まあしょうがない。やましいもんもないんだ。こうなった以上、速やかにここを抜けよう。

「ではお尋ねしますが……っと、その前に。あなたたち、子どもだけで旅をしているんですか?」

へ?あ、そうか!エラゼムがいなくなったから、俺たちは完全に子どもだけのパーティーになってしまったんだ。実際には百歳以上の連中がちらほらいるんだけれど、外見はそうは見えないし。

「い、いやぁ。それは……」

「おかしいですね。なにか、特殊な事情でもあるのですか?それなら、ぜひお聞きしたいところですが」

まずいな。パスでどうにかなると高を括っていたせいで、全く言い訳を用意していない。ウィルがあせあせと、俺と兵士とを交互に見つめている。さて、何といってごまかすか……俺が頭をフル回転させていると、背後でゴキゴキと、奇妙な音がした。

「子どもだけじゃないよ。アタシが一緒なの」

な、なに?俺の隣に並んだのは、ロウラン……いや、誰だこいつ!?



見た目は、ロウランに似ている。だが、俺の知っているロウランより、頭一つ分背が高い。いや、体自体が、一回りほど大きくなっているようだ。肉付きがよくなったせいで、巻かれた包帯はギュウギュウと窮屈そうに食い込んでいる。それに、一番変わったのは、なんといっても胸。で、でかい……俺の顔と同じくらいあるぞ。隣に並ばれると、その存在感がひしひしと伝わってくる。

「え、あの……誰?」

俺が困惑しながら訊ねると、そのロウラン?はぱっと破顔して、俺の頭をぎゅっと抱き寄せた。

「もう、なに寝ぼけてるの♪アタシ、ロウランでしょ?」

ぎゅむっ。わああぁ!か、顔が、沈み込む……俺はジタバタ抵抗して、なんとかそのどでかいクッションから顔を離した。こ、この人目をはばからないスキンシップは、やっぱりロウランなのか……?
大きくなったロウランは、兵士に対して、挑発的に胸を張った。

「アタシが一緒なんだから、別におかしなこともないでしょ?みんなで旅をしてるだけなの」

「……ええ、確かに。失礼しました、見間違えたようです。大人の方がご一緒なのでしたら、何も言うことはありません」

ほっ……とりあえず、この場はどうにかなったらしい。しかし、一体どうなってるんだ?俺はひそひそと、ロウランの耳元にささやく。

「ロウラン、どういうことなんだ?」

「言ったでしょ。アタシ、色々と体をいじれるの。今は大人っぽくしてるだけ」

前の町で見せてくれたやつのことか。でもあん時は、小さな女の子になったじゃないか。小さくなれるなら、大人にもなれるってこと?にわかには信じがたいが……

「では、お伺いしますが。あなたたちのご関係は?」

「それはもちろん、アタシのダーリ」「俺たち、年の離れた姉弟なんだ!他は連れです!」

その返答を予測していた俺は、素早く割り込んで、ロウランを黙らせた。兵士は怪訝そうな顔をしているが、笑ってごまかすしかない……こらそこ、ロウラン。ブーたれるんじゃないの。

「それでは、旅の目的は?」

「王都に向かおうとしてたんだ」

「なるほど。では、どの町から来たのです?」

「町?えー……も、モンロービルから」

さすがに一の国から、とは言えない。なにせ不法入国してきたばかりだ。

「モンロービル?あそこから、徒歩で向かわれているのですか?」

「ええっと、まあ。そんなに急ぐ旅でもないんで」

「ふむ。では次に、王都で何をされる気ですか?」

けっこう色々訊いてくるな。先の人たちは、割とすぐ終わっていたと思うんだけれど……やっぱり、少し怪しまれてしまったのだろうか。
俺はその後も、あれやらこれやらの質問に、虚を混ぜ実を混ぜながら答えていった。いい加減、早く終わってくれないかな……

「では、お名前をお伺いしてもよろしいですか」

「名前ぇ?」

もう、ウンザリなんだけど。なんでそんなことまで答えなくちゃいけないんだ?さすがに文句を言いたくもなってくる。

「なぁ、この検問って、一体何が目的なんだよ?全員にこんな根掘り葉掘り訊いてるのか?」

「ええまあ、必要とあらば。この検問の目的は、この近辺で起きた誘拐事件の調査でしてね。被害者は十代の少女です。なので少女と一緒の方には、特に念入りに取り調べをしているんですよ」

