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16章 奪われた姫君
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「クラーク!」
あの野郎、やれるならもっと早くやれってんだ!俺は喜びたいような、文句を言いたいような、ないまぜな気持ちで叫んだ。
「さあ、次はお前だ!」
クラークは白く輝く剣を、ギガースへと向ける。が、そのタイミングで、ロウランががくりと片膝をついた。彼女が支えていた大岩がぐらりと揺らぐ。うわ、落っこちるぞ!
「大丈夫か、ロウラ……」
「待って!私が支えるから!」
え?一人の少女が、濡れた地面の上をズジャアっと滑り込んできた。
「み、尊!?」
尊は目を閉じて両手を合わせると、何か早口でぶつぶつと呟いている。魔法を使う気か?でも、今はライラ以外、魔法を撃てないはずじゃ……
「クレイローチ!」
ズドドド!俺の予想に反して、尊の魔法はきちんと発動した。地面がもこっと持ち上がると、太い土の柱が何本もせり出してくる。土の柱はバランスを失いかけていた岩にズズンっとぶつかり、落下を何とか押さえた。
「よかった……はっ。しまった、敵が!」
クラークがばっと前を見る。俺もそっちを見ると、ギガースの大きな背中が遠ざかっていくところだった。元々がでかい分、ものすごい勢いで距離が開いていく。
「くっ……あの距離じゃ、当たるかどうかわからないな。追撃は無理だ」
クラークが剣を下ろす。俺は次第に小さくなるギガースの背中を見つめた。正確には、その肩に乗っているはずの女の子のことを思っていたが。彼女はまたしても行ってしまった。
(けど今回は、こっちを殺す気だった。明確に)
結果的には死者は出なかったが、ロウランがいなかったらと思うとぞっとする。
(やっぱり、あの子は敵なんだ)
そう思って行動しないと、次こそは死者が出てしまうかもしれない。俺は数分前の、話し合いで解決できるかもと考えていた自分を恥じた。甘かった。
(俺がこんなんじゃ、みんなにいらない迷惑をかけるだけだな)
しかし、今は反省して落ち込む時じゃない。まだ完全に安全になったわけじゃないんだ。俺はロウランと尊に駆け寄る。
「二人とも、なるべくそっと下ろせるか?転がらないように」
「やってみるの……あなた、アタシに合わせてくれる?」
「わかりました……やってみます」
尊は苦しそうな顔でうなずいた。二人ともかなりきつそうだ。そりゃそうだよな、本当に大きい岩だ。こうして見上げると、空がすっぽり隠れてしまう。
「せーのでいくよ……せー、っの!」
「っ!」
二人が息を合わせて、それぞれの支えを緩めた。タイミングはばっちりだった。まったく同時に支えを失った岩は、左右に転がることなく、まっすぐ下に落っこちた。ズズーン!
「うおっ!」
「わあ!」
今、間違いなく地面が揺れたよな?それほどの重さだったってことだ。衝撃に驚いて、ライラは尻もちをついてしまった。
「なんつー重さだよ……ライラ、大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと、力が抜けただけ……」
緊張が解けたのか、腰が抜けてしまったようだ。俺は腕を伸ばして、ライラをひょいと抱き上げた。相変わらず軽いな、この娘は。
「よっと。ロウラン、お前もお疲れ。大丈夫か?」
「う、ん……ちょっと、しんどかったけどね。ふぅー」
ロウランは泥で汚れるのも構わず、地べたにどっかり腰を下ろした。尊もへたり込んでいる。
「はあぁ~、緊張したぁ……」
うん、疲れてはいるけど、二人とも無事だ。
「にしてもロウラン、やったな!あんなでかい岩を受け止めちまうなんて、すごいよ!」
「えへへ、ほんと?これで、この前のは帳消しにできた?」
「お釣りが出るくらいだ!」
俺が手放しに賞賛すると、ロウランは照れ臭そうににっこり笑った。
「う……うおおぉぉぉぉぉぉおお!」
わっ、なんだ?突然大歓声が上がった。兵士たちが口々に叫び、拳を天に突き上げている。
「助かった!三国の勇者たちが、巨人を打ち負かしたんだ!」
「勇者、ばんざーい!さすが、人類の守護者たちだ!」
「能なしのデカブツめ!恐れをなして逃げ帰ったか!わっはっは!」
