じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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17章 再開の約束

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「まったく、勇者様が立ち聞きとは。いいシュミしてるぜ」

「ちっ、違う!いや、違くはないけど……」

俺たちと並んで歩きながら、クラークはもごもごと言い訳した。

「盗み聞きするつもりじゃなかったんだ。ただ、君たちのテントの前で、興味深い話が聞こえてきたから……」

「それ、結局盗み聞きじゃねーか」

「くっ……」

クラークはしおしおと縮こまっている。一方で、アドリアはまったく悪びれた様子もない。

「すまんな。だが、水を差したくなかったのだ。我々からしても、お前たちの話は大変そそられた」

「ちぇっ、だったら素直に頼んで訊けばいいじゃんか」

「二度も話すよりは効率的だろう?」

だあぁ、こいつめ!ウィルは呆れたように額を押さえ、あちらのシスターであるミカエルは、申し訳なさで顔を赤くしている。まあいいさ、俺も礼節よりてっとり早さを選ぶタイプだから。

「で?立ち聞きしたんだ、感想くらい聞かせてくれよ」

「うむ……」

アドリアはクラークに目線を送った。クラークはうなずくと、暗い顔で話し出す。

「ああ……もともと僕らは、あの戦いのことを聞きに来てたんだ。君たちがどうやって、あの怪物の動きを止めたのかをね」

クラークは剣の柄を撫でる。

「今まで、数多のモンスターと戦ったってほどじゃないけれど、それなりにいろんな魔物を倒してきたんだ。けど、あんなに異質で、気味の悪い奴は初めてだった」

「まあ、そうだろうな。あいつらは生き物でも、機械でもない。俺たちの話聞いてたんなら、その辺ももう知ってるだろ?」

「うん……何かが違うってことは、僕らも気付いてた。ところが、想像していた以上に、闇は深いらしい」

クラークの顔は苦り切っていた。正義に拘るやつのことだ、こんなの見過ごせるわけないだろう。いつもは飄々としているアドリアも、今回ばかりは、嫌悪感をあらわにしていた。

「このような、生物を用いた兵器のことは私も聞いた事がない。先の大戦でも、それ以降もな。どうやら魔王軍は勤勉のようだ。この十年の間に、こんな新兵器を開発しているとはな」

「だから僕たちも、その捕虜に話しが訊きたかったんだ。どうにも僕らの知っている魔王と、今の敵の在り方はかけ離れている」

やっぱりそこに行きつくか。俺は鼻から息を吐く。

「別に、俺が捕虜を管理しているわけじゃないからな。お前らが付いてくるのを止めはしないさ。アドリアの言う通り、訊くならいっぺんの方が効率いいしな」

アドリアはにやりと笑う。

「違いない」



フランに案内されて向かった先は、キャンプ地の端に停められた、大きな荷馬車だった。ごく普通のものだが、緊急時に捕虜一人を閉じ込めておくだけなら十分だろう。だた、妙な点が一つ。

「肝心の見張りがいないな……?」

いくら相手が小さな女の子だからって、監視の一人もいないってのは、さすがに不用心すぎないか?俺はあたりを見回す。夕闇が迫り、あたりは暗い。この馬車がキャンプの外れにあるせいもあって、周囲に兵士は一人もいなかった。

「変だね。夕食を取りに行っているのかな」

怪訝そうなクラーク。向こうでは、炊事の煙が上がっている。ささやかだが、酒もふるまわれているようだ。小さくだが、笑い声も聞こえてくる。が、俺は首を横に振った。

「だとしても、一人くらいは置いて行くだろ。交代で取りに行くとかで」

「確かにそうか。だったら……」

「ん。ちょっと待って。静かに」

フランが手で俺たちを制した。俺とクラークは慌てて口をつぐむ。フランは静かについて来いと手で示すと、馬車の戸口へと忍び寄っていく。俺たちはそれにならって、そろそろと後をついて行った。

「……いい加減、何かしゃべったらどうなんだ?」

ん?扉を通して、くぐもった声が聞こえてきた。なんだ、見張りは馬車の中にいたのか。けどそれなら、どうしてフランは、こんなコソ泥みたいなマネを?

「おい、聞いているのか!ここに、でっかい耳がついてるだろが」

「いたっ!はなセ!」

「だったら、少しは素直になったらどうなんだ!」

「チッ、さっきからずっとこの調子だぜ。ハズレくじ引かされたよなぁ。こんな小娘一匹のせいで、今夜はずっと、こんな臭い所に缶詰めだ」

「言うな!ちくしょう!なんで俺たちが!」

「あーあ、今頃あっちは盛り上がってるだろうなぁ。聞いたか?今日は酒飲んでもいいらしいぜ。昼間の戦いで勝ったから」

「うるさいって言ってんだ!くそくそ!」

「俺に当たるなよ。ふぅー、なんだって俺たちがこんな目に……」

これは……どうやら、中にいるのは二人の男のようだ。だが、あまり和やかな雰囲気ではないみたいだぞ。

「くそ、腹が立つ!……なんだお前、その目は!俺たちを馬鹿にしてるのか!」

ぐらりと、不吉に馬車が揺れた。

「あまり調子に乗るなよ?お前みたいな化け物、すぐに始末してやってもいいんだからな!」

「気ぃつけろよ。そいつ、見た目のわりに凶暴だぞ」

「ふん、この俺がこんなチビに臆するか……うお!」

「がうっ!」

「ほーら、言わんこっちゃない。大丈夫か?」

「頭に来たぞ、このクソガキ!ぶっ殺してやる!」

「やめろって、んなことしたら俺たちがぶっ殺される。なぁおい、それより、もっといいオシオキの仕方があるぜ?」

「なに?」

「へっへっへ。こいつも見てくれは悪いが、いちおうメスだ。こんなつまらない役目を押し付けられたんだ、少しくらい楽しんだってバチは当たらんだろ」

「な、お前……へ、へへ。そうだな。よし、お前、そっちを押さえとけ」

「よしきた!」

「や、やめロ!はなせ!」

これ以上は、聞く必要もなかった。クラークがすっくと立ち上がると、扉に両手をついて、思い切り押した。バターン!クラークが飛び込んでいくと、男たちの悲鳴、なにかが倒れる音、そして馬車がガタガタと揺れ、「ぎゃあ」とか「ぐえぇ」とか言う声がした。少しすると、二人の兵士が馬車から転がり出てきた。そいつらは振り返ることもなく、一目散に走り去ってしまった。

「馬鹿な連中だ。悪いことをして、バチが当たらないはずがない」

クラークが激しい怒りの表情で、戸口に出てきた。俺はため息をつく。

「少しはお灸になってるといいけどな。あいつら、これが初犯でもないだろ。口ぶり的にさ」

「あっ!しまった、そうだったのか。くう、気付かなかった……」

クラークは逃げて行った男たちを追いかけかねない様子だったが、ぐっとこらえると、俺たちに道を譲った。揉め事から始まるなんて、幸先悪いな。俺は早くも疲れた気分で、馬車のステップに足を乗せた。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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