十台の少女か……確かに俺たちの中には、該当者が多いな。もぉー、仕方ないなぁ。言うとおりにしよう。

「俺は、オウカ・ニシデラだ」

「ふむ……はい、ではお連れの方は?」

俺はみんなに名乗るように、目で促した。

「……フランセス・ヴォルドゥール」
「ライラ」
「ロウラン・ザ・アンダーメイデンなの」

兵士は一人ずつ頷いていく。だ、大丈夫かな?ライラは姓を言わないし、ロウランはだいぶエキセントリックな名字だけど……ちなみにアルルカは上空にいるのでセーフだ。ウィルは言わずもがな。

「……はい、確認しました。問題ありません。行ってくださって結構です」

え?終わりは唐突だな。兵士はあっけなく、すっと道をあけた。まあいいや、やっと通れるぜ。

「そんじゃ、ごくろうさま」

俺たちは無事に検閲を突破した。やれやれだ。肩をぐりぐりと回す。

「……なんだったんだろ?今の」

ある程度離れたところで、ライラが歩きながら、背後を振り返った。まあ、そう思うのも納得だ。

「それに、ロウランも。どうなってんの、それ?」

それにも、納得だ。ライラは心底怪しいと言いたげな目で、大人ロウランを見上げる。ロウランはにっこり笑うと、ライラをひょいと抱き上げた。

「ぎゃああ!おろ、下ろせー!」

「きゃはは。ほら、高いたかーい!」

「こ、こら!まだそんなに離れてないんだから、騒ぐなってば」

ロウランは素直にライラを下ろした。地に足がついたとたん、ライラはびゅっと距離を取ると、俺の後ろにびったりと張り付いた。

「あーあー。見ろロウラン、怖がっちゃったじゃないか」

「あれぇ?こうしたら小さな子は喜ぶって聞いてたのに。ごめんね」

ロウランなりに、ライラを喜ばせようとしてやったことらしい。けどあいにく、ライラは親にそういうことをしてもらう機会がなかったから。
ライラに不評だったことでしょげたのか、ロウランは元の姿に戻った。さっきも聞いた、ゴキゴキという不気味な音を鳴らしたかと思うと、ひゅっと背が縮む。えぇ?まばたきくらい一瞬だったぞ?

「ふふふ。ロウランちゃん七変化~♪」

ライラの目は警戒から、胡散臭いものを見る目に変わり、それ以上訊こうとはしなかった。俺ももう突っ込まないことに決めた。なんだか、知るのが怖い。

「んんっ。それより、話を戻そうぜ。さっきの検問だよ」

俺が咳ばらいをすると、ウィルがふわふわとそばに寄ってくる。

「私はそれより、ファインダーパスが通じなかったことに驚きましたよ……」

「ああ、それは本当にそうだ……あいつ、初めて見ましたって顔してたぜ?ほんとに王国兵かよ」

「ですねぇ……なんだか、元気もありませんでしたし。あんなんで、ほんとに調査なんてできるんでしょうか?」

まったくだ。まあ、調査自体についてはまだいい。こうして無事に抜けられたんだから。俺はそれよりも、混雑に巻き込まれて、予想より時間をロスしたことの方がムカついていた。

「明日には王都に着ける想定だったのに~!くそー!」

「そう考えると、今日は足止めが多いですね。お昼の、道を尋ねられたことを含めると、そこで一回。さっきの検問が二回。あはは、この後に三回目もあったり、なーんて」

「ウィル!」

「きゃっ。冗談ですってばぁ」

ったく、勘弁してくれ。言霊って言葉を知らないのか?これで次があったら、どうしてくれるんだ。



「うぃーるーーー……!」

「ええ!?私のせいですか?」

んっとに、もう!今日は厄日だ!
俺たちはまたしても、道の途中で止まっていた。目の前には川と、そこにかかった橋。そしてその橋の前に、数匹の小鬼のようなモンスターがたむろしていた。くそったれめ!



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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