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17章 再開の約束

10―2

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10―2

しばらく登ると、垂直だった管は次第に斜めになり、じきに緩い坂になった。さらに進むと、狭かった管がふいに広がった。暗くてよく見えないが、どうやら小部屋のような場所に出たみたいだ。

「ん……ようやく、平らな床に出たみたい。辺りに敵もいないよ」

「お前、見えてるのか?相変わらず動物並みの目だな」

「……馬鹿にしてる?」

「あはは、してないよ、っと」

俺はフランの背から降りると、胸元に手を差し入れて、アニを引っ張り出した。そのほのかな青い光で照らしだすと、小部屋の全貌が浮かび上がる。

「うわ!またゴーレムが……!」

部屋の隅に、白と赤のまだらな塊が積み重なっていた。ビビる俺に、フランが冷静に諭す。

「大丈夫。あれ、もう動かない。さっきあなたが吹っ飛ばした奴らだよ」

え?あ、本当だ。ゴーレムたちは団子になって、ピクリとも動かない。相当な勢いで叩きつけられたのか、互いにぐちゃぐちゃになって混ざり合っているようだ……焦っていて、加減せずにかましたからなぁ。ああなったら、もう再生もできないみたいだ。
そのゴーレム団子以外に見えたのは、壁に空いた、複数の穴。

「ここは……」

「他の管との、連結部分みたいだね」

なるほど。背後にあるのが、俺たちが登ってきた管。他の管とは、この小部屋で繋がっているのか。ここはさながら、アリの巣のような形状になっているのか?

「どこに行く?」

フランが訊ねてきたので、俺は目を閉じて、意識を集中させた。さっき、オーバードライブを発動させたとき。俺は確かに、“それ”を感じた。

「……見つけた。こっちだ」

俺は一本の管を指さした。さっきよりも、確実に近づいてきている。間違いない。
フランと俺は、その管へと進んでいく。管の壁はぬめぬめしていて、嫌なにおいがした。

「そう言えば、訊いてなかったけど。あなたが感じた気配って、なんなの?」

歩きながら、フランが訊ねてくる。

「ん?おっと、そういや、まだ説明してなかったな。悪い、忘れてた」

「ううん。きっと、間違ってないと思ってた。あの木偶人形たちが、わたしたちを邪魔してきたから」

ああなるほど、聡いフランは、そこで気が付いていたわけか。

「俺が感じたのは、俺と同族の気配だったんだよ」

「同族って……まさか、ネクロマンサーってこと?」

フランがこちらを振り向く。俺は微妙な顔でうなずいた。

「そういう事に、なるんだと思うんだが」

「煮え切らないね。なにかあるの?」

「ああ……なんていうか、気配は感じるんだけど、ずいぶん弱いんだ。薄い、といってもいいかもしれない」

「薄い?ネクロマンサーの力が、ってことかな」

「そうかもしれない。あの、フレッシュゴーレムを見たろ?あいつは、アンデッドじゃない。だけど、俺のソウルカノンは効果がある」

「うん。さっきあなたは、アレの中に、やみの魔力があるからだって言ってたよね」

「そうだ。あいつらはアニいわく、魔力を流し込まれて動く人形兵だ。だけどほんのわずかに、ネクロマンスの術も混ぜ込まれてる。だから、どれだけ破壊しても動き続けるんだ」

フランはこくりとうなずいた。

「ネクロマンスで、不死性を得てるんだね。ゾンビみたいに……わたしが言うのも変だけど」

「あはは……あれも死霊術の一端なら、俺もやろうと思えばできるのかもしれないけど。悪いが、頼まれてもしたくはないな」

「同感」

フランはうなずくと、管の曲がり角を曲がった、くねくねした管は、徐々に傾斜がきつくなっていく。ずいぶん登ってきたはずだが、今頃は城のどの辺にいるんだろう?

「っと。話が逸れたが、あのゴーレムどもは、ほんの少しだけネクロマンスの力が働いてるんだ。けど、そこが妙なんだよ。もしこの先にいるのが、俺みたいなネクロマンサーなんだとしたら、もっとはっきりと力を感じ取れるはずなのに」

「そう……だね。大体、ネクロマンサーなら、人形兵になんてせずに、そのままアンデッドにすればいいはず」

「そうだろ。あのゴーレムは、わずかなネクロマンスと、それを埋め合わせるための雑多な魔力……そんなんで動いている気がする」

「それなら、この先にいるのは……?」

「わからねえ。けど、なんらかの方法で、ネクロマンサーの力を増幅してるのかもしれない。足りない力を補うために、それ以外の魔力も使っている、みたいな……ライラと違って、俺は魔法には詳しくないから、そんなことができるのかわかんないけども」

フランは黙り込むと、考えを巡らせている。俺も考えてみた。この先に、一体何が待ち受けているのかを。魔王軍には、俺と同業者がいるのだろうか?ドワーフのファルマナや、ミストルティンのボウ・エブのような?それとも……
それからは会話もなく、ひたすら上り坂を歩き続けた。俺は息が上がって、話すどころじゃなかったけれど。やがて俺たちの前に、鉄格子と門が現れた。

「ここ、なの?」

「ああ、間違いない。この先に、術者がいる」

フランはうなずくと、鉤爪を抜いて、門に近づいた。俺は彼女の後ろからついていく。俺が気配に気づいているということは、相手も俺の気配に気づいている可能性が高い。気を付けるに越したことはなさそうだ。

「ん……鍵が、ある。錠前」

「うん?まあ、開いてるわけはないか。壊せそうか?」

「問題ないと思う。ただ……こっち側から、施錠されてる」

「へ?」

こっち側って、つまり俺たちの方?どういう意味だ?侵入者を拒むのだとしたら、普通は内側から鍵をかけるはずだろ?

「どういう事、なんだろうな……」

「とりあえず、壊すよ。入らないと始まらない」

フランは鉤爪を振り上げると、ビュンっと振り下ろした。ガキン!と音を立てて、錠前が弾け飛んだ。

「開いた。行こう」

「おう」

キィと音を立てて、門が開く。俺たちは慎重に、その中へと入っていった。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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