九死に一生を得た兵士たちは、大盛り上がりだ。打ち負かしたって言うけど、さっきのはまともな戦闘ですらなかった気もするが……向こうが岩をぶん投げてきて、それを止めたら、あっちが勝手に逃げただけだ。こうして言葉にすると、改めて奇妙な戦いだった。
「やれやれ、なんだかお祭り騒ぎだね」
クラークが困った顔で笑いながら、こちらにやって来た。後ろにはミカエルとアドリアの姿もある。
「まあけど、水を差すのも野暮だ。それに、力を合わせたのは事実だしね。助かりました、二人とも」
クラークはロウランと尊に礼を言った。
「あはは、私は大したことしてないよぉ」
尊は照れ隠しするように、顔の前で手を振っている。
「すごいのは、桜下くんのお仲間さんだよ。最初に岩を受け止めてくれなかったら、私も間に合わなかったもん」
尊がそう言うと、今度はロウランが照れる番だった。
「あ、ありがとなの」
「でもよかったぁ。私、今の今まで、魔法がうまく使えなかったんだよ?」
「え、そうなの?あそっか、この土地の影響だっけ」
「うん。ずーっとダメだったんだけど、さっきの土壇場でコツが掴めてね。危なかったよぉ。火事場のなんとかってやつかなぁ」
あれ、そう考えると?俺はすました顔をしているあいつを見る。
「クラーク、お前もひょっとして?だって、最初は雷を撃たなかったもんな」
「なっ。いや、僕は、その」
……図星だな、これは。魔術師全員が魔法を使えなかったように、勇者も例外じゃないってことらしい。ロウランが時間を稼いだおかげで、二人が間に合ったんだ。
「おお、お前たち!」
おっと、今度はなんだ?でっかい声が聞こえたほうを振り向くと、エドガーが腕を振りながら、こちらにやって来るところだった。が、大盛り上がりの兵士たちに阻まれて、なかなか近づいて来られないでいる。振り上げられた拳に何度も殴られながら(哀れな……)、ようやく俺たちの下に辿り着いた。
「はぁ、はぁ……お前たち、よくやってくれた。礼を言うぞ」
息も絶え絶えに言われても、ありがたみが無いな……とにかく、エドガーは俺の肩をバシバシと叩いた。
「おぬしらのおかげで、多くの兵の命が助かった。見事な活躍だ!」
「頑張ったのは俺じゃなくて、仲間だけどな。それに、二人の力も借りたんだし」
俺がそう言うと、エドガーはうなずいて、二人の勇者にも頭を下げた。
「感謝いたします、一と三の勇者様方。噂にたがわぬ実力でした」
二人は照れ臭そうにもにょもにょと返事をする。それにしても、エドガーのやつ、上機嫌だ。それは喜ばしいことだけど、それがぬか喜びだと、色々まずいだろ。
「なあ、喜んでくれるのは嬉しいけど、勘違いしてないか?敵は逃げちゃったんだぞ」
この隊の指揮官でもあるエドガーには、ちゃんと事情を知っておいてもらいたい。けどエドガーは、分かっているとばかりに何度もうなずいた。
「もちろんだ。敵は攻撃の直前、それをわざわざ報せてきたからな。おそらくこちらの手の内を測るのが目的だろう」
手の内を……そうか。この前、俺に勇者かと訊ねてきたのも、勇者の力を調べるためだったのか。
「それなら……逃がしたのは、まずかったのかな」
「無論、あの場で倒せていたなら、それに越したことはないがな。しかし、それでも上出来だ。こちらに死傷者はなく、あちらはすごすごと撤退した。形だけ見れば、文句なしの勝利だ」
「でもそれは、形だけだろ?」
「形の上で勝利したのが肝心なのだ。戦闘で死者が出んことなど稀だ。手放しで喜べる勝利がどれだけ指揮を上げるのか、見てわからんか?」
エドガーはにやりと笑うと、あごで兵士たちの方をしゃくる。勝利に浮かれ、喜び、笑いあう兵士たち。
「……なるほど。確かに、悪くないな」
「わっはっは!そういうことだ。さて!しかし、いつまでも騒いでいるわけには行くまいな。敵が戻ってくるかもしれん。早いとこ移動を始めるとしよう」
エドガーは来た時と同じく大股で歩いて行くと、浮かれる兵士たちをどついて、馬の支度をさせ始めた。
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったが……ところで、ロウラン」
「ん?」
地べたに座ったロウランが、こちらを見上げる。
