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17章 再開の約束
15-3
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15-3
「どうしたの?」
「そんな、馬鹿な……ありえない!」
俺はわなわな震える手を必死に押さえる。薄汚れた用紙を破ってしまいそうだ。
「何が?わたしには、普通に見えるけど……」
フランには、この決定的な矛盾が分からないらしい。いや、それも当然だ。これが分かるということ自体が、そもそも絶対的に矛盾なのだから。
「はぁ……はぁ……」
『……主様。こちらに来てから、十五分が経過しました。そろそろ戻らないと、皆に気付かれる恐れがあります』
アニが首元でチリンと揺れた。もうそんなにか……ぼつぼつ戻らないと。
「フラン、戻りながらでいいか?」
「うん。行こう」
元来た道を引き返しながら、俺はフランに説明する。
「俺が見てたのは、ここだ。この、エジプトってところ」
「エジプト?」
フランが首をかしげる。当然だ。
「フラン、エジプトって、意味わかるか?」
「ううん、知らない。モンスターの名前?」
「やっぱそうだよな……これは、俺がもと居た世界の、国の名前なんだ」
「え……ど、どういうこと?なんでそれが、ここに書かれて……」
「ああ。おかしいよな、どう考えても」
俺は紙に目を落とし、その箇所をじぃっと見つめる。
「……考えられるのは、一つくらいか。これを書いた奴は、エジプトを知っている。つまり、俺の居た世界を知っている。けどこの文字は、こっちの世界の文字だ」
「あなたの世界と……わたしたちの世界の、両方を知ってる」
フランが復唱する。この二つを満たす人間は、そう多くはない。
「どうやらこいつは、俺たちとよく似た境遇らしいな。あちらから召喚されて、こっちの知識を身に着けたんだ」
「それってつまり……」
異世界から召喚される人間が、そうホイホイいるはずがない。
「勇者、ってことだね」
「ああ……」
俺は紙から目を離すと、まぶたの上から、目をギュッと押した。
「けど、意味が分からねえ。なんで勇者が、魔王の側につく?そもそも、この勇者ってのは誰なんだ?レーヴェの言ってたように、ファーストが実は生きてたのか?それとも、ファーストの名を騙る誰かなのか」
「……」
暗い通路に、俺たちの足音が響く。少ししてから、フランが口を開いた。
「動機としては、どうだと思う」
「うん?動機だって?」
「勇者が、魔王の側について、人類を裏切りことはあると思う?」
なに?俺はフランを見つめた。フランも俺を見つめ返す。
「……フラン。お前、まさか……」
するとフランは、目をすっと細めてから、からかうように唇の端を上げた。
「キスしてあげようか」
「は、はあ!?」
「あなたを疑ってたら、ここにこうしていないってこと」
あ、ああ。そういう……
「はぁ……わかったよ。そうだな、勇者が人類を裏切ることは、正直あり得ると思う。俺もそうだったから」
俺は、王国の側につくのをやめた。魔王の味方をするつもりはないが、見る人が見たら、立派な裏切り行為だと非難するだろう。クラークみたいなやつとか。つまり俺自身が、勇者の裏切りを示す生き証人なんだ。
「俺に運が無かったら、第二のセカンドになってたかもな。俺みたいに逃げ出そうとしたやつだって、一人や二人はいるだろ」
「うん。でも、わたし、それを非難するつもりはないから」
わかってるよ。こうして隣にいてくれることがその証だって、言ってくれたもんな。
「となると、魔王側に付いてると思しき勇者……仮称Xとでもするか。その勇者Xは、人類に復讐しようとしているのか」
「けど、だとしたらそいつ、相当の自信家だ。だって、他の勇者全部をいっぺんに相手できると思ってるってことでしょ」
