じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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17章 再開の約束

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「……生き物を、利用した、兵器……?」

ウィルは途切れ途切れに言った。その顔は土気色になっている。そのまま両手で顔を覆うと、深く息をついた。

「おねーちゃん、だいじょうぶ?」

ライラが心配そうに背中を撫でると、ウィルは弱々しく微笑んだ。

「ええ、ありがとうございます……ただ、やっぱり辛いですね。この戦争が始まってから、たくさんのひどいものを見てきましたが……」

ウィルはそこまで言うと、はたと言葉を区切った。そして、大きく目を見開く。

「もしかしたら……私が爆破した塔にも、同じものが?だったら私、その人たちを……!」

「ウィル。よせ」

俺は静かに首を横に振ると、ウィルの冷たい手を握った。

「俺たちが今ここにいるのは、ウィルのおかげだ。あの時は、ああするしかなかった」

「桜下さん……」

「それに、お前はそうとは知らなかった。罪の重さで言ったら、俺の方が重罪だ。知った上で、俺はあいつらの息の根を止めたんだから」

すると今度は、フランが激しく首を振った。

「そんなことない!あいつらは、それを望んでた。あなたは、あいつらの願いを叶えてあげただけ。それに、もしわたしだったら、殴って壊して、そんな終わらせ方しかできなかった。あなただったから、あんなに優しく眠らせられたんだよ」

そうか、そうだな……だからって開き直ることは難しいが、俺もそれ自体は後悔していない。あれを放っておくよりは、何倍もいい。

「ふぅ……俺たちで慰め合っても、しょうがないな。けど俺、一つはっきりしたことがあるんだ」

みんなが、俺を見た。

「魔王を倒そう。この戦争を、終わらせるために」

みんなの表情は、それぞれ違っていた。決意、不安、懊悩。

「俺は今まで、戦争そのものはどうでもいいと思ってた。攫われた人たちを取り戻すことが最優先で、勝ち負けは二の次だって。もちろん、その為には戦争で勝つ必要はあるんだろうけどな」

ウィルは思い悩んだ顔でうなずいた。

「桜下さんは、ずっとそう言ってましたね。でも正直、最初は驚いていたんです。桜下さんは元とはいえ勇者だし、どうして魔王を憎まないんだろうって」

「お、そうだったのか?」

「けど、すぐに思い直しました。元々、桜下さんは勇者らしくない人でしたから。あ、いい意味ですよ?」

ウィルの急いで付け足したフォローに、みんな小さく笑った。

「それにたぶん、桜下さんは……魔王が悪か否かを、決めかねていたんじゃないですか?」

ウィルには、お見通しか。彼女は本当に、俺をよく見てくれているんだと実感する。

「ああ……笑ってくれていい。俺、内心の内心では、ロアたちが攫われたことにも、なにかの理由があるんじゃないかと思ってたんだ。やむを得ず誘拐なんてしたけど、ほんとは全然別の要件だった、とかさ」

ロウランは驚いた顔をし、アルルカは眉をひそめたが、黙っていた。フランが言う。

「だから、あの狼耳のと話したがってたの?」

「あ、そういやあの娘は?無事か!?」

「大丈夫、ちゃんと生きてるよ。いちおう敵だから、別のところにいるけど」

そうか、よかった……俺は胸をなでおろすと、フランの問いに答える。

「ああ、その通りだ。あの娘に直接訊けば、魔王軍の目的が分かると思ってた。和解まで行かなくとも、余計な争いを避けられるんじゃないかってさ」

「桜下さんの言ってること、分かります。途中の襲撃も中途半端で、本気なのかどうかわからなかったですものね」

「ああ。魔王軍の在り方が、前と全然違うってのも引っかかってたし……けど。理由や目的がどうであれ、その手段が問題だ。奴らは、一線を越えたよ」

腹の底に、怒りを感じる。

「死者を戦わせて、生者を弄ぶ。こんなの、見過ごせない」

俺はきっぱりと言った。死霊術師ネクロマンサーである俺だって、死者の力を借りている。やっていることは同じだ。けど、これだけは違うとはっきり言えるぞ。
俺は決して、命を軽んじない。上っ面の言葉なんかじゃない。今まで貫いてきた信念として、胸を張って言える。そしてもう一つ、死者の魂と言葉を交わすこと。対話の拒絶は、理不尽と冒涜に繋がる。俺は必ず、アンデッドの声を聞いてきた。
自慢できることなんてほとんどない俺だけど、それだけは、俺の数少ない誇りだ。

「俺は、魔王を止めたい。けど、俺だけの力じゃ無理だ。だから……」

「頼む、みんなの力を貸してくれ。でしょ?」

俺は驚いて、顔を上げた。フランの赤い瞳が、俺を見据えている。

「あなたの決めたことは、わたしたちの決めたことだよ。あなたは、わたしたちの主なんだから」

フランの言葉に、誰も反対しなかった。俺は深くうだれた。

「ありがとう……みんながいてくれて、ほんとうによかった」

ウィルは小さく鼻を鳴らすと、明るい声で言った。

「それなら絶対、この戦いに勝たないとですね。どうしますか?作戦会議でもしましょうか」

「なら一つ、提案があるわ」

お?アルルカが、すっくと立ちあがった。

「戦いに勝つには、まず敵を知らないと、よ。あんたが連れて帰ってきた狼娘に、話を訊きに行くの」

なるほど、それは確かに大事だ。あの娘から魔王軍のことが聞ければ、この先ぐっと楽になる。

「よし、そうしよう。で、どこにいるんだっけ?」

「隅っこの馬車の中。敵の兵士だから。捕虜として監視されてる」とフラン。

「決まりね。とっとと行きましょ」

アルルカはテントの入り口へ向かうと、たれ布をめくった。するとそこに、気まずそうな顔をした男が立っていた。

「っ!誰よあんた!」

ジャキ、とアルルカが杖を銃のように構える。

「うわわ、怪しい者じゃないよっ!」

「怪しい奴はみんなそう言うのよ、って……」

ん?あれ、もしかしなくても。

「クラークじゃないか」

そこに立っていたのは、引きつった顔で両手を上げている、クラークだった。

「あはは……や、やあ」

「やあってお前、何やってんだよ?」

「えっと、実はお願いがあってね。僕も、その捕虜のとこに連れて行ってくれないかな」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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