「ここにいるみんなを、こんなに喜ばせたのは、お前の活躍のおかげなんだぜ。あのエドガーすら、あんなに上機嫌だったんだ。すごいよ」
「え。う、うん。そうだね。どうしたのダーリン、急に褒めるなんて……」
「別に、変じゃないだろ?すごいやつがいれば、素直に褒めたたえるさ」
「……でも。アタシ、二個目の岩が飛んできたときには、ちょっとダメかと思っちゃったの。雷の勇者さんがいなかったら、アタシきっと……」
「うん?いいじゃないか、それで」
「へ?」
「それで、無事に済んだじゃないか。一人でダメでも、みんなでならどうにかできるってことだよ。もしお前が失敗しても、仲間のみんなが助けてくれるし、クラークや尊みたいに、俺たち以外のやつらだっている。そんなに気負わなくても、大丈夫だよ」
ロウランは目を見開いた。
この前の事件で知ったけど、普段はあんななくせに、ロウランの根はひどく真面目た。ともすれば、エラゼムといい勝負ができそうなほどに。きっと今回だって、前の失態を取り戻そうと必死だったんじゃないだろうか。
「失敗したら、取り戻せばいい。それでもダメなら、頼っちまえ。迷惑だなんて、思わないからさ……なんて、俺が言っても説得力ないか。普段は俺が頼ってばっかだしな」
「……ううん。そんなこと、ないよ。やっぱり、ダーリンに付いてきてよかったの」
よかった、ロウランが嬉しそうだ。何百人の兵士たちの歓声よりも、俺はこの、一人の笑顔の方が嬉しかった。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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あの野郎、やれるならもっと早くやれってんだ!俺は喜びたいような、文句を言いたいような、ないまぜな気持ちで叫んだ。
「さあ、次はお前だ!」
クラークは白く輝く剣を、ギガースへと向ける。が、そのタイミングで、ロウランががくりと片膝をついた。彼女が支えていた大岩がぐらりと揺らぐ。うわ、落っこちるぞ!
「大丈夫か、ロウラ……」
「待って!私が支えるから!」
え?一人の少女が、濡れた地面の上をズジャアっと滑り込んできた。
「み、尊!?」
尊は目を閉じて両手を合わせると、何か早口でぶつぶつと呟いている。魔法を使う気か?でも、今はライラ以外、魔法を撃てないはずじゃ……
「クレイローチ!」
ズドドド!俺の予想に反して、尊の魔法はきちんと発動した。地面がもこっと持ち上がると、太い土の柱が何本もせり出してくる。土の柱はバランスを失いかけていた岩にズズンっとぶつかり、落下を何とか押さえた。
「よかった……はっ。しまった、敵が!」
クラークがばっと前を見る。俺もそっちを見ると、ギガースの大きな背中が遠ざかっていくところだった。元々がでかい分、ものすごい勢いで距離が開いていく。
「くっ……あの距離じゃ、当たるかどうかわからないな。追撃は無理だ」
クラークが剣を下ろす。俺は次第に小さくなるギガースの背中を見つめた。正確には、その肩に乗っているはずの女の子のことを思っていたが。彼女はまたしても行ってしまった。
(けど今回は、こっちを殺す気だった。明確に)
結果的には死者は出なかったが、ロウランがいなかったらと思うとぞっとする。
(やっぱり、あの子は敵なんだ)
そう思って行動しないと、次こそは死者が出てしまうかもしれない。俺は数分前の、話し合いで解決できるかもと考えていた自分を恥じた。甘かった。
(俺がこんなんじゃ、みんなにいらない迷惑をかけるだけだな)
しかし、今は反省して落ち込む時じゃない。まだ完全に安全になったわけじゃないんだ。俺はロウランと尊に駆け寄る。
「二人とも、なるべくそっと下ろせるか?転がらないように」
「やってみるの……あなた、アタシに合わせてくれる?」
「わかりました……やってみます」
尊は苦しそうな顔でうなずいた。二人ともかなりきつそうだ。そりゃそうだよな、本当に大きい岩だ。こうして見上げると、空がすっぽり隠れてしまう。
「せーのでいくよ……せー、っの!」
「っ!」
二人が息を合わせて、それぞれの支えを緩めた。タイミングはばっちりだった。まったく同時に支えを失った岩は、左右に転がることなく、まっすぐ下に落っこちた。ズズーン!
