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17章 再開の約束
10-1 穴の先
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10-1 穴の先
「上ってことは……あの、穴の先ってことですね」
ウィルが、天井の穴を見上げながら言った。
「行ってきて、ダーリン!ここはアタシたちがなんとかするの」
ロウランは任せておけとばかりに、胸をトンと叩いた。
「どのみち、このままじゃキリがないの。行って、親玉をふんじばって来て!」
「わかった。頼んだぞ!」
そうと決まれば、急いで行動に移そう。といっても、俺一人じゃ、天井に這い上がることはできない。あそこまで行くには、空を飛ぶ力が必要だ。となれば必然的に、アルルカに頼ることになる。俺がアルルカに向き直ろうとした、その時。俺の目に、奇妙なものが映った。
(フラン?)
フランが何だか、悲しげな顔をしている。どうしたんだ……?と、アルルカが、大きなため息をついた。
「はぁー。しゃーないわね、じゃ、子守りはそっちに任せるわ」
え?アルルカは杖をぐるりと回すと、肩に担いだ。
「あによ。ぽかんとしちゃって」
「いや、だって」
「だってもヘチマもないでしょ。ほら、とっとと行け!」
アルルカはおもむろに手を振りかざすと、フランのお尻を引っぱたいた。
「ぎゃっ。ちょっと!」
「いいから!あんたも、とっとと背中に乗る!」
うわ、わ。アルルカに背中を押され、俺はフランの方へ突き出された。
「ほら、始めるわよ!モタモタしない!」
「くそ、なんなんだ?フラン、そういうことらしいんだが」
「でも、あなたが行きたいのは、上なんでしょ?わたしじゃ……」
「アントルメ・グラッセ!」
俺たちの返事も待たずに、アルルカの声が朗々と響いた。うわっ!足元から、氷の足場がせり出してくる!ザシャシャシャシャアー!
アルルカは氷の柱を何本も呼び出して、階段のように連ならせた。足場は、天井まで続いている。
「なるほど、そういう事か!」
俺は後ろを振り向いたが、もうアルルカの姿はなく、フレッシュゴーレムとの戦闘を始めていた。俺はにやりと笑うと、フランに向き直る。
「フラン、緒に行こう!」
「……うん。わかった。乗って!」
さっとフランが屈みこむと、俺はその背中に乗った。こうしてフランに背負われるのは、何度目だっけ。最初は恥ずかしかったけど、今はとても心強い。
「走るよ!」
「おう!」
ドンッ!フランは力強く跳躍して、氷の柱の上を駆け始めた。
フランは俺の重さもものともせず、氷の柱の上をどんどん飛び移っていく。眼下では、赤白のまだら模様のフレッシュゴーレムと人類連合軍が、壮絶な戦いを繰り広げているところだ。と、フランが舌打ちした。
「チッ!あいつら!」
あ!氷の柱をよじ登って、フレッシュゴーレムどもが、足止めをしようとしている!こっちの魂胆に勘付いたのか?
「フラン!どうする?」
「時間が惜しい!押し通るよ!」
うひゃ、了解だ!フランがぐんと加速したので、俺は慌てて背中にかじりついた。フランはとんっと軽く跳躍すると、ゴーレムたちの数メートル手前に着地した……いや、ただの着地じゃないぞ。足を縮めて、力を溜めている。まさか!俺はフランの細い首に、ぎゅっと腕を回した。
ドンッ!フランは一気に足を伸ばして、大ジャンプした。天井すれすれまで跳び上がった俺たちは、フレッシュゴーレムが伸ばすまだら模様の指先を掠めて飛んで行く。
「っ!前だフラン!」
ゴーレムの一体が、仲間を踏み台にして、ジャンプしてきやがった!このままじゃ、正面衝突するぞ!
「ッ!」
ブンッ!
え?フランはかかと落しのように、片足を高々と上げた。避けないのか!?