ふむ、確かに……けど、魔王が味方に付いているのだとしたら、勝つ見込みもあるのかもしれない。もっとも、魔王が勇者と協力するかどうか、はなはだ疑問ではあるが。
「……俺たちはこの先、魔王だけじゃなくて、勇者とも戦わなくちゃいけないのかもしれないな」
「……そうかも、しれない。けど、進むしかないよ」
「ああ。けど時々、分かんなくなるよ。この戦争は、一体誰が、何のために戦ってるのか」
すると、フランが立ち止まった。
「わたしたちは、わたしたちのために戦ってるんだよ。それを忘れないで。あのバカ女王のためなんて言ったら、ぶん殴るからね」
「バカ女王ってお前……くくくっ、分かったよ。分かったから睨むなって」
俺たちが戻ってくるのと、連合軍が移動を再開するのは同時だった。そのごたごたに乗じて、俺とフランはこっそり仲間たちの下に加わる。
「おかえりなさい、お二人とも。それで、どうでしたか?」
「ああ、それがな……」
俺は小声で、仲間たちに見てきたことを伝えた。が、話をしているうちに、近づいてくるやつがいた。
「桜下くん、さっきはお疲れさま。大変だったねぇ」
「あ、尊?」
とととっと駆け寄ってきたのは、尊だ。俺は慌てて取り繕う。
「ああ、うん。でも、俺は何にもしてなかったけどな。あはは」
「えっ。そんなことないじゃない。なんにもできなかったのは、私のほうだよ」
「え?なんでだよ、あのつるつる滑る魔法、いかしてたぜ」
「だって、桜下くんが作戦を思いついてくれたから。私だけじゃ、なんの役に立てなかったよ。だから、すごいなぁって」
そう言うと、尊はにっこり笑った。おお、ストレートに褒められると、ちょっと照れるな……おっと。あんまりだらしない顔をしていると、またフランにケツを蹴飛ばされる。
「ああっと、ありがとな、尊」
「うん。あ、そう言えば。桜下くん、さっきはどこ行ってたの?」
「へっ?」
しまった、すっとんきょうな声が……尊はこくんとうなずく。
「さっきの戦いの後、二人だけでこっそり扉の奥に行ってなかった?確かに桜下くんだったと思うんだけどなぁ」
「いやぁその尊、ちょっと何のことだか……」
と、ごまかしてみたはいいが、これは流石に無理だ。バッチリ見られていたようだし、尊はこういうハッタリができるやつじゃない。
「……ああ、よく見てたな。その通りだよ」
「やっぱり。何か調べもの?」
「ちょっとな。けど、内緒にしてくれ。あんまり噂にしたくないんだ」
「おっけー。ねえ、何か見つけたりとか?」
「まあな。こんなのがあったよ」
俺はポケットの中から、例の折りたたまれた紙を取り出して見せた。
「それ、なぁに?」
「実験報告書、だとよ。ちっ、あの中で、気味の悪い実験を繰り返してたみたいなんだ」
「ふーん……ねえ、他にはどんなことが書いてあるの?私にも見せてよ!」
尊は無邪気に手を差し出してくる。もちろん、見せることは構わないが……
「尊、悪い。これは先に、エドガーに見せたほうがいいと思って」
「あ、そっかぁ。ねえ、それじゃあさ、私が代わりに届けてあげる!」
「え?いや、でも」
「そしたら、私もちょこっと見れるでしょ?ね、そうしてあげる!」
すると尊は、俺の返事も待たずに、用紙の束を取り上げた。
「あ、こら!」
「任しといて!ちゃーんと届けて見せるから!」
あーあー、行っちまった……
「あいつ、大丈夫かな?手柄を立てようとして、躍起になってるんじゃないか」
「なんだか危なっかしいですね。急いては事を仕損じる、と言いますけど」
ウィルが素っ気なく言う。俺は苦笑いするしかなかった。
「ま、悪いことしてるわけじゃないんだ。やりたいようにさせておくのが一番なんじゃないかね」
「ですかねぇ……」
などと話していた、その時だった。
「武器を構えろ!次の部屋に着くぞ!」
っ。先頭の方から大声が聞こえてきて、俺たちはおしゃべりをやめた。どうやら、次の敵が待ち構える部屋へと着いたらしい。
「さあて、次はどんなところだか」
つづく
====================