「うおっ!」
「わあ!」
今、間違いなく地面が揺れたよな?それほどの重さだったってことだ。衝撃に驚いて、ライラは尻もちをついてしまった。
「なんつー重さだよ……ライラ、大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと、力が抜けただけ……」
緊張が解けたのか、腰が抜けてしまったようだ。俺は腕を伸ばして、ライラをひょいと抱き上げた。相変わらず軽いな、この娘は。
「よっと。ロウラン、お前もお疲れ。大丈夫か?」
「う、ん……ちょっと、しんどかったけどね。ふぅー」
ロウランは泥で汚れるのも構わず、地べたにどっかり腰を下ろした。尊もへたり込んでいる。
「はあぁ~、緊張したぁ……」
うん、疲れてはいるけど、二人とも無事だ。
「にしてもロウラン、やったな!あんなでかい岩を受け止めちまうなんて、すごいよ!」
「えへへ、ほんと?これで、この前のは帳消しにできた?」
「お釣りが出るくらいだ!」
俺が手放しに賞賛すると、ロウランは照れ臭そうににっこり笑った。
「う……うおおぉぉぉぉぉぉおお!」
わっ、なんだ?突然大歓声が上がった。兵士たちが口々に叫び、拳を天に突き上げている。
「助かった!三国の勇者たちが、巨人を打ち負かしたんだ!」
「勇者、ばんざーい!さすが、人類の守護者たちだ!」
「能なしのデカブツめ!恐れをなして逃げ帰ったか!わっはっは!」
九死に一生を得た兵士たちは、大盛り上がりだ。打ち負かしたって言うけど、さっきのはまともな戦闘ですらなかった気もするが……向こうが岩をぶん投げてきて、それを止めたら、あっちが勝手に逃げただけだ。こうして言葉にすると、改めて奇妙な戦いだった。
「やれやれ、なんだかお祭り騒ぎだね」
クラークが困った顔で笑いながら、こちらにやって来た。後ろにはミカエルとアドリアの姿もある。
「まあけど、水を差すのも野暮だ。それに、力を合わせたのは事実だしね。助かりました、二人とも」
クラークはロウランと尊に礼を言った。
「あはは、私は大したことしてないよぉ」
尊は照れ隠しするように、顔の前で手を振っている。
「すごいのは、桜下くんのお仲間さんだよ。最初に岩を受け止めてくれなかったら、私も間に合わなかったもん」
尊がそう言うと、今度はロウランが照れる番だった。
「あ、ありがとなの」
「でもよかったぁ。私、今の今まで、魔法がうまく使えなかったんだよ?」
「え、そうなの?あそっか、この土地の影響だっけ」
「うん。ずーっとダメだったんだけど、さっきの土壇場でコツが掴めてね。危なかったよぉ。火事場のなんとかってやつかなぁ」
あれ、そう考えると?俺はすました顔をしているあいつを見る。
「クラーク、お前もひょっとして?だって、最初は雷を撃たなかったもんな」
「なっ。いや、僕は、その」
……図星だな、これは。魔術師全員が魔法を使えなかったように、勇者も例外じゃないってことらしい。ロウランが時間を稼いだおかげで、二人が間に合ったんだ。
「おお、お前たち!」
おっと、今度はなんだ?でっかい声が聞こえたほうを振り向くと、エドガーが腕を振りながら、こちらにやって来るところだった。が、大盛り上がりの兵士たちに阻まれて、なかなか近づいて来られないでいる。振り上げられた拳に何度も殴られながら(哀れな……)、ようやく俺たちの下に辿り着いた。
「はぁ、はぁ……お前たち、よくやってくれた。礼を言うぞ」
息も絶え絶えに言われても、ありがたみが無いな……とにかく、エドガーは俺の肩をバシバシと叩いた。
「おぬしらのおかげで、多くの兵の命が助かった。見事な活躍だ!」