ゴギンッ!フランの踵が、ゴーレムののっぺりした顔面にめり込んだ。けど、それだけじゃない。フランは強引に足を振り抜き、ゴーレムを逆に踏み台にして、さらに跳んだ。に、二段ジャンプだ!
ふわりと宙を舞った俺たちは、そのまま天井の穴へと飛び込んだ。フランは両手の鍵爪を突き立て、穴の中にぶら下がる。中は、狭い土管のようになっていた。
「桜下、大丈夫!?」
「お、おう!すごかったな、さっきの」
「まだ、入り口についただけだよ。油断は……」
そう言ったそば。なにか、ずるずると引きずるような音が、穴の先から聞こえてきた。まさか……まさか!
「っっっ!ざっけんじゃねえぞ!」
穴の奥から、新手のゴーレムが降ってきた!それも、何体も!肩を管の壁に擦るようにして、隙間なく向かってくる。ぶら下がっている俺たちに、あれを避ける術はない!
「だったら!俺の力を使うまでだぁー!」
一か八かだ!吹っ飛ばせ!
「ソウル、カノーーーン!」
ドンッ!魔力が、狭い管の中に迸った。魔力の塊が、フレッシュゴーレムたちを押し戻していく。グチャグチャ、ベキベキという音がしばらく続いて、それから静かになった。
「はぁ、はぁ……どうにか、なったか?」
「わ、わかんない。けど……」
「ああ……進もう。それしかないようだしな」
フランはうなずくと、鉤爪を交互に抜いて、刺して、管を登り始めた。
しばらく登り続けたが、ゴーレムが現れる気配はない。どうやらソウルカノンは、連中を完全に押し戻せたみたいだ。ホッとしたいところだったが、大量の魔力を消費したせいか、右腕が痺れ始めている。管はほぼ垂直に近く、この腕でフランの背中にしがみついているのは、なかなかしんどいな……
「……もっとくっ付いていいよ。足も絡めて」
「え?」
ふいにそう言われて、俺は足を使っていなかったことに気が付いた。内心では、女の子に密着する気恥ずかしさもあったのかもしれない。そこを見透かされてしまったのだろうか?
「見くびるわけじゃないけど……心配、なんだよ」
おっと……そうか、心配してくれていたのか。馬鹿だったな、俺。
俺は足をフランの腰に絡めた。うん、確かにこっちの方が安定する。俺がしっかり掴まったのを確認すると、フランはペースを上げて、ガシガシと登り出した。
「……アルルカは」
「うん?」
唐突に、フランが喋り始めた。息は全く乱れていない。
「アルルカは、わたしに譲ってくれたんだ」
「譲る?何をだ?」
「この役目。普通だったら、空を飛べるアルルカの方が適任でしょ」
「ああ、やっぱりそうだよな?おかしいと思ったんだ」
俺も最初はアルルカに頼むつもりだったし。だからこそ、アルルカが留守番を買って出た時には、びっくりしたもんだ。
「何考えてたんだか。それに、フランに譲ったって?」
「うん。わたし、最近あんまり、活躍できてないから」
えぇ?どこがだ?むしろ、フランが活躍しない戦闘の方が、珍しい気もするけど。
(ああ、でもここ最近は、魔法を撃ちあうのがメインだったしな)
そう言う意味では、魔法を使えないフランが、モヤモヤすることもあったのかもしれない。
「……でもやっぱ、俺はそんな風に思わないけどなぁ」
毎回一番何もできていないのは、間違いなく俺だから、そう感じるのかもしれない。フランはくすりと小さく笑う。
「あいつに気を遣われるなんて。わたしもまだまだだね」
「あいつが気を、ねぇ」
「びっくりした。最近のあいつ、なにか変わったよ。あなた、何かした?」
「んっ?いや、まあ、なんと言うか……仲良くしろ、とは言ったよ。仲間のことも、ちゃんと名前で呼べってな」
それ以外にもオプションは付いているが、まあ、黙っておこう……
「そっか。あいつもちょっとずつ、変わってきてるのかもね」
「そうだな。せっかくこうして、一緒に戦ってるんだ。いい方向へ行ってほしいよ」
「うん」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ウィルが、天井の穴を見上げながら言った。
「行ってきて、ダーリン!ここはアタシたちがなんとかするの」
ロウランは任せておけとばかりに、胸をトンと叩いた。
「どのみち、このままじゃキリがないの。行って、親玉をふんじばって来て!」
「わかった。頼んだぞ!」
そうと決まれば、急いで行動に移そう。といっても、俺一人じゃ、天井に這い上がることはできない。あそこまで行くには、空を飛ぶ力が必要だ。となれば必然的に、アルルカに頼ることになる。俺がアルルカに向き直ろうとした、その時。俺の目に、奇妙なものが映った。
(フラン?)