読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「そんな、馬鹿な……ありえない!」
俺はわなわな震える手を必死に押さえる。薄汚れた用紙を破ってしまいそうだ。
「何が?わたしには、普通に見えるけど……」
フランには、この決定的な矛盾が分からないらしい。いや、それも当然だ。これが分かるということ自体が、そもそも絶対的に矛盾なのだから。
「はぁ……はぁ……」
『……主様。こちらに来てから、十五分が経過しました。そろそろ戻らないと、皆に気付かれる恐れがあります』
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「フラン、戻りながらでいいか?」
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元来た道を引き返しながら、俺はフランに説明する。
「俺が見てたのは、ここだ。この、エジプトってところ」
「エジプト?」
フランが首をかしげる。当然だ。
「フラン、エジプトって、意味わかるか?」
「ううん、知らない。モンスターの名前?」
「やっぱそうだよな……これは、俺がもと居た世界の、国の名前なんだ」
「え……ど、どういうこと?なんでそれが、ここに書かれて……」
「ああ。おかしいよな、どう考えても」
俺は紙に目を落とし、その箇所をじぃっと見つめる。
「……考えられるのは、一つくらいか。これを書いた奴は、エジプトを知っている。つまり、俺の居た世界を知っている。けどこの文字は、こっちの世界の文字だ」
「あなたの世界と……わたしたちの世界の、両方を知ってる」
フランが復唱する。この二つを満たす人間は、そう多くはない。
「どうやらこいつは、俺たちとよく似た境遇らしいな。あちらから召喚されて、こっちの知識を身に着けたんだ」
「それってつまり……」
異世界から召喚される人間が、そうホイホイいるはずがない。
「勇者、ってことだね」
「ああ……」
俺は紙から目を離すと、まぶたの上から、目をギュッと押した。
「けど、意味が分からねえ。なんで勇者が、魔王の側につく?そもそも、この勇者ってのは誰なんだ?レーヴェの言ってたように、ファーストが実は生きてたのか?それとも、ファーストの名を騙る誰かなのか」
「……」
暗い通路に、俺たちの足音が響く。少ししてから、フランが口を開いた。
「動機としては、どうだと思う」
「うん?動機だって?」
「勇者が、魔王の側について、人類を裏切りことはあると思う?」
なに?俺はフランを見つめた。フランも俺を見つめ返す。
「……フラン。お前、まさか……」
するとフランは、目をすっと細めてから、からかうように唇の端を上げた。
「キスしてあげようか」
「は、はあ!?」
「あなたを疑ってたら、ここにこうしていないってこと」
あ、ああ。そういう……
「はぁ……わかったよ。そうだな、勇者が人類を裏切ることは、正直あり得ると思う。俺もそうだったから」
俺は、王国の側につくのをやめた。魔王の味方をするつもりはないが、見る人が見たら、立派な裏切り行為だと非難するだろう。クラークみたいなやつとか。つまり俺自身が、勇者の裏切りを示す生き証人なんだ。
「俺に運が無かったら、第二のセカンドになってたかもな。俺みたいに逃げ出そうとしたやつだって、一人や二人はいるだろ」
「うん。でも、わたし、それを非難するつもりはないから」
わかってるよ。こうして隣にいてくれることがその証だって、言ってくれたもんな。
「となると、魔王側に付いてると思しき勇者……仮称Xとでもするか。その勇者Xは、人類に復讐しようとしているのか」
「けど、だとしたらそいつ、相当の自信家だ。だって、他の勇者全部をいっぺんに相手できると思ってるってことでしょ」
ふむ、確かに……けど、魔王が味方に付いているのだとしたら、勝つ見込みもあるのかもしれない。もっとも、魔王が勇者と協力するかどうか、はなはだ疑問ではあるが。