「頑張ったのは俺じゃなくて、仲間だけどな。それに、二人の力も借りたんだし」
俺がそう言うと、エドガーはうなずいて、二人の勇者にも頭を下げた。
「感謝いたします、一と三の勇者様方。噂にたがわぬ実力でした」
二人は照れ臭そうにもにょもにょと返事をする。それにしても、エドガーのやつ、上機嫌だ。それは喜ばしいことだけど、それがぬか喜びだと、色々まずいだろ。
「なあ、喜んでくれるのは嬉しいけど、勘違いしてないか?敵は逃げちゃったんだぞ」
この隊の指揮官でもあるエドガーには、ちゃんと事情を知っておいてもらいたい。けどエドガーは、分かっているとばかりに何度もうなずいた。
「もちろんだ。敵は攻撃の直前、それをわざわざ報せてきたからな。おそらくこちらの手の内を測るのが目的だろう」
手の内を……そうか。この前、俺に勇者かと訊ねてきたのも、勇者の力を調べるためだったのか。
「それなら……逃がしたのは、まずかったのかな」
「無論、あの場で倒せていたなら、それに越したことはないがな。しかし、それでも上出来だ。こちらに死傷者はなく、あちらはすごすごと撤退した。形だけ見れば、文句なしの勝利だ」
「でもそれは、形だけだろ?」
「形の上で勝利したのが肝心なのだ。戦闘で死者が出んことなど稀だ。手放しで喜べる勝利がどれだけ指揮を上げるのか、見てわからんか?」
エドガーはにやりと笑うと、あごで兵士たちの方をしゃくる。勝利に浮かれ、喜び、笑いあう兵士たち。
「……なるほど。確かに、悪くないな」
「わっはっは!そういうことだ。さて!しかし、いつまでも騒いでいるわけには行くまいな。敵が戻ってくるかもしれん。早いとこ移動を始めるとしよう」
エドガーは来た時と同じく大股で歩いて行くと、浮かれる兵士たちをどついて、馬の支度をさせ始めた。
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったが……ところで、ロウラン」
「ん?」
地べたに座ったロウランが、こちらを見上げる。
「ここにいるみんなを、こんなに喜ばせたのは、お前の活躍のおかげなんだぜ。あのエドガーすら、あんなに上機嫌だったんだ。すごいよ」
「え。う、うん。そうだね。どうしたのダーリン、急に褒めるなんて……」
「別に、変じゃないだろ?すごいやつがいれば、素直に褒めたたえるさ」
「……でも。アタシ、二個目の岩が飛んできたときには、ちょっとダメかと思っちゃったの。雷の勇者さんがいなかったら、アタシきっと……」
「うん?いいじゃないか、それで」
「へ?」
「それで、無事に済んだじゃないか。一人でダメでも、みんなでならどうにかできるってことだよ。もしお前が失敗しても、仲間のみんなが助けてくれるし、クラークや尊みたいに、俺たち以外のやつらだっている。そんなに気負わなくても、大丈夫だよ」
ロウランは目を見開いた。
この前の事件で知ったけど、普段はあんななくせに、ロウランの根はひどく真面目た。ともすれば、エラゼムといい勝負ができそうなほどに。きっと今回だって、前の失態を取り戻そうと必死だったんじゃないだろうか。
「失敗したら、取り戻せばいい。それでもダメなら、頼っちまえ。迷惑だなんて、思わないからさ……なんて、俺が言っても説得力ないか。普段は俺が頼ってばっかだしな」
「……ううん。そんなこと、ないよ。やっぱり、ダーリンに付いてきてよかったの」
よかった、ロウランが嬉しそうだ。何百人の兵士たちの歓声よりも、俺はこの、一人の笑顔の方が嬉しかった。
つづく
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