フランが何だか、悲しげな顔をしている。どうしたんだ……?と、アルルカが、大きなため息をついた。
「はぁー。しゃーないわね、じゃ、子守りはそっちに任せるわ」
え?アルルカは杖をぐるりと回すと、肩に担いだ。
「あによ。ぽかんとしちゃって」
「いや、だって」
「だってもヘチマもないでしょ。ほら、とっとと行け!」
アルルカはおもむろに手を振りかざすと、フランのお尻を引っぱたいた。
「ぎゃっ。ちょっと!」
「いいから!あんたも、とっとと背中に乗る!」
うわ、わ。アルルカに背中を押され、俺はフランの方へ突き出された。
「ほら、始めるわよ!モタモタしない!」
「くそ、なんなんだ?フラン、そういうことらしいんだが」
「でも、あなたが行きたいのは、上なんでしょ?わたしじゃ……」
「アントルメ・グラッセ!」
俺たちの返事も待たずに、アルルカの声が朗々と響いた。うわっ!足元から、氷の足場がせり出してくる!ザシャシャシャシャアー!
アルルカは氷の柱を何本も呼び出して、階段のように連ならせた。足場は、天井まで続いている。
「なるほど、そういう事か!」
俺は後ろを振り向いたが、もうアルルカの姿はなく、フレッシュゴーレムとの戦闘を始めていた。俺はにやりと笑うと、フランに向き直る。
「フラン、緒に行こう!」
「……うん。わかった。乗って!」
さっとフランが屈みこむと、俺はその背中に乗った。こうしてフランに背負われるのは、何度目だっけ。最初は恥ずかしかったけど、今はとても心強い。
「走るよ!」
「おう!」
ドンッ!フランは力強く跳躍して、氷の柱の上を駆け始めた。
フランは俺の重さもものともせず、氷の柱の上をどんどん飛び移っていく。眼下では、赤白のまだら模様のフレッシュゴーレムと人類連合軍が、壮絶な戦いを繰り広げているところだ。と、フランが舌打ちした。
「チッ!あいつら!」
あ!氷の柱をよじ登って、フレッシュゴーレムどもが、足止めをしようとしている!こっちの魂胆に勘付いたのか?
「フラン!どうする?」
「時間が惜しい!押し通るよ!」
うひゃ、了解だ!フランがぐんと加速したので、俺は慌てて背中にかじりついた。フランはとんっと軽く跳躍すると、ゴーレムたちの数メートル手前に着地した……いや、ただの着地じゃないぞ。足を縮めて、力を溜めている。まさか!俺はフランの細い首に、ぎゅっと腕を回した。
ドンッ!フランは一気に足を伸ばして、大ジャンプした。天井すれすれまで跳び上がった俺たちは、フレッシュゴーレムが伸ばすまだら模様の指先を掠めて飛んで行く。
「っ!前だフラン!」
ゴーレムの一体が、仲間を踏み台にして、ジャンプしてきやがった!このままじゃ、正面衝突するぞ!
「ッ!」
ブンッ!
え?フランはかかと落しのように、片足を高々と上げた。避けないのか!?
ゴギンッ!フランの踵が、ゴーレムののっぺりした顔面にめり込んだ。けど、それだけじゃない。フランは強引に足を振り抜き、ゴーレムを逆に踏み台にして、さらに跳んだ。に、二段ジャンプだ!