「……俺たちはこの先、魔王だけじゃなくて、勇者とも戦わなくちゃいけないのかもしれないな」
「……そうかも、しれない。けど、進むしかないよ」
「ああ。けど時々、分かんなくなるよ。この戦争は、一体誰が、何のために戦ってるのか」
すると、フランが立ち止まった。
「わたしたちは、わたしたちのために戦ってるんだよ。それを忘れないで。あのバカ女王のためなんて言ったら、ぶん殴るからね」
「バカ女王ってお前……くくくっ、分かったよ。分かったから睨むなって」
俺たちが戻ってくるのと、連合軍が移動を再開するのは同時だった。そのごたごたに乗じて、俺とフランはこっそり仲間たちの下に加わる。
「おかえりなさい、お二人とも。それで、どうでしたか?」
「ああ、それがな……」
俺は小声で、仲間たちに見てきたことを伝えた。が、話をしているうちに、近づいてくるやつがいた。
「桜下くん、さっきはお疲れさま。大変だったねぇ」
「あ、尊?」
とととっと駆け寄ってきたのは、尊だ。俺は慌てて取り繕う。
「ああ、うん。でも、俺は何にもしてなかったけどな。あはは」
「えっ。そんなことないじゃない。なんにもできなかったのは、私のほうだよ」
「え?なんでだよ、あのつるつる滑る魔法、いかしてたぜ」
「だって、桜下くんが作戦を思いついてくれたから。私だけじゃ、なんの役に立てなかったよ。だから、すごいなぁって」
そう言うと、尊はにっこり笑った。おお、ストレートに褒められると、ちょっと照れるな……おっと。あんまりだらしない顔をしていると、またフランにケツを蹴飛ばされる。
「ああっと、ありがとな、尊」
「うん。あ、そう言えば。桜下くん、さっきはどこ行ってたの?」
「へっ?」
しまった、すっとんきょうな声が……尊はこくんとうなずく。
「さっきの戦いの後、二人だけでこっそり扉の奥に行ってなかった?確かに桜下くんだったと思うんだけどなぁ」
「いやぁその尊、ちょっと何のことだか……」
と、ごまかしてみたはいいが、これは流石に無理だ。バッチリ見られていたようだし、尊はこういうハッタリができるやつじゃない。
「……ああ、よく見てたな。その通りだよ」
「やっぱり。何か調べもの?」
「ちょっとな。けど、内緒にしてくれ。あんまり噂にしたくないんだ」
「おっけー。ねえ、何か見つけたりとか?」
「まあな。こんなのがあったよ」
俺はポケットの中から、例の折りたたまれた紙を取り出して見せた。
「それ、なぁに?」
「実験報告書、だとよ。ちっ、あの中で、気味の悪い実験を繰り返してたみたいなんだ」
「ふーん……ねえ、他にはどんなことが書いてあるの?私にも見せてよ!」
尊は無邪気に手を差し出してくる。もちろん、見せることは構わないが……
「尊、悪い。これは先に、エドガーに見せたほうがいいと思って」
「あ、そっかぁ。ねえ、それじゃあさ、私が代わりに届けてあげる!」
「え?いや、でも」
「そしたら、私もちょこっと見れるでしょ?ね、そうしてあげる!」
すると尊は、俺の返事も待たずに、用紙の束を取り上げた。
「あ、こら!」
「任しといて!ちゃーんと届けて見せるから!」
あーあー、行っちまった……
「あいつ、大丈夫かな?手柄を立てようとして、躍起になってるんじゃないか」
「なんだか危なっかしいですね。急いては事を仕損じる、と言いますけど」
ウィルが素っ気なく言う。俺は苦笑いするしかなかった。
「ま、悪いことしてるわけじゃないんだ。やりたいようにさせておくのが一番なんじゃないかね」
「ですかねぇ……」
などと話していた、その時だった。
「武器を構えろ!次の部屋に着くぞ!」
っ。先頭の方から大声が聞こえてきて、俺たちはおしゃべりをやめた。どうやら、次の敵が待ち構える部屋へと着いたらしい。
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