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17章 再開の約束

16-1 謎の男

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16-1 謎の男

暗い廊下を抜けると、そこは広いホールのような部屋だった。何となくだが、プラネタリウムのようだ。薄暗く、天井は紫色の淡い光を放っている。

「しかし、馬鹿でかい部屋だな。結構登ってきたと思ったんだが?普通、上に行けば行くほど狭くなるもんだろ」

「魔王のお城じゃ、常識は通用しないみたいですね」

もしそうだとしたら、この部屋にも、なにか常識外れの仕掛けがあってもおかしくないってことだ。慎重に辺りを探る。

「……ぱっと見は、何もない部屋ですね」

ウィルはきょろきょろと、辺りをしきりに見渡している。確かに、がらんどうな部屋だな……唯一、部屋の中心には、黒い柱?のようなものが立っている。柱と言っても、高さはせいぜい二メートルくらい。天井に届きそうもない、なんとも中途半端な柱だ。俺はここに来る途中で見た、花園の中の石柱を思い出した。あれを調べたら、今度も何かが起こるのだろうか?

「やあやあやあ。人類諸君、よく来た、よく来た」

え!?俺は飛び上がりそうになった。広い部屋に突然、場違いな声が響き渡った。

「なかなかしぶといなあ、お前たち。思ったよりやるじゃねえか」

「っ!あそこだ!」

あっ!?ホールの天井すれすれに、一人の影が浮かんでいる。暗くてよく見えないが、この人を馬鹿にしたような口調は、もしや……

「褒めてやるよ。このヴォルフガング様じきじきに、な」

あ、あいつは!三幹部の一人、鳥骨頭のヴォルフガング!

「ちっ。とうとう、あいつとの正面衝突ってわけか……」

前回は撃退することができたが、今回は敵も俺の能力を知っている。こいつは、油断ならないぞ。

「ここまで来れた褒美だ。ここでオレ様自ら、お前らの相手をしてやろう……」

「っ」

「と思ったんだが、まだ早いな。まだそのレベルじゃねえ」

「あれ?」

かくん、と膝から力が抜けた。なんだよ、戦うつもりじゃないのか?すると、連合軍側から大声が上がった。

「ふざけるな!貴様、また逃げる気だな!仮にも魔王軍の幹部なら、正々堂々と戦え!」

この実に勇者らしい言い回しは、間違いなくクラークのやつだな。ヴォルフガングはせせら笑う。

「逃げる?そいつは、弱えぇ奴が強い奴に対して使う言葉だろ。お前たち相手じゃ、条件満たさねえよ」

「なんだと!」

「今回はオレ様の代わりに、他の三幹部が相手してやる。これだけでも十分光栄に思えよ」

な、別の三幹部だって?まさか、レーヴェの言っていたドルトか?それとも、正体不明のもう一体?

「ただな、こいつは三幹部の中でもちと不出来な奴でな。なにせ、声も出さねえし、動きもしねえ。これじゃさすがにかわいそうだと思って、わざわざ出てきてやったのよ」

「なにぃ……?デタラメを!そんな奴、どこにいるんだ!」

「いるだろうが。ほら、ここに」

ヴォルフガングは、足下を指さしたようだ。奴の真下には……あの、謎の黒い柱があるだけだ。

「……ん?おい、まてよ。あの柱、なんか変だ!」

柱にしちゃ短すぎると思っていたが、よく見ると、妙に表面がでこぼこしている。まるで、人の体みたいに……まさか、あれが?

「っ。見て!あの柱!」

フランの鋭い声が響く。

「フラン、気付いたか?あの柱、なんだか人みたいな……」

「そうじゃない!あの柱の表面、なにかが動いてる!」

え?俺は慌てて柱を見る。見た感じ、なにも変化は起きていないが……いや、待て。よく見ると、なんだが波打ってないか?柱の表面を、なにかが覆っている……?
カサカサカサ……

「……なんの、音だ?」

「……分かりませんが、すごく、嫌な予感がします」

俺たちは、白くなった顔で、そーっと見つめ合った。まさか……

カサカサカサ……ガサガサガサ。シャアアァァァァ!

