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17章 再開の約束
7-1 城門の開戦
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7-1 城門の開戦
強い風が、俺の横っ面を叩いている。
日が昇ってからずいぶん経つというのに、風は冷たい。ここが高所だからってのもあるんだろうけど、それだけじゃなくて……俺はぶるりと震えると、襟を立てて首を縮めた。
「お、桜下さん。緊張してるんですか?」
「……そう言うお前の声も震えてるけどな、ウィル」
からかってきたウィルは、えっ!と口を押えた。んまあ、ウィルの言うことも的外れじゃない。緊張しているのも確かだ。
人類連合軍は、ヘルズニルの城門の前にずらりと陣を敷いていた。各国の軍旗が、風にはためいている。ヘルズニルには、城壁というものがない。最初は驚いたけれど、よくよく考えれば当たり前だ。この城は、宙に浮かぶ島に建ち、さらにその周囲を高い山脈が囲むという、二重の城壁に守られているんだから。てわけで、一見無防備に見える魔王の城。だが、城を守るものは、目に見える物だけとは限らない。慎重に行くに越したことはない。
兵士はいくらかの塊ごとに分かれて、四角形に整列している。主に歩兵と、魔術師、そしてシスターやブラザーといった回復役に分かれているようだが、詳細は知らない。俺たち第三勢力は、彼らと独立して、ぽつんと固まっていた。縛り付けるより、自由に動かしたほうがいい仕事をすると判断した、エドガー直々の指示だった。
冷たい風が吹く。俺は連合軍を眺めた。朝日が彼らの横顔を照らしているが、やはり一様に緊張している様子だ。あの中に、クラーク一行やアルア、尊とデュアン、それにキサカもいるはずだ。彼ら彼女らも、やっぱり緊張しているんだろうか。
「……」
「……静かですね」
そよ風のごとしウィルの声は、それでもきちんと聞き取れた。それだけ周りが静かだからだ。
ヘルズニルは、不気味なほどに沈黙していた。城の前に大軍勢が集結しているというのに、浮足立った様子もない。
「理由は三つね」
風に黒髪を弄ばれながら、アルルカが気だるげに言う。
「一つ。こっちのことを、敵は屁とも思っちゃいない」
「むぅ。だったら、なにもの見せてあげるよ!」
「ライラ、目にもの、だ」
「二つ。わざわざ騒ぐ必要もないってこと」
「それだけ守りに自信があるってことなの。門を開けなければアタシたちは入れないんだから、理にかなってるね」
「三つ。向こうにも騒ぐだけの余裕がない」
「ここに来るまでの間にも、何体もの魔物の死骸を見ましたものね……兵力が減っているというのは、楽観視ではないと思います」
「なんにしても」
背中に投げ槍の束を背負ったフランが締めくくる。
「開かないなら、ぶち破るしかない。時間だ」
ごくり……いよいよか。フランの動物並みの体内感覚が、時間のみならず、場に漂う空気すら察知したに違いない。
「ぜんたーい、構え!」
エドガーのだみ声が、風を搔き飛ばして響き渡った。いよいよ、ヘルズニル城門への一斉攻撃が始まるのだ。ここまで長かったが、ついに魔王軍との、本格的な開戦だ。
号令がかかると、まずは連合軍の魔術師部隊が、一斉に詠唱を開始した。低い囁き声が何重にもなり、あたりに異様な気配が満ちる。魔法に詳しくない俺でさえ、見えない力がこの場に集まってきているのが分かる。ライラのふわふわの髪は、静電気を帯びたように膨らんでいた。
「放てっ!」
「ジラソーレ!」「スプラッシュコーム!」「エアロフテラ!」「バンブーシュート!」
次の瞬間、あらゆる属性の魔法が、一斉にヘルズニルへと飛んだ!炎、水、風、岩石。様々な色の閃光、火花。魔法の一斉攻撃は、横に長い花火のように降り注いだ。
バキィィン!
「なんだ!?防がれた!」
魔法は門に触れる直前、次々に空中で四散してしまった。何か、透明な壁にぶつかったようだったが……
「ガラスの壁……?いや、バリアか?」
「桜下さん、私、見ました!青白い膜みたいなものが、城を覆い尽くしています!」
膜だって?アルルカがお得意の高速詠唱で、氷の礫を一発撃ち込んだ。
バキン!空中で礫は砕け散ったが、その瞬間、確かに青い何かが、一瞬だけ浮かび上がった。
「魔法盾!あれがまほーを防いでるんだ!」
ライラがくわっと目を見開いて叫ぶ。どうやら、本当にバリアみたいなものが張られているらしい。
「ちっ、やっぱり仕掛けがあったか!」
「まって!それだけじゃないの!」
なに?ロウランが、ヘルズニルの上の方を指さしている。
「な……んだ、あれ」
くねくねとねじ曲がった塔の先端から、奇妙なものが飛び立ったぞ……?それには、羽や翼は見えなかったが、空を滑るように飛行している。形は完全な球形。ぱっと見だと、前の世界で言うドローンのようだが……
俺たちは見つめる中、その球体は城の前まで来ると、ピタッと止まった。
「……止まったぞ?」
「動かないね……」
その球は、ガラスのようなツヤツヤした材質をしている。黒っぽい色合いだが、中心には細長い亀裂のような、オレンジ色の模様がある。まるでヘビの瞳孔のようだ。
「……どうしますか?先手を取りましょうか……?」
「いや……ちょっと待ってくれ。なんとなく、嫌な予感がするんだ」
あの球は、これ見よがしに飛んできた。まるで攻撃を誘っているか、それかよっぽど撃ち落とされない自信があるみたいじゃないか。
「俺たちは、様子を見よう。たぶん、じきにどっかから攻撃が……」
俺が言いかけたまさにその時、連合軍の中から、勇ましい声が上がった。
「レイライトニング!」
バチバチバチ!ものすごい音と共に、光の槍が空へと放たれた。間違いなく、クラークの魔法だ。槍は、謎の球体を正確に撃ち抜いた。ガキィィィィン!
「当たった!直撃だ!」
「待って!それにしては、様子がおかしい……」
フランが目を鋭く細める。いなづまが起こした閃光が収まると、その中から真っ黒な球体が現れる。なんてこった!直撃したのに、あの球は平然と浮いている!それどころか、つるりとした表面には、ひびすらも入っていないようだ。
「無傷……だと……」
「っ!危ない!」
フランが叫ぶと同時に、ロウランが合金の盾を展開した。次の瞬間、球体のオレンジ色の部分がカッと光り、そこから漆黒のビームが放たれた!
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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日が昇ってからずいぶん経つというのに、風は冷たい。ここが高所だからってのもあるんだろうけど、それだけじゃなくて……俺はぶるりと震えると、襟を立てて首を縮めた。
「お、桜下さん。緊張してるんですか?」
「……そう言うお前の声も震えてるけどな、ウィル」
からかってきたウィルは、えっ!と口を押えた。んまあ、ウィルの言うことも的外れじゃない。緊張しているのも確かだ。
人類連合軍は、ヘルズニルの城門の前にずらりと陣を敷いていた。各国の軍旗が、風にはためいている。ヘルズニルには、城壁というものがない。最初は驚いたけれど、よくよく考えれば当たり前だ。この城は、宙に浮かぶ島に建ち、さらにその周囲を高い山脈が囲むという、二重の城壁に守られているんだから。てわけで、一見無防備に見える魔王の城。だが、城を守るものは、目に見える物だけとは限らない。慎重に行くに越したことはない。
兵士はいくらかの塊ごとに分かれて、四角形に整列している。主に歩兵と、魔術師、そしてシスターやブラザーといった回復役に分かれているようだが、詳細は知らない。俺たち第三勢力は、彼らと独立して、ぽつんと固まっていた。縛り付けるより、自由に動かしたほうがいい仕事をすると判断した、エドガー直々の指示だった。
冷たい風が吹く。俺は連合軍を眺めた。朝日が彼らの横顔を照らしているが、やはり一様に緊張している様子だ。あの中に、クラーク一行やアルア、尊とデュアン、それにキサカもいるはずだ。彼ら彼女らも、やっぱり緊張しているんだろうか。
「……」
「……静かですね」
そよ風のごとしウィルの声は、それでもきちんと聞き取れた。それだけ周りが静かだからだ。