ふわりと宙を舞った俺たちは、そのまま天井の穴へと飛び込んだ。フランは両手の鍵爪を突き立て、穴の中にぶら下がる。中は、狭い土管のようになっていた。
「桜下、大丈夫!?」
「お、おう!すごかったな、さっきの」
「まだ、入り口についただけだよ。油断は……」
そう言ったそば。なにか、ずるずると引きずるような音が、穴の先から聞こえてきた。まさか……まさか!
「っっっ!ざっけんじゃねえぞ!」
穴の奥から、新手のゴーレムが降ってきた!それも、何体も!肩を管の壁に擦るようにして、隙間なく向かってくる。ぶら下がっている俺たちに、あれを避ける術はない!
「だったら!俺の力を使うまでだぁー!」
一か八かだ!吹っ飛ばせ!
「ソウル、カノーーーン!」
ドンッ!魔力が、狭い管の中に迸った。魔力の塊が、フレッシュゴーレムたちを押し戻していく。グチャグチャ、ベキベキという音がしばらく続いて、それから静かになった。
「はぁ、はぁ……どうにか、なったか?」
「わ、わかんない。けど……」
「ああ……進もう。それしかないようだしな」
フランはうなずくと、鉤爪を交互に抜いて、刺して、管を登り始めた。
しばらく登り続けたが、ゴーレムが現れる気配はない。どうやらソウルカノンは、連中を完全に押し戻せたみたいだ。ホッとしたいところだったが、大量の魔力を消費したせいか、右腕が痺れ始めている。管はほぼ垂直に近く、この腕でフランの背中にしがみついているのは、なかなかしんどいな……
「……もっとくっ付いていいよ。足も絡めて」
「え?」
ふいにそう言われて、俺は足を使っていなかったことに気が付いた。内心では、女の子に密着する気恥ずかしさもあったのかもしれない。そこを見透かされてしまったのだろうか?
「見くびるわけじゃないけど……心配、なんだよ」
おっと……そうか、心配してくれていたのか。馬鹿だったな、俺。
俺は足をフランの腰に絡めた。うん、確かにこっちの方が安定する。俺がしっかり掴まったのを確認すると、フランはペースを上げて、ガシガシと登り出した。
「……アルルカは」
「うん?」
唐突に、フランが喋り始めた。息は全く乱れていない。
「アルルカは、わたしに譲ってくれたんだ」
「譲る?何をだ?」
「この役目。普通だったら、空を飛べるアルルカの方が適任でしょ」
「ああ、やっぱりそうだよな?おかしいと思ったんだ」
俺も最初はアルルカに頼むつもりだったし。だからこそ、アルルカが留守番を買って出た時には、びっくりしたもんだ。
「何考えてたんだか。それに、フランに譲ったって?」
「うん。わたし、最近あんまり、活躍できてないから」
えぇ?どこがだ?むしろ、フランが活躍しない戦闘の方が、珍しい気もするけど。
(ああ、でもここ最近は、魔法を撃ちあうのがメインだったしな)
そう言う意味では、魔法を使えないフランが、モヤモヤすることもあったのかもしれない。
「……でもやっぱ、俺はそんな風に思わないけどなぁ」
毎回一番何もできていないのは、間違いなく俺だから、そう感じるのかもしれない。フランはくすりと小さく笑う。
「あいつに気を遣われるなんて。わたしもまだまだだね」
「あいつが気を、ねぇ」
「びっくりした。最近のあいつ、なにか変わったよ。あなた、何かした?」
「んっ?いや、まあ、なんと言うか……仲良くしろ、とは言ったよ。仲間のことも、ちゃんと名前で呼べってな」
それ以外にもオプションは付いているが、まあ、黙っておこう……
「そっか。あいつもちょっとずつ、変わってきてるのかもね」
「そうだな。せっかくこうして、一緒に戦ってるんだ。いい方向へ行ってほしいよ」
「うん」
つづく
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