「げっ」
「ひぃ」

黒い柱から染み出すように、小さな黒い虫が、どっと溢れ出てきた!ひいぃー、鳥肌がっ!

「ヒャハハハハ!さあ、踊って見せろ!こいつらから生きて逃れられたら、今度こそ戦ってやるよ。ま、無理だとは思うけどな」

高笑いを残して、ヴォルフガングの姿が消えた。だが、そんなことに構っている余裕は全くない。虫の大群は、黒波となって押し寄せてくる!

「やばいやばいぞ!ウィル、ウィル!フレイムパイン!」

「あわ、わ、分かりました!」

ウィルは大慌てで詠唱を始めた。その間にも虫の大群は、満潮のような勢いで迫ってくる。じきここも危ない!

「いったん退こう!あれに飲まれて、良いことはないはずだ!」

この場はウィルに任せて、俺たちは壁の方へと走り出した。ウィルは浮いているから、虫も平気だ。俺たちが一目散に逃げだしたのを見て、周りの兵士たちも一人、二人と駆け出し始めた。

「う、うわあああ!」

ドドドドっと、兵士たちが部屋の入口に殺到する。だが、様子が変だ。

「おい、押すな!こっちに来ても無駄なんだ!」
「何言ってんだ!あれが見えないのか?」
「違う!入口が、いつの間にか無くなってる!閉じ込められたんだ!」
「なに!?」

なにぃ!?マジかよ、出られないのか!?あの虫の大群と同じカゴに、放り込まれたってことかよ!

「フレイムパイン!」

ズゴゴゴ!その時、待ち望んだ声が響いた。ウィルの魔法によって、燃え盛る柱が後方に出現する。

「いいぞ!飛んで火にいる夏の虫だ!」

だが俺は、連中を舐めていたことを思い知らされる。虫たちは、いっせいに左右に分かれると、柱をぐるりと迂回したのだ。

「だ、ダメです!止まりません!」

「うそだろぉ!」

虫が止まらないと見るや、ロウランが素早く盾を展開した。合金を膜のように張り、俺たちをすっぽりと覆い隠す。

「とりあえず、これで安心なの!」

「よ、よし!今のうちに……」

俺が言いかけたその時、ロウランの足元に、数個の黒い影が見えた。げげっ!

「ロウラン!何匹か入り込んでる!」

「ええっ!うそ!?」

いつの間に!?こんなに小さいし、部屋自体薄暗いから、黒色が保護色になっているんだ!
虫はカサカサと素早く動き回ると、盾を展開中で動けないロウランの体にくっついた。

「いやーん!ダーリン、とってぇー!」

「わかってる!けど、くそ、すばしっこい!」

どうにかひっ捕まえようとするが、とても目で追いきれない。あっという間に、俺は虫を見失ってしまった。

「ふひゃ!ひゃ、ひゃにぃ!?」

え?うわ!ロウランの顔に、虫がひっついてる!その時初めて、虫のフォルムを見ることができた。黒色の金平糖に、針金の手足を四本くっつけたような姿だ。俺の知っているあらゆる虫からかけ離れた姿をしている。
そいつらはロウランの口の周りに群がり、細い足で唇を引っ張って、無理やりこじ開けさせた。そして一匹が、口の中に飛び込む。く、食わせた?
バポン!

「ふぎゃあーーー!」

わあー!ロウランの口から、煙が!

「ろ、ロウラーン!大丈夫か!?」

「きゅう……」

ロウランは完全に目を回していた。アンデッドだから、死にはしないが……あの虫、まさか自爆するのか?

「おい、だとしたらあいつら全部……」

俺が青ざめたその時、集中の乱れたロウランの盾が、ぐにゃりと歪んで穴が空いた。そこからポトポトと、何匹もの虫が入り込んでくる!

「や、やばいぞ!こいつら、ただの虫じゃない!超高速で走り回る爆弾だ!」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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