ヘルズニルは、不気味なほどに沈黙していた。城の前に大軍勢が集結しているというのに、浮足立った様子もない。
「理由は三つね」
風に黒髪を弄ばれながら、アルルカが気だるげに言う。
「一つ。こっちのことを、敵は屁とも思っちゃいない」
「むぅ。だったら、なにもの見せてあげるよ!」
「ライラ、目にもの、だ」
「二つ。わざわざ騒ぐ必要もないってこと」
「それだけ守りに自信があるってことなの。門を開けなければアタシたちは入れないんだから、理にかなってるね」
「三つ。向こうにも騒ぐだけの余裕がない」
「ここに来るまでの間にも、何体もの魔物の死骸を見ましたものね……兵力が減っているというのは、楽観視ではないと思います」
「なんにしても」
背中に投げ槍の束を背負ったフランが締めくくる。
「開かないなら、ぶち破るしかない。時間だ」
ごくり……いよいよか。フランの動物並みの体内感覚が、時間のみならず、場に漂う空気すら察知したに違いない。
「ぜんたーい、構え!」
エドガーのだみ声が、風を搔き飛ばして響き渡った。いよいよ、ヘルズニル城門への一斉攻撃が始まるのだ。ここまで長かったが、ついに魔王軍との、本格的な開戦だ。
号令がかかると、まずは連合軍の魔術師部隊が、一斉に詠唱を開始した。低い囁き声が何重にもなり、あたりに異様な気配が満ちる。魔法に詳しくない俺でさえ、見えない力がこの場に集まってきているのが分かる。ライラのふわふわの髪は、静電気を帯びたように膨らんでいた。
「放てっ!」
「ジラソーレ!」「スプラッシュコーム!」「エアロフテラ!」「バンブーシュート!」
次の瞬間、あらゆる属性の魔法が、一斉にヘルズニルへと飛んだ!炎、水、風、岩石。様々な色の閃光、火花。魔法の一斉攻撃は、横に長い花火のように降り注いだ。
バキィィン!
「なんだ!?防がれた!」
魔法は門に触れる直前、次々に空中で四散してしまった。何か、透明な壁にぶつかったようだったが……
「ガラスの壁……?いや、バリアか?」
「桜下さん、私、見ました!青白い膜みたいなものが、城を覆い尽くしています!」
膜だって?アルルカがお得意の高速詠唱で、氷の礫を一発撃ち込んだ。
バキン!空中で礫は砕け散ったが、その瞬間、確かに青い何かが、一瞬だけ浮かび上がった。
「魔法盾!あれがまほーを防いでるんだ!」
ライラがくわっと目を見開いて叫ぶ。どうやら、本当にバリアみたいなものが張られているらしい。
「ちっ、やっぱり仕掛けがあったか!」
「まって!それだけじゃないの!」
なに?ロウランが、ヘルズニルの上の方を指さしている。
「な……んだ、あれ」
くねくねとねじ曲がった塔の先端から、奇妙なものが飛び立ったぞ……?それには、羽や翼は見えなかったが、空を滑るように飛行している。形は完全な球形。ぱっと見だと、前の世界で言うドローンのようだが……
俺たちは見つめる中、その球体は城の前まで来ると、ピタッと止まった。
「……止まったぞ?」
「動かないね……」
その球は、ガラスのようなツヤツヤした材質をしている。黒っぽい色合いだが、中心には細長い亀裂のような、オレンジ色の模様がある。まるでヘビの瞳孔のようだ。
「……どうしますか?先手を取りましょうか……?」
「いや……ちょっと待ってくれ。なんとなく、嫌な予感がするんだ」
あの球は、これ見よがしに飛んできた。まるで攻撃を誘っているか、それかよっぽど撃ち落とされない自信があるみたいじゃないか。
「俺たちは、様子を見よう。たぶん、じきにどっかから攻撃が……」
俺が言いかけたまさにその時、連合軍の中から、勇ましい声が上がった。
「レイライトニング!」
バチバチバチ!ものすごい音と共に、光の槍が空へと放たれた。間違いなく、クラークの魔法だ。槍は、謎の球体を正確に撃ち抜いた。ガキィィィィン!
「当たった!直撃だ!」
「待って!それにしては、様子がおかしい……」
フランが目を鋭く細める。いなづまが起こした閃光が収まると、その中から真っ黒な球体が現れる。なんてこった!直撃したのに、あの球は平然と浮いている!それどころか、つるりとした表面には、ひびすらも入っていないようだ。
「無傷……だと……」
「っ!危ない!」
フランが叫ぶと同時に、ロウランが合金の盾を展開した。次の瞬間、球体のオレンジ色の部分がカッと光り、そこから漆黒のビームが放